関西の夏の練り物「あんぺい」

今回は関西の練り物「あんぺい」を紹介しよう。はんぺんのように見えるが、製造方法や食感が異なる。

あんぺい

全国にはさまざまおでん種があるが、練り物も膨大な種類がある。製法や原料魚が異なり、食べてみるとそれぞれに魅力があることに気付かされる。大阪などの関西地方にも東京では馴染みのない練り物がいくつかあるが、今回はその中からあんぺいを紹介したいと思う。

関西の夏の練り物「あんぺい」

あんぺいは白身魚をすり身にして蒸しあげた練り物だ。ふんわりとした食感と白い見た目は東京のはんぺん(浮はんぺん)に非常によく似ている。

あんぺい

しかし、はんぺんはすり身に山芋などを加え、沸騰した湯に浮かべて作られる。また、伝統的なはんぺんはアオザメやヨシキリザメなどのサメ肉が原料となる。

食感も異なり、あんぺいははんぺんよりもねっとりとした舌触りとなる。おでんやお吸い物の種にすることもあるが、冷やしてからわさび醤油で食べるのが最もうまみを感じることができる。

大寅蒲鉾の「涼味セット」を味わう

大阪を代表する老舗、大寅蒲鉾ではあんぺいを夏季限定で販売している。取り寄せてみたので少し紹介しよう。

大寅蒲鉾の「涼味セット」

あんぺいは店頭のみの販売となっていたが、2022年からオンラインショップで取り扱いをはじめた。2023年は「涼味セット」として、あんぺいのほかに魚そうめん、新蒸の2種類の練り製品を揃えている。残念ながら2023年は予約締切となっているが、人気が高いのでおそらく来年も販売することだろう。

大寅蒲鉾のあんぺい

大寅のあんぺいは鱧(はも)を100%使用している。生の鱧と活け鱧の2種類を贅沢に使い、その一番身だけがあんぺいとなる。鱧は夏が旬となるため、大寅では夏季限定にこだわっている。

味わってみれば、大寅のこだわりが容易に理解できるだろう。ふわふわできめ細かくしっとりとした食感で、鱧のうまみが口の中に広がっていく。上品ながら奥深い味わいが素晴らしく、芸術品のような仕上がりだ。

本わさび

あんぺいの味を引き立てるべく、わさびも本わさびをチョイスするといい。醤油につけても美味しいが、なくてもじゅうぶんに味わい深い。筆者は食通ではないが、この美味しさが本物であることは非常によくわかる。

喉ごしのよさが魅力の魚そうめん

魚そうめんは喉ごしのよさを追求した夏らしい逸品だ。付属のつゆにつけていただく。

大寅蒲鉾の魚そうめん

蒲鉾のアシ(弾力)を生かした喉ごしは心地よく控えめな味付けだが、じわじわと魚のうまみが感じられる。温泉卵を添えたり山かけにしても美味しいのだそうだが、あまり手を加えずシンプルに味わってもいいだろう。

噛むほどうまみがにじみ出る新蒸(しんじょう)

新蒸は魚のすり身を蒸した練り物で、心地よい弾力が印象的だ。噛めば噛むほどうまみがにじみ出る。

大寅蒲鉾の新蒸(しんじょう)

今回紹介した3種類に共通していえるのだが、うまみがありながらも非常に上品で、伝統の職人技を感じることができる。ビールや白ワインなどと一緒に食べたら最高だろう。

大阪のみならず日本を代表する蒲鉾店、大寅蒲鉾

最後に大寅蒲鉾について簡単に触れておこう。東京ではダイトラ株式会社が大寅蒲鉾の商品を取り扱っているので、目にした方も多いことだろう。

ダイトラの「関東だき」

パックのおでん「関東だき」(ダイトラ監修のもと宮城県塩竈市の高浜が製造)などはお馴染みだが、京都産九条ねぎをふんだんに練り込んだ「京の九条ねぎ天」なども販売している。大阪ならではの白い揚げ色が特徴の「白上天」やお好み焼風の「ねぎ焼き」なども東京で手に入る。

小谷権六著「蒲鉾五十年 自叙伝」(全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会・全国煉製品協会)
小谷権六著「蒲鉾五十年 自叙伝」(全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会・全国煉製品協会)

大寅蒲鉾は明治9年(1876年)に創業し、明治25年に大阪戎橋筋に新店舗を作ると同時に屋号を「大寅」と定めた。現在の商品券の原型となる切手販売を導入するなど画期的なアイデアを次々と取り入れた。

大正期に入ってから東シナ海の以西底曳漁業に着目し、そこで獲れるグチ(イシモチ)を用いた蒲鉾づくりに成功した。それらの魚は「大寅グチ」などと呼ばれ、大寅の基礎を築き上げたという。二代目社長の小谷権六氏は蒲鉾業界に多大な功績をもたらした人物であり、蒲鉾業界初となる全国団体「全国蒲鉾組合連合会(現在の日本かまぼこ協会)」の設立に寄与し、初代理事長を務めた。農林大臣賞など数多くの賞に輝き、大阪だけでなく日本を代表する蒲鉾店(企業)として広く知られている。

あんぺい

今回は大阪の練り物であるあんぺいを紹介した。東京ではなかなか目にすることはないが、興味がある方はぜひネット通販などを利用して味わってみていただきたい。

大寅蒲鉾の基本情報

大寅蒲鉾(難波戎橋筋本店)
〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波3-2-29
06-6641-3451
定休日:正月三が日、月曜
営業時間:10:00~20:00
大寅蒲鉾のWebサイト
大寅蒲鉾の通販サイト

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