今回はかんぴょう(干瓢)の戻し方やおでんでの活用方法について紹介したいと思う。
おでんにおいてかんぴょうは、巾着を結んだり、ロールキャベツを縛ったりと脇役的な存在となっているが、日本で古くから愛されており、栄養も豊富な食材だ。戻し方や活用方法を知って、かんぴょうの可能性を広げていただければと思う。
かんぴょうの栄養と歴史
かんぴょうはウリ科のユウガオの果実を原料とし、紐状に薄く剥いたあとに二日ほど乾燥させた食材だ。ひものように複数の食材を結ぶ用途で使われたり、かんぴょう巻(鉄砲巻)などの甘辛く煮た料理に用いられることが多い。
かんぴょうは食物繊維やカルシウム、カリウムを豊富に含んでいる。とりわけ食物繊維は100gあたり30g、戻した場合は6gほど含まれており、食物繊維が多いとされるごぼう(5.7g)と比較しても非常に多いことがわかる。また、リンや鉄分も多く含まれている。
原産地はインドや北アフリカといわれているが、日本以外ではあまり食用とされることはない。農山漁村文化協会「地域食材大百科(第9巻)」によると、渡来については諸説あるが3世紀から4世紀あたりといわれている。なかでも有名なのが神功皇后の伝説だ。神功皇后が三韓征討より凱旋した際に船内で応神天皇を出産したあと、大阪の木津で産衣を埋めた場所に翌年ユウガオが芽を出したという。
木津は大阪浪速区敷津町や大国町辺りを指し、しばらくかんぴょうの名産地として有名だった。木津のかんぴょうは「國寶大阪全圖」(文久3年、1863年)や「毛吹草」(寛永年間)など多くの書物で紹介されている。
江戸時代になると、近江の水口(滋賀県甲賀市)にも伝わり名産品となったが、城主の鳥居伊賀守忠栄が下野国壬生城に異動した際にユウガオの種を取り寄せ、栃木県の名産となった。現在は国内生産量のほぼ100%(平成30年次、99.6%)が栃木県産となっており(参考:関東農政局:栃木県の農林水産省統計データ)、とりわけ下野市が栃木県の46%を占め、日本一の生産量となっている(参考:栃木県下野市:下野市の名産は何?)。
かんぴょうの戻し方(下ごしらえ)
さて、ここからはかんぴょうの戻し方や下ごしらえについて紹介しよう。かんぴょうには漂白したものと無漂白のもの(無添加)があり、戻し方に若干の違いがある。
上写真の右側が漂白かんぴょう、左側が無漂白かんぴょうだ。無漂白のものは若干色がついており、すこしごわごわした表面をしている。
商品パッケージには漂白か無漂白か大きく記されている場合が多いが、不明瞭な場合は裏面の原材料名を確認してみよう。漂白の場合は保存料として二酸化硫黄が記載されている。
漂白かんぴょうは変色防止や防カビ、防虫のために二酸化硫黄で燻蒸を行っている。二酸化硫黄は人体に有害な物質だが、食品衛生法の使用基準内の量となっており、水溶性のため水で洗えば流れ落ちる。密封すれば常温で保存でき、賞味期限が長いものが多い。無漂白かんぴょうは漂白のものと比べて自然な甘みがあり、飴色をしている。常温だと変質しやすいので、封を開けたら密封して冷蔵保存しておくと安心だ。
戻すときは、まず軽く水洗いする。次に、水を張ったボウルにかんぴょうを入れ、3分ほどつけたらかんぴょうを取り出す。
漂白かんぴょうの場合は水を捨ててしまうが、無漂白の場合は料理に使うことができる。うまみや栄養をたっぷり含んでおり、昔からだし汁として精進料理などで使用されてきたそうだ。
漂白かんぴょうの場合は塩を適量(小さじ0.5)入れて弾力が出るまで手で揉む。塩で揉むのは苦味や酸味を取り、火の通りをよくするためだ。無漂白の場合は塩を入れずに軽く揉むだけでいい。
流水でかんぴょうを軽く洗ったあと、鍋にお湯を沸かして好みの柔らかさになるまで茹でる(7〜15分)。おでんのような煮物に用いる場合は煮ている間に柔らかくなるので、この工程を省いてもいい。
かんぴょうをざるにあげて冷ましたあと、クッキングペーパーや布巾で絞って水分を取れば完了だ。
おでんでの活用方法
かんぴょうを用いたおでん種はいくつかあるが、ほとんどが袋状のおでん種の口を閉じたり、結んだりとといった紐のような役割を担う。
代表的なのは巾着だ。油揚げを袋状にして複数の具材を詰め込み、かんぴょうで結んで口を閉じる。かんぴょうは少量しか使わないので、無漂白であれば水で戻さなくてもじゅうぶん柔らかくなる。巾着の結び方は「おでんのもち巾着の調理方法」という記事をご覧いただきたい。
かんぴょうを使えば白滝も簡単に結ぶことができる。白滝だけでくるりと巻くよりも、すこし上品で手の込んだ雰囲気に仕上がる。結び方は「おでんの白滝の結び方・巻き方」という記事を参考にしてほしい。
ロールキャベツもかんぴょうを使えば、和風に仕上がりおでんの雰囲気によく合う。爪楊枝よりも食べやすくなるのもメリットのひとつだ。
イイダコに巻けば、鉢巻に早変わりする。仙台にある有名店「おでん三吉」(宮城県仙台市青葉区一番町4-10-8)のアイデアだ。
金沢のおでん屋には香箱蟹を使ったカニ面にかんぴょうを巻くお店もある。また、ごぼうやふきなど細長い野菜を束ねるために使用したりといろいろと応用してみてもいいだろう。
蛇腹状にたたんで串に刺したり、結び昆布のように止め結び(とめむすび)にしてかんぴょう自体をおでん種として味わってもいいだろう。柔らかく煮たかんぴょうがおでん汁のうまみをたっぷり吸収し、まろやかな味を楽しめる。
余ったかんぴょうの活用方法(かみなり汁)
かんぴょうが余るようなら、別の料理に活用することもできる。かんぴょうは甘辛く煮るのが一般的だが、今回は「かみなり汁(雷汁)」を紹介したいと思う。
かみなり汁はごま油で炒めた豆腐を加えた汁物料理で、豆腐を炒めるときの音が雷の音に似ていることからその名がついたという。栃木県のかんぴょうの発祥地である壬生町では、平成7年(1995年)頃にかんぴょうを用いたかみなり汁が考案され、地元の学校給食やイベントで提供されているという。
かんぴょうと溶き卵を稲妻、海苔を積乱雲に見立てており、雷の多い栃木県中央部の風景を再現している。
材料は2人前でかんぴょう20〜40g、生卵1個、刻み海苔(岩海苔やワカメの場合もある)適量、青ネギ適量。人参や玉ねぎ、ごぼうなど余った野菜を入れて具沢山にしてもいい。調味料は塩、醤油、出汁の素だが、白だしを使ってもいいし、おでん汁の素や昨晩余ったおでん汁でもいい。味噌仕立てにアレンジする場合もある。
まず、下茹でしたかんぴょうは2〜3cmほどに切っておく。生卵は溶いておき、青ネギは小口切りにする。豆腐や野菜、肉を加える場合は鍋にごま油をしいて炒める(豆腐は水切りしておき最後に崩しながら炒める)。
鍋に水と出汁、調味料を入れてからかんぴょうを加えて温める。豆腐や野菜、肉を入れる場合はかんぴょうの前に加え、よく火を通しておこう。溶き卵は少しずつ加えるが、鍋の温度が低いとふわりとした食感にならないため、100℃前後を目安に投入するようにしよう。
醤油や塩で味を整えてから火を止めて器に移し、長ネギと刻み海苔を振りかけて完成。好みで炒りごまやミツバなどを加えてもいいだろう。
まろやかな溶き卵と海苔の上品な磯の香り、そしてそれらのうまみをたっぷり吸い込んだかんぴょうの組み合わせが素晴らしい。余ったかんぴょう1〜2袋をほぼ使うことができ、非常に簡単にできるので、ぜひお試しあれ。
かんぴょうは農家の高齢化や新規参入者の減少を背景に、国内生産量は年々減少している。また、新型コロナウイルスによって寿司店をはじめとした外食関連の需要低迷が深刻な影響を及ぼしている。かんぴょうは脇役的な印象が強く、注目される食材ではないが、栄養も豊富で主役にもなり得る美味しさが詰まっている。おでんに活用したら、ぜひほかの料理にも挑戦してもらいたい。