丸佐かまぼこ店は、東京都品川区荏原中延駅の中一商店街にあるおでん種の専門店だ。前身の大野蒲鉾店は昭和33年創業、丸佐かまぼこ店は昭和46年頃の創業のため60年以上の歴史を持つ。2021年9月30日に閉業。
複数の商店街が集まり買い物に便利な中一商店街
戸越銀座にほど近い東急池上線の荏原中延駅。ここはいくつもの商店街が集まる活気のある街だ。
駅を降りて右手に進むと、サンモールえばら商店街がある。古くから操業している和菓子屋や焼き鳥屋などがあり、長い歴史を感じさせる。駅を挟んで反対側の中延商店街(なかのぶスキップロード)商店街や昭和通り商店街にも近く、買い物に便利だ。丸佐かまぼこ店のある中一商店街はサンモールえばら商店街と同じ通りにある。
魅力的な店主のいる丸佐かまぼこ店
丸佐かまぼこ店は中一商店街に入ってすぐのところにある。建物の側面に大きな看板があるのですぐに見つけられるだろう。
黄色い看板と赤い看板が並び、大きな「おでん」の文字が刻まれている。おでん種の販売だけでなく、店頭で調理したできたておでんも買うことができ、赤い看板の建物にあるテーブルで食べることができる。
遠くからでも湯気がもうもうと立ち込めているのがわかる。寒い時期はこの湯気に誘い込まれるお客さんも多いことだろう。ふらふらと欲望のままに近づいてみると、店主が筆者の一眼レフカメラを見て「写真撮ってよ」と声をかけてくれた。
店主に促されるまま写真をいくつか撮ると「うまく写るかな?」と心配してくださった。ニコニコとしていて非常に気さくな方だ。
写真はご覧の通りで、湯気もばっちり撮影できた。たくさんの種類の練り物、汁を吸ったはんぺん、ちくわぶなどが美味しそうに並んでいる。おでん汁の染み具合も完璧のようだ。
中央の冷蔵ショーケースには練り物が並んでいた。その数22種類。定番ものが中心だが、うずら玉子やしゅうまい巻きの形状が他の店と少し違う。どれも黄金色に輝いていて、食べなくても美味しさが伝わってくるようだ。
お店の左手には練り物以外のおでん種が並んでいる。はんぺんはふんわりお椀型の丸ちゃん、四角い形の中と小、合計3種類を揃えている。これらは自家製なので、はんぺんの余った材料で作られる魚のすじも自家製だ。魚のすじは最近は軟骨を入れないものも多いそうだが、丸佐かまぼこ店ではこだわって混ぜ込んでいるという。貴重なアオザメを使用していて、柔らかくも弾力がある食感を実現している。
つみれも自家製で、イワシではなくマグロとホッケを使用しているという。パサパサせずもっちりとした食感になり、臭みもないので他のおでん種への影響が少ないそうだ。保存料など無駄なものは一切入っていないので、作ってからすぐに凍らしている。
ちくわぶは生のままなので柔らかい。「生だから水分を含んでひとまわり大きくなる」と言って、わざわざケースから出して見せてくれた。こんにゃくも「プリプリで弾力があって美味しいよ」と勧めてくれたので購入してみた。また、焼きちくわは青森産を扱っていて、パッケージを見るとイゲタ沼田焼竹輪工場のものだった。芯がしっかりしており、他のもののように煮込んでもくたびれないそうだ。
大根と玉子にもこだわりのひと工夫がある。なんと出し汁に浸してあるのだ。「買ってそのまま鍋に放り込めば、すぐにシミシミのものが食べられるよ」と教えてくれた。確かにどんなに工夫しても1日では味が染み込まないが、丸佐かまぼこ店で買えば何日か漬け込んだ大根と玉子がすぐに食べられる。玉子は黄身まで味が染み込んでいるそうだ。
丸佐かまぼこ店がある建物は昭和33年(1958年)に開業した大野蒲鉾店が営業していたが、移転にともない丸佐かまぼこ店が昭和46年(1971年)頃に入居したという。大野蒲鉾店は店主の師匠の師匠、つまり大師匠が経営していたこともあり、店主は「自分は二代目でもあり初代でもある」と言う。また、杉並区堀ノ内にある同名のお店とは親戚関係にあたり、店主の師匠が営業する店でもある。このあたりの経緯は「丸佐かまぼこ店(荏原中延)が2021年9月閉業」という記事で紹介しているので、合わせてご一読いただきたい。
店主は気さくに色々な話をしてくれるのだが、非常に紳士的で素晴らしい方だった。
技術に裏打ちされた美味しいおでん種
店主との会話も弾み、魅力的なおでん種に囲まれた結果、購入したおでん種もたくさんになった。
時計回りに12時から、ごぼう入り、野菜入り、れんこん、こんにゃく、ボール、すじ、つみれ、しいたけ、うずら玉子、ごぼう入り大、ぎんなん、イカ入り、しゅうまい巻き、丸ちゃん(中央、はんぺん)。この他にちくわぶも購入。本当は大根と玉子も買いたかったが、盛りだくさんなので次回に持ち越しにした。
家に戻って、早速食べてみる。具がたくさんすぎて、鍋の底に沈んでいるものもある。
練り物の味はちょうどいい塩加減で完璧だ。食感は弾力がありながらも柔らかい。味と食感、どちらも理想的で、黄金色に輝く色も食欲をそそる。
うずら玉子は他の店とは異なり小ぶりなものとなっている。手軽に口に放り込むことができるので、うずら好きにはこのくらいの大きさのほうがいいのかもしれない。うずら本来の味も強調されるので、なるほどと唸ってしまった。
しいたけは傘のひだ側に練り物が埋め込まれている。椎茸のふくよかな香りが広がってとても美味しい。食感も椎茸の弾力がダイレクトに楽しめる。
つみれは前述のとおり、マグロとホッケを使用している。もちろん臭みは皆無だが、繋ぎになにも使っていないことから魚のうまみがきちんと感じられる。噛むとジューシーな味わいが口中に広がる。
野菜入りは人参、長ねぎ、玉ねぎが入っている。人参と長ねぎの風味が漂うが、なによりも玉ねぎのシャキシャキとした食感と甘みある味が印象的だった。
はんぺんの丸ちゃんはボリュームがあるので、いくつかに切って食べるといいだろう。フワフワでじゅわっと甘みが広がる。はんぺんは本当に高度な技が要求されるのだが、丸佐かまぼこ店のはんぺんは老舗有名店に勝るとも劣らない美味しさだ。
れんこんは輪切りのレンコンに唐辛子が少し混ぜてある。シャキシャキとした歯ごたえが気持ちよく、滋味深い味わいが幸福感を満たしてくれる。
ごぼう入りはささがきのごぼうがたくさん入っている。ごぼうの山の香りと歯ごたえがなんとも美味しい。お酒にもよく合う一品だ。
ぎんなんは串に刺さった銀杏に魚のすり身を巻いた定番の形だ。秋冬限定のおでん種なので、春になるにしたがって店頭から消えていくので食べたければ今がチャンスだ。銀杏の渋みとプリッとした食感が美味しい。
こんにゃくはぷにぷにとした弾力で、風味もよくスーパーで売られているものとは雲泥の差がある。やはりこんにゃくや白滝はおでん種やさんか豆腐屋で買うのが正解だ。
すじは店主がこだわっているだけあって、目に見えるくらい大きな軟骨が入っていて、コリコリとした食感が嬉しい。柔らかくも弾力があり、材料のこね加減にも職人の技が感じられる。
最後はしゅうまい巻きだ。半分にした焼売が入っている。通常の焼売巻きと異なり俵形の形状をしている。これは足立区綾瀬の増田屋かまぼこ店と同じ形状だ。ほろほろに柔らかくなった焼売から肉汁が溢れ、練り物と混ざり合って美味しい。
話は逸れるが、今回取り皿を新調した。豊島区東長崎の小鹿田焼専門店、ソノモノさんで購入したものだ。顔馴染みなのでおみやげを差し入れしたのだが、お礼にオーガニックのスパークリングワインをプレゼントしてもらった。赤ワインベースで果実味があり、おでんとベストマッチだった。
丸佐かまぼこ店は素材や製法に対するこだわりはもちろんだが、気さくな店主がとても魅力的な名店だった。おでん種について詳しく教えていただいただけでなく、40年ほど前の品川区には何十も店舗があったことや、同業者で集まっておでん種の作り方を教えあっていたことなど色々お話を伺えた。雑誌やCMで有名になった北区赤羽の丸健水産の初代とはよく酒を酌み交わしていたそうで「先代の明るい性格が大好きだったなあ、二代目も頑張っているよね」と懐かしそうに語っていた。そのほか、店先で飼っているメダカを見ながら「もうすぐ啓蟄(けいちつ)だね」なんていう季節の話題を含めて、お話ししているととても幸せな気持ちになった。
仕込み中の白滝を巻きながら「うちは地元のお客さんのために頑張るだけだよ」と笑う店主に、尊敬と憧れの念を抱きつつ、いつまでもお元気で美味しいおでん種を作ってほしいと思った。
丸佐かまぼこ店(荏原中延)の基本情報
【2021年9月30日閉業】丸佐かまぼこ店
〒142-0053 東京都品川区中延1-8-15
03-3785-2339
定休日:日曜
営業時間:8:00~19:00(商品が並ぶのは昼頃から)