柳屋蒲鉾店のおでん種

柳屋蒲鉾店は、目黒区目黒本町の平和通り商店街にあるおでん種やさんだ。はんぺんが全国蒲鉾品評会で農林水産大臣賞、水産庁長官賞、栄誉大賞を受賞しているだけでなく、他のおでん種も栄誉賞を受賞している。お店には多くのお客さんが訪れ、活気に溢れている。

復興の思いが込められた平和通り商店街

柳屋蒲鉾店の最寄駅、東急目黒線武蔵小山駅は言わずと知れた巨大商店街の武蔵小山商店街PALMがある。その反対側、都道420号(鮫洲大山線)を学芸大学駅方面に7分程度歩くと平和通り商店街がある。

東京都目黒区目黒本町:平和通り商店街

平和通り商店街の歴史は古く、目黒不動尊から円融寺(かつての法華寺)、碑文谷八幡宮を結ぶ往還道だったため、昔から賑わっていたそうだ。かつては富士館という映画館が通りの中央にあったことから「富士館通り」という名称だったという。戦争が始まり、昭和20年(1945年)の空襲によって辺り一帯は焼け野原となってしまったが、戦後にバラックの商店が集まり始め、数年後には戦前のような活気が戻った。「平和通り」の名称は、復興を成し遂げた商店主たちの平和への願いが込められている。

東京都目黒区目黒本町 平和通り商店街:月光泉

商店街の端には月光泉という銭湯があるのだが、平和通り商店街の周辺がかつて「月光町」という町名だったことに由来する。外観がとてもモダンだが、「月光泉」という名前も美しい。ここのお風呂につかったら、きっと「ムーンライトセレナーデ」をくちずさんでしまうだろう。

三代目が活躍する柳屋蒲鉾店

柳屋蒲鉾店は月光泉の斜向かいにある。常連客がひっきりなしに訪れていて、店の前はちょっとした人だかりができていた。
柳屋蒲鉾店の初代はご夫婦で小田原の老舗蒲鉾店で働いたあとに独立し、幡ヶ谷で蒲鉾店を始めた。その後、昭和26年(1951年)頃に平和通り商店街にお店を開店したそうだ。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店

現在は三代目が活躍しており、全国蒲鉾品評会で農林水産大臣賞を受賞したはんぺんも三代目が17年ほど前から製造を復活させたという。
オリジナルのおでん種のみつばもんご揚げ2種が栄誉大賞を受賞しただけでなく、海鮮揚げ、いわし団子、五目揚げも栄誉大賞を受賞している。

冷蔵ショーケースには数多くのおでん種が陳列されている。
練り物系は24種類以上あった。日によって特売品のおでん種を変えているので、まとめて買うととてもお得だ。この日は栄誉大賞を受賞したみつばもんご揚げはなかったが、五目揚げはあった。また、ニンジン、玉ねぎ、春菊、しいたけの入ったお好み揚などオリジナルの魅力的なおでん種が数多く揃っていた。

ショーケースの右側は、練り物以外のおでん種が並んでいる。この日は15種類ほどあった。
ちくわぶもきちんとラインナップされている。ケース内は見本が置いてあったが、生ちくわぶを販売している。白滝やこんにゃくは大田区新蒲田の樋川商店のものだった。ちくわは丸石沼田商店、鳴戸巻きは焼津のカクヤマのもの。栄誉大賞を受賞したいわし団子だけでなく、つみれ、魚のすじも自家製の手作りだ。

農林水産大臣賞を受賞したはんぺんも売っている。非常にリーズナブルな値段だ。
おでん汁は、チヨダ正田醤油(綾瀬)S&Bの王道3つを取り揃える周到さ。何から何まで完璧である。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店

お店の奥を覗くと木製の屋号がたくさん並んでいた。庚申塚の増田屋蒲鉾店や大谷口北町の蒲吉商店と同じように、親交のある魚河岸や蒲鉾店の屋号なのだろう。大半は閉業している店が多いと思うので、おでん種やさんの歴史を知るうえでは非常に価値の高いものだ。

商店街の中心的存在「二葉フードセンター」

さて、少しだけ平和通り商店街の話に戻りたいと思う。
訪れる前は、こちらの商店街は駅から少し離れているため活気がないのではないかと思っていた。しかし、まったくその予想は外れていた。そう、平和通り商店街は非常に活気のある商店街なのだ。若い人からお年寄り、カップルや家族連れまで、あらゆる人たちで賑わっているのだ。商店街の全長は短いし、古い商店ばかり立ち並んでいるのだが、お客さんも商店もとてもイキイキとしている。

東京都目黒区目黒本町 平和通り商店街:二葉フードセンター

買い物を終えて商店街を観察していたのだが、どうやらこの二葉フードセンターが平和通り商店街に活気を与える一因になっているようだった。
二葉フードセンターはビルの1階に肉屋や惣菜屋、魚屋や花屋などが入っているのだが、一番奥の二葉青果がとりわけ広く、商品が豊富なうえに値段が非常にリーズナブル。遅くに行くと目玉商品は売り切れてしまうらしく、夕方前でも買い物客で賑わっていた。

東京都目黒区目黒本町 平和通り商店街:二葉フードセンター

このフードセンターだけでもある程度のものは手に入るのだが、商店街にはパン屋や豆腐屋、そしてもちろんおでん種やさんなどバラエティ豊かなお店が揃っている。スーパーのようにあらゆる商品が短い距離の商店街に集まっているのでとても便利なのだ。
これでもかつての賑わいには程遠いらしいのだが、ここまで古い商店が揃っていながら賑わいのある商店街は珍しい。

プリプリとした食感がたまらない柳屋蒲鉾店のおでん種

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

柳屋蒲鉾店で購入したおでん種は写真の通り。時計回りに12時から、さつま揚、玉子巻、五目揚、きのこ揚、肉ボール、しょうが揚、すじ、おとうふ揚げ(平和通り商店街のお豆腐屋りせんで購入したもの)、はんぺん。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

こちらは柳屋蒲鉾店の包装袋なのだが、昔ながらの印刷が入っていてとても風情がある。魚や波のイラストがなんとも可愛らしい。最近はこういった袋を見かけなくなった。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん

大根やちくわぶを下茹でしたあとに、油抜きした練り物を投入、最後にはんぺんを入れておでんが完成。さっそく食べてみる。
柳屋蒲鉾店のおでん種の最大の特徴は魚のすり身の食感だ。プリプリとしていて魚のうまみがよく引き出されている。スケソウダラやマダラ、太刀魚やカマスなど、季節によって流通する魚を組み合わせて作っているそうだ。しょうが揚や、ゴマをまぶしただけのさつま揚など、シンプルなおでん種ですり身の美味しさが際立つ。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

そして、農林水産大臣賞を受賞したはんぺんを食べてみる。ふわふわでクリーミー、それでいてきちんと歯ごたえというか、弾力ある食感が楽しめる。原料となるヨシキリザメとアオザメに山芋や卵白を加えながら石臼で擦り上げて空気を含ませるそうだ。また、茹でる際は細心の注意を払いながら成形とお湯の温度調節を同時に行なうとのこと。神茂(かんも)のものとは異なり、柳屋蒲鉾店のはんぺんは卸売りを行なっていないので、食べたい場合は平和通り商店街まで足を運ぶか柳屋蒲鉾店のウェブサイトで購入するしかない。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

椎茸ときくらげが入っているきのこ揚は、きくらげと椎茸の食感が混ざり合い、香りもふわっと広がって非常に美味しい。柳屋蒲鉾店のおでん種の中で一番おすすめかもしれない。「きのこ揚、お前がナンバーワンだ!」と言いたいくらい。今まで食べたおでん種のトップ3に入るかもしれない。
すじも柔らかすぎず荒すぎずで、程よい弾力があってとても美味しかった。非常に丁寧に作られていると思う。おでん汁もよく染み込む。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

栄誉大賞を受賞した五目揚げはピリ辛で身体がぽかぽかと温まる。少し面白い食感がしたのだが、中身を調べるとウインナーが入っていた。この他、ニラ、玉ねぎ、イカ、唐辛子が入っている贅沢な逸品。
ちくわぶは生なだけあって、軽い下茹ででも十分柔らかくなっている。モチモチ感がたまらない。切手をふた回りほど大きくしたほどのしょうが揚は食べやすく、何より可愛らしい。

東京都目黒区目黒本町:柳屋蒲鉾店のおでん種

そして、久しぶりに見つけた玉子巻。「バクダン」という別名もあるこのおでん種、鶏の玉子が丸ごと入っている。断面の白と黄色のコントラストが可愛らしいのだが、この見た目に騙されてはいけない。ひとつでも十分な食べ応えなので、半分にして誰かと分け合うとちょうどよい。

美味しいおでん種を売っている専門店があって、八百屋や肉屋さんなど各々の商店にも活気がある。子どもや若者、お年寄りが行き交い、地域のコミュニティが活性化する原動力となっている。かつて東京にあった商店街の風景を今も残す柳屋蒲鉾店と平和通り商店街。これから先の何十年、何世代に渡って残り続けてほしいと切に願う。遠方の方は平和通り商店街に訪れる機会はなかなかないかもしれないが、柳屋蒲鉾店はウェブサイトでおでん種の通販をしているので、おでんに真摯に向き合う三代目が作るおでん種の味をぜひ堪能していただきたい。

柳屋蒲鉾店の基本情報

柳屋蒲鉾店
〒152-0002 東京都目黒区目黒本町5-33-25
03-3712-5006
定休日:日曜、祝日
営業時間:10:00~19:00
柳屋蒲鉾店のウェブサイト

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