美好商店は東京都江東区三好の江戸資料館通りにあるおでん種専門店だ。大正7年に京都で創業し、終戦後に移転して以来、ずっと深川で営業を続けている。下町と老舗の風情がただよう上品なおでん種やさんだ。
東京の下町風情を残す江戸資料館通り
清澄通りから東京都現代美術館まで、東西に延びる江戸資料館通り。街路樹とともにお寺、佃煮屋さんなどが並んでおり、とても風情のある街並みだ。
以前は江東区役所があったので通りの名は「江東区役所通り」、昭和49年(1974年)に区役所が移転してからは「元区役所通り」、昭和61年(1986年)に深川江戸資料館が開館してからは「江戸資料館通り」と名前が変わっている。商店街の組合名も同じように変わり、現在は「深川資料館通り商店街協同組合」となっている。
この江戸資料館通りはみどころが多く、「深川の出世不動」として有名な長専院不動寺がある。
また、深川といえばアサリなどの貝と長ネギをかけた深川めしが有名だ。東京メトロのCMでも登場した門前仲町の富岡八幡宮に店を構える深川宿の本店が深川江戸資料館の向かいで営業している。
清澄方面から東に進んで交差点を越えると街路樹が途切れるが、商店街は続いている。お目当ての美好商店はこの先にある。
創業100年以上のおでん種専門店、美好商店
美好商店の店構えはこぢんまりとしているが、創業は大正7年(1918年)なので100年を歴史を持つおでん種専門店だ。どこか外観も老舗の風格が漂っている。
美好商店は京都の西陣(壬生後に錦)で創業して蒲鉾を作っていたが、終戦時に東京に移転した。昭和23年(1948年)に美好商店として会社法人を設立し、現在は3代目の娘さんご夫婦、つまり4代目に代替わりをしている。
入り口の暖簾には江戸家猫八と、寄席文字で有名な橘右之吉の名を発見。この方は国立劇場のポスターなど、多方面で活躍されている。このあたりも江戸の下町、深川の風情を感じる。
お店の正面には立派な木製の看板が掲げられている。訪れた日は3代目店主がおひとりでお店に立たれていた。とても丁寧な方で、おでん種を頼んだときもひとつひとつ種の説明をしていただいた。
「夏場なので置いているおでん種が少ないよ」とおっしゃっていたが、10種類ほどが並んでいた。美好商店のWebサイトを確認していただければわかると思うが、普段は20種類以上を揃えている。
おでん種が少ない季節だということをわかってか、常連や地元の人々はきちんと予約をしている。棚には予約用の海老巻のしっぽやげそ巻のゲソが確認できた。うーん、食べたい。
練り物以外のおでん種は向かって右のケースに入っているが、夏場なので冷蔵庫に入れているとのことだった。自家製のはんぺんを頼もうと思っていたが売り切れていたので、自家製のすじや手取りつみれのみ購入することにした。
こんにゃくや白滝、ちくわぶは墨田区向島の柳澤商店のもの、焼きちくわは青森の丸石沼田商店、おでん汁はチヨダのおでんの味と正田醤油(綾瀬)の2つを用意していた。3代目店主のイチオシは正田醤油だという。「関西風の薄口で上品な味」とのことで、やはり京都をルーツにしている美好商店らしい嗜好だ。なお、洋からしもチヨダのものだった。
店頭で調理済みのできたておでんも販売しているが、夏場はおやすみ。おでん汁は4代目となる娘さんのオリジナルで、とても上品な味なのだという。串ものや練り物のおでん種以外に、大根、玉子、生揚など定番ものがずらりと揃う。秋になったら是非再訪して味を確かめたい。
今回はオフシーズンだったのですべてのおでん種が揃っていなかったが、美好商店のWebサイトからオーダーできる。おでんのセットだけでなく単品でも販売している。こちらのサイトは情報が充実しているので、通販とともにコラムのページもぜひご覧いただきたい。
3代目店主にお話を伺い、おでん種をひととおり購入してお店を出る。豆腐類を買っていなかったことに気づいて商店街を見渡すと、すぐ近くに「とうふ処 杉原」というお豆腐屋さんを発見した。創業は昭和21年(1946年)なので美好商店が移転したときよりも2年早い。
とうふ処 杉原では、「元祖名代」と書かれたがんもどきと生あげを購入した。豆腐の味がきりっとしながらも甘く、揚げた部分は油のうまみがしっかり感じられて美味しかった。がんもどきは切り昆布と人参が香りと歯ごたえのアクセントになっていた。
じんわりうまみが染み出す美好商店のおでん種
美好商店では14種類のおでん種を購入した。どれも品のある容姿をしている。
時計回りに12時から、野菜揚げ、深川揚げ、ぎょうざ巻、ちーず巻、手取りつみれ、すじ、にくらし揚げ、黄金揚げ、木の葉揚げ、うぃんなー巻(中央左)、いかぼーる(中央右)、しゅうまい巻(中央下)。このほかに柳澤商店の白滝とちくわぶも購入。
いつものように調理を開始。上品な揚げ色のおでん種に彩られ、鍋全体もどことなく気品が漂う雰囲気。食べるのが楽しみだ。
美好商店の練り物は弾力と柔らかさのバランスがちょうどよく、ふわふわ加減もきちんと残している。魚のすり身の味がじんわりと染み出て、噛めば噛むほどうまみが増す感じだ。
まず、地元の名を冠した深川揚げを食べてみる。深川めしと同じように、アサリと長ネギが入っていて、一味唐辛子がアクセントとして効かせてある。おでん種としてだけではなく、何枚か買って深川のおみやげにしてもよいだろう。
野菜揚げはごぼうと長ネギ、人参が入っている。それぞれがしゃきしゃきとした歯ごたえで気持ちよく、まろやかな魚のすり身によく合う。
にくらし揚げの名前の由来は「憎らしいほど美味しい」から、またはニラと椎茸、キクラゲが入っているので語呂合わせなのだとか。ニラの香りが食欲をそそり、椎茸のふわっとした香りが美味しさをさらに引き立てる。
黄金揚げはカレー風味で、玉ねぎと人参、刻んだウインナーが入っている。カレーの風味は強めだが、意外と大人好みの渋い味付けだ。それにしても「黄金」とは素晴らしいネーミング。食べれば黄金の食体験、「ゴールド・エクスペリエンス」を堪能できる。
手取りつみれはホッケの味が強めで、うまみがよくにじみ出ている。臭みはまったくなく、上品な味わい。
美好商店は4代続くほどの老舗だけあり、おでん種のクオリティは相当高い。お中元やお歳暮などの贈答品にもってこいかもしれない。さて、ここからは巻き物のおでん種を中心に紹介していこう。
ちーず巻はトロッとしたプロセスチーズがこのうえなく美味しい。ふんわり口に広がり、魚のすり身にもよくマッチしている。
ぎょうざ巻の魚のすり身は薄く、ふわっと繊細に餃子を包み込んでいる。餃子の餡に入っているニラがとてもよい香りだ。
しゅうまい巻の挽肉は、口に含むとすぐに溶けてしまうほどのまろやかさ。しかし、その味はとても濃厚だ。グリーンピースが乗っているのもポイントが高い。
うぃんなー巻は非常に安定感のある味。赤ウインナーの素朴な見た目と味は、いつ食べても懐かしさが漂う。
最後はすじだ。柔らかいが粘りのある食感で、噛めば噛むほど魚のうまみがにじみ出る。軟骨のコリコリとした感触も心地よい。
夏はおでんでいうとオフシーズンにあたるので、商品が少ないのはいたしかたのないことだ。美好商店の3代目店主はやさしく「秋になったらまたおいでよ」とおっしゃってくださった。ぜひふたたび訪れて、美好商店のすべてを味わい尽くしてみたいと思う。
そして、さらにもうひとつ、次回にやりたいことがある。それは3代目の娘さん、つまり4代目にお会いしてお話を聞いてみたい。
美好商店のWebサイトは、東京おでんだねのサイトを公開する前からよく拝見していた。店舗の紹介だけでなく、しっかりセキュリティーが施された通販(EC)の整備、さらにはおでんの調理方法やおでん種の製造工程まで詳しく記事が掲載されていて、「このWebサイトを作られた方は本当におでん種のことが好きなんだなあ」と感じていた。3代目の店主に伺うと「このWebサイトは娘が作った」とのことだったので、ぜひお話をしてみたいなと思った。
美好商店は、江東区にお住まいの方から情報提供していただいたことがあるお店だ。その方は佃権が閉業してから神茂へ移ったが、同じくおでん種難民のご友人が美好商店をすすめていたそうだ。
取材時に来店していたお客さんも「佃権がなくなって、美好商店にたどりついた」とおっしゃっていた。江東区は豊洲市場をのぞけば、美好商店のほかに砂町銀座の増英が残るだけになってしまった。墨田区へ移動すれば3軒あるが、この地域は南北の交通手段はバスしかないので移動しにくい。
同じような悩みを抱える江東区周辺の人々は大勢いるようで、皆ネットで検索して美好商店のWebサイトへたどりついたそうだ。丁寧に作られたWebサイトを通して美好商店のおでん種が広まり、その味の素晴らしさをもっと多くの人たちが体験してくれることを願う。
美好商店の基本情報
美好商店
〒135-0022 東京都江東区三好2-12-7
03-3641-2929
定休日:日曜、祭日
営業時間:10:00~18:00
美好商店のWebサイト