丸石蒲鉾店のおでん種

東京都荒川区荒川二丁目:丸石蒲鉾店のおでん種

荒川二丁目にある丸石蒲鉾店は、南千住の名物である「にくまん」をルーツとするおでん種を扱う数少ないおでん種やさんだ。

商店街や飲み屋街の名残を残す荒川二丁目付近

千代田線、京成本線、都電荒川線が交差する荒川区町屋。あらかわもんじゃが有名なこの地は、近くにある日暮里が駄菓子の問屋街であったことからもんじゃが普及したといわれている。なぜならもんじゃ焼きは、かつて駄菓子屋で提供される子どものおやつとして親しまれたからだ。おでん種専門店も東京の他の地域に比べて多いのだが、おでんも子どもに人気のあったおやつだ。もんじゃ焼きと同様に、おでんも駄菓子文化の影響を受けているのかもしれない。

京成本線の町屋駅を東側に抜けて商店のある通りを少し南下すると、荒川七丁目と二丁目のエリアに入る。このエリアは、かつての商店街や飲み屋街の名残とおぼしきお店が点在している。まだまだ現役で営業しているお店も多いが、数えるほどに減少しているようだ。街の変遷が手に取るように分かる。

野崎浴場という銭湯のある通りはシャッターを閉めたお店がほとんどだが、当時の雰囲気をよく残している。銭湯を利用する年配の方々が集まるだけでなく、公園が近くにあるので子どもも元気に駆け回っていた。

丸石蒲鉾店も他のお店と同じように住宅街に囲まれた通りにある。向かいの角にたばこ屋、少し奥に行くと八百屋があるので、この通りもかつては多くの商店が軒を連ねていたのだろう。

元気なご夫婦が営業する丸石蒲鉾店

丸石蒲鉾店はインターネットでの情報が少なく、訪れる際に営業しているかもわからないほどだった。にくまんを売るおでん種屋さんとしてテレビに紹介されていたりもするが、訪れた人のレビューや営業時間などの基本情報がほとんどない。しかし訪れてみると、こじんまりとしながらも清潔に保たれたお店と、元気な店主と奥さまの顔を見て不安はすべて払拭された。

丸石蒲鉾店の店主にお話を伺うと、師匠となるお兄さまは足立区北千住のマルイシ増英で働いていた方だったそうだ。お兄さまは足立区青井にあった丸石蒲鉾店(閉業、東京都足立区青井4-23-22)を経営していた方だ。

店舗の左側では調理済みのできたておでんを売っている。中を覗くとフランクフルトや結び昆布、がんもどきなど定番もあるが、どちらかというと練り物中心のラインナップだ。練り物からよい出汁が染み出していそうで、おでん汁も美味しそうだ。こちらについては「丸石蒲鉾店のできたておでん」という記事で詳しく紹介しているのでご覧いただきたい。

店舗右側の冷蔵ショーケースを覗くと、おでん種がたくさん並んでいる。練り物は出ていたもので17種類、どれもプリプリ、コロコロしていて可愛らしい。値段も非常にリーズナブルだ。ボール揚などは8個で140円。バラ売りもしてくれるが、単価と個数をうまく組み合わせて購入するとよい。

ショーケースの中に「フライ(にくまん)」を発見した。5枚セットで250円、単品50円でも販売している。このおでん種については後述するが、下町の名物だけありお財布に優しい価格となっている。

なるとやすじなど練り物以外のおでん種は7種類ほど。すじは訪れたときにはケースに入っていなかった。「すじは今日ないんですよね?」と聞いたら、店主が「今作っているところ」と言って、手に持っているすじを見せてくれた。そして「2枚だけあったかな」と言うと、奥さまが奥から探し出してきてくれた。「手作りなんですね」と感心していると、奥さまが「つみれもそうよ、もちろん練り物も」と茶目っ気たっぷりに答えてくれた。ちなみにおでんの素は定番チヨダの「おでんの味」だ。

丸石蒲鉾店はご夫婦ふたりで営業されているようだが、とてもお若い。おそらくまだ60代前半くらいなのだと思う。息子さんはお店を継がないそうだが、まだまだ元気に営業してくれそうだ。

今回購入したおでん種は写真の通り。12時より時計回りにやさい揚、いか天、しょうが天、ごぼう巻、さつま揚、フライ(にくまん、中央)、カレーボール、つみれ、たこボール、すじ。

南千住ローカルのおでん種、にくまん

にくまんは南千住周辺のみのローカルのおでん種で、魚のすり身に衣をつけて揚げたものだ。

南千住6丁目の「手打ちそば処 いし井」のにくまん

にくまんは荒川区のジョイフル三ノ輪にあった神崎屋というおでん種やさんが発祥といわれている。足立区の西新井が発祥といわれるローカルフード、文化フライ(小麦粉とガムシロを練り合わせたものに衣をつけて揚げ、ソースをかけたもの)を真似て作ったそうで、肉が不足していた戦後復興期に子どもを中心に人気を博したそうだ。正式名称は「フライ」だったが、子どもたちが「にくまん」というあだ名で呼んでいたことにより、その名称が定着したといわれている。神崎屋はすでに閉業しているが、南千住6丁目にある「手打ちそば処 いし井」の店主が製法を受け継いでいる。

詳しくは「南千住地域限定のおでん種、にくまん」という記事をご覧いただきたい。

丸石蒲鉾店では「フライ(にくまん)」として販売しており、いし井のにくまんとは原料などが異なる。丸石蒲鉾店のフライ(にくまん)は魚のすり身にソーセージと玉ねぎを加え、つぶさずに揚げていて食感はふわっとしている。見た目はカツフライそのもので、おでんに入れる場合は最後に投入し、温める程度でよいとのこと。衣が汁を吸ってふわふわになるのを見計らって、好みのタイミングで食べるのがセオリーなのだそうだ。
食べてみると普通の練り物のおでん種と明らかに違い、おでん汁を吸った衣の食感が面白かった。新宿すずやのとんかつ茶づけに通じるような未体験の食感だ。

しっかりとした食感の練り物、自家製すじも美味

フライ(にくまん)以外のおでん種として特徴的だったのは、カレーボール。千住あたりでは串に刺されているものが多い。確かに駄菓子屋や露店で食べる場合は串に刺さっているほうが食べやすい。その辺りの配慮が今も形となって残されているのかもしれない。

自家製のつみれは柔らかく、イワシの味が染み出して美味しい。丸石蒲鉾店の奥さまが誇らしげに語っていただけあり格別の味わいだ。たこボールは緑や赤色の見た目が華やかだ。

すじも自家製なだけあり、新鮮でとても美味しい。割と細かめの練り具合だが、きちんと魚のすじの食感が残されている。おでん汁と合わさると口の中で柔らかく崩れ、魚のうまみが広がる。

練り物たちは比較的弾力がある食感で、しっかりとした印象だ。揚げた色はこんがりきつね色で美しい。やさい揚はニンジンの歯ごたえがよく、弾力ある練り物によくマッチしている。
しょうが天やたこボール、ごぼう巻など、値段もリーズナブルなこともあり様々な具材が楽しめるので、丸石蒲鉾店でおでん種を買えば家族みんなが満足できるに違いない。

地図を見ると丸石蒲鉾店は少しアクセスしづらい場所のように感じるが、町屋の駅から歩いて10分もかからない。フライ(にくまん)をはじめとした数々の素晴らしいおでん種が揃っているし、お店のご夫婦もとても雰囲気がよく、下町の名店にふさわしい条件が揃っている。

丸石蒲鉾店の基本情報

丸石蒲鉾店
〒116-0002 東京都荒川区荒川2-47-10
03-3891-4727
定休日:日曜日
営業時間:10:00~19:00

投稿者: Tokyo Odendane

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