2021年12月初旬、大田区山王にある山王かまぼこが旧店舗隣の建物にリニューアルオープンした。今回は新しくなった店舗の様子と、購入したおでんセットやおでん種を紹介したいと思う。
昨年、山王かまぼこのおでん種を購入されている常連の方から「店舗が新しくなった」という情報をいただいた。2021年12月24日にさっそく訪れ、店主にお話をうかがうことにした。旧店舗での営業時の様子は「山王かまぼこのおでん種」という記事を参照いただきたい。
ホワイト基調のモダンな新店舗
山王かまぼこは大森駅の北口から約1kmほど先の山王商店会にある。インターネットなどのメディアにはほとんど登場しない、知る人ぞ知るおでん種専門店だ。
現在の店主のご祖父様が約60〜70年前に創業したという。ご祖父様はさまざまなビジネスを展開されていた方で、山王かまぼこもそのひとつだったそうだ。創業当初から旧店舗の場所で営業し、最盛期は何十人もの職人が働いていたという。旧店舗は移転によって役割を終え、現在はシャッターが閉じられている。
新店舗の建物は10年ほど前から存在していたが、これまで1階は自動車のガレージとして利用していたそうだ。奥は揚げ蒲鉾を調理する工場（こうば）となり、手前は販売スペースに生まれ変わった。昭和の雰囲気を色濃く残していた旧店舗からうってかわって、ホワイトを色調としたモダンな空間となっている。店主は導線やローテーションが変わって当初は戸惑ったそうだが、現在は馴染んできたという。
店内に入ると中央に揚げ蒲鉾が並ぶショーケースが鎮座している。旧店舗から使用しているものを台座部分だけ新調して利用し続けている。縁（ふち）の金属部分が鈍く光り、積み重ねてきた歴史の重みを感じさせる。
正面右側には揚げ蒲鉾以外のおでん種が入った冷蔵ケースがある。こちらは今回のリニューアルで新調したものだそうだ。大根や焼きちくわ、はんぺんなどが並ぶ。
店内の目立つ位置には旧店舗にあった山王かまぼこの看板が掲げられていた。まるで新品のように設置されているが、店主がご自身でカットし、枠を自作されたそうだ。電話番号が3桁時代のものであり、長い期間にわたってお店やお客さんをやさしく見守り続けてきたものだ。「新しいものだけじゃ駄目、古いものも融合させたい」と店主はおっしゃっていた。
訪れたときはリニューアルから3週間目だったので、まだまだ改装中だという。当初は外に看板を取り付けるつもりはなかったそうだが、シャッターを閉めると「営業しているかどうかわからない」というお客さんの声があり、作成に取り掛かっているという。現在は店名を書いた貼り紙をして対応している。
旧店舗にも移転先の貼り紙をして営業中であることを伝えている。移転の際は、仲間で集まって什器や調理器具を移動したそうだ。店舗の引越しを手作業するとなるとかなり大変だが、どうやら店主はその手間を楽しまれているようだ。お話をうかがっているとクリエイティブな才能がある方だと感じた。
移転後も商品は充実しており、揚げ蒲鉾は約25種類が並んでいた。ほかのおでん種専門店と同じくすり身にこだわっており、塩は少なめにしながらも卵などのつなぎを用いず、水分を調整して粘りや弾力（これを蒲鉾では足と呼ぶ）が強めになるように工夫している。また、甘みやうまみを引き出すために、秘伝の出汁を加えているという。このレシピは企業秘密とのことなので、確かめたければ店舗までおもむいてご自身の舌で味わうしかないだろう。
この山王かまぼこのこだわりの味を求めて、足しげく通うファンも多い。自転車や徒歩で訪れるお客さん（蒲田から来訪する人もいるという）も多いが、車で乗り付ける人も多いのだという。
複数のおでん種と汁がセットになったものも販売している。大小2つのセットがあるが、今回は小セットを購入することにした。
ちくわぶは通称「ハダカ」と呼ばれる生のものを取り扱っており、柔らかな食感や美味しさは保証付きだ。こんにゃくは同じ大田区の樋川商店、はんぺんは築地の伏健、上ちくわは青森のイゲタ沼田焼竹輪工場、板付蒲鉾は小田原の鈴廣かまぼこのものが手に入る。
山王かまぼこのおでんセットとおでん種
店主に移転リニューアルに関するさまざまなお話をうかがいつつ、おでんセットとおでん種を購入した。ここからは、山王かまぼこのおでん種について詳しく紹介したいと思う。
おでんセットは汁がたっぷり詰まったビニール袋での販売となる。購入したセット小は大根が入っていないので、必要であれば大を入手するといいだろう。おでん種は時計回りに12時から、もち巻、ギョーザ巻、あさりかき揚、はす天。
おでんセット小は時計回りに12時から、いか天、じゃがいも天、こんにゃく、こぶ、野菜ボール、生しょうが天、上ちくわ（中央上）、白滝（中央下）。おそらくだが、入っているおでん種はセットごとに異なると思うので注意されたい。
いつものようにおでんを鍋に移して、煮立てずに弱火で数分温める。お店でじゅうぶん加熱してあるので、あえて自宅で煮込まなくても大丈夫だ。
まずはスタンダードなおでん種の野菜ボールを味わってみる。山王かまぼこ特有の甘みとうまみがしっかり感じられ、ひと口サイズながらも充実感のある味わいを堪能できる。ほどよく染みたおでん汁によってまろやかになりつつ、出汁のうまみも楽しめる。
生しょうが天はぴりっとしながらも爽やかな生姜の辛味がよいアクセントなっており、より魚のすり身の美味しさを際立たせている。紅生姜よりも自然な辛味となっており、通好みの味わいとなっている。
じゃがいも天は魚のすり身に刻んだじゃがいもが入ったおでん種だ。ほくっとしたじゃがいもは澱粉のうまみがありながらも全体を支配しすぎず、魚のすり身と協調し合って飽きずに美味しくいただける。心も身体も満足できるおでん種だ。
上ちくわはほどよくおでん汁が染みているが、ちくわ特有の魚のうまみと食感をしっかり残している。ひと口サイズなので、とても食べやすい。
こんにゃくはぷりっとした食感があり、とても瑞々しい。しっかりとした弾力を楽しみつつ、おでん汁と一緒に口に含んでうまみを存分に味わいたい。
白滝は太くすぎず、細すぎず、本来のぷりぷりとした食感とともにおでん汁がしっかり絡んでくる。結び目もひと口サイズだが、食べ応えもあってベストなボリュームだ。
こぶはくたくたになりすぎず、昆布の磯の香りがきちんと感じられるベストな煮加減だ。適度な食感を残しており、昆布好きにも納得の仕上がりとなっている。
次に、セット以外で購入したおでん種を紹介しよう。おでんにしてももちろん美味しいが、オーブンで炙ったり、そのまま食べてもすり身の美味しさを味わえる。あさりかき揚げにはたっぷりの浅利が入っており、魚貝の複雑なうまみを堪能できる。
はす天は半月切りの蓮根が入っており、しゃきしゃきとした心地よい歯ごたえを堪能できる。肉厚の魚のすり身の弾力ともよく合い、濃淡のあるそれぞれのうまみを楽しむことができる。
ギョーザ巻は濃厚な餡のうまみに魅了される。挽肉の美味しさだけでなく、ニラなどの野菜の個性がしっかり感じられる。
もち巻はそのまま食べるのではなく、おでんにするか、しっかり加熱するなどして餅をとろとろに仕上げると極上の美味しさを楽しむことができるだろう。散りばめられた黒胡麻の香ばしさが思いのほか素晴らしく、上品な調和を生み出している。
山王かまぼこの魅力的なおでん種を卸したいと相談にくる業者も多いというが、店主は店舗での対面販売しか興味はないという。おでんや揚げ蒲鉾を通したお客さんとの心のやりとりをなによりも重視しているようで、実際に訪れたときも常連客と楽しそうに世間話をされていた。今回の店舗リニューアルによって新たなお客さんが訪れ、心の交流がますます増えていくことを願っている。
山王かまぼこの基本情報
山王かまぼこ
〒143-0023 東京都大田区山王1-44−8
03-3771-8394
定休日：日曜、季節により不定休
営業時間：10:30～夕方売切れまで
