東京のお蕎麦屋さんでおでんそばを味わう2

全国だけでなく、東京にも存在するおでんそばとおでんうどん。「なさそうで意外とある」ことを証明するため、前回に引き続き東京のお蕎麦屋さんを紹介していこうと思う。

柳家(江東区扇橋)のおでんそば

前回記事「東京のお蕎麦屋さんでおでんそばを味わう1」では、おでんそばとうどんを扱う港区、世田谷区、台東区のお蕎麦屋さんを紹介した。このことで、意外に普及していることをご理解いただけたと思う。今回は中央区や足立区など、地域を拡大して東京都内のお店を紹介する。

東京おでんだねが独自で調査したところ、東京には80軒以上のお店でおでんそばやおでんうどんを提供していることが分かった。これらは現在通期で提供しているお店もあれば、季節や期間限定のお店、または過去に取り扱っていたお店も含まれる。今回は7軒を紹介するが、そのほかに巡ったお店は「東京のおでんそば・おでんうどん」のページにまとめてみたのでご覧いただきたい。

  1. 港区麻布十番の長寿庵のおでんそば
  2. 中央区茅場町の長寿庵のおでんそば
  3. 足立区関原のあら井のおでんそば
  4. 足立区鹿浜の鈴乃家のおでんそば
  5. 江東区扇橋の柳家のおでんそば
  6. 板橋区上板橋の岩田屋のおでんうどん
  7. 中央区日本橋の一平 日本橋店のおでんそば

港区麻布十番の長寿庵のおでんそば

トレンドと伝統、庶民的な雰囲気が交差する麻布十番にも、おでんそばを提供するお蕎麦屋さんがある。港区麻布十番3丁目にある長寿庵(港区麻布十番3-8-4)だ。

港区麻布十番:長寿庵

長寿庵は麻布十番の西側にある雑式通りに面しており、麻布十番周辺で働く人々や、昔から住んでいる地元民に人気がある。結構混雑しており、高級グルメやトレンドを追いかける人たちとは無縁の地元に愛されるお店だ。

港区麻布十番:長寿庵

長寿庵は暖簾分けの店舗数が多い。采女会、四之橋会、十日会、実成会と会派が分かれ、こちらのお店は四之橋会に属している。店頭に系図が飾られているので、座席待ちの際に眺めてみるといいだろう。

港区麻布十番:長寿庵

丁寧な案内に従って座席につく。テーブルに置かれたメニューにはおでんそばの文字がしっかりと刻まれていた。また、店内のお品書きにも目立つ位置に記されていた。

長寿庵(港区麻布十番)のおでんそば

長寿庵のおでんそばには練りからしがついている。これがついているのといないとで、美味しさが大きく変わる。こういった細やかな配慮が本当に嬉しい。

長寿庵(港区麻布十番)のおでんそば

さつま揚げ2種、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布。2種類のさつま揚げはほかのお店と同じく、ふわふわのものと通常のものだ。上にのったワカメがおでん種と蕎麦の調和を生み、蕎麦つゆとあいまって身体にじーんと染み入る。つゆは江戸前の濃いめの味付けだが、練りからしとの相性がとてもよかった。

中央区茅場町の長寿庵のおでんそば

日本橋のすぐお隣りの茅場町にもおでんそばは存在する。茅場町駅から霊岸橋を越えた先、中央区新川にある長寿庵(中央区新川1-8-25)に訪れた。

東京都中央区新川:長寿庵

麻布十番と同じく、こちらの屋号も長寿庵。江戸蕎麦御三家と呼ばれる砂場、更級、薮よりも、長寿庵は暖簾分けの店舗数が多い。麻布十番のお店は四之橋会だったが、新川のお店は十日会の系統だ。店内には系統図が掲げられているので、興味のある方はご覧いただきたい。昭和27年(1952年)創業で、昔ながらの昭和のお蕎麦屋さんの雰囲気を漂わせている。

長寿庵(中央区新川)のおでんそば

おでんそばは備え付けのメニューに記載されている。おでん種はさつま揚げ、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布で、なると巻がトッピングしてある。

長寿庵(中央区新川)のおでんそば

濃いめの蕎麦つゆが食欲をかき立てる。さまざまな種類のおでん種の味が楽しめ、大根の染み具合も申し分ない。長寿庵ではうずらの卵が食べ放題となっているので、トッピングして食べてみてもいいだろう。

足立区関原のあら井のおでんそば

足立区にはおでんそばやうどんを扱うお店が多い。今回の記事では2店舗を紹介しよう。まずは、足立区関原3丁目のあら井(足立区関原3-34-7)だ。ごく普通の街のお蕎麦屋さんで、店主ご夫婦が営業している。

東京都足立区関原:あら井のメニュー

店内はこじんまりとしているが、のんびり落ち着いた雰囲気だ。さっそくメニューを覗くと、おでんそばがきちんと掲載されていた。しかも、人気メニューの印がつけられていた。

あら井(足立区関原)のおでんそば

おでん種はさつま揚げ、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布。おでん種がたくさんなのだが、なると巻とさやいんげんの色合いがとても華やか。昨今のお高くとまった本物志向とは異なるこだわりを感じる。

あら井(足立区関原)のおでんそば

豊富な種類のおでん種の味が楽しめ、お腹も満腹になる。大根に染みたおでん汁が蕎麦つゆに絡み、まろやかな味わいとなって舌を喜ばせる。

おかみさんとすこし会話したが、とても気さくな方で可愛らしかった。「たいした具材を揃えていない」と謙遜しながら微笑みを浮かべる姿が最高の調味料だと思った。店主は奥で黙々と調理されていたが、会計時にわざわざ出てきてくださった。やさしい口調で「ありがとうございました」と声をかけていただき、やさしい人柄がお蕎麦の味に表れているように感じた。

足立区鹿浜の鈴乃家のおでんそば

足立区の2軒目は最西部、鹿浜5丁目にある鈴乃家(足立区鹿浜5-21-16)だ。

東京都足立区鹿浜:鈴乃家

鈴乃家は地元に人気のお店で、訪れたときも多くの常連客で賑わっていた。メニューが豊富でボリュームもたっぷり、味も素晴らしいので人気なのは当然なのだろう。また、接客が丁寧で非常に居心地がよい。

東京都足立区鹿浜:鈴乃家のメニュー

鈴乃家のメニューにもおでんそばが掲載されていた。あなごそばや磯めかぶそばなど、創意工夫を凝らしたメニューがたくさんあって興味をそそる。男性が好きそうなボリュームたっぷりの料理も多い。

鈴乃家(足立区鹿浜)のおでんそば

あら井と同じく、おでん種のほかになると巻とさやえんどうがトッピングしてある。この組み合わせには、セオリーみたいなものがあるのだろうか。長ネギは最初からのせるスタイルだ。

鈴乃家(足立区鹿浜)のおでんそば

おでん種はさつま揚げ2種、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布。さつま揚げは通常のものと、紀文食品の魚河岸あげのようなふわっとした食感のものの2種類だった。さまざまなおでん種の味を楽しめて、ボリュームもあって大満足だった。

江東区扇橋の柳家のおでんそば

東京の南東部に位置する江東区でも、おでんそばやうどんを扱うお蕎麦屋さんがいくつかある。代表して住吉駅から徒歩10分ほどの距離にある柳家(江東区扇橋1-8-3)を紹介しよう。

東京都江東区扇橋:柳家

柳家は冷やし蕎麦に北海道旭川の江丹別産の蕎麦粉を使用している。また、丼ものを含め豊富なメニューを揃えており、お昼は地元の常連客で大いに賑わっている。とりわけ元気で人当たりのよい接客が魅力だ。

柳家(江東区扇橋)のおでんそば

おでんそばは通常メニューに含まれている。おでん種はさつま揚げ、ごぼう巻、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布。さらに蒲鉾とカイワレ、なると巻を添えた贅沢なもの。

柳家(江東区扇橋)のおでんそば

ほどよい濃さの蕎麦つゆ、細く仕上げられた蕎麦がとても美味しい。おでん種はごぼう巻が入っているのがポイントが高い。蒲鉾が入っているのも嬉しいところ。

柳家(江東区扇橋)のおでんそば

柳家のおでんそばは長ネギのほかに天かすが添えられている。「お好みで入れてください。美味しいですよ」と促されたが、たしかに美味しい。入れたてのときのサクサクとした食感もいいが、汁を吸ったあとのふわりとした食感も最高だった。

かけ蕎麦にしては珍しく、蕎麦湯を運んできてくれた。蕎麦を食べた後の恍惚感がさらに増し、次のお客さんに席をあけ渡したくなくなるほど脱力してしまった。至れり尽くせりで大満足のひとときだった。

板橋区上板橋の岩田屋のおでんうどん

お次は東京23区の北西に位置する板橋区。板橋区上板橋にある岩田屋(板橋区常盤台4-17-8)のおでんうどんを味わってきた。岩田屋は古くからある地元密着のお蕎麦屋さんだ。

東京都板橋区常盤台:岩田屋

若木通りと富士見街道(SB通り)の常盤台4丁目交差点にお店を構える。清潔な店内で、各座席には透明シートの仕切りを設置し、新型コロナウイルス対策もばっちりだ。

東京都板橋区常盤台:岩田屋

おでんうどんは蕎麦でなく「うどん」としてメニューに掲載されている。頼めば蕎麦にも切り替えられるだろうが、素直におでんうどんをオーダーすることにした。

岩田屋(板橋区常盤台)のおでんうどん

おでんうどんには長ネギが薬味として添えられ、おでん種以外のトッピングはなかった。色濃いおでんつゆと褐色のおでん種が渋い雰囲気を醸し出している。

岩田屋(板橋区常盤台)のおでんうどん

おでん種はさつま揚げ、大根、玉子、こんにゃく、焼きちくわ、結び昆布。こんにゃくは隠し包丁がないバージョンだ。結び昆布の大きさが満足度を高めてくれる。おでん種とうどんとの相性は抜群で、大変美味しくいただけた。

中央区日本橋の一平 日本橋店のおでんそば

最後に、お蕎麦屋さんではないお店のおでんそばを紹介しよう。東京駅の八重洲口にある一平 日本橋店(中央区日本橋3-4-10)は、おでんと日本料理屋さんだ。

東京都中央区日本橋:一平 日本橋店

お店は東京駅の八重洲地下街に入る階段の途中、スターツ八重洲中央ビルの地下1階にある。昭和4年(1929年)に神楽坂で料亭「一平荘」として創業し、昭和45年(1970年)におでん屋の形態となって銀座に出店。現在は日本橋で営業を続けている。

東京都中央区日本橋:一平 日本橋店

ビジネスマンのお客さんたちは豊富な定食のメニューを選んでいたが、ランチの定番メニューにラインナップされているおでんそばをチョイス。おでん定食も美味しそうだった。

一平 日本橋店(中央区日本橋)のおでんそば

おでん屋ということもあり、一平 日本橋店のおでんそばは街のお蕎麦屋さんとはかなり異なる。鰹節と昆布を使用した関西風のおでん出汁を使用しており、黄金色に透き通っている。

一平 日本橋店(中央区日本橋)のおでんそば

おでん種はさつま揚げ、麩、つくね、焼きちくわ、温泉玉子。三つ葉とワカメ、糸唐辛子が華やかだ。さつま揚げは魚のすり身がふわりとしていて、つくねは軟骨の食感がよく、コクがありながら爽やかな味わい。麩は汁をたくさん吸っているのでやけどしないように注意が必要だ。温泉玉子は蕎麦との相性がいい。蕎麦つゆはおでん出汁を使用しているそうだが、昼は若干味を濃くしているとのこと。透き通った色から薄味を想像するが、しっかりとした存在感があった。

お蕎麦屋さんの定番のおでんそばもいいが、こうした新たな味を追求する姿勢も非常に好感が持てる。おでんそばの可能性を広げてくれた功績に拍手をおくりたい。

誠月(足立区中川)のおでんそば

以上、2回にわたってたくさんのお店のおでんそばとおでんうどんを紹介したが、どのお店でも東京のおでん種専門店のおでん種を使用しているところは皆無だった。かつてお蕎麦屋さんはおでん種やさんの得意先で、蒲鉾や焼きちくわ、なると巻などを納入していた。お蕎麦屋さん専門の業者もいたという(出典:東京都蒲鉾水産加工業協同組合、1985、『東京のかまぼこの歴史』、18)。おでん種やさんの減少や仕入れの最適化などで関係は薄れてしまったのだと思う。

次回は東京のおでん種専門店のおでん種を使って、おでんそばとうどんを作ってみようと思う。

長寿庵(麻布十番)の基本情報

長寿庵
〒106-0045 東京都港区麻布十番3-8-4
03-3451-7462
定休日:日祝
営業時間:11:00~16:30

長寿庵(茅場町)の基本情報

長寿庵
〒104-0033 東京都中央区新川1-8-25
03-3551-4338
定休日:日曜
営業時間:11:00~15:00, 16:30~21:00

松美家の基本情報

松美家
〒105-0004 東京都港区新橋5-33-8
03-3431-1217
定休日:日曜
営業時間:11:00~15:00, 17:00~20:30, 土:11:15~14:00

あら井の基本情報

生そば あら井
〒123-0852 東京都足立区関原3-34-7
03-3849-3945
定休日:水曜
営業時間:11:00 ~ 20:00

鈴乃家の基本情報

鈴乃家
〒123-0864 東京都足立区鹿浜5-21-1
03-3855-6366
定休日:火曜
営業時間:11:00~20:00, 15:30~17:00

柳家の基本情報

扇橋大通り 柳家
〒135-0011 東京都江東区扇橋1-8-3
03-3645-4141
定休日:木曜
営業時間:11:00~15:00, 17:00~20:00

岩田屋の基本情報

そば処 岩田屋
〒174-0071 東京都板橋区常盤台4-17-8
03-3933-2165
定休日:水曜
営業時間:11:15〜20:00(LO:19:30) 木:11:15〜14:30

一平 日本橋店の基本情報

おでん 和食 一平 日本橋店
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-4-10
050-5486-0997
定休日:日祝
営業時間:11:15~13:15, 17:00~22:30, 土曜:16:00~21:00
一平 日本橋店のWebサイト

Scroll to top