今回は2024年4月現在営業を続けるおでん種専門店の分布を市区ごとに見ていきたいと思う。
東京おでんだねは2018年10月より活動を開始し、東京都とその周辺のおでん種専門店(蒲鉾店)をまわってきた。翌年には大型店を除く都内すべての個人商店に訪れたが、この5年ほどの間に閉業したお店も多い。
約50年の間に東京のおでん種専門店は1/7に
東京は江戸時代から魚河岸に多くの魚が集まっていたため、蒲鉾店の数も多かった。戦後もその勢いは衰えることなく高度成長期に隆盛を極めたが、現在では食文化の多様化や店主の高齢化などにより数を減らしている。
昭和50年代には300軒近くのお店が営業していたが、現在では40軒前後が残るのみとなっている。23区内でいえば、すべての区におでん種専門店が存在したが、現在ではお店が1軒もない区が増えている。
中心部に近い区が顕著となっており、千代田区、渋谷区、新宿区、中野区、文京区、豊島区(休業1軒)、練馬区にはおでん種専門店は存在しない。
都内で最もおでん種やさんが多い葛飾区
東京の東側に位置する葛飾区は、都内で最もおでん種専門店が多い。北は柴又や堀切、南は新小岩に至るまで、8軒ものお店が営業している。
ほかの区に比べて圧倒的な数を誇っているが、これは増田屋の影響が大きい。おでん種専門店には暖簾(のれん)分けしたお店がたくさんあるが、増田屋はかつて50軒以上が存在していた。蕎麦屋でいえば更科や長寿庵のような存在だ。
増田屋は東京都だけでなく、埼玉県や千葉県にもあったが、とくに葛飾区を中心とした城東地域に多く存在していた。これは立石にある増田屋から暖簾分けしたお店が多かったためだと推測できる。
葛飾区にある増田屋は現在3軒だ。立石をはじめとして、堀切と京成小岩(葛飾区鎌倉)で営業を続けている。また、隣接する足立区綾瀬にも1軒存在する。
屋号は一緒でもそれぞれが別経営となっており、おでん種の種類や味もさまざま。店主の高齢化も進んでいるので、早めに各店を訪れてみるといいだろう。増田屋の歴史については「増田屋の系譜」という記事をご覧いただきたい。
3軒のおでん種やさんが営業する5つの区
2番目におでん種専門店が多いのは、北区、荒川区、世田谷区、板橋区、江戸川区だ。葛飾区に比べてぐっと数を減らし、それぞれの区で3軒のお店が営業を続けている。
これらの区で営業する店主は40〜60代が中心で、70代以上が多いこの業界のなかでは若い世代といえる。お店を継いだ店主がほとんどだが、世田谷区の2軒は新規でオープンしている。
板橋区の中板橋で営業する太洋かまぼこ店は食の安全にこだわり、Instagramなどで原料や製法を発信している。世田谷区のや亀やも調理師免許を持った店主が0.1グラム単位で塩加減を調整するなど、練り物やおでんに情熱を注いでいる。若い世代の活躍は、業界全体にとっても励みになる。
立ち飲みができる北区赤羽の丸健水産や王子の平澤かまぼこ店、お惣菜が充実した江戸川区中央の桧山水産など、個性的なお店も多い。
ひとつの区に3軒あれば、アクセスもしやすくさまざまな味を試すことができる。新たな発見を求めてすこし足を伸ばしてもいいし、散歩がてら数軒巡ってみるのも面白いだろう。
2軒は7区、1軒は5区
3番目におでん種専門店が多い区は7区あり、1区あたり2軒となる。1軒のみは5区となり、数年後にはゼロになる可能性が高い。
2軒のみの区は杉並区、墨田区、品川区、大田区、足立区、江東区、八王子市、1軒のみは港区、中央区、目黒区、武蔵野市、西東京市となる。
品川区はすこし前まで3軒営業していたが、2021年に荏原中延の丸佐かまぼこ店が閉業してしまった。墨田区も同年に東向島の八幡屋が65年の歴史に幕を閉じた。
中央区には日本橋の神茂、武蔵野市には吉祥寺の塚田水産といった有名店もあり、有名デパートに支店を設けるなど堅調な経営を期待できる。それ以外のほとんどのお店は個人経営のため、後継者などの課題が山積している。江東区砂町銀座の増英蒲鉾店や品川区戸越の後藤蒲鉾店のような有名店も多く、どの店も未来に繋げていきたい名店ばかりだ。地元だけでなくさまざまな地域から多くの人々に訪れてもらいたいと思っている。
おでん種専門店の減少はこれから加速する傾向
東京おでんだねが活動した5年間で、閉業したお店は8軒にのぼる。毎年1〜2軒のペースだが、今後はさらに加速すると思われる。
その理由は、おでん種専門店の店主の大半が70〜80代であるためだ。また、後継者がいないお店も非常に多い。日本の人口問題と同じように、いわゆる団塊の世代がまとまって引退しているのだ。
逆にこの5年で新しくできたお店は1軒のみで、それ以前は10年前に1軒となる。今後は減少するペースを抑えることができたとしても、増えることはないだろう。
おでんは依然として人気があり、スーパーやコンビニなどで簡単に手に入るが、職人のこだわりが詰まった手づくりのものはますます希少となってくるだろう。
東京おでんだねではすこしでも多くの人々におでん種専門店に足を運んでもらえるように、今後もその魅力を伝えていきたいと思っている。