愛川屋蒲鉾店のおでん種

愛川屋蒲鉾店は、東京都大田区の糀谷商店街にあるおでん種の専門店だ。高円寺の愛川屋から暖簾分けをして60年以上の歴史を持つ。生の魚のすり身にこだわった練り物のおでん種は一級品の美味しさだ。

100年続く今も活気のある糀谷商店街

京浜急行電鉄空港線の糀谷駅は、明治35年(1902年)に羽田支線の開通とともに開業した。この周辺は東京湾に近く、かつては海苔の養殖が盛んな場所だったという。駅を出て北に進むとおいで通り糀谷商店会(西糀谷商店会)、南に進むと糀谷商店街がある。

東京都大田区糀谷:糀谷商店街

糀谷商店街は非常に活気のある商店街で、訪れたときも多くの地元客で溢れかえっていた。反対側のおいで通り糀谷商店会も同じく賑わっている。糀谷商店街は昭和24年(1949年)頃に糀谷駅前通り商店会として活動を始めたが、糀谷駅の開業時にはすでに店が集まっていたそうだ。廃れてしまう商店街が多いなか、100年以上経っても活気があるのはすごいことだ。

高円寺の本店から暖簾分けした愛川屋蒲鉾店

愛川屋蒲鉾店は糀谷商店街の中央あたりにある。店を覗くとおかみさんが明るく接客してくれた。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

愛川屋蒲鉾店は60年以上の歴史があり、昭和34年(1959年)の創業となる。高円寺にあったおでん種の有名店である愛川屋から暖簾分けし、糀谷に店を開いた。愛川屋の歴史については「愛川屋の系譜」という記事をご一読いただきたい。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

店内には木製の歴史ある看板が掲げてある。「愛川屋本店、愛川屋支店さん江」という文字が確認できる。高円寺の本店はすでに閉業し、本店の三代目が開いた笹塚の店も2018年に閉業している。また、同じく本店から昭和45年(1970年)に暖簾分けした目黒区大岡山の店も閉業したそうだ。店の奥で調理していた店主が「愛川屋は昔たくさんあったのに、今ではうちだけになったよ」と教えてくれた。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

お店の正面の冷蔵ショーケースには練り物のおでん種が並んでいる。写真では少ないように見えるが、奥で調理しては揚げたてのものが次々と補充されていく。その数20種類以上。愛川屋蒲鉾店では生の魚のすり身を使っているそうだ。店主とおかみさんは他のおでん種やさんを回って調査したが、切り身を使っているお店も多く「うちの練り物がいちばん美味しいと思う」と誇らしげだった。「何個いくら」という販売形式だが、1個ずつでも販売してくれる。6、7種類のおでん種がセットになったものも販売していて、330円というお値打ち価格。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

お店の右側のケースには練り物以外のおでん種が並んでいる。半ペンと魚肉すじ、いわし玉とつみれは手作りだ。いわし玉とつみれの違いを伺ったところ、いわし玉はネギを入れて団子状にしたもの、つみれはなにも入っておらず、通常の「摘み入れた」形状のものだそうだ。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

大根は下茹でしたものを販売している。大根を入れたビニール袋が素敵なので思わず購入してしまった。また、玉子は通常のものだけでなく、だし汁に漬けた味たまごも販売している。おでん汁はチヨダあみ印のものを販売していた。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店

おかみさんは上品で明るく、そのうえ美人な方で、笑顔や振る舞いが素敵だった。調理に忙しい店主も手を休めずに奥から色々とお話していただいた。おでん種やさんが減っている原因はさまざまだが、仲買が店を畳むことも一因だそうだ。また、豊洲の売り場が小さくなって商品を並べられないなど、原料の確保が年々難しくなっているという。

生の魚のすり身にこだわる愛川屋蒲鉾店のおでん種

今回購入したのは13種類。どれも魅力的だったのでたくさん買ってしまった。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

時計回りに12時から、半ペン、れんこん、からあげ、おこのみ天、にんにく、ボール、あさり天、ごぼう天、しいたけ、えだ豆天(中央上)、魚肉すじ(中央左)、いわし玉(中央右)。このほかに大根とちくわぶも購入。ごぼう天はおまけしていただいた。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん用大根

大根が入ったビニール袋を見てみると、鯛の絵柄が笹塚の店のもの(すぎなみ学倶楽部より)と似ている。水気がこぼれないようにきちんとテープで止めてあるが、半ペンや汁気のある他のおでん種もひとつひとつしっかりと包装してくれた。こういったところにも愛川屋蒲鉾店のこだわりを感じる。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

調理が終わり、さっそく試食タイム。厚切りの大根がおでん汁を吸って美味しそうだ。きちんと下茹でされているので、たいして煮込まなくてもシミシミの大根ができあがる。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

ボールは人参とネギが練りこまれていて彩り華やか。生のすり身を使用しているだけあって、練り物は他の店のものに比べて非常に舌触りがよい。ふわふわで滑らかで、まるではんぺんのようなまろやかさだ。きめ細かな黒鯛の味わいが上品で、店主とおかみさんのこだわりがきちんと反映されている。
いわし玉はほろほろで非常に柔らかい。それでいて煮ても型崩れしないのは職人のなせる技だろうか。口に含むと自然に溶けるようで、イワシのうまみがじゅわっと広がる。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

ごぼう天はささがきのゴボウがたくさん入っていて、ひとくち噛んだだけで香りが口の中に広がる。きめ細かいすり身の上品な味と混じり合い、絶妙なハーモニーを醸している。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

えだ豆天は彩り美しい枝豆がこれでもかというほど魚のすり身に練りこまれている。ぷりぷりの食感と枝豆の甘みが魅力的なおでん種だ。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

注目の大根は噛むとおでん汁がじゅわっと染み出してくる。これだけ厚切りの大根をシミシミにするのは時間がかかるが、購入時には下茹でが完了しているので手軽に楽しむことができる。おでん汁で火傷しないように注意したいところだ。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

からあげはイカのゲソに唐辛子をまぶして揚げたもの。見た目とは反して非常に柔らかい。噛めば噛むほどイカのうまみが楽しめ、お酒のお供にもぴったりだ。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

おこのみ天はネギ、玉ねぎ、人参、紅生姜などが入った贅沢なおでん種。見た目も華やかだが、味もバラエティ豊かな具材がそれぞれのうまみを引き立て合い非常に美味しい。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

れんこんは大小選べるのだが、今回は大をチョイスしてみた。厚切りのレンコンのサクサクとした歯応えが心地よい。適度に詰められた練り物の甘みがレンコンの味をほどよくまろやかにしている。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

しいたけは大ぶりの椎茸を使っている。クニクニとした食感を楽しんでいると、椎茸のうまみが溢れてくる。椎茸とすり身の色のコントラストも美しい。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

手作りの半ペンは非常に滑らかで、口に含むと雪のように溶ける。「メルティうんぬん」というチョコレートがあるが、その名前がふさわしいほど優しく溶ける。素材の繊細な甘みが感じられ、店主の高度な技術が窺いしれた。おでん種やさん巡りで随分舌が肥えてきたと思ったが、このはんぺんに出会ってまだまだ未知の領域があるのだと猛省した。
魚肉すじははんぺんの余り素材が使われるが、こちらも非常に滑らかな食感だ。全体的に愛川屋蒲鉾店のおでん種は原材料の本来のうまみを丁寧に引き出している印象がある。
にんにくはボール状のすり身にニンニクを混ぜ込んだ変わり種。大きめに刻んであるのでニンニクの味がダイレクトに伝わる。練り物とニンニクの組み合わせは初体験だが、たしかに相性がいい。

東京都大田区糀谷 糀谷商店街:愛川屋蒲鉾店のおでん種

あさり天は魚のすり身にあさりと唐辛子、黒ごま、ネギが入っている。あさりのうまみを引き立てる名脇役が3つも加えられている。東京湾に近い糀谷のアイデンティティを感じさせるおでん種と言える。

愛川屋蒲鉾店は生の魚のすり身にこだわっているだけでなく、具材も国産のものを使用しているという。また、はんぺんや魚すじ、いわし玉や大根など、それぞれの味を徹底的に追求しているところが素晴らしい。そして店主だけでなく、おかみさんも一緒になって自分たちのおでん種に対して誇りを持っていたのが印象的だった。それでいながら非常に気さくで気取らないところも素敵なのだ。愛川屋の屋号をもつ最後の一店となってしまったが、これからも変わらぬこだわりと製法で素晴らしい味を守り続けてほしい。

愛川屋蒲鉾店の基本情報

愛川屋蒲鉾店
〒144-0047 東京都大田区萩中2-1-17
03-3742-0545
定休日:日曜
営業時間:10:00~19:00

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