よね屋は2020年9月に開業した世田谷区世田谷(上町)にあるさつま揚げ専門店だ。松陰神社前にあった有名店の職人さんが伝統の味を守りつつ、新たに魅力的な商品を日々つくり出している。開業から1年経った今年8月、夏向けのさつま揚げの購入とお店の様子を伺うためにお店に向かった。
多くの人々に支えられたよね屋の開業
よね屋は東急世田谷線の世田谷駅と上町駅の中間地点、世田谷通り沿いにお店を構える。肉まんの有名店、手作り台湾肉包の鹿港(ルーガン)のななめ向かい側だ。
すでにSNSやブログ界隈でファンから公(おおやけ)にされているが、よね屋は昨年4月に閉業した松陰神社前のおがわ屋の職人さんが開いたお店だ。
おがわ屋は「松蔭ジンジャー」などの人気商品があり、地元を中心に多くの人々から愛されていた。そのおがわ屋の味をふたたび楽しめるということで、よね屋は開業当初はもちろん、今現在でも話題になっている。
開業までの課題は多く、数ヶ月という短い準備期間(おがわ屋の閉業が2019年4月10日、よね屋の開業は9月20日)もあいまって困難を極めたという。そんなとき、松陰神社前を中心とした地元の人々が次々に協力を申し出て、皆の力でひとつずつ解決してきたのだそうだ。
協力者の呼び込みには地元のアイドルとして有名なシーズー犬、ライムくんが大活躍したのだという。その功績をたたえ、ライムくんはよね屋の名誉顧問になっている。
東京おでんだねは開業日によね屋を訪れ、記事として紹介している。再訪してお店に入ると、店主の米田正祐さんは筆者の顔を覚えていてくれた。よね屋ではお客さんとの絆を重視し、一人ひとりの顔を覚えるようにしているそうだ。
再訪までは1年というブランクがあったが、米田さんいわく「ちょうどよかった」のだという。無事に開業はしたものの、オペレーションを安定させるには課題がいくつも残っていたからだ。
まず、さつま揚げの味に対する課題があった。魚のすり身の弾力(足)やさつま揚げの揚がり具合は日によって変化するが、とりわけ夏場の高温多湿の環境ではその変化が著しい。新しい工場(こうば)はこれまでの環境とはまったく異なり、ゼロから調整する必要があった。おがわ屋で働いていたベテランの職人さんと一緒に1年を通して納得できる味を提供するために、この期間はじっくり試行錯誤を繰り返した。
次に、経営の課題があった。よね屋はおがわ屋のように人通りの多い商店街ではなく、車通りの多い世田谷通りに面している。季節によって来客数が変化するため、1日に製造する商品の数や価格設定などリサーチや検討が必要だった。「経営課題が味に影響してはならない」というこだわりを守るため、これらの課題をひとつずつ解きほぐしていった。その取り組みもあってか、今では昔なじみの松陰神社前のお客さんだけでなく、上町からのお客さんも増え続けているという。
米田さんは「この1年は本当に大変だったけど、焦らず一歩ずつ進めてきたのは正解だった」とおっしゃった。メディアの取材依頼も殺到していたが、安定するまでは慎重に対応した。東京おでんだねでは開業日にこのお話を伺っていたので、今回まで取材は控えるようにしていた。また、新型コロナによる状況の変化も今後を考えるうえではよい機会だったという。お客さんの接触リスクを減らすために盛り合わせの新商品を開発するなど、アイデアの生み出すきっかけとなっている。
現在は収益拡大よりも、お客さんに喜んでもらえることを第一としてさつま揚げの味を極めることを主眼に置いている。手づくりにこだわり、納得できる味に至らない場合はお店を開けないくらいの覚悟で取り組んでいるそうだ。具材となる野菜も国産にこだわっている。
おがわ屋を愛してくれた人たちのために、きちんと伝統の味を維持することはもちろんだが、一方で新しいアイデアを取り入れながら新商品を開発している。生姜好きの常連さんのリクエストによって生まれた「しょうが棒」や、関西出身の米田さんならではの発想で生まれた「THEソース」はイカとソースを組み合わせた商品だ。日によって限定販売する商品なので、訪れるごとに楽しみが生まれる。もちろん、おがわ屋で人気だった松蔭ジンジャーも健在。今は「上町ジンジャー」と名を変えているが、味やレシピはそのままだ。
開業時は4種類からスタートしたが、次第に商品数を増やしていった。訪れたときは17種類の揚げ蒲鉾が並んでいた。おでん種としてはもちろんだが、夏場はそのまま食べても美味しい商品を中心に取り揃えている。季節を問わずに楽しんでもらいたいという気持ちから「おでん種」ではなく「さつま揚げ」や「練り物」と呼んでいるそうだ(したがってこの記事ではさつま揚げという呼称で統一している)。この時期は作り置きをすると味や質が落ちるので、1日で売り切る量を生産している。
こんにゃくや白滝(東中野の山田食品)など、さつま揚げ以外のおでん種も販売している。おでん汁はチヨダのおでんの味と正田醤油のおでん汁の2つを揃えている。
よね屋に訪れる場合は、Twitter(@team_yoneya)やInstagram(team_yoneya)をフォローして事前に確認するといいだろう。その日の商品ラインナップや開店・閉店状況、休業日のお知らせが丁寧に紹介されているので非常に便利だ。
そのままで食べても美味しい、よね屋のさつま揚げ
今回、当日販売していたすべてのさつま揚げ17種類を購入した。
時計回りに12時から、辛ごぼう、ナス、いんげん、餃子、ひら天、もやし入りかきあげ、ピリ辛、揚げボール、しょうが棒、桜えび、たまねぎ、カルボナーラ風、きくらげ、なんこつ、上町ジンジャー(中央上)、枝豆(中央右)、コーン(中央左)。
さつま揚げは夏らしく、おでんにせずにそのままいただいた。あぶった夏野菜を少々と、ミョウガを薬味として添えて、中央には卵黄と胡麻油に黒七味をかけたものをあしらってみた。この卵黄はさつま揚げをディップして楽しむ。
魚のすり身の味を確かめるべく、まずはひら天をチョイス。具材が入っていないので、すり身そのものの味を楽しめる。よね屋のすり身はほどよく弾力がありながら、ふわりとした柔らかさもあって上品な食感だ。魚のうまみもしっかりと感じられ、満足度が高い。店主の米田さんいわく、夏場は味は少々濃いめ、甘めに調整しているのだそうだ。
もやし入りかきあげは、人参、ネギ、もやしが入っていて彩り豊か。全体の味は人参によって優しい印象で、シャキシャキとしたもやしの食感がアクセントなっている。
ピリ辛はもやし入りかきあげの唐辛子入りバージョンといったところか。口に含んだときはあまり辛さを感じないのだが、飲み込んだときにピリリと刺激がやってくる。
揚げボールは、刻んだ玉ねぎの自然な甘みが魚のすり身と見事に調和している。ひと口サイズなので食べやすい。以前は名誉顧問のライムくんの名前を冠した「ライムボール」という名前だった。
たまねぎは、揚げボールよりもさらに玉ねぎの味が強調されている。とろけるような玉ねぎの甘みが口いっぱいに広がる。
上町ジンジャーは、おがわ屋時代は「松蔭ジンジャー」で名を馳せた逸品だ。複数種類の野菜が贅沢に入り、紅生姜がアクセントとなっている。
しょうが棒も紅生姜が入っているが、こちらはおがわ屋には存在しなかったよね屋の新商品。生姜好きの常連客のリクエストによって生み出されたという。紅生姜以外に具材が入っていないので、ガツンと生姜の辛みが効いていて美味しい。
辛ごぼうはゴボウが笹掻きになっているので独特の香りがふわっと漂う。アクセントとなる唐辛子はゴボウとの相性が抜群で、病みつきになる美味しさだ。
なんこつは軟骨のコリっとした食感が面白い。特筆すべきは黒胡椒がまぶしてあること。パンチの効いた黒胡椒の味付けは、すり身と軟骨、ネギと絶妙なハーモニーを醸し出す。東京おでんだねの筆者のイチ推し商品だ。
カルボナーラ風もおもしろい。刻んだベーコンとチーズが入っていて、ほかとは異なる西洋風な味わい。ベーコンの塩気とチーズのとろける甘さがベストマッチング。
きくらげは細切りになったキクラゲが練りこまれている。細切りにすることによってクニクニとした食感が強調され、噛めば噛むほどその食感を楽しめる。
桜えびは、口に含んだ途端に桜海老の香ばしい風味が広がる。桜海老は揚げてしまうと香りが飛んでしまうことがあるが、しっかり風味を残しているのはさすがの一言。
枝豆は、小さなさつま揚げのなかにたくさん枝豆が練りこまれている。枝豆特有の清々しい夏の香りが漂い、夕涼みの晩酌にぴったりだ。
コーンは、太陽の恵みをしっかり含んだ糖度の高いとうもろこしがしっかり詰め込まれている。見た目も非常に美しく可愛らしい。子どもだけでなく高齢者にも人気だそうだ。
いんげんは、大型サイズで食べ応えじゅうぶん。サクサクとした食感と、インゲン特有の豊かな味わいを思う存分楽しめる。
ナスも大きなサイズとなっている。店主いわく食べやすい小さなサイズにしようと思ったが、やはりこの形が人気なのだそうだ。
餃子は、いわゆる餃子巻だ。みっちりと密度のあるすり身がとろりとした味わいの餃子をやさしく包み込み、食べたときの満足感を与えている。
よね屋は開業してからずっと味の研鑽を重ねている。おがわ屋の評判、その期待を一手に担うのはかなりの重責であることは想像に難くない。しかし、店主の米田さんはこれらの期待や課題を挑戦だと受け止め、ベテランの職人さんと二人三脚で前向きに突き進んでいる。そして、彼らを応援する人々に支えられ、アドバイスに耳を傾けながら成長し続けている。東京の蒲鉾業界から見ても、専門店が減少し続けるなかで新たに開業したお店が奮闘しているのは非常に喜ばしいことだ。成長を続けているからこそ、訪れるたびに変化を楽しめる。今後もよね屋に定期的に訪れて、その挑戦の軌跡を確かめていきたいと思う。
【2024年9月移転】よね屋の基本情報
手作りねりもん よね屋
〒194-0005 東京都町田市南町田1-12-1 NKビル1F
042-850-7027
定休日:火曜、水曜、木曜
営業時間:12:00~18:00(準備出来次第開店、売り切れ次第終了)
南町田のよね屋のX(Twitter), 世田谷のよね屋のX(Twitter)
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旧世田谷店(移転)
〒154-0017 東京都世田谷区世田谷1-21-8
03-6432-6272