増田屋かまぼこ店(綾瀬)のおでん種

東京都足立区綾瀬:増田屋かまぼこ店のおでん種

増田屋かまぼこ店は東京都足立区綾瀬五丁目にあるおでん種やさんだ。インターネットにはほとんど情報が載っていないが、地元で40年以上愛される隠れた名店だ。

昭和40年から続く綾瀬五丁目商店街

JR常磐線と東京メトロ千代田線が走る足立区の綾瀬駅。この駅の東出口から出て北側に向かい、東京武道館を越えると綾瀬五丁目商店街に辿り着く。昭和40年(1965年)に商店会が結成されてから50年以上続くこの商店街は、住宅の間をつなぐ縦横の道に商店が点在する。

かつては自転車を押して歩かなければならないほどの人出で賑わっていたそうだ。綾瀬駅前にイトーヨーカドーができるなど、近隣を取り巻く環境が変化するにつれて客足が少なくなってしまったが、現在でも肉屋や魚屋、酒屋などが元気に営業を続けている。

優しい店主、明るいおかみさんが経営する増田屋かまぼこ店

増田屋かまぼこ店は東京武道館のすぐ近く、綾瀬五丁目商店街の西南辺りにお店を構えている。

店主のお子さんが生まれた頃、昭和48年(1973年)に開業してからご夫婦ふたりで40年以上営業を続けている。店主は職人気質でありながら柔和な性格の持ち主だ。おかみさんは非常に明るく気さくな方で、彼女から先に「すごいカメラ持っているのねえ」と話しかけていただいた。

お店に入る前から気になったのは、出来たての調理済みおでんである。訪れた日は雨が降り少々薄暗かったので、だし汁に浸かったおでんが何とも美味しそうだった。はんぺんやがんも、串物からフランク(ウィンナー)まで綺麗に並んでいて美しい。すぐ近くにある城東職業能力開発センターに通う人たちが授業の終わりによく買っていくそうで、中には1日に何回も足を運ぶ猛者もいるのだとか。

できたておでんに関しては「増田屋かまぼこ店(綾瀬)のできたておでん」という記事で紹介しているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

お店の中のケースにはたくさんの練り物のおでん種が並んでいる。定番物もあるが、きんぴら、中華ボール、よせ揚といったオリジナルのものもある。5人くらいの客しか入れない広さの店内に、20種類以上の練り物が並んでいるのは壮観である。

奥は練り物以外のおでん種が並んでいた。豆腐系のおでん種は千葉県の松戸南部市場までおかみさんが仕入れに行っているそうだ。つみれは自家製で、はんぺんや魚のすじはカレーボールでも有名な銚子の嘉平屋のもの。「どこから仕入れているのか」というマニアックな質問に対しても、おかみさんが丁寧に教えてくれた。

おでん汁は定番の2巨頭、チヨダ正田醤油(綾瀬)を販売していた。ある情報によると正田醤油のおでん汁は綾瀬食品工業という会社が販売していたらしいが、会社自体がなくなってしまった。店主にその話をすると「以前は綾瀬の近くの荒川沿いにあったところから仕入れていた」と教えてくれたのだが、綾瀬食品工業の住所は「東京都葛飾区小菅2-2-5」だったので間違いない。

おでん汁の後ろにあるのは生のちくわぶだ。生とパックのものを食べ比べてみると分かるのだが、断然生の方が美味しい。「遠くから来るお客さんが、ちくわぶは生じゃないと美味しくないと言ってわざわざやってくる」とおかみさんが教えてくれたのだが、まさにその通りだ。

以前から「増田屋」というおでん種やさんが多いのを疑問に思っていたので、思い切って店主に質問してみた。店主いわく、増田屋は立石(東京都葛飾区東立石4-50-3)にある増田屋が本家で、そこから暖簾分けしたお店が30軒以上あったとのこと。以前は総会も行われていたらしい。店主はその中で一番最後のお弟子さんだそうだ。なお、増田屋は埼玉県越谷の増林(ましばやし)をルーツとしていて、「増」の文字はそこから取られたという。西巣鴨庚申塚の増田屋蒲鉾店とは別系だそうだが、そちらの店主とも交流があるそうだ。

その後調査を続け、記事「増田屋の系譜」にまとめたのでご覧いただきたい。

商店街の振興組合のお仕事で店主がお店を出たり入ったりしつつも、おかみさんとは1時間ほどお喋りをしてしまった。メダカの前に置いてある椅子はお年を召した客のために置いているだとか、かつて東綾瀬公園で花見をする客にプロパンガスを配達したことなど、興味深いお話をたくさん聞かせてもらった。また、台に幼い頃のお子さんを置いて客の応対をしていたらお子さんが落っこちてしまったお話や、奥でお子さんが泣いていると婦人客が部屋に上がってあやしてくれたお話など、子育てや仕事で忙しいながらも賑やかで人情味のあったかつての商店街を懐かしむ気持ちが伝わってきた。

お店の外で飼っている亀に話題が移ると「亀のいるおでん屋」だと紹介しているインターネットの記事を見て来たと言うお客さんがいて、とてもびっくりしたと話してくれた。おそらく「339北綾瀬」というサイトの記事のことだろう。実際、私たちもこの記事を情報源として増田屋かまぼこ店にやってきた。ご夫婦ともにパソコンやスマホを使わないそうなので、インターネットにはほとんど情報を載せていないそうだ。

弾力があり、しっかりとした味のおでん種

ご夫婦とすっかり話し込んでしまったが、おでん種は忘れずに購入した。今回は14種類と少々多め。

時計回りに12時から、とうがらし入、よせ揚、ねぎ天、中華ボール、カレーボール、すじ、しゅうまい巻、えび天、やさい揚、つみれ(中央)、ボール(中央右)。この他にちくわぶとはんぺん、白滝も購入。

練り物の印象としては、ぷにぷにと弾力があり、味がしっかり付いていてうまみがある。揚げ色はこんがりと狐色をしていて美しい。

やさい揚はニラ、もやし、人参。それぞれ異なる食感と風味がうまく合わさってとても美味しい。とうがらし入はやさい揚と同じ具材が入っているが、一味の辛味が効いている。色を見ても分かると思うが、けっこう辛い。しかし、辛党にとってはちょっぴり唐辛子が入っているより、これくらいのほうが満足する。

串に刺さった中華ボールは玉ねぎと黒胡椒が入っている。唐辛子とは違う黒胡椒の辛味と風味がとても印象的だ。よせ揚はごぼうと人参、青海苔が入っている。おでん種としては新鮮な青海苔の磯の香りが味わい深い。つみれは小ぶりながら、イワシの風味がしっかりとしていて美味しい。

嘉平屋のはんぺんは中までみっちりと身が詰まっていて、神茂柳屋蒲鉾店のものに比べてほんの少し弾力がある。ボールやカレーボールはオーソドックスながら、練り物のうまみがきちんと味わえて美味しい。

すじは千葉県銚子の嘉平屋から仕入れたものだ。おでん汁でホロホロにしても美味しいが、少しだけお湯を通してそのまま食べても美味しいだろう。ねぎ天は玉ねぎの甘味が口中に広がって安心感がある。子どもも美味しく食べられるだろう。

しゅうまい巻は餃子巻きのように縦長なのが珍しい。断面を見ると、きちんと焼売が入っている。当然味も焼売そのものだ。たしかに通常の形よりも縦長のほうが食べやすいかもしれない。

えび天は桜エビがたくさん入っている。量をケチると風味も味も全く感じないのだが、増田屋かまぼこ店のえび天は桜エビの味がしっかりする。ちくわぶは生なだけありとっても柔らかい。ちくわぶは下茹でするのが基本だが、これだけ柔らかければ下茹でさえもいらないのではないかと思えてくる。

おでん種やさんを巡っていると気さくな店主やご夫婦が本当に多いと感じるが、増田屋かまぼこ店のご夫婦はその中でもとりわけ親切で愛嬌があった。おかみさんは「お客さんがいつまでも続けてほしいと言うから、辞めどきが分からなくって」と言って笑っていたが、お身体に気を付けていただきつつ、無理のない範囲で営業を続けてほしいと強く思った。また何度でも通いたくなる名店である。

増田屋かまぼこ店(綾瀬)の基本情報

増田屋かまぼこ店
〒120-0005 東京都足立区綾瀬5-12−9
定休日:日曜
営業時間:9:00~19:00

投稿者: Tokyo Odendane

「東京おでんだね」は、東京のおでん種やさん・練り物やさんの情報を掲載するサイトを運営しています。