紀文食品のおでん種

日本を代表する水産練り製品の食品メーカーの紀文食品は、令和3年(2021年)4月13日に東証一部上場を果たした。今回はそれを記念して、紀文 築地総本店のおでん種を紹介する。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店

紀文食品は日本人なら誰でも知っている、水産練り製品の食品メーカーだ。創業から80年以上、しかも早くから百貨店に進出し、創意工夫を凝らしておでんを家庭で楽しむ提案を行ってきた。東京おでんだねが紹介する商店街のおでん種専門店よりも、紀文のおでん種が故郷の味であり、家庭の味と感じる人のほうが圧倒的に多いことだろう。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店

紀文は昭和13年(1938年)に創業し、水産加工業を主軸として成長を遂げた。現在も成長の礎となった築地場外市場で築地総本店を営業し、水産練り製品の伝統と素晴らしさを伝えている。今回はそちらで購入したおでん種を紹介したいと思う。

紀文の歴史と功績

紀文は水産加工業だけでなく、日本の食卓に多くのイノベーションを起こし、多大な影響を及ぼしている。東京おでんだねの1記事で紀文の歴史と功績を紹介するにはスペースがまったく足りない。筆者の手元にある紀文50周年(1988年)に刊行された「革新と挑戦と夢」と紀文の企業サイトを頼りに、その一端を紹介しよう。

紀文食品:革新と挑戦と夢

前述のとおり、紀文は昭和13年(1938年)に創業した。当初は八丁堀で山形屋米店という米屋を営んでいたが、2年後に築地場外に紀国屋果物店を開き、さらに翌年に海産物卸売業を開始し、紀文に改名する。ちなみに社名の由来は紀国屋果物店の「紀」と、創業者である保芦邦人氏の奥さまである文子さんの「文」を組み合わせたものだそうだ。その後、付き合いのあった山久蒲鉾に出資したが、山久側の不正が発覚して昭和22年(1947年)に水産練り製品の生産を引き継ぐことになる。

昭和25年(1950年)には銀座松坂屋に出店し、黄色に統一された自転車などの配達車両に描かれた広告や、電柱広告を大々的に展開して認知度を拡大していった。昭和30年(1955年)になると揚げ蒲鉾のパッケージ化にも着手。4年後には自動梱包機を導入する。昭和38年(1963年)には横浜工場を完成させ、製造のオートメーション化にも成功した。

昭和35年(1960年)にはスケソウダラの冷凍すり身を取り入れ、さまざまな困難を乗り越えて量産化に成功する。ロジスティクスでは全国規模でのチルド物流網を構築し、練り製品の安定的な供給を実現した。

紀文食品:おでんや 味がしみ込んだ極厚大根

おでん種に関しては、レトルト化を実現したり、おでん汁の素の製品化に着手したり、主婦向けのおでん教室を開催するなどして家庭への普及に尽力した。紀文は現在のおでんの姿を創りあげた功労者の1社といっても過言ではない。なお、レトルト化は昭和43年(1968年)に大塚食品のボンカレーが日本で本格的に市場導入したといわれているが、紀文はその4年前からレトルトおでんを市販している。

紀文食品:おでん汁の素

紀文の成長の背景には、製品に関する研究開発に加えて、家庭のニーズを把握するためのマーケティング、リサーチ活動がある。平成6年(1994年)から行っている調査の「紀文・鍋白書」は、おでんのニーズを詳細に把握できる資料として、業界全体から評価され、活用されている。

水産練り製品や蒲鉾の復権に期待

紀文は健康に注力した製品を続々と展開している。魚由来の良質なタンパク質を中心とした栄養を豊富に含んだ練り製品だけでなく、おからパウダーとこんにゃく粉で作るローカロリーの麺の開発にも注力し、海外でも注目を集めている。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店

今回の上場は縮小する国内市場への依存から脱却するため、上場で得た資金で生産設備を増強して海外販売を拡大する狙いがある。そのキーワードとなるのが「健康志向」だ。紀文には海外へむけたさらなる成長を期待しつつも、東京おでんだねでは伝統ある水産練り製品、とりわけ蒲鉾の復権を期待している。

紀文は水産練り製品を主軸にして長きにわたり操業を続け、築地との関係も深い企業だ。昭和34年(1959年)には皇太子殿下(現在の明仁上皇)ご成婚の料理材料調製の下命を得て宮内庁御用にもなったが、日本だけでなく東京の蒲鉾を代表する企業でもある。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店

企業ページではあまり紹介していないが、業界随一の技術を持つ職人を多く抱えている。筆者は豊洲市場の親子かまぼこ教室で紀文の秋元浩志さんの技を目の当たりにした。秋元さんは伝統的な手作りの蒲鉾製作において卓越した技術を有し、東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞の表彰者でもある。紀文の生産、衛生、流通体制や顧客ニーズを把握するマーケティングや研究活動は素晴らしいものであるが、ものづくりの結晶であり、象徴でもある職人と伝統文化に触れることで紀文の大切にしているものが直感的に伝わってくる。これからもぜひ、職人たちの技を通して東京の伝統を守り続けていただき、宣伝してもらいたいものだ。

紀文築地総本店のおでん種

さて、いろいろと説明してきたが、やはり実際に商品を口にしてみたほうが手っ取り早い。今回は紀文の築地総本店でおでん種を購入し、調理して味わってみた。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種

時計回りに12時から、手どりはんぺん厚判、ごぼう天、えだまめ天、手造り鰯つみれ、魚河岸あげ、美味揚、しょうが天、おぼろ揚。このほかにちくわぶも購入。

築地総本店では製品をその場で揚げ、手作りの素晴らしさを伝えている。魚のうまみがダイレクトに伝わるので、ぜひ築地に訪れた際は立ち寄ってほしい。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 手どりはんぺん厚判

手どりはんぺん厚判は、白身魚、卵白、やまいも、塩、調味料などを使用しており、ふわふわの食感を持ちながらもほどよい弾力がある。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 ごぼう天

ごぼう天は笹掻きのごぼうがたっぷり入っている。かなりの大きさなので半分くらいに切って使うといいだろう。口に含むとごぼうの香りが広がる。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 えだまめ天

えだまめ天も枝豆が数えられないくらい入っており、瑞々しいぷりぷりとした枝豆の味わいを楽しむことができる。肉厚なので噛んだときの満足感も相当なものだ。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 手造り鰯つみれ

手造り鰯つみれはイワシの落し身にアジと味噌を使い、うまみと味の深みを出しているそうだ。イワシの独特な味わいがはっきりとわかる。ぱさぱさしすぎないのはアジを加えているだろうか、非常にまろやかだ。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 魚河岸あげ

魚河岸あげは昭和60年(1985年)に紀文が生み出した看板商品。白身魚のすりみに豆腐を加え、ふわふわとクリーミーな食感を実現している。魚河岸あげのブランドサイトによると「築地の豆腐屋が、豆腐にすりみを加えて新しいタイプのがんもどきを作ったというストーリー設定を採用し、”築地”が”魚河岸”とも呼ばれることから、魚河岸あげと命名」したとのこと。そのまま食べると豆腐の風味が強いが、おでんに入れると汁がほどよく混ざり、魚のうまみが強まってくる。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 おぼろ揚

築地総本店の熟練店員さんが一押しのおぼろ揚は、魚河岸あげと同じようにタラのすり身にすくい豆腐をあわせて練り込み、ひじき、椎茸、タケノコ、人参、小松菜を加えた贅沢なおでん種だ。豊富な野菜の風味が見事なハーモニーを奏でている。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 美味揚

美味揚はいわゆる具材が入っていないさつま揚げだが、ハモのすり身がふんだんに入っている。紀文の魚のすり身は弾力よりもふわっとした食感が特徴で、食べやすくうまみも感じやすい。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 しょうが天

しょうが天はほかの揚げ蒲鉾よりも浅い色に仕上げられており、紅生姜の美しさが際立っている。生姜のほどよい辛みが優しい味わいのすり身とよく合い、食欲をかき立てる。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種 ちくわぶ

ちくわぶはパックでの販売なので、電子レンジなどで下茹でしてからおでん鍋に投入しよう。弾力を残しつつ柔らかな食感で、安定した美味しさだ。

東京都中央区築地:紀文 築地総本店のおでん種

今回の上場は日本の水産練り製品の素晴らしさが世界に広まる喜ばしいニュースではあるが、国内市場の窮状を痛感する話でもある。より豊かで多様性のある食文化を考えるうえで、私たちも他人事のように受け止めてはならないのではないかと思っている。これから将来に残していきたい技術や文化も含めて、食を理解し、味わっていく必要があるのではないかと思う。

紀文 築地総本店の基本情報

紀文 築地総本店
〒104-0045 東京都中央区築地4-13-18
0120-867-654
定休日:日曜、祝日、休市
営業時間:7:30~14:30
紀文 築地総本店のWebサイト

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