東京揚げという名のおでん種

「東京揚げ」は、豆腐と魚のすり身を掛け合わせたソフトな食感が特徴の揚げ蒲鉾だ。歴史が浅く、製造する店舗の閉業が相次いだため知名度は高くないが、おでん料理店で提供されていたこともあり根強いファンが多い。

東京揚げ

東京揚げは市場から姿を消したように思われたが、吉祥寺の名店である塚田水産が現在も製造し、おでん料理店で提供されている。今回は東京揚げの歴史と現在でも味わえるお店などを紹介していこうと思う。

栄養価が高くソフトな食感の東京揚げ

東京揚げは豆腐と蒲鉾の中間のような揚げ蒲鉾だ。生大豆粉と魚のすり身を混ぜ合わせ、にがりや大豆油などを加えて揚げたもので、栄養価が高くソフトな食感を実現している。

東京揚げ

「東京」の名を冠するだけあり、築地の佃権(閉業、中央区築地5-2-1)、東京都蒲鉾水産加工業協同組合(通称東蒲、今年3月に解散)、東京都立食品技術センター(現在は東京都立産業技術研究センターに統合)を中心に開発が行われた。おでん種に代表される練り製品は暑い時期に売上が落ちるため、1年通して需要が見込める製品が求められていた。そこで、さまざまな料理に応用でき、栄養価も高い豆腐(大豆)に着目した。

東京都中央区築地4-9-11:佃權市場橋工房跡地
佃權市場橋工房の跡地(閉業、中央区築地4-9-11)

豆腐(大豆)を用いた練り製品はとりわけ珍しいものではなく、古くから全国各地に存在している。たとえば秋田県の大曲・仙北や長崎県の雲仙・島原地方には豆腐蒲鉾と呼ばれるものがあり、鳥取県には豆腐ちくわがある。東京揚げは既存のものとなにが違うのかといえば、製造しやすく低コストであり、栄養素が豊富なことだ。

東京揚げ

従来用いられてきた豆腐を混ぜる手法は脱水の手間がかかり、脱脂大豆から抽出した植物性タンパク質を利用する手法は原材料費がかさむ問題があった。東京揚げは生大豆粉を使用するため取り扱いが容易で、コストも抑えられる。また、豆腐の製造工程では除いてしまうおからの成分が含まれているため栄養価が高く、不飽和脂肪酸だけでなく食物繊維もたっぷり含まれている。さらにすり身から良質な魚肉タンパク質を得られる。

単純に生大豆粉を使うと食感が固くなって色も悪くなるが、大豆油を加えて乳化させることによってソフトな食感と美しい色を実現している。

紀文の魚河岸あげ

なお、紀文食品には「魚河岸あげ」という製品があるが、こちらは豆乳に魚のすり身を少しずつ加える製法にはじまり、現在は原豆乳に代わって豆腐を使用している。昭和60年(1985年)に販売を開始したロングセラー商品で、平成10年(1998年)生まれの東京揚げと比べると、魚河岸あげは13年ほど先輩になる。

東京揚げは平成10年(1998年)に食品産業センター主催の優良ふるさと食品中央コンクールにおける新技術・新製品開発部門で農林水産大臣賞を受賞、佃権のほかに製造販売していた蒲泉商店(閉業、中野区弥生町3-24-15)の東京揚げもテレビで紹介されて人気商品となった。蒲泉の東京揚げは紀尾井町の高級ホテルにも採用されていたそうだ。

東京都中野区弥生町3-24-15:蒲泉商店の跡地
蒲泉商店の跡地(閉業、中野区弥生町3-24-15)

主に佃権がおでん料理店や居酒屋などに卸していたこともあり、外食界隈のお客さんにも人気を博した。しかし、佃権は平成29年(2017年)、蒲泉商店もそれよりすこし前に閉業してしまった。また、この2軒のほかに東京揚げを製造していた品川区西小山のまるてつ蒲鉾店(品川区小山6-6)も閉業している。佃権が閉業した年を境に料理店のメニューに掲載されていた「東京揚げ」は、次々と姿を消していった。

今でもおでん料理店などで東京揚げを味わえる

東京揚げは幻の商品になったかと思われたが、実は現在でも味わうことができる。吉祥寺の塚田水産が製法を引き継いでいるのだ。

東京都武蔵野市吉祥寺本町 吉祥寺ダイヤ街:塚田水産

目黒区中目黒のおでん料理店「鶏だしおでん さもん」(目黒区上目黒3-5-31)が佃権の閉業を機に塚田水産へ東京揚げの製造依頼をしたところ、東蒲組合にレシピが残っていたためアレンジを加えて再現したという。

東京都目黒区上目黒3-5-31:鶏だしおでん さもん

「鶏だしおでん さもん」は鶏がらや野菜を煮込んだ鶏ベースの汁が好評を博しているが、その自慢の汁をたっぷり吸い込んだ東京揚げは極上の味わいで、常連客を中心に長く親しまれている。

東京都目黒区上目黒3-5-31:鶏だしおでん さもん

塚田水産によると、大井町の八幸(品川区東大井6-1-5、品川区南品川6-18-16)、代々木上原のUO-SAO(渋谷区上原1-17-11)、埼玉県大宮の末広(埼玉県さいたま市大宮区大門町1-14)などでも東京揚げを味わうことができるそうだ。さもんと他店のものはすこしアレンジを変えているそうなので、食べ比べてみるのも面白いだろう。また、今年3月23日にオープンした伊勢丹新宿店の塚田水産(本館B1F フレッシュマーケット内)でも不定期で販売している。

東京揚げと紀文の魚河岸あげ

東京揚げは通常の揚げ蒲鉾に比べてふんわりしているが、豆腐と同時に魚のすり身の存在感も目立つ。おでん汁と一緒に味わうと格別だが、そのまま食べても旨味がしっかりしていて美味しい。同じく大豆(豆腐)を使用した紀文の魚河岸あげはさらに柔らかい食感で、豆腐の風味が強い印象だ。似たような原料を使っても、それぞれ異なる個性があって興味深い。

東京揚げ

以前に比べて目にする機会は少なくなってしまったが、東京揚げは現在でも製造され多くのファンを魅了し続けている。興味のある方は今回紹介したおでん料理店などを訪問して一度味わってみていただきたい。

塚田水産の基本情報

塚田水産
〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-8
0422-22-4829
定休日:1月1日~1月3日
営業時間:9:30~19:00
塚田水産のWebサイト
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塚田水産(伊勢丹新宿店)
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1
定休日:1月1日
営業時間:10:00~20:00
伊勢丹新宿店のWebサイト

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