神茂のおでん種

神茂(かんも)は言わずと知れた蒲鉾屋の老舗だ。330年以上の歴史を持ち、かつては宮内庁の出入りが許されるなど高い評価を得てきた。特に「手取りはんぺん」と呼ばれるふわふわのはんぺんが有名で、日本橋三越本店など首都圏の高級デパートで取り扱われている。各メディアで取り上げられているので今更説明不要かもしれないが、本店の近くに行く機会があったのでレポートしたいと思う。

日本橋室町、老舗のおでん種

東京都中央区日本橋

神茂の本店は江戸の台所と呼ばれた日本橋室町にある。1991年6月に竣工した神茂ビルの1階が店舗になっており、はんぺんや蒲鉾だけでなく、おでん種も多く取り扱っている。
店内はさすが老舗の高級店だけあって落ち着いた雰囲気だ。女性の店員さんが複数人いて、おごそかな雰囲気を漂わせつつ丁寧に対応してくれた。

東京都中央区日本橋:神茂本店

おでん種の種類は豊富で、ちくわぶだけでなく魚のすじも取り扱っている。この2つがあると、これぞ関東、これぞ東京のおでんと称えたくなってくる。そういえば、Twitterで「おでんにちくわぶがないとがっかりする人は大抵関東の出身」とつぶやいたとき、フォロー外の方から「江戸っ子は、ちくわぶを好みませんよ。ちくわの偽物です。「ふ」の意味わかってますか?」とリプライがきた。そのときに「神茂さんもちくわぶを取り扱ってるよ」と返せばよかったと少し後悔している(そもそもこの方は文章の意味を取り違えているのだが)。ちなみにどうでもいいことだが、私は三代続く江戸っ子だ。

神茂の魚のすじは昔から有名で、

味の強い青鮫の肉が入ったこの魚すじは味がよいと評判をいただいています。歌舞伎界では若手でちょっと筋のいい役者が出てくると「あの野郎、ちょっとカンモだねえ」という言い方があるほどです。

とのことだ(神茂のウェブサイトより引用)。

繊細さと大胆さを兼ね備えたおでん種の役者たち

東京都中央区日本橋:神茂のおでん種

色々と目移りしたが、選んだのは7種類。12時から時計回りに養老揚、はんぺん、三色こんにゃく(一味唐辛子)、海老しんじょ、うずらボール、大判きくらげ天、大判生姜天。

東京都中央区日本橋:神茂のおでんに付いてきたチヨダのからし

綺麗に包装されたおでん種を取り出すと、小さなチヨダのからしが入っていた。おでん種やさんで扱っているからしのほとんどはチヨダのものだ。商店街の名店でも、老舗の高級店でも通用するチヨダのクオリティは本物なのだなと実感した。ちなみに粉末状のからしをぬるま湯で溶いてから使う。

東京都中央区日本橋:神茂のおでん種

家に戻って調理を開始。神茂のおでん種はひとつひとつにボリュームがある。大判きくらげ天と大判生姜天は名前の通り大きいので、ふたりなら1枚を半分に切れば十分の量だ。はんぺんも鍋に入れると途端に膨らむので、4分の1に切ってふたつ入れるくらいで十分だ。普段利用する商店街のおでん種やさんに比べて値段は倍にはなるが、少なめに購入しても腹を満たすには十分なのではないかと思う。

東京都中央区日本橋:神茂のおでん種

はんぺんは評判通りの美味しさで、舌触りは限りなく滑らか。ホイップクリームを舐めていると錯覚してしまうほどだ。アオザメとヨシキリザメが使われているが、アオザメは漁獲量が少なくなっており、伝統の味を守るために日本各地の漁港から仕入れているという。海老しんじょはエビのうまみだけでなく、里芋を合わせたイトヨリダイのすり身がぷりぷりとしていて楽しい食感だった。

東京都中央区日本橋:神茂のおでん種

三色こんにゃくば一味唐辛子のものを購入したが、彩りが美しいだけでなく一味唐辛子の辛味が効いて良いアクセントとなる。その他2色の白はプレーン、緑は青のりとのことだが、3色揃うとおでんもより華やかになるのだろう。

東京都中央区日本橋:神茂のおでん種

大判きくらげ天はきくらげがきちんと主張していて、クニクニとした歯ごたえがとても良い。大判生姜天の生姜は風味が鼻から清々しく抜けていく。練り物がほのかなピンクに染まって可憐な印象だ。

素材にこだわったすり身は上品な味だが、食感は均一ではなく手作りの良さを残している。練り物の中の具はそれぞれの味がしっかりしているのだが、それはすり身が引き立て役としてきちんと機能しているからなのかもしれない。神茂には繊細さと大胆さを兼ね備えた素晴らしい役者たちが揃っている。

操業を続けることの意味

よく「東京おでんだね」では「老舗のおでん種やさん」という言葉を使うが、ほとんどのお店は戦争前後、もしくは昭和に入ってからの創業だ。神茂は元禄元年(1688年)創業なのだから、老舗中の老舗、他とは比べ物にならないくらいの歴史がある。しかし、「歴史の長さや名声だけで評価してよいものか、そんな色眼鏡で見るのはよくないぞ」という意見があるかもしれない。どちらかというと「東京おでんだね」もそういう価値観に近い。それでも、あらためて商店街のおでん種やさんを振り返ってみると、操業し続けることは多くの苦労を伴うものなのだと思わざるを得ない。どんなに美味しいおでん種を提供していても、どんなに真面目にやっていたとしても、様々な要因で閉業に追い込まれるお店が本当に多い。神茂もおそらく資金繰りや後継者といった内部要因だけでなく、明治維新や関東大震災、太平洋戦争など様々な外部要因によって困難にぶち当たってきたはずだ。経営を安定させ、なによりも高品質の味を保ち続けているのは本当にすごいことだと思う。

なお、神茂のほかのおでん種は「東京のおでん種屋さんの歴史:日本橋魚河岸」という記事でも紹介しているので、あわせてご一読いただきたい。

神茂(かんも)の基本情報

神茂(かんも)
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-11-8
03-3241-3988
定休日:日曜、祝日
営業時間:10:00~17:00
神茂のウェブサイト
神茂のTwitter
神茂のYouTube

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