夏場の閑散期、おでん種やさんはどのように過ごしているのだろうか。今回は暑い時期のおでん種専門店の様子を紹介したいと思う。
おでんは秋冬に食べる印象が強く、6月から8月の暑い時期に需要が落ちる。最近では10月近くまで猛暑が続いているため、多くのおでん種専門店ではさまざまな工夫を凝らしてお客さんを呼び込んでいる。今回は夏場のおでん種専門店にフォーカスし、どのような営業を行っているか紹介しようと思う。
夏場はおでんの閑散期
おでん種専門店は蒲鉾店を意味するが、魚のすり身が原料の練り物は暑い時期に痛みやすく、戦前は夏場に休業するお店が多かった。職人たちは別の仕事をして過ごし、涼しくなるとお店に復帰していたという。
現在では冷蔵庫の普及に伴い暑い時期でも保存がきくようになったが、練り物は寒い時期に食べるイメージが定着し、夏場にぐんと需要が落ちてしまう。
東京のおでん種専門店でも客足が減り、定休日を増やしたり、長期休業するお店が多い。暑い時期に出かけるなら、直接電話して営業しているか確認しておくといいだろう。
夏場に営業を続ける場合、販売数を考慮して製造するため商品は少なくなる。あるお店の店主は「商品数が少ないのでお客さんの足が遠のき、さらに客数が減ってしまう」と頭を抱えていた。客ひとりが購入する数なんてたかが知れているが、お気に入りの商品が並んでいないと残念に思う気持ちはわかる気がする。
冷やしおでんや夏野菜の揚げ蒲鉾など、夏にしか味わえない商品を展開
この負の連鎖を打開するため、夏向けの商品を売り出すお店がある。たとえば、八王子長房町の梅屋蒲鉾店ではカップに入った冷やしおでんを限定販売し、好評を得ている。
冷やしおでんが生まれてしばらく経つが、最近になって徐々に市民権を獲得している。冷やしおでんは大田区の矢口渡にあったおでん種専門店、福新商店(閉業、大田区多摩川1-26-24)が平成9年(1997年)頃に発売して話題になったのが最初と思われる。
埼玉県の与野にある増田ヤでは、30分でできる冷やしおでんのレシピを紹介している。春夏の野菜をたっぷり入れることで、栄養バランスもばっちりのおでんができあがる。
練り物には9種類のアミノ酸が含まれたタンパク質が豊富に含まれており、消化もしやすい。夏バテ予防に効果的なので、暑い時期に食べるのは理にかなっている。冷やしても美味しいので、ぜひ試してみてほしい。
夏の食材を使用した限定商品を販売するお店もある。いんげんやナス、枝豆などを揚げ蒲鉾にしており、旬の美味しさを楽しめるだけでなく、種類も多くて選ぶのが楽しい。おでんにしないでそうめんや冷やしうどんに乗せて食べてもいいだろう。
練り物以外の商品も充実
揚げ蒲鉾用の調理器具を利用して、別の商品を販売するお店も多い。名前のとおり、揚げ蒲鉾は油を使って調理するため、天ぷらやコロッケなどの揚げ物が多い。
荒川区のおぐ銀座で営業する九州屋蒲鉾店では本格的な天ぷらを販売している。大ぶりの海老天を筆頭に、ナスやさつまいもなど、どれもボリュームがあって満足感が高い。
江戸川区の瑞江で営業する蒲元は、天ぷらのほかにトンカツやメンチカツといった揚げ物を販売している。人気は小松菜コロッケで、江戸川区の「小松菜グルメスタンプラリー」の冊子にも掲載されている。通年販売しているので、夏場でなくても購入できる。
品川区の戸越銀座で営業する後藤蒲鉾店ではおでんコロッケを販売している。おでんの具材を刻んでジャガイモにあえ、おでんの出汁で味付けしている。中央には染み大根が入っており、まろやかな味わいとなっている。
また、牛すじが入った牛すじトロトロカレーも魅力的な商品だ。こちらも通年販売となっており、街歩きを楽しむ人々に人気だ。
江戸川区の小岩駅近くで営業する蒲清では小アジの唐揚げを販売している。江東区北砂の増英蒲鉾店でもアジの唐揚げを販売し、人気を博している。どのお店も工夫を凝らし、季節に左右されない商品展開を行っている。
ところてんやかき氷まで、涼しげな夏向け商品
なかには「こんなものまで?」と思わせる商品を販売するお店もある。杉並区阿佐谷南で営業する蒲重蒲鉾店では、手づくりのところてんを販売している。
涼しげな見た目は暑い時期にぴったりの商品だ。蒲重蒲鉾店のInstagram(kamaju_offcial)ではアレンジレシピを紹介しているので、次回以降記事として紹介したいと思う。
葛飾区柴又の大国屋ではかき氷を販売している。定番のイチゴやメロンのほか、ピーチや小豆まで種類が豊富だ。帝釈天の参道にもかき氷を販売するお店があるが、どれも観光客向けの価格となっている。大国屋(柴又)のかき氷は地元の子供たちに向けたお求めやすい価格となっている。
このほかにも練り物やおでん種以外の商品を販売するお店は存在するが、きりがないのでこの辺りで切り上げようと思う。気になる方は「お惣菜」のタグをまとめた一覧ページをご覧いただきたい。
練り物は板わさに代表されるように、冷たくしても美味しく味わえる。「暑いから」といった固定概念にとらわれず、ぜひおでん種専門店に足を運んでいただきたい。