京都と伊勢、名古屋のおでん種めぐり

10月に念願のお伊勢参りに行ってきた。そのついでに、京都や伊勢、名古屋でおでん種や蒲鉾を購入したり、おでん屋さんに立ち寄ったりした。今回は徒然なるままに、それらを紹介したいと思う。

京都府京都市下京区:京都駅前

東京おでんだねの筆者は今年11月、長年勤めてきた会社から別の会社に転職することになった。人生の節目だということで、休暇中に念願だったお伊勢参りに行くことにした。さらに刃物の老舗である有次で包丁を新調したかったので、京都に寄ることに決めた。

伏見稲荷や伊勢神宮をまわって有意義な時間を過ごしたが、食事時になるとついつい悪い癖が出る。「このあたりにおでん屋さんやおでんだね専門店はあるかな」と思う間もなく、足はそちらへと向いているのだった。

個性的なおでん種が揃う錦市場の丸常蒲鉾店

久々の京都は大好きな伏見稲荷を参拝し、午後は錦市場に向かって目的の有次へと急いだ。錦市場といえば、もっと生活感あふれるお店ばかりだったと記憶しているが、売っているのはおみやげや食べ歩きの食材ばかりで、歩く人は外国人観光客がほとんどだった。

京都府京都市中京区:錦市場

東京築地の場外市場や上野のアメ横でも同じような現象が起きているが、時代の変化というのは凄まじいものなのだなと実感した。有次の店内も外国人観光客であふれていて、一所懸命主張しないと店員さんに気がついてもらえない状況だった。

京都府京都市中京区 錦市場:有次

有次は永禄3年(1560年)創業の老舗で、元は刀鍛冶だった。明治時代から包丁を扱うようになり、京都の「瓢亭」などで腕をふるう一流料理人たちに愛されている。錦市場にお店を開いたのは昭和56年(1986年)からで、現在では外国人を含む多くの人々が来店している。

京都府京都市中京区 錦市場:有次

なんとか店員さんを捕まえて、無事薄刃包丁をゲット。本当は上製の鎌形薄刃が欲しかったが、二年待ちということで江戸型のものにした。こんなによい包丁を扱えるほどの実力はないのだが、そこはまあ蒐集癖ということでご容赦を(実は築地の有次の薄刃も持っている…)。

外国人観光客は購入した包丁に名入れをしようと一所懸命だったが、筆者は名前を入れない主義だ。包丁を選んだらすぐに会計を済ませてしまう。それでも、仕上げ研ぎで30分ほどかかるので、商品を受け取るまで錦市場をぶらぶらすることにした。

京都府京都市中京区:錦市場

錦市場は観光客であふれていて、歩くのもやっとというほどだった。前述のとおりみやげものが多くなったが、以前と同じようにお惣菜など生活感あふれるものも売られている。ちなみに筆者の母は、錦市場に行くと必ず棒ダラを購入するそうだ。

京都府京都市中京区:錦市場

ウナギは関西風で、蒸し焼きではなく焼きのみのものが売られていたり、「小袖」と呼ばれる板付き蒲鉾の細いものがあったりと、東京ではあまり見かけないものが並ぶ。観察するとやっぱり面白い。

京都府京都市中京区 錦市場:丸常蒲鉾店

有次から2分ほど進んだ先には丸常蒲鉾店というおでん種やさんがあった。東京各地にあるような庶民的ながら正統派の蒲鉾店だ。

京都府京都市中京区 錦市場:丸常蒲鉾店

ネットで調べると「創業50年余り」とのことで、おそらく東京でも多くのおでん種やさんが開業した1960年代、東京オリンピックあたりの開業だろう。Twitterなどでは「東京や福岡以外ではあまり見かけない」という声も聞かれる餃子巻も売っているが、関西らしく「〜巻」ではなく「〜天(ぎょうざ天)」という名称だった。

京都府京都市中京区 錦市場:丸常蒲鉾店

イカ天やゴボー天などおでん向けの種も多いが、その場で食べることを前提にした変わり種も多く、観光を忘れて取材したい衝動に駆られてしまう。店の奥には石臼の擂潰機(らいかいき)が3台並んでいた。

京都府京都市中京区 錦市場:丸常蒲鉾店

たくさん食べてみたかったが、宿泊先でおでんを調理できないので2点ほど購入した。なかでも麺が入ったモダン揚げはとても美味しかった。その場で食べることを考慮して温めてくれ、ほくほくとした魚のすり身と麺の絡まり具合が秀逸だった。

京都のおでんの老舗、蛸長(たこちょう)

晩御飯に選んだお店は、四条大橋近くにある蛸長(たこちょう)という老舗のおでん屋さんだ。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

創業は明治15年(1882年)、カウンターが12席のこぢんまりとしたお店で、開店10分前に並んでぎりぎり12番目だった。この12席に入れないと、30〜40分ほど待つ羽目になる。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

メニューは炒皮、阿蘭陀、紐育など見慣れない難読なものが並ぶ。しかし、店主に聞けば懇切丁寧に教えてくれるので、思い切って尋ねてみよう。裏種もかなり凝ったものがあるので試してみるといい。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

練りからしのほかに七味唐辛子がかかった九条ネギが薬味に並ぶ。薄めの出汁にとてもよく合い、家庭で真似してもおもしろいかもしれない。大根はシミシミでありながら料亭のような上品な味わい。「料亭のような」というよりは、蛸長は「おでんの料亭」と呼んでも過言ではないほどこだわりが深い。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

飛龍頭もさまざまな具材が滋味深い味を出しつつ、やはり上品な味わい。それでいて、心にじーんとくるやさしいあたたかさが残る。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

鴨捏(かもつくね)は血合いのようなこってりした旨味を漂わせつつ、これまたしつこくならない上品さがある。どの種もそうだが、蛸長は本当に素材の持ち味を研究し尽くしているようだ。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

蛸(たこ)は一度漬け込んであるのか、しっかり味が通っていて、かつ柔らかい。ひとつひとつの種にきちんと包丁が入れられており、ひと口で食べられる。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

京都ならではの湯葉もめちゃくちゃ美味い。薄口の汁でひたひたにした柔らかい口どけと、優しい出汁の味わい。熱燗がどんどん進む。熱燗を温めるちろりは錫のもので、しっかりとした厚みがあって、握るとずっしりと重い。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

関西に来たらぜひ食べたいコロ。蛸長では「炒皮」と呼んでいて、 クジラの皮目と脂だ。少し癖のある濃厚な感じがなんともいえない。関西でも希少となっているそうだが、これだけの大きさはなかなかお目にかかれない代物だろう。

京都府京都市東山区宮川筋:蛸長

蛸長は人気店なので、お店から出たときも列が続いていた。メニューに値段の記載はなく、けっこうお高めなのだが、おでん好きなら一回は訪れたほうがよい名店だ。上品で手のこんだ味が楽しめる。

伊勢と名古屋でおでんと蒲鉾づくし

翌日は京都駅から近鉄に乗って伊勢へひとっ飛び。外宮と内宮を参拝して、いざ、おはらい町通りへ。

伊勢市宇治今在家町:おはらい町通り

おはらい町通りは伊勢の名産品を販売しているお店が立ち並ぶ賑やかな通りだ。もちろん赤福も本店でしっかりと味わった。

三重県伊勢市宇治中之切町:すし久の板わさ

伊勢の名物、てこね寿しを食べるために「すし久」に入ったのだが、待つ間はやっぱりビールと板わさが定番だ。運ばれてきた板わさは焼き色が付いていて、ちくわのような風合い。伊勢の蒲鉾は歴史があり、明治34年(1905年)創業の若松屋などが有名だ。

愛知県名古屋市中村区名駅:名古屋駅

伊勢神宮の参拝とおはらい町通りやおかげ横丁でおみやげの購入を済ませた後、名古屋へ行って新幹線に乗り換える。発車時刻を待つ間、名古屋駅近辺で名物の味噌おでんを求めて少し歩く。

名古屋名物ばかりを集めた居酒屋を見つけて、早速味噌おでんを注文する。関西のおでんとはうってかわって濃厚な八丁味噌の味わいが疲れた身体に染み渡る。おでんというのは本当に懐の深い食べ物だ。それぞれの地域、お店によって味が異なり、その味で育った人たちのアイデンティティの一部になる。隣の席で語らう若者の名古屋弁のイントネーションと合わせて、多様性というのは素晴らしいなと感慨にふける。

三重県伊勢市 まる天、愛知県豊橋市 ヤマサちくわ

名古屋駅では豊橋市のヤマサちくわを購入した。伊勢では磯揚げ まる天の五色揚げをおみやげとして購入した(ちなみにまる天は豊島区巣鴨の地蔵通り商店街にも店舗がある)。それぞれの地方で歴史があり、各店の創意工夫によって個性ある商品に仕上げている。おでん種として調理しても美味しいし、そのまま食べてももちろん美味しい。

東京おでんだねはあくまで東京のおでん種専門店を紹介していくつもりだが、東京以外のおでん種や蒲鉾を知ることで、おでん業界全体の魅力を再認識し、翻って東京のおでん種の魅力にも気づかされるのではないかと思う。皆さんも日本各地に旅行する際には、ぜひその土地のおでん種や蒲鉾を味わってみてみてほしい。

丸常蒲鉾店の基本情報

丸常蒲鉾店
〒604-8055 京都府京都市中京区錦小路通柳馬場東入東魚屋町166
075-221-2037
定休日:年中無休
営業時間:9:00〜18:00

蛸長の基本情報

蛸長
〒605-0801 京都府京都市東山区宮川筋1-237
075-525-0170
定休日:水曜
営業時間:18:00~22:00(売切り次第閉店、冬季17:30開店)

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