今回は阿佐谷パールセンター商店街で営業する蒲重蒲鉾店のお正月向け商品を紹介しよう。
おでん種専門店は年末のおでん需要に加えて、おせち料理に使われる練り物の製造販売で大忙しとなる。板付蒲鉾や伊達巻などを販売しているが、手づくりするお店は年々少なくなっている。
年末限定、おせち用食材を販売する蒲重蒲鉾店
阿佐谷を代表する商店街、阿佐谷パールセンター商店街。アーケードに掲げられた電飾が年末のあたたかく穏やかな雰囲気を醸し出している。
年末になると、いつにも増して買い物客で賑わっているようだ。阿佐谷パールセンターは大正11年(1922年)の阿佐ケ谷駅開業から原型ができあがり、昭和29年(1954年)に商店会が発足して現在に至る。いつ訪れても人々の笑顔がやさしく、ほっとさせる商店街だ。
蒲重蒲鉾店はこの商店街の顔ともいえる。昭和11年(1936年)に開業し、親子3代にわたって練り物をつくり続けてきた。おでんやお惣菜、ところてんなどさまざまな食材を扱うが、やはり手づくりの練り物が最大の魅力だろう。厳選した原料魚を用い、揚げ蒲鉾のほかにもはんぺんや魚のすじを手づくりしている。
年末になるとお正月用の食材を販売している。他店では市販のものに切り替えているところが多いが、蒲重蒲鉾店では現在でもほぼすべて手づくりだ。
とりわけ板付蒲鉾は高度な技術が必要とされ、製造にも時間がかかる。さらには原料魚の質がダイレクトに味に伝わるため、目利きに長けていなければならない。東京の蒲鉾店において手づくりの板付蒲鉾は絶滅危惧種となっているが、蒲重蒲鉾店はその貴重な1店だ。
板付蒲鉾は「特選」と「しらいた」の2種類を揃える。どちらも手づくりであり、紅白の色が選べる。グレードは異なれど、どちらも良質なグチを100%使用している。
もちろん伊達巻も手づくりで、伊達巻に最適といわれる高級魚のアマダイを100%使用している。1本と半分のふたつの種類があり、価格や必要量に応じて選ぶことができる。
お雑煮などに使用できるなると巻も手づくりしており、通常のものとゴマの入ったものを揃えている。また、板付蒲鉾に焼き目を入れた焼板も販売していた。
練り物以外には栗きんとんや田作りなども揃い、こちらも手づくりとなっている。これだけの商品を通常業務の合間に作るわけだから、かなりの労力を伴うだろう。
お惣菜は一時休止していた穴子のゴボー巻が販売されていた。冬季限定の煮こごりは、はんぺんの材料となるサメのフカヒレを用いた手づくりの品だ。東京のおでん種専門店でも数軒しかつくっていないので、見つけたら購入することをおすすめする。
揚げ蒲鉾も通常通り販売している。種類も豊富で、おでんの具材として大量に買い込む常連客も多い。やはり年末の忙しい時期はおでんにかぎる。
さまざまな揚げ蒲鉾が詰まったよりどりパックも販売している。おでんにせずにそのまま食べても美味しく、おつまみとして食卓に並べてもいいだろう。
揚げ蒲鉾以外のおでん種も充実している。袋詰、はんぺん、いわし玉など、どれもひとつずつ記事にできるほどの逸品だ。これらの商品が身近に手に入る阿佐谷の人々を本当に羨ましく思う。
職人の技が冴えわたる、蒲重蒲鉾店のおせち用食材
今回はお正月用の商品を5点ほど購入した。どれも職人の技術が結集した芸術品のような品々で、この時期にしか手に入らない。
板付蒲鉾は特選としろいた、なると巻は通常のものとゴマ入り、伊達巻はハーフのものだ。
板付蒲鉾は特選としろいたともにグチ100%という贅沢な材料を用いている。均整のとれた張りのある扇形の特選と伸びやかで穏やかな印象のしろいた、どちらも魅力的な外観だ。
特選は足(弾力)が強めに仕上げてあり、噛み締めるごとに上品な魚のうまみが広がっていく。一方、しろいたは足は弱めでソフトな印象があり、口の中でほどけていく。どちらも塩味は控えめで、魚本来の味わいを堪能できる。
国家資格である水産練り製品製造技能士一級を持つ店主がひとつずつ丁寧に仕上げている。最近では東京でもなかなか手に入れられないので、機会があればぜひ手に取っていただきたい。
伊達巻は高級魚であるアマダイを100%使用している。市場で買い付ける際は「こんなに質のよいアマダイを伊達巻に使うなんて贅沢だ」と言われるそうだ。金色に輝き、ふっくらと見事な焼き加減はお正月にふさわしい貫禄を備えている。卵とすり身の調和の取れた味わいと、しっとりとした食感が最高だが、なによりも喉に抜けていく際のアマダイのうまみが素晴らしい。
なるとは通常のものとゴマの入った2種類があり、ゴマのほうがすこし小ぶりになっている。どちらもお雑煮などに添えるのに最適なサイズとなっている。通常のものは紅白の色合いが可愛らしく、ゴマ入りのものもシンプルで美しい。こちらも塩味は控えめで、じっくり魚のうまみを堪能できる。
数十年前は年末のおでん種専門店といえば多くのお正月食材が並び、大勢のお客さんが列をなす活況ぶりだった。現在でもニーズは高いが、店主や職人の高齢化が進み、手づくりのものは減少しつつある。蒲重蒲鉾店では貴重な手づくりの品を販売しているので、年末にぜひ訪れて購入していただきたい。
蒲重蒲鉾店の基本情報
蒲重蒲鉾店
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-47-10
03-3311-3543
定休日:水曜
営業時間:9:00~19:30
蒲重蒲鉾店のウェブサイト(阿佐谷パールセンター)