東急大井町線尾山台駅の近くにある武田惣菜店(武田商店)はおでん種専門店として開業し、現在ではお惣菜を豊富に取り揃えている。今回は、武田惣菜店の魅力的なお惣菜の数々を紹介しよう。
よほどのおでん好きでもないかぎり夏場におでんをしようという気持ちにはならないが、お惣菜を目当てにおでん種専門店に足を運ぶのもいい。とりわけ、武田惣菜店のようにお惣菜に力を入れているお店ならなおさらだ。
古きよき昭和の雰囲気が残る尾山台いちば
東急大井町線の尾山台駅は、お洒落な雰囲気を漂わせながらも昔ながらの庶民的な商店が多く立ち並ぶほのぼのとした街だ。
自由が丘駅から乗り換えで2駅目となるが、東急東横線が東京メトロ副都心線と繋がったことにより、以前より多方面からアクセスしやすくなった。
東京おでんだねの取材として、この駅に降り立つのは2回目となる。前回は武田惣菜店のおでん種を紹介したが、今回はお惣菜が目当てだ。魅力的なお惣菜がたくさんあったにもかかわらず紹介できなかったので、わくわくしながら改札を抜けた。
駅を降りてすぐにある尾山台駅前ビル1階には尾山台いちばというスペースがあり、5軒ほどのお店が入居している。歴史は古く、昭和21年(1946年)に開業してから70年以上の歴史を持つ。
青果店のやおよね、鮮魚店の魚辰、生花店の西島フラワー、お茶と海苔の専門店のお茶のモリヤ、そして今回の目的地である武田惣菜店がある。古きよき昭和の和気あいあいとした雰囲気が漂っており、歩いてまわるだけで幸せな気持ちになってくる。
手作りのお惣菜が豊富な武田惣菜店
武田惣菜店は前回も紹介したとおり、60年ほど前におでん種専門店として開業した。店主は川崎市中原区新城のおでん種専門店(閉業した村松水産か?)で修行をしていたという。
おでん種は揚げ蒲鉾を中心に通年販売しているが、夏場はお惣菜をメインに販売している。種類が豊富で、正確な商品数を数えられないほどだ。
看板を見ると「手づくりのさつま揚、活鰻蒲焼、やきとり、惣菜」と書いてある。今回うなぎは見当たらなかったが、天ぷらやフライ、煮物まで揃えているのは圧巻だ。
揚げ蒲鉾(さつま揚げ)は武田惣菜店で定番の品を1年中取り揃えてあり、お年寄りから子どもまで人気がある。炙っておつまみにしたり、お弁当に入れたりするそうだ。たっぷりコーン揚げやチーズ巻は若い人がよく買っていくという。武田惣菜店の揚げ蒲鉾は他店に比べて大きいのだが、これは店主の幼少時代に食べていた揚げ蒲鉾が小さいものばかりで物足りないと思ったからなのだそうだ。また、修行されたお店の影響もあるという。うずら巻などおでんの定番の品々は寒い時期のみの販売となっている。
ひと口大の揚げ蒲鉾は食卓を豊かにする副菜として最適だ。仕入れる素材によって商品が入れ替わるが、名物のタコボールは1年を通して販売している。テレビ東京「出没!アド街ック天国」にも紹介され、武田惣菜店を代表する人気商品になっている。訪れたときはしょうがちぎりやナンコツちぎりもあったが、インゲンなど旬の素材を加えた商品を販売しているそうだ。日々入れ替わるので、リピートして異なる味を楽しむのもいいだろう。
このほか、焼売、焼き鳥、天ぷら、フライなどあらゆる種類のお惣菜が所狭しと並んでいる。鮎の天ぷらや、大ぶりのエビを使った特大えびフライ、チーズ入りはんぺんなど見ているだけでよだれが垂れてくる魅力的なものが多く、どれにしようか目移りしてしまう。
煮物や炒め物もたくさんの種類がある。以前訪れたときは真だらの子煮付、とりレバーのしぐれ煮、芋がら炒めなどもあった。まるで京都のおばんざい屋さんのように和食の多様性を楽しめる品揃えだが、これらはすべてお店の手作りというのが驚きだ。
このほか、仕入れたお惣菜も揃えており、すべての商品をひとつずつ購入したとしても食べきれない量となる。近くに住んでいたら毎日通いたくなるに違いない。
店主もおかみさんも非常に気さくで、お忙しいなかいろいろなお話を聞かせていただいた。食せずとも買い物の時点であたたかい気持ちで心が満腹になる素敵なお店だ。
1品ごとにこだわりと優しさあふれる武田惣菜店のお惣菜
膨大な種類のお惣菜を選ぶのに迷ってしまったが、とりあえず5種類のお惣菜を購入した。
時計回りに12時から、タコボール、イカリング揚、自家製肉しゅうまい、新じゃが煮、ゆばと菜の花の煮びたし。ほかのお惣菜は、ぜひご自身で訪れて味わっていただきたい。
なお、尾山台いちばの青果店やおよねで塩らっきょうを購入した。1袋約200gで380円。大ぶりのらっきょうがごろごろ入っているのに破格の安さ。しゃきしゃきとしながら、しっかり塩味が効いていてとても美味だった。武田惣菜店も非常にリーズナブルなのだが、ほかのお店も負けてはいない。尾山台のコストパフォーマンスの高さは侮れない。
タコボールはタコ、キャベツ、紅生姜、長ネギが入っている。ふわっとしながらもちもちとした食感の魚のすり身が素晴らしく、他店のボールに比べて大きいので食べ応えもある。
ソースとマヨネーズをかけるとたこ焼きのような味となり、とても美味しい。露店で味わっているような気分になり、夏にぴったりの商品だ。もちろん、おでんに入れても抜群に美味しい。
1パック6個での販売だが、容器に入れられている様はまさにたこ焼きそのもの。揚げ蒲鉾なので家に持ち帰ってもたこ焼きのようにくたびれることはないので、フレッシュな食感を楽しめる。
イカリング揚はしっかりと味がついており、お酒のつまみとして最高だ。衣だけ食べても美味しく、イカの柔らかくも弾力のある食感が癖になる。
自家製肉しゅうまいは1個ずつ販売しているので、人数分を購入しやすい。薄い皮に覆われた挽肉がボリュームたっぷり。うまみが詰まった肉汁もこの上なく美味しいが、しつこくなく何個でも食べられる。
新じゃが煮はぷりっと新鮮な食感のジャガイモと甘辛のたれが見事に融合している。家庭でこのバランスを再現するのはなかなか難しそうだ。こちらも幾つでも食べられるので、多めに購入することをおすすめする。
ゆばと菜の花の煮びたしは出汁がしっかり染み込んでいて、上品ながら満足感のある味わい。菜の花やヒラタケのふんわりとした香りが湯葉に染み込んでいて、美味しさとともに季節の素材の素晴らしさを存分に堪能することができるだろう。
これだけ多くのお惣菜をご主人とおかみさんだけで手作りされるのは、相当な手間と時間がかかることだろう。それでも、ひとつひとつの品に手抜きがなく、こだわりを感じることができる。さらに、接客も非常に丁寧で、心地よい時間を提供してくれる。家に帰って味わうと、ご主人たちの思いがじーんと感じられることだろう。これはひとえに、お客さんに対する優しさが料理に反映されているからなのではなかろうか。
おごることなく、ひたむきに食と顧客に向き合う姿勢は若い世代のお店でも見受けられるが、マーケティングの視点ではなく、目立たなくとも長年実直に実践し続けている武田惣菜店には学ぶべき点は多いと思う。年々このような古きよき商店街のお店は減少しつつあるが、ぜひ訪れて素晴らしい食の体験を味わってほしい。店主ご夫婦にはくれぐれもご自愛いただき、末永く営業を続けてほしいと思っている。
武田惣菜店の基本情報
武田惣菜店(武田商店)
〒158-0082 東京都世田谷区等々力4-1-1 尾山台いちば内
03-3702-4642
定休日:日曜
営業時間:10:00~19:00、12:00〜18:00
武田惣菜店のウェブサイト(尾山台北口商店街のウェブサイト)