今回は上野恩賜公園で営業する東照宮第一売店のおでんを紹介しよう。昭和の雰囲気がそのまま残った味わい深いお店だ。
上野東照宮のすぐ脇にある東照宮第一売店は70年以上の歴史を誇る売店だ。店内は食堂となっており、ゆったりと食事を楽しめる。今回はおでんと名物のカレーそうめんを味わってきた。
変わりゆく上野公園、変わらない東照宮第一売店
台東区上野にある上野恩賜公園は、博物館や美術館が集まる文化の一大拠点であり、花見の名所でもある。日本で初めて公園に指定された場所としても有名だ。
上野公園は再整備によって見晴らしもよく快適な空間に生まれ変わりつつある。平成26年(2012年)には竹の台・文化施設エリアの再整備によって、公園内でスターバックスが営業を開始するなど若者にも受け入れられやすい空間となった。上野公園は長い期間を設けながら、あちこちで再整備が行われている。
一方で、古き良き昭和の風情は姿を消しつつある。上野動物園正門の隣にあった上野こども遊園地は終戦翌年の昭和21年(1946年)に営業を開始した施設だが、平成28年(2016年)に閉鎖してしまった。
今回紹介する東照宮第一売店は遊園地跡の向かい側、上野東照宮の鳥居の脇で営業している。外観を見れば歴史のあるお店であることは一目瞭然だが、昭和28年(1953年)に創業したという。
店先では飲料やスナック類、おもちゃなどを販売しているが、店内は食堂となっている。昔は食堂を兼ねた売店は珍しいものではなかったが、現在ではあまり見かけなくなった。
店内はテーブルが5つほどあり、お座敷もある。壁には手書きのメニューがいくつも貼られ、昔懐かしい雰囲気が漂っている。
もう手に取る人はいないのでは、と思えるほどの古い品物も並んでおり、幼少時代にタイムスリップしたような、ここだけ時間が止まっているような不思議な空間だ。著名人のサイン色紙も多く飾ってあり、テレビなどのメディアで多く取り上げられていることがわかる。
メニューはラーメンやカレーライス、丼ものやうどんなど定番をおさえたバラエティ豊かなラインナップとなっている。酒類も扱っているが、2杯までの制限付きなのでお行儀よく味わおう。お代は都度会計となっている。
目的のおでんは単品のほかに、ごはんがセットになった「おでんライス」、味噌こんにゃくの「味噌おでん」を揃えている。今回はネーミングが可愛いおでんライスをオーダーすることにした。
温かいお茶をすすりながら店内を撮影していると、ほどなく熱燗とおでんが運ばれてきた。なお、料理には漬物がついてくる。
おでんは業務用のレトルトと思われるが、お店の雰囲気と相まって懐かしい味がする。おでん種は大根、玉子、さつま揚げ、焼ちくわ、こんにゃく、白滝、昆布となっている。
ほかほかのごはんに乗せても美味しいし、汁と一緒に食べてもいいだろう。少し行儀が悪いが、細かいことを気にせずおおらかな気持ちで楽しみたい。
さらにもう一品、名物という「カレーそうめん」なる料理を頼んでみた。どんなものが出てくるかと思っていたが、その名の通り茹でたそうめんにカレールーをかけたものだった。ちなみに「カレーラーメン」というメニューもある。
おかみさんの「温かいうちによくかき混ぜて」という言葉に従い、満遍なくかき混ぜる。パスタのようにフォークでくるくる巻いて食べてみると、おばあちゃんの家で食べるような素朴で庶民的な味わいだった。ほかのお店では味わえない、唯一無二の料理といえる。
お腹も膨れて満足感に浸っていると、常連客の若者が入店してきた。彼は料理についてくる漬物を「いらないです」と断ったが、つかさず女性の店員さんが「嫌いじゃないなら食べなさいよ。ごはんもあるんだから」とすすめていた。こういった一歩引くのではなく、踏み込んだ心遣いが大衆食堂の魅力といえる。おせっかいと思えるようなコミュニケーションに心が救われるときもあるのだ。
おかみさんも非常に気さくな方で、以前の上野公園の様子を聞かせてくれた。当時、東照宮第一売店のようなお店は30軒ほどあり、毎日多くの人で賑わっていたという。こども遊園地もなくなり、変わりゆく公園をおかみさんはすこし寂しがっているようだった。
お店をバックに外国人カップルの写真を撮ってあげたり、楽しそうにパンダの話をするおかみさんは東照宮第一売店のいちばんの魅力だ。ぜひ一度訪れて、おでんとともに古き良き上野の森を堪能してほしい。
東照宮第一売店の基本情報
東照宮第一売店
〒110-0007 東京都台東区上野公園9-86
03-3828-5644
定休日:月曜
営業時間:10:00~16:30