マルイシ増英(ますえい)は足立区北千住の北千住サンロード商店街にあるおでん種専門店だ。千住ローカルのおでん種であるフライ揚げを扱う有名店で、テレビや雑誌などでも多く紹介されている。地元民にも人気で、遅くに出かけるとほとんどのおでん種が売り切れてしまうほどだ。
連日大にぎわいの北千住サンロード商店街
北千住サンロード商店街は北千住駅西口を出てすぐの大きな商店街だ。昔ながらの乾物屋さんや八百屋さんが並び、宿場町の雰囲気を残す古い建物も多く残っている。飲み屋や飲食店も多く、若者からお年寄りまで多くの人でにぎわっている。
商店街のWebサイトによると、昭和25年(1950年)に千住五の日会として発足し、昭和51年(1976年)に北千住サンロード商店街振興組合と改称して法人化した。北千住は魅力的な商店街が多く集まっているが、北千住サンロード商店街はそれらのなかでもとくに注目を集める存在だ。
ネットでも人気のマルイシ増英
北千住サンロード商店街の中心である宿場町通り(旧日光街道)から西に伸びる通りを進むと、おでん種専門店のマルイシ増英がある。
マルイシ増英は昭和25年(1950年)4月に増英蒲鉾店として創業した。北千住サンロード商店街が昭和25年5月に発足されているので、それより1ヶ月ほど前となる。学校給食や足立市場の蒲鉾の卸業を中心に事業を拡大し、デパートで小売販売を始めた。
Webサイト(現在休止中)が充実しており、おでん種の分野では検索サイトで必ず上のほうに表示される。
製造工場があり、そこで直売をしているという情報を手にしていたのでまずは店舗の反対方向にある千住大橋へ向かった。この近辺にある通り(旧やっちゃ場通り)はかつて「やっちゃば」と呼ばれる青果問屋街だったそうで、過去に存在した問屋の看板があちこちにかけられている。
都内で唯一の水産専門市場である「中央卸売市場 足立市場」もある。前述のとおり、マルイシ増英はこの足立市場で蒲鉾の卸を行なっていたそうだ。
工場はマンションの裏手にあったが、残念ながら直売場は開いていなかった。あとで店舗の店員さんにうかがったところ、以前は午前中に販売していたが、現在では行なっていないそうだ。仕方ないので来た道を戻り、店舗へと向かった。
店舗へ到着したのは午後3時過ぎだったが、すでにおでん種の数は少なくなっていた。レンコン天やしょうが天などは残っていたが、人気のフライ揚げや千住揚げは売り切れだった。それでも次々とお客さんが現れて、残っているおでん種を我先にと注文していた。こちらも負けじと単品や盛り合わせを頼むことにした。
店員さんによると、予約販売もしているので事前に連絡してくれれば揃えられるという。Webサイトでも販売しているので、そちらからオーダーしてもいいだろう(現在休止中)。サイトでは練り物のおでん種が30種類、それ以外のおでん種は11種類掲載されていた。便利なセットも販売している。
店舗の側面には、練り物以外のおでん種も販売していた。はんぺんは銚子の嘉平屋、焼きちくわはイゲタ沼田焼竹輪工場、こんにゃくや白滝、ちくわぶは工場近くの旧やっちゃ場通りにある山栄食品、昆布は東浅草の戎屋物産の落石昆布、おでん汁は定番の正田醤油(綾瀬)とチヨダのおでんの味、洋からしもチヨダのものだ。
調理済みのできたておでんも販売しているが、訪れたときは販売終了していた。
なお、荒川区南千住のジョイフル三ノ輪にあったマルイシ増英の支店はやめてしまったそうだ。
しっかりとした食感、ほどよい弾力のマルイシ増英のおでん種
マルイシ増英では売り切れのおでん種が多かったが、それでも15種類を購入した。
時計回りに12時から、ごぼう巻、れんこん天、しょうが天、さつま揚げ、すじ、五色揚げ、玉ねぎちぎり、揚げボール、枝豆ちぎり、つみれ、しそ巻、チーズ巻、うずら巻(中央左)、しゅうまい巻(中央右)。この他に山栄食品の白滝「おなべちゃん」も購入。
あらかじめ大根やこんにゃくなどを下茹でしていた鍋に、練り物のおでん種を投入する。マルイシ増英で人気のおでん種はあまり買えなかったが、とても美味しそうなおでんに仕上がった。
マルイシ増英の魚のすり身はしっかりとした食感だが、弾力はほどよい感じだ。わりと厚みがしっかりしており、魚の風味を堪能できる。
つみれはスケトウダラとイワシが原料となっており、創業以来変わらぬ製法で作られているという。
マルイシ増英は練り物を小さくつまんだ「ちぎり」と呼ばれるおでん種が豊富だ。これらはおでんとしてではなく、そのままおつまみやおかずとして食べてもよい。枝豆ちぎりはぷりぷりの枝豆が入っていて、これからの暑くなる季節にビールのお供として最高だ。玉ねぎちぎりは玉ねぎと桜エビが入っている。玉ねぎの甘い風味が練り物とよく合う。マルイシ増英ではこのほかにごぼうちぎりという商品も販売している。
ごぼう巻は細長く切ったゴボウが入った定番の形状だ。もっちり、しっかりとした魚のすり身と山の香りたっぷりのゴボウが期待を裏切らない美味しさだ。ちなみにマルイシ増英のYouTubeチャンネルでごぼう巻の製造工程を見ることができる。
しそ巻は魚のすり身に青紫蘇がくるっと巻かれている。青紫蘇の香りが強くてかぐわしい。醤油をつけてそのまま食べても美味しいそうだ。
五色揚げは人参、玉ねぎ、ニラが入っている。北千住では定番のおでん種だという。五色揚げの製造工程もYouTubeで見ることができる。あっという間にいくつもの五色揚げができていく光景は一見の価値あり。
白滝は山栄食品の「おなべちゃん」。千住大橋にある山栄食品は明治6年(1873年)創業の老舗で、創業以来ヒノキで作った「結わい草」という紐で白滝を結んでいるという。白滝やこんにゃく以外にちくわぶも製造しており、ちくわぶ料理研究家である丸山晶代さんのWebサイトでも取り上げられていた(記事内で紹介されているYouTubeチャンネルはマルイシ増英のもの)。
チーズを魚のすり身で巻いたチーズ巻はかなりボリュームのある大きさだ。じっくり煮込んで溶けたチーズを味わうといいだろう。
しょうが天は小判揚げの種類で一番人気なのだそうだ。紅生姜のさっぱりとした風味と、みじん切りにした玉ねぎの甘さがちょうどよいバランスだ。
具材が入っていない魚のすり身だけのさつま揚げは、シンプルながら魚本来の味を楽しむには最高のおでん種だ。スケトウダラ、マグロ、エソが使われている。
すじは創業以来、スケトウダラ、マグロ、エソ、サメの皮を使用して作られている。サメ以外にさつま揚げと同じ魚を使っているため、口当たりは非常に上品でまろやかだ。
しゅうまい巻は他のおでん種と同じく魚のすり身が肉厚だ。挽肉の味がしっかりとしていて安定の美味しさ。
うずら巻はウズラ玉子が顔を覗かせる定番の形。こちらも魚のすり身が肉厚で、もちもちした食感を楽しめる。おでんの鍋にもよく映える。
れんこん天は細かく刻んだレンコンと一味が入っている。レンコンは刻んでいるので食べやすくありながら、きちんとシャキシャキとした食感を残している。
千住の誇りを感じるマルイシ増英
マルイシ増英は、Webサイトを用意してネット販売も充実させ、店舗の設備や販売網にも抜かりがない堅実な印象だ。商品数の豊富さや職人の技に裏付けられたおでん種の味も素晴らしい。
しかし、千住地域にしっかり根付いたローカルとしての誇りも感じられる。今回売り切れてしまっていたフライ揚げは南千住地域でのみ食べられるおでん種だ。現在おでん種専門店ではマルイシ増英のほかに荒川区町屋の丸石蒲鉾店のみでしか販売していない。
フライ揚げは「フライ」や「にくまん」などと呼ばれ、荒川区のジョイフル三ノ輪にあった神崎屋というおでん種やさんが発祥といわれている。もしくは千住の市場の蒲鉾業者たちが考案したともいわれている。本来、魚のすり身に衣をつけて揚げたシンプルなものだが、マルイシ増英のフライ揚げは玉ねぎ、人参、ホウレンソウ、イカ、エビが入ったものとなっている。
後日、電話で予約してフライ揚げを購入してみた。このフライ揚げを食べた感想のほかに、丸石蒲鉾店のフライ(にくまん)や神崎屋直伝の南千住のお蕎麦屋さん「手打ちそば処 いし井」のにくまんとの食べ比べ、またにくまんの歴史について掘り下げた記事をアップしたのでご一読いただきたい。
そして、アサリと長ねぎ、一味が入った千住揚げもマルイシ増英の看板商品だが、こちらも後日に購入してみた。「千住」という名を冠しているのは地域の誇りが反映されているのだと思う。マルイシ増英のWebサイト(現在休止中)によると、昭和60年(1985年)頃に取締役の石田正胤さんと社員の小島茂久さんが考えたオリジナル商品とのこと。
千住地域の魅力がたくさん詰まったマルイシ増英のおでん種は、ぜひ北千住まで足を運んで購入してもらいたいが、人気店なので電話での事前予約をおすすめする。
マルイシ増英の基本情報
マルイシ増英
〒120-0034 東京都足立区千住3-3-20
03-3881-1780
定休日:日曜
営業時間:10:00~18:30
マルイシ増英のYouTubeチャンネル