墨田区のおでん種やさん巡り

江戸や東京の文化が色濃く残る墨田区には、現在3軒(2021年10月時点は2軒)のおでん種専門店が営業を続けている。今回は墨田区のおでん種やさんと周辺の散策スポットを紹介しよう。

東京都墨田区向島5-50-13:鳩の街通り商店街

墨田区は江戸時代の明暦の大火によって区画整理が進み、武家屋敷を中心とする市街が形成され江戸文化が栄えた。また、明治以降は近代軽工業が盛んとなった地だ。戦災から免れた建物も多く、現在でもその歴史の一端を垣間見ることができる。

散策に出かける際は、おでん種屋さんの定休日を把握しておこう。大体が日曜と祝日が休みなので、土曜日が狙い目だ。

東京スカイツリーから三囲神社まで
向島散策から鳩の街通り商店街、佃忠(向島)まで
白髭神社、向島百花園をめぐって八幡屋へ
玉ノ井跡から曳舟駅、大国屋(京島)がある下町人情キラキラ橘商店街まで

墨田区北西に集中するおでん種専門店

墨田区のおでん種専門店は墨田区北西に集中している。地域でいうと東向島に2軒(2021年10月時点1軒)、京島に1軒となる。駅では曳舟駅、京成曳舟駅、東向島駅、小村井駅あたりがアクセスしやすい。

墨田区のおでん種やさん巡りマップ
墨田区のおでん種やさん巡りマップ:クリックして拡大

3軒のうち1軒を訪れる場合は、各店に最寄りの駅があるのでそれらを利用するといいだろう。佃忠(向島)は曳舟駅、八幡屋は東向島駅、大国屋(京島)は京成曳舟駅か小村井駅となる。体力に自信がある場合は歩いてまわることもできるが、交通機関を一部利用すると効率がいい。今回は東京スカイツリーから隅田川沿いを北上して東向島駅まで向かい、南下して京島に至るというルートを紹介する。周辺の散策スポットも紹介するが、好みや都合にあわせてアレンジしてほしい。

なお、東向島の八幡屋は2021年8月中旬に閉業したことが確認された。当記事は閉業の事実が判明する前に執筆したものなので、その旨ご了承いただきたい(一部加筆・修正済)。

東京スカイツリーから三囲神社まで

墨田区といえば、やはり東京スカイツリーや東京スカイツリータウンは外せないだろう。2022年に10周年を迎え、周辺も東京ミズマチ、すみだリバーウォークなど魅力的な観光スポットが増えている。

東京都墨田区押上1-1-2:東京スカイツリー

東京スカイツリー関連の施設をまわるだけでまるまる1日過ごせるが、おでん種専門店に向かうならさらっと眺めるくらいにしておいたほうがいいだろう。巨大なタワーを真下から仰ぎ見るだけで、じゅうぶん観光気分が味わえるはずだ。

東京都墨田区押上1-1:とうきょうスカイツリー駅

東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)のとうきょうスカイツリー駅から歩きはじめることにするが、東京メトロ半蔵門線や東武伊勢崎線、京成押上線、都営浅草線が乗り入れる押上駅からでも問題ない。両駅は歩いて5、6分の距離だ。とうきょうスカイツリー駅は以前、業平橋駅という名称で静かな場所だったが、現在は若者で賑わっている。

東京都墨田区向島2丁目:三囲神社(三圍神社)

駅から北西に10分ほど歩くと三囲神社(三圍神社)にたどりつく。このあたりは牛嶋神社や墨田区立隅田公園、すみだ郷土文化資料館などがあって見どころも多い。

東京都墨田区向島2丁目:三囲神社(三圍神社)のこんこんさん

創立年代は不詳だが、浮世絵にも多く描かれた向島の名所だ。三囲神社は宇迦之御魂神を祀るため、狐像が鎮座している。垂れ目の愛嬌のある表情で「みめぐりのコンコンさん」という愛称で親しまれている。

東京都墨田区向島2丁目:三囲神社(三圍神社)のライオン像

三井グループとの縁が深く、日本橋三越本店など各店の屋上にも分霊が祀られている。その縁もあってか、三囲神社には平成21年(2009年)に閉店した三越池袋店のライオン像が寄贈されている。東京おでんだねの筆者は幼いころから池袋で過ごしてきたため、このライオンを見ると古い友人に再会したような気持ちになる。

東京都墨田区向島2丁目:隅田川七福神

三囲神社を含め、向島から鐘ヶ淵までの寺社をまわる隅田川七福神めぐりに挑戦してみてもいい。鐘ヶ淵の多聞寺以外は東向島に集中しているので、おでん種やさんにも立ち寄りやすい。

東京都墨田区向島2丁目:三囲神社(三圍神社)の隅田川七福神

隅田川七福神は江戸後期の文人が選定し、平成30年(2018年)に開祀200年を迎えるほどの歴史があるそうだ。お正月には御分体と宝舟、特別御朱印などが頒布される。筆者も2年ほど前に授かった。

向島散策から鳩の街通り商店街、佃忠(向島)まで

三囲神社をあとにして、見番通りを北上していく。次に目指すのは佃忠(向島)がある鳩の街通り商店街だ。

東京都墨田区向島:見番通り

向島は繁華街の浅草から見て、隅田川の向こう側にあることからその名がついた。桜の名所として賑わい、明治42年(1909年)出版の最新東京名所写真帖では「東都第一の勝地」と評されている。

喜多川歌麿「三囲神社の御開帳」(1799年), from The Metropolitan Museum of Art
喜多川歌麿「三囲神社の御開帳」(1799年), from The Metropolitan Museum of Art

遊興客は吉原などから芸妓を連れて渡し舟で訪れていたが、明治時代には花街として発展した。戦災によって被害を受けたが、現在でも料亭が立ち並んでおり江戸の風情を感じ取ることができる。なお、向島には名物である言問団子や長命寺桜もちなどがあるが、おでんを食す場合を考えて胃袋と相談しておくといい。

東京都墨田区東向島1丁目:墨田区立隅田公園 墨堤

首都高速を渡って隅田川に出れば、爽やかな風景を楽しむことができる。ここは墨田区立隅田公園の墨堤と呼ばれ、散歩にいそしむ人々に人気のスポットだ。春にはもちろん、桜並木が満開になる。

小島又市著「最新東京名所写真帖」国立国会図書館
小島又市著「最新東京名所写真帖」国立国会図書館

上写真は最新東京名所写真帖に掲載された向島の桜の風景写真。渡し舟が確認できる。対岸は大きな建物がなく、のどかな風景が広がっていたようだ。

東京都墨田区向島:鳩の街通り商店街

見番通りを北上し、住宅街を抜けると鳩の街通り商店街にたどりつく。昭和3年(1928年)に寺島商栄会としてはじまり、90年以上の歴史を持つ。

東京都墨田区向島5-50-13:鳩の街通り商店街

空襲で焼け出された玉ノ井の私娼街の人々が鳩の街へ移動し、進駐軍のための慰安施設「特殊慰安施設協会(RAA)」となって赤線区域として賑わった。商店街の道幅が狭いのは、空襲をまぬがれたことによる。

東京都墨田区向島5-50-13:鳩の街通り商店街

古くからの建物が多く残るが、老朽化が著しく建て替えられて消えていくものも多い。数ヶ月前に訪れた際に残っていたタイル張りの建物が、今回訪れたときには更地になっていた。リノベーションして保存されている建物もあるが、なるべく早く訪れたほうがいいだろう。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

さて、ここでようやくおでん種専門店に到着。佃忠(向島)は4軒ある佃忠の屋号を掲げるお店のひとつ。昭和56年(1981年)に創業し、佃忠兄弟の次男が営業している(詳しくは「佃忠の系譜」記事を参照)。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

調理済みのできたておでんも販売しているので、食べ歩きにはもってこいだ。念のため、紙皿と割り箸、ゴミ袋などは持参していこう。また、商店街の迷惑にならない場所で味わうといい。佃忠(向島)のおでん種に関する情報は「佃忠蒲鉾店(向島)のおでん種」と「佃忠(向島)のできたておでん」を参考にしてもらいたい。

佃忠(向島)のみ訪れる場合は曳舟駅がもっとも近い。おおよそ7分歩けばたどりつけるので、時間に余裕がない場合はそちらを利用するといい。

白髭神社、向島百花園をめぐって八幡屋へ

鳩の街通り商店街を抜けて、さらに北上すると隅田川七福神のひとつの白髭神社にたどりつく。

東京都墨田区東向島3-5-2:白髭神社(東向島)

天暦5年(951年)に近江国の白鬚神社の分霊を祀ったといわれている。平成2年(1990年)に放火によって社殿が全焼して、1992年に再建。境内にはたくさんの石碑があり、見どころは多い。

東京都墨田区東向島3丁目:向島百花園

白髭神社から東へ進むと、向島百花園がある。先ほどの白髭神社と同様に隅田川七福神を祀る場所のひとつだ。文化元年(1804年)に開園した由緒ある庭園で、江戸時代の文人たちが集まったことでも有名だ。現在は新型コロナウイルスによって予約制になっているが、日によっては当日予約ができる。

東京都墨田区東向島 大正通り商明会:八幡屋

向島百花園を北東に進むと、昭和31年(1956年)創業の八幡屋がある。大正通りと東武伊勢崎線が交差する場所にお店を構えている。筆者が訪れた10月後半にはビルの外装工事をやっていて営業の確認ができなかったが、のちの取材で2021年8月中旬に閉業していることが判明した。

東京都墨田区東向島 大正通り商明会:八幡屋

八幡屋の詳細は「八幡屋のおでん種」記事を参照いただきたい。生粋の下町東京人である店主がつくる揚げ蒲鉾はすり身の味が上品で、丁寧な仕事ぶりであることがすぐにわかる。店主の「冗談じゃねえよ」という口癖が下町の東京人らしく、話をしていて気持ちがいい。東向島が玉ノ井だった当時の思い出話などもうかがえる。

玉ノ井跡から曳舟駅、大国屋(京島)がある下町人情キラキラ橘商店街まで

八幡屋は東武伊勢崎線の東向島駅が最寄りの駅だ。東向島駅といえば、昭和62年(1987年)以前は玉ノ井駅という名前で親しまれていた。

東京都墨田区東向島4丁目:東向島駅

駅表示にも「旧玉ノ井」の文字が確認できる。田園が広がるのどかな場所だったが、大正中期ごろから浅草の銘酒屋(私娼がいる飲み屋)が移転しだし、関東大震災以後に私娼街として賑わった。永井荷風の「濹東綺譚」が有名だが、高村光太郎、太宰治、尾崎士郎、高見順など多くの文人に愛され、彼らの作品の舞台にもなった。

東京都墨田区墨田3丁目:玉ノ井跡

永井荷風が「ラビラント(迷宮)」と表現した一帯は、いろは通りの交番の先から鐘ヶ淵駅までのエリアとなっている。現在も細く入り組んだ路地にその面影を残す。カフェーの建築の特徴であったタイル張りやラウンドした庇(ひさし)の建物もいくつか残っている。

東京都墨田区墨田3丁目:玉ノ井跡(隅田湯)

それでも、老朽化によって近年続々と建て替えが進んでいる。現在も住居として利用されている建物もあるので、まわりに配慮をしながら見学しよう。

東京都墨田区東向島4丁目:東武博物館

ここで東向島駅へ戻り、電車に乗って曳舟駅まで戻ろう。次に目指すは京島にある下町人情キラキラ橘商店街だ。玉ノ井跡をめぐった方は鐘ヶ淵駅から乗ってもいい。ちなみに東向島駅には東武鉄道の歴史を勉強できる東武博物館がある。

東京都墨田区東向島2丁目:曳舟駅

曳舟駅は東武伊勢崎線と亀戸線が乗り入れ、東京メトロ半蔵門線も直通運転している。さらに、急行や準急も停車するのでなにかと便利な駅だ。筆者は佃忠(向島)と大国屋(京島)に訪れる際によく利用している。

東京都墨田区向島4丁目:秋葉神社

近くには緑が美しい秋葉神社がある。鎌倉時代の正応2年(1289年)に千代世稲荷として創建され、江戸時代の初めに秋葉大神が祀られたそうだ。「江戸中一の紅葉の名所」としても知られ、歌川広重の「名所江戸百景」にも描かれた。

東京都墨田区京島2丁目付近

秋葉神社の反対方面、曳舟駅から南東へ進んで下町人情キラキラ橘商店街へ向かう。曳舟たから通りを進んでいくと、趣のある建物や商店がちらほら現れる。

東京都墨田区京島3-44-43-10:下町人情キラキラ橘商店街

曳舟駅から約10分、850メートルほど歩くと下町人情キラキラ橘商店街にたどりつく。正式名称は向島橘銀座商店街で、「橘」の名は昭和6年(1931年)に開館した橘館があったことに由来する。戦前から橘館通りという名称で親しまれつつ、戦後の商業再開とともに発展してきた。

東京都墨田区向島5-50-13:鳩の街通り商店街

シャッターが閉まった店舗もあるが、多くのお客さんが訪れる非常に賑やかな商店街だ。全盛期では137軒あったそうだが、今でも75軒が営業を続けている。ほとんど住居になってしまった商店街も多いなか、地元民を中心とした人々の努力で活気を保っている。

東京都墨田区京島3-44-43-10:下町人情キラキラ橘商店街

高齢者の利用が多いが、最近では若者世代が古い建物をリノベーションして開業する動きがある。大学とのコラボレーションにも積極的で、イベントなども多く行われている。

東京都墨田区京島3-44-43-10:下町人情キラキラ橘商店街

交通の便の悪い地域密着型の商店街は衰退していくばかりだが、古くからの魅力をタイムカプセルのように留めている。筆者のような中年世代は子どものころに体験しているが、現在の若者は人のぬくもりが希薄な時代を過ごしてきた。下町人情キラキラ橘商店街は、今昔の架け橋となる素晴らしい商店街だ。

東京都墨田区京島:下町人情キラキラ橘商店街(向島橘銀座商店街):大黒屋

最終目的地の大国屋(京島)は商店街の入り口にある。昭和27年(1952年)に先代が創業し、現在では二代目がおかみさんとともに営業している。詳細は「大国屋(京島)のおでん種」記事をご覧いただきたい。

東京都墨田区京島:下町人情キラキラ橘商店街(向島橘銀座商店街):大黒屋のおでん

こちらのお店もさまざまな種類のおでん種を販売しているが、珍しいのが東京スカイツリーの形を模したスカイツリーという揚げ蒲鉾。油揚げにさまざまな具材を詰めたふくろ詰めもおすすめで、2種類販売している。大きな鍋で調理したおでんは味が染みていて、ひと口食べるだけで身も心もあたたまることだろう。

東京都墨田区向島5-50-13:鳩の街通り商店街

以上、墨田区にある3軒のおでん種やさんを巡るルートを紹介した。墨田区には江戸や東京の歴史を味わえる魅力的なスポットが多いことが少しでも伝われば幸いだ。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ気をつけたい今日この頃。おでんとともに東京の近場で観光気分を味わってみてはいかがだろうか。

佃忠蒲鉾店(向島)の基本情報

佃忠蒲鉾店
〒131-0033 東京都墨田区向島5-49-5
03-3614-2604
定休日:日
営業時間:9:30~19:30(夏季6月〜9月辺りは休業)
佃忠蒲鉾店(向島)のWebサイト(鳩の街商店街Webサイト)

【2021年8月閉業】八幡屋の基本情報

八幡屋
〒131-0032 東京都墨田区東向島4-43-10
03-3611-3368
定休日:日曜
営業時間:9:00~18:30

大国屋(京島)の基本情報

大国屋
〒131-0046 東京都墨田区京島3-43-8
03-3611-5289
定休日:日曜、正月
営業時間:10:00~19:30

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