大国屋は墨田区京島の下町人情キラキラ橘商店街(向島橘銀座商店街)にあるおでん種の専門店だ。スカイツリーの形をした変わり種のおでんが買える、墨田区を代表するおでん種やさんだ。
地域住民の憩いの場、下町人情キラキラ橘商店街
下町人情キラキラ橘商店街は墨田区の京島にある商店街だ。正式名称は向島橘銀座商店街で、「橘」の名は昭和6年(1931年)に開館した橘館があったことに由来する。戦前から橘館通りという名称で親しまれつつ、戦後の商業再開とともに発展してきた。
京成押上線の京成曳舟駅、東武亀戸線の小村井駅、東武伊勢崎線の東武曳舟駅からアクセスできる。
シャッターを下ろしている店舗も見受けられるが、八百屋や肉屋、そのほか生活に必要なさまざまなものを販売する店が立ち並び、お客さんも多く足を運んでいる。通りでは地元の人たちが世間話に興じる光景は、なんともほのぼのとした雰囲気だ。
テレビの取材も多く、墨田区では有名な商店街のひとつだ。商店街のサイトによると「地域貢献や地域経済活性化など様々な分野で活躍している商店街の取組事例として、2013年度経済産業省『がんばる商店街30選』に選定」されたそうだ。
商店の人たちはおしゃべり好きの人たちが多く、気さくに話しかけてくれる。地元客もそれを楽しみにキラキラ橘商店街に訪れているようだ。商店街入口にある原公園のベンチで座っていたときも、地元のお年寄りの方々に話しかけていただいた。猫たちも商店街の人々に可愛がられているようで、撫でても逃げずにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
芝の卸売店から暖簾分けした大国屋
キラキラ橘商店街に入ってすぐのところに大国屋がある。昭和27年(1952年)に先代が創業し、現在では二代目がおかみさんとともに営業している。
店主は物腰が柔らかく、とても気さくな方だった。「大国屋は渋谷の初台や葛飾の柴又にもありますよね」と質問したところ、かつて港区の芝あたりに大国屋というはんぺんの卸売店あり、そこにいた十何人かの若者がそれぞれ独立したのだそうだ。先代はその中でもリーダー的な方だったという。その店で一緒に働いていた女性(二代目のお母様)と結婚し、京島に来て店を開いたそうだ。先代は栃木出身だが、昔は東北地方を中心に農業をしていた人々が冬場に出稼ぎにやってきて、水産の仕事に従事していたという。
店主の弟さんが経営する柴又の大国屋で伺ったところによると、二代目はかつて東十条にあった蒲和商店(北区十条仲原1-7)で3年くらい住み込みで修行をしていたそうだ。
お店の左側では調理済みのできたておでんを販売している。少し濃いめの色をしたおでん汁にさまざまなおでん種が並んでいる。キラキラ橘商店街では焼き鳥やたこ焼きなども販売しているので、一緒に買って公園で味わうのも楽しそうだ。
中央の冷蔵ショーケースには練り物系のおでん種が並んでいる。ぎょうざ巻やごぼう巻、カレーボールなど定番もののなかに、スカイツリーというおでん種を見つけた。京島も東京スカイツリーの近くなので、新しい名物おでん種として開発したのだろう。隣の花のかたちをした紅生姜揚とともに可愛らしくて子どもにも人気がありそうだ。
右手奥には練り物以外のおでん種が並べられている。はんぺん、すじ、つみれは手作りだ。おでん種ではないが、にこごりも手作りだ。ふくろ詰めが二種類あったので、ふたつとも購入してみた。どちらも冬季限定だ。焼きちくわは青森のイゲタ沼田竹輪工場のものを販売している。
ちくわぶは生のものを購入できる。パックのものしか食べたことのないのであれば、ぜひ生を試してみてほしい。非常に柔らかく、もちもちしているのでおすすめだ。
訪れた日は2ヶ月に1度のびっくら市が開催されていた。びっくら市はキラキラ橘商店街の約28店が一斉にお買い得品を出す日だ。大国屋ではもやし揚とやさい揚が対象品だった。なお、大国屋のおでん種はクール便で地方発送ができる(折詰め2,000円より)。
スカイツリーの変わり種もある大国屋のおでん種
大国屋では13種類のおでん種を購入した。1個単位で購入できるので、色々な種類を試すことができる。
時計回りに12時から、はんぺん、やさい揚、かき揚げ、もやし揚、あつあげ、カレーボール、つみれ、すじ、紅生姜揚、スカイツリー、ふくろ詰め(中央上、おもち、キャベツ入り)、ふくろ詰め(中央下、うどん、豚肉入り)。この他にちくわぶと、大国屋特製のおでん汁も購入。
ほかのおでん種やさんでは、通常はチヨダや正田醤油(綾瀬)のものを売っているが、大国屋はオリジナルものを販売している。北海道昆布と鰹節の濃縮和風だしで、1瓶200cc。8倍から10倍に希釈して使うが、味を見て加減する。
大根と玉子、結び昆布を入れて調理開始。練り物系は蓋をせずに直前に入れ、温める程度にするといい。
練り物は非常にふんわりとしていて柔らかい。しかし、きめ細やかすぎず適度な弾力があって心地よい食感だ。塩加減も控えめで非常に美味しい。
つみれは弾力があり臭みは一切ない。もしかするとイワシ以外の魚を使っているのかもしれない。糸昆布や春菊などが入っていて、よいアクセントとなっている。
ふくろ詰め(おもち、キャベツ入り)は細かく刻んだキャベツがたくさん入っていて、汁気がたっぷり溢れてくる。味付けはかなり抑えられていて薄口の上品な味わい。お餅も適度な量で、女性にもおすすめだ。
もやし揚は魚のすり身に唐辛子が入っていて、ぴりりと辛い。もやしとの相性は抜群だ。もやしのシャキシャキとした食感が非常に心地よい。こんなに美味しいおでん種がびっくら市のお買い得品で安く手に入れられたのは嬉しいかぎりだ。
やさい揚は人参やねぎなど複数の野菜が入った贅沢な逸品だ。野菜の香りが豊かで魚のすり身によく合う。これもびっくら市のお買い得品だ。
カレーボールは、オリジナルのカレー粉を使ったものだそうだ。さらに、生イカが練り込まれた変わり種。カレーの風味がしっかり魚のすり身に練り込まれているので、カレーボール好きにはおすすめだ。イカの風味と食感がアクセントになっていて、とても美味しい。
自家製のすじは密度高く練りこんである。大国屋ははんぺんも手作りなので、すじもきちんとサメの風味が効いている。半分でも購入できるので、まだ魚のすじを食べたことない方はそちらで試してみるといいだろう。
ふくろ詰め(うどん、豚肉入り)は、豚肉のうまみがしっかり滲み出ているが、調味料などを加えておらず自然な味わいだ。ふくろ詰め(おもち、キャベツ入り)と同様に上品な味で、食べていて飽きがこない。
かき揚げは荒切りの玉ねぎと桜エビが入っている。玉ねぎの甘みとサクサクの食感が非常に美味しい。揚げたときにできた焦げ目もよい味を醸している。
可愛らしい形の紅生姜揚は色合いもよくおでんの鍋が華やかになる。千切りの紅生姜がたくさん入っていて清々しい味わいだ。
注目のスカイツリーは見ているだけで幸せな気持ちになってくる。食べるのがもったいないくらい愛嬌があるおでん種だ。しかし、見た目だけでなく味も格別だ。国産の青海苔がたくさん練り込まれており、磯の香りが口の中に広がってとても美味しい。
狐色が美しいあつあげは、きめ細やかな豆腐から染み出す大豆のうまみが広がる。ちくわぶも生なだけあり柔らかく、期待を裏切らない味だ。
自家製のはんぺんは赤と青色で印刷されたビニール袋に入っていた。サメを主原料として、山芋と卵白を加えている。しっとり、ふわふわの食感でとても美味しい。柴又の大国屋でもこちらのはんぺんを販売している。
大国屋の店主は明るく、それでいて物腰が非常に柔らかだった。お客さんがせわしなくやってくるにもかかわらず、気さくに質問に答えてくれて人気店であるのが理解できたような気がした。さらに家に帰っておでんを食べてみると、上品な味でさらに納得した。高度な技術を要するはんぺんを手作りし、オリジナルのおでん汁を販売する技術力もさることながら、スカイツリーなど話題商品の開発にも余念がない。実際の店舗でぜひ大国屋の魅力を体験してもらいたい。
大国屋(京島)の基本情報
大国屋
〒131-0046 東京都墨田区京島3-43-8
03-3611-5289
定休日:日曜、正月
営業時間:10:00~19:30