今回は、閉業した東京のおでん種専門店をGoogle マップ ストリートビューのタイムマシン機能で見て回ろうと思う。残念ながらおでん種の味わいまでは再現できないが、おでん種専門店の在りし日の姿を垣間見ることができる。
過去にさかのぼれるGoogle ストリートビューのタイムマシン機能
かつて東京には多くのおでん種専門店があったが、年々数を減らしている。記事「おでん種、蒲鉾店の過去と未来」で紹介したとおり、昭和50年(1975年)には280軒ほど営業していたが、現在では50軒程度になってしまった。そして、今年に入ってからも現在進行形でその数は減り続けている。
東京おでんだねが2018年10月に活動を始めた当初、インターネットの情報だけではどのお店が閉業してしまったのか確証を得られず、候補280軒すべてをまわらないといけないのかと途方に暮れていた。そんなとき、Google マップ ストリートビューで調査することを思いついた。
ストリートビューはもはや説明不要だと思うが、道路からの風景を360度視点で閲覧できるサービスだ。地図から見たい場所を指定でき、縦横無尽に移動できるので、あたかもその場を歩いているような体験を得られる。
さらに、パソコンからアクセスすると過去の風景が見られるタイムマシン機能を利用できる。画面左上にある時計のアイコンを押してから撮影年を選択すると、その当時の風景が表示される。
例として、葛飾区の亀有駅の北西にあるアモール東和商店街を見てみよう。この商店街は長年アーケードの鉄骨だけが残されており、独特の風情を漂わせていた。しかし、現在では撤去されている。
そこで、タイムマシン機能を使って2009年にさかのぼってみる。すると、アーケードの鉄骨が姿をあらわし、当時の様子を確認できるようになる。風景を見渡してみると、すでに閉業したお店の様子も確認できる。
ちなみにこの機能はGoogleが巡回した風景のみ閲覧が可能だ。現在の風景だけの場所もあるし、複数の過去の風景にさかのぼれる場所もある。
東京おでんだねではおでん種専門店が存在していた場所をタイムマシン機能でさかのぼることにより、閉業しているかどうかの確認を行った。お店や建物が替わっていれば閉業確定、何年さかのぼってもシャッターが閉まったままだったら閉業の可能性が濃厚であるなど、現地におもむかなくてもある程度確証を得ることができた。
タイムマシン機能を使って在りし日のおでん種専門店を巡る
さて、ここからはGoogle マップ ストリートビューのタイムマシン機能を使って、閉業したおでん種専門店の外観をのぞいてみたいと思う。
まずは荒川区の三河島駅近くにあった丸昌商店(東京都荒川区荒川3-23-8)。道幅が狭い荒川仲町通りには、古きよき下町の風情を残す商店街がある。丸昌はその一角に存在したおでん種専門店で、古い建物の個性的なたたずまいが目を引く。店内に目を向けるとショーケース内のおでん種だけでなく、できたておでんを入れる鍋も確認できる。また、大きな「東京おでん」ののぼりは東蒲(東京都蒲鉾水産加工業協同組合)が配布しているものなので、丸昌は東蒲の会員だったと推察できる。
染井銀座商店街を西へ進んだ先にあった日山蒲鉾店(東京都豊島区駒込7-16-13)。看板や雨よけ、そしてショーケースまで赤い色で統一していて個性が際立つ。ストリートビューでは2016年までの営業が確認できる。2019年に現地で確認したところ、看板やシャッターの文字はそのまま残っていた。マニアの方は建て替えられる前に訪れてみることをおすすめする。
東京おでんだねの活動直前に閉業した渋谷区笹塚の愛川屋(東京都渋谷区笹塚2-43-7)。有名店である高円寺本店が平成19年(2007年)に惜しまれつつ閉業したが、3代目が笹塚にお店を開いて話題となった。メディアで多く紹介されていたので、有名人のサインがたくさん並んでいる。高円寺の愛川屋から数多くのお店が暖簾分けされたが、現在営業しているのは大田区糀谷の愛川屋と八王子長房町の梅屋蒲鉾店のみとなった。
足立区青井兵和通りにあったのは丸石蒲鉾店(足立区青井4-23-22)。荒川区荒川2丁目にある丸石蒲鉾店の店主のお兄さまが経営していたお店だろう。荒川2丁目の丸石蒲鉾店はにくまんを扱う数少ないお店だが、こちらのお店でも販売していたのだろうか。
にくまんを扱っていたお店といえば、荒川区町屋にある港屋蒲鉾店(東京都荒川区町屋3-19-9)を忘れてはならない。こちらはにくまんの元祖といえる神崎屋(閉業、東京都荒川区南千住1-21-2)から作り方を教わったといわれるお店だ。
港屋蒲鉾店の向かいはスーパーなので、住宅街の狭い路地ながら人通りも多く賑わう場所にあった。昨年訪れたときはすでに閉業していたので面影はまったく残っていなかった。雰囲気のある外観のお店だったので、なくなってしまったのは非常に残念だ。
バラエティ豊かな増田屋各店の外観
記事「増田屋の系譜」でもお伝えしたが、かつて増田屋という屋号のおでん種専門店は50店舗以上が存在していた。それぞれの外観は個性的でバラエティ豊かだ。
葛飾区四ツ木にあった増田屋(東京都葛飾区東四ツ木3-33-3)は、角の目立つ位置にお店をかまえていた。立石の増田屋の現店主、中山貴司さんはお店を継ぐ際にこの四ツ木の店主に蒲鉾づくりの手ほどきを受けたという。
板橋区志村にあった増田屋(東京都板橋区志村1-34-14)の看板はとても立派だ。隣にある喫茶店と建物上部のトタンと相まって、昭和のほのぼのとした風情を漂わせている。
足立区六木の増田屋(東京都足立区六木1-4-5)は、さらに懐かしい雰囲気だ。昔は共同住宅の下にこのような小さな店舗がたくさん並んでいたものだが、建て替えや人の流れの変化によって年々減り続けている。
まだまだたくさんあるのだが、きりがないのでこのあたりにしておこう。
Google マップ ストリートビューではおでん種の種類や味、店主の性格やお店の歴史までは探れないが、外観を眺めるだけでとても身近に感じられるし、それぞれ個性が際立っていることがわかる。しかし、実際にお店に訪れることはもうかなわない。さまざまな個性を持ったおでん種専門店が数を減らしていく現実を、Google マップ ストリートビューを通してすこしでも実感していただけたらと思う。