増田屋(立石)のおでん種

増田屋(立石)は東京都葛飾区東立石の立石大通り商店会にあるおでん種専門店だ。東京各所にある増田屋という屋号はこのお店から暖簾分けされており、現在は3代目店主が昔ながらの味を守り続けている。店主は気さくな方で、東京のおでん種や増田屋の歴史など、興味深いお話をたくさん聞かせてくれた。

5つの商店街が密集する京成立石

京成電鉄押上線の京成立石駅がある葛飾区の立石は、昔ながらのアーケード商店街と飲み屋が有名な街だ。最近は駅前の再開発が計画されており、「飲み歩きの聖地」が失われると話題になっている。

東京都葛飾区立石:立石仲見世共盛会

駅周辺は5つの商店街が密集しており、とりわけ有名なのがアーケードのある立石駅通り商店会と立石仲見世共盛会だ。以前紹介した丸忠かまぼこ店は立石仲見世共盛会にある。

東京都葛飾区東立石:立石大通り商店会

駅から進んでこれらの商店街を抜けると奥戸街道にぶつかり、街道沿いは立石大通り商店会という商店街になっている。立石大通り商店会は昭和5年(1930年)に結成された歴史ある商店街だ。今回紹介する増田屋(立石)は、この商店街にある。

多くの職人を輩出した「増田屋」のルーツ

「増田屋」という屋号を持つ蒲鉾店は数多く存在する。暖簾分けした増田屋が集まる「増田屋会」の名簿を見ると、全盛期は50軒近くあったようだ。

名簿によると、増田屋の元祖となる中山彦太郎氏は埼玉県越谷市増林(ましばやし)村の出身で、明治20年(1887年)頃に宇田川町(渋谷ではなく現在の東新橋や浜松町、芝あたり)の大国屋で修行したあと、明治28年(1895年)に御徒町で「増田屋」を創業したという。出身地の増林から「増」を、宇田川の「田」を取り「増田屋」という屋号になったそうだ。その後、御徒町の増田屋から、茶や町(新宿区西早稲田)、岩井町(横浜市)、福井町(台東区浅草橋)、番町(千代田区)が暖簾分けされ、さらに茶や町から立石のお店が独立したと記載されていた。

立石の店主にうかがうと、「増田屋の元祖は三人で商売を始めたのち、分化していった可能性がある。立石の初代はその内のひとりかもしれない」とおっしゃっていた。立石店の店主の苗字は「中山」なので、元祖の中山彦太郎氏と同じだ。このことから、立石店も元祖に深く関係している可能性は高い。

余談だが、中山彦太郎氏が働いていたという宇田川町の大国屋は、以前紹介した京島の大国屋柴又の大国屋幡ヶ谷の大国屋のルーツとなるお店と同じかもしれない。柴又の大国屋の店主によると、先代の働いていた大国屋は芝にあり、東京タワーが建つことによって昭和28年(1953年)に立ち退きになったという。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)

立石の増田屋は初代が昭和9年(1934年)に麻布で創業し、戦中に江戸川区の小松川へ移転、さらに昭和23年(1948年)に現在の立石に移転した。麻布の頃から働いていた人々は四ツ木増田屋(閉業、東京都葛飾区東四つ木3-33-3)や高砂の増田屋(閉業、東京都葛飾区高砂5-37-2)の店主となり、その後も多くの職人を輩出した。過去に紹介した綾瀬の増田屋京成小岩の増田屋堀切の増田屋もこの系譜に含まれる。

なお、西巣鴨の増田屋は番町から派生したお店で、女優の中田喜子の実家である築地の増田屋を経て暖簾分けされたようだ。

魅力的な3代目店主がいる増田屋(立石)

10年ほど前にリニューアルしたという店内はおしゃれな雰囲気が漂うが、入店してまず目に飛び込んでくるのはたくさんの種類のおでん種だ。練り物のおでん種だけで20種類以上あり、キンピラやベーコンポテトなど変わり種も豊富だ。人気のベスト3は、ネギ天、ヨセ揚げ、肉ボールとのこと。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)

魚のすり身はスケソウダラ、イトヨリダイに加えて、季節や日に合わせて数種類の魚をブレンドしている。
油で揚げるときに用いる機材は、2代目店主が導入したオートフライヤーだ。油の入った鍋を常に見ている必要がないので、来客があっても対応できる。店主いわく、この機材を使っているおでん種専門店はあまりないのではないかということだった。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)

練り物以外のおでん種は上つみれやコブ、大根やジャガイモなどが揃う。こんにゃくや白滝、ちくわぶは墨田区向島の柳澤商店のもので、初代のころからずっと仕入れているそうだ。

はんぺんや魚のすじは9月半ばから並ぶため、訪れたときは購入できなかった。豊洲の石澤(カネニンベン石沢)のもので、とても美味しいのだという。以前は佃権のものを仕入れていた。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)

調理済みのできたておでんも販売している。濃い色のおでん汁が美味しそうだ。訪問したときは夏にもかかわらず、頻繁にお客さんが訪れては購入していた。なかには夕飯用に大量購入する人もいて、店主は大皿ごと渡していた。食べ終わったらお皿を返しにくるのだろうか、なんとも下町情緒あふれる微笑ましい光景だ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)3代目店主 中山貴司さん

今回お話をうかがった増田屋(立石)の3代目店主、中山貴司さん。
非常に気さくな方で「質問されたことはなんでも答えちゃう」と笑顔で話されていた。

中山さんは22歳の頃に2代目であるお父様に「外を見ておくべきだ」とアドバイスを受け、佃権で働くことになった。しばらくは佃権で修行をしようと決心していたので、製造より前に営業の仕事を覚えていたが、働きはじめて1年後にお父様が入院することになり、急遽立石のお店を継ぐことになった。しかし、おでん種を作った経験がほとんどなかったため、綾瀬や四つ木の店主に1から教わったそうだ。とくに綾瀬の店主は自分の師匠だと思っており、「あの人がいたからこそ今の自分がある」と恩義を感じている。

昔からの常連さんは中山さんの作るおでん種を「初代や2代目が作ったものと同じ味だ」と喜んでいるという。中山さんが作り方を教わった綾瀬店の味は立石のものとは異なるのだが、やはり彼が初代や2代目の味にいちばん接していたので、継承することができたのだろう。現在は先代たちの味を守りつつ、改良を重ねてより美味しいおでん種づくりに励んでいるという。

再開発によって失われる木村屋豆腐店の味

しばらく増田屋(立石)にお邪魔したあと、豆腐系のおでん種を買いに踏切を渡って北口の木村屋豆腐店(東京都葛飾区立石4-23-13)へ向かった。木村屋豆腐店は現在の店主のお祖父様が慶応元年に創業したという老舗で、店構えもとても雰囲気がある。

東京都葛飾区立石:木村屋豆腐店

しかし、お店のある場所は再開発によって高層ビルが建つ予定だ。ビルに入って営業を続けるか、閉業するかの選択肢があるが、店主は閉業するだろうとおっしゃっていた。

東京都葛飾区立石:木村屋豆腐店

木村屋豆腐店ではこんにゃく、結び白滝、小がんもどきを購入した。こんにゃくはぷるぷるで食感がとてもよく、結び白滝は長めで結びやすかった。ほかの白滝よりも細く繊細で、汁をよく含んでくれる。

東京都葛飾区立石:木村屋豆腐店の小がんもどき

小がんもどきは定番の切り昆布、黒ごま、人参がふんだんに入っていて香りがとてもよかった。豆腐部分も肉厚ながら密度が濃く、大豆の美味しさにあふれていた。

再開発によって地元の人々にさまざまなメリットがもたらされるかもしれないが、このような美味しい豆腐が食べられなくなるのは非常に残念なことだ。

増田屋(立石)のおでん種

今回、増田屋(立石)で購入したおでん種は10種類。定番ものと変わり種の組み合わせでバラエティ豊かなチョイスとなった。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種

時計回りに12時から、シュウマイ巻、中華巻、うずら巻、ヨセ揚げ、上つみれ、肉ボール、ネギ天、生エビ天、肉イカ、大根(中央)。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん汁

増田屋(立石)では、調理済みのできたておでんに使用しているおでん汁を販売している。家でも簡単にお店の味を再現できるのは嬉しい。鰹と昆布の合わせ出汁で、そのほかに砂糖や醤油などを加えたシンプルなものだそうだが、市販のものに比べて出汁の旨味がよく出ている。おでん以外の調理用として、一度に10本ほど買っていくファンもいるそうだ。30倍に薄めて使おう。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん

玉子やこんにゃくなどを先に煮込んでから、練り物系のおでん種を温める程度に投入したら完成だ。深い褐色のおでん汁がとても美味しそうだ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種

増田屋(立石)のすり身はとてもふわふわで心地よい歯ざわりだ。ブレンドされた魚の旨味がきちん出ていてとても美味しい。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 ネギ天

増田屋(立石)人気ナンバーワンのネギ天は、玉ねぎが入った甘みと魚の旨味が融合した味わい深い逸品。ふんわりした魚のすり身の食感もよい。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 ヨセ揚げ

2番人気のヨセ揚げは生姜と長ネギが入っている。生姜の香りが清々しく、よいアクセントになっている。赤と緑の彩りもよい。

東京都葛飾区東立石:増田屋 肉ボール(立石)のおでん種

肉ボールは魚のすり身にひき肉が混ぜ込んである。ひき肉の甘みが魚のすり身とよく合い、まろやかな印象だ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 肉イカ

ひき肉とイカが入った肉イカは、店主イチオシのおでん種だ。魚のすり身を肉厚に仕上げており、口に含むと充実した気持ちになる。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 大根

大根は増田屋(立石)特製のおでん汁にじっくり漬け込まれているので、鍋に放り込んだだけですぐにシミシミの状態を楽しめる。色艶も美しい。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種

お次は巻物のおでん種を中心に紹介していこう。増田屋(立石)のおでん種は大きめに作られているので、満足感たっぷりだ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 中華巻

中華巻は魚のすり身の周りにワンタンのような衣が巻かれている。しんなりとした衣の感触が面白い。魚のすり身には玉ねぎが入っている。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 シュウマイ巻

他店は饅頭型のものが多いなか、増田屋(立石)のシュウマイ巻は一見餃子巻に見紛うような細長い形状だ。焼売を包むすり身はとても肉厚だ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 うずら巻

うずら巻も面白い。串に刺した3つのウズラ卵を魚のすり身で包んでいる。外で食べ歩きするときにはこの1本で満足できそうだ。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 生エビ天

生エビ天は肉イカと同様に肉厚に仕上げており、ふわふわでとても美味しい。エビの風味がほのかに香る。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)のおでん種 上つみれ

上つみれはイワシではなく、揚げ蒲鉾のおでん種に使うすり身を茹でたものだ。揚げ蒲鉾とはまた違った魚の旨味を楽しめる。

東京都葛飾区東立石:増田屋(立石)

筆者が訪問したときにはたくさんの地元客がやってきておでん種を購入していたが、店主はひとりひとりと仲良く会話をしていた。そして、「専門店ではあるけれど、片意地はらずやっていきたい。過度な宣伝を行わず、お店を知っている人たちが喜んでくれたらそれでいい」と微笑んだ。
テレビの取材も積極的には受け付けないのだそうだが、増田屋(立石)を利用するお客さんの半数は立石以外の人なのだという。立石から引っ越してしまった人や、お中元やお歳暮で贈られた人が連絡してくるという。また、水戸からわざわざバイクで買いにくるお爺さんもいるそうだ。

増田屋(立石)は3代目の店主で最後になる予定だというが、これからもお店の味を愛する人々のために、美味しいおでん種を提供していただきたいと思う。

増田屋(立石)の基本情報

増田屋
〒124-0013 東京都葛飾区東立石4-50-3
03-3691-0477
定休日:日曜
営業時間:10:00~19:30
増田屋(立石)のWebサイト(葛飾区商店街連合会のWebサイト)

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