梅屋蒲鉾店は東京都八王子市長房町の長房新栄商店街にあるおでん種専門店だ。あたたかいおもてなしの心をもった2代目店主とお母さまのふたりが魅力的なおでん種やさんだ。電話によるオーダーで地方発送も受け付けている。
団地の生活を支えてきた長房新栄商店街
八王子のひとつ隣、西八王子駅。JR中央本線が通り、ファストフード店やスーパー、そのほか多くの店舗が揃っていて生活に便利な街だ。
駅前には近隣にアクセスできるバスが多く集まっており、梅屋蒲鉾店がある長房団地へは北口から西東京バス「長房団地」行きなどに乗れば10分ほどでたどりつける。
バスは北西へ向かい、南浅川を渡る。こうしてみると、自然が豊かな場所だということがわかる。それもそのはず、西八王子駅の次は高尾駅で、京王高尾線に乗り換えればすぐに高尾山口駅までたどりつく。
長房団地の停留所までやってくると、いくつもの団地が目の前に現れる。区画によって名称が異なるが、総称は「長房団地」。長房団地は昭和39年(1964年)につくられたマンモス団地で、敷地のなかに多くの棟が集まっている。老朽化による建て替えがあり、ほとんどが新しい棟になっている。
団地のなかを歩いていくと、東側にいくつも商店が集まっている場所にたどりついた。ここが梅屋蒲鉾店のある長房新栄商店街だ。
長房新栄商店街は長房団地ができた当初と変わらないレトロな雰囲気の建物が集まっている。八百屋さんや酒屋さんなど生活に便利なお店が揃っているが、すでに閉業しているところも多い。
居酒屋などの飲食店も多く、最近では生活店よりもこちらが主流となっているようだ。ここで一杯やったら、映画やドラマの1シーンにさまよいこんだ気分を味わえるかもしれない。現在は「せんべろ」など古きよき酒場がブームだが、興味のある方は訪れてみるといいだろう。
あたたかいおもてなしの梅屋蒲鉾店
梅屋蒲鉾店は長房新栄商店街の真ん中あたりにある。昔ながらの懐かしさがあふれる店構えだ。
じつは今回の取材の前、7月はじめにこちらのお店を訪れた。しかし、夏はおでん種を作っていなかった。それでも、店主と店主のお母さまにはとても親切にしていただき、たくさんお話を聞かせていただいた。
筆者が片道1時間40分ほどかけてやってきたことを知ると、訪れたことに対して非常に喜んでいただいた。そして「時期が合わなくてごめんなさい」と言って、さつま揚げをおみやげとして渡してくれた。こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだが、あたたかなおもてなしに嬉しくなった。
再訪を心待ちにしながら頃合いをみて電話すると、店主は筆者を覚えてくれていて「会えるのを楽しみにしています」とおっしゃってくれた。
お店のショーケースをのぞくと、たくさんのおでん種が美しく並べられていた。揚げかまぼこのおでん種は12種類。スタンダードなものが多いが、ししとうが入ったしし唐巻きという変わり種もあった。梅屋蒲鉾店のWebサイトでは18種類が確認できる。こちらのサイトでおでん種も注文が可能だ。
揚げかまぼこ以外のおでん種は、つみれや昆布など定番のものが揃っている。ちくわぶは瀬間商店、こんにゃくは荒船(アイエー・フーズ)、上はんぺんは嘉平屋、がんもや厚あげはマック食品、つみれは自家製だ。
熱々の調理済みおでんも準備万端。寒くなる季節には欠かせない。店主とお母さまが「味見していきなよ」とすすめてくれたので、定番のさつま揚げをいただいた。まろやかな鰹と昆布の出汁との相性が抜群で、ふわりとした魚のすり身がとてもやさしい。「手のこんだことはことはしてないけど」と店主は笑うが、なかなか家庭でこの味を出すのは難しい。
お店の脇には揚げたての野菜天ぷらも売られていた。夏場はこの天ぷらやさつま揚げを販売している。なお、2024年からは冷やしおでんの販売もしている。詳しくは「梅屋蒲鉾店に冷やしおでん」という記事をご覧いただきたい。
ふと看板を見上げると「愛川屋支店」の文字を発見。梅屋蒲鉾店は昭和43年(1968年)創業、現在の店主のお父さまが杉並区高円寺の愛川屋(閉業、杉並区高円寺南3-45-15)で修行されたあと、今の場所にお店を開いた。愛川屋は高円寺のほかに渋谷区笹塚や目黒区大岡山などがあったが、現在では大田区糀谷の愛川屋だけになってしまった。
梅屋という店名は店主の名字の「梅津」からとったのだろう。同郷の山形の奥さまとふたりでお店を営業していたが、ご病気によって息子さんへと代替わりした。
2代目の梅津孝晴さんは初代から蒲鉾づくりをゆっくり教わる時間がないまま、試行錯誤でお店の味を探り続けた。現在では常連客に「先代の味と一緒だ」と喜ばれるという。日毎に変わる魚の状態や環境を考慮しながら、おでん種づくりに勤しんでいる。
2代目は親しみやすい人柄で、一緒に働くお母さまへの気遣いを忘れないやさしい心の持ち主だ。お母さまも同様に、仕事に励む息子さんを気遣いながらも誇らしく思っている。話していると、親子ふたりの信頼関係が手にとるようにわかった。筆者はすっかりこのふたりのファンになってしまった。
梅屋蒲鉾店のおでん種
梅屋蒲鉾店はとても居心地がよく、前回と今回あわせて2時間以上も居座ってしまった。名残惜しかったがお店をあとにして、家で調理を開始。今回は13種類を購入した。
時計回りに12時から、さつま揚げ(大)、さつま揚げ(小)、野菜揚げ 、ごぼう揚げ、えび揚げ、いか揚げ、つみれ、げそ巻き、ウィンナー巻き、しし唐巻き、チーズ巻き、紅生姜揚げ、揚げボール(中央)。
下ゆでした大根や白滝、ちくわぶなどを入れてから練り物のおでん種を投入し、適度に温めて完成。梅屋蒲鉾店のおふたりの愛情こもったおでん種は、いったいどんな味がするのだろうか。
揚げ色が美しい魚のすり身は弾力がしっかりありながら、ふわふわ感もあってちょうどよい感じ。魚のうまみを殺さない味付けで、ほどよい甘みがある。
さつま揚げは2種類あり、こちらは大きいほうだ。もちっとしながらふわっと柔らかく、口のなかでとろけるようだ。
揚げボールは人参と青ネギ、玉ねぎが入った贅沢な品。人参と玉ねぎが魚の甘みを深めつつ、青ネギの爽やかな風味が香る。
野菜揚げは人参、もやしなどが入っている。しゃっきりとしたもやしの歯ざわりが心地よく、もちもちとした魚のすり身のアクセントになっている。
えび揚げは桜海老の香ばしい風味が嬉しいおでん種。紅色に染まった淡い彩りが美しい。
梅屋蒲鉾店のおでん種はスタンダードながらも丁寧につくられた印象のものばかり。まるで、店主やお母さまの人柄が反映されているようだ。
ごぼう揚げは笹掻きしたゴボウがたくさん入っている。香りがとてもよく、おでんにせずにわさび醤油につけて食べても美味しそうだ。
紅生姜揚げは混ぜ込まれた紅生姜が控えめで、魚のすり身の味を引き立てる名脇役を演じている。
いか揚げは細かく刻んだイカが入っており、魚のすり身にほどよく絡んでくる。げそ巻きと味を比較してみても面白いだろう。
自家製のつみれはイワシの香りが強く、うまみもじゅうぶん。それでいて臭みはまったくないので子どもでも美味しく食べられるだろう。
最後はいつものように、巻き物のおでん種を味わってみたいと思う。こちらも定番ものばかりだが、しし唐巻きという変わり種もある。
しし唐巻きはししとうが一本まるごと入っている。独特の青い風味が心地よく、とても美味しい。おでん汁でふやけて食べやすくなっている。
ウィンナー巻きは形も味もきわめてスタンダード。しかしながら、この定番感が安心するのだ。なつかしさを感じる肉の味も心地よい。
チーズ巻きも定番の美味しさ。とろりとしたチーズの甘みが最高!童心にかえるひとときだ。
げそ巻きはしっかりうまみが凝縮されたゲソが詰まっていて、噛めば噛むほど味わいが広がる。いか揚げのやさしい味わいとはまた違った、奥深さを感じる。
Web通販でぜひ梅屋蒲鉾店の味を堪能してほしい
店主のお母さまは「昔は手みやげの文化があったから、ちょっと寄ってさつま揚げを買っていく人が多かった」とおっしゃっていた。前回、筆者が訪れたときに「わざわざ遠方からきてくれたんだから」とさつま揚げを持たせてくれたのも、昔ながらの素敵なおもてなしの心が生き続けていたからなのだと思う。今回はそのお返しにと筆者が手みやげを持っていったのだが、「いやいや悪いよ」「いえいえどうぞ」というようなやりとりがあり、あらためて素敵な文化だなと思った。
梅屋蒲鉾店のある長房新栄商店街は、年々店舗の数が減っているという。時代が様変わりして、商店街が昔のまま存続することはなかなか難しくなっている。団地に住む人以外に梅屋蒲鉾店に訪れるのは非常に稀だとは思うが、温かいおもてなしの心を持った素敵なお店をもっと多くの人たちに知ってもらいたいと願っている。
梅屋蒲鉾店はWebサイトがあり、地方からでもオーダーが可能だ。ぜひご覧いただいて、実際の味を確かめてもらいたい。
梅屋蒲鉾店の基本情報
梅屋蒲鉾店
〒193-0824 東京都八王子市長房町551
042-661-7317
定休日:日、月
営業時間:9:30~18:30
梅屋蒲鉾店のWebサイト、Instagram