蒲眞(かましん)は、東京都品川区の東急池上線の荏原中延駅にあるおでん種専門店だ。当初はおでん種専門店として営業していたが、現在は飲食業がメインとなっている。テレビなどのメディアで何度も紹介されている荏原中延の有名店だ。
3つの商店街で賑わう荏原中延駅
東急池上線の荏原中延駅は、お隣の戸越銀座駅前に負けず劣らず魅力的な商店街が集まる街だ。北側にサンモールえばら商店街、南側に中延商店街(なかのぶスキップロード商店街)、そして西側には昭和通り商店街があって、買い物客で賑わっている。
サンモールえばら商店街をさらに北上した中一商店街には、丸佐かまぼこ店というおでん種専門店もある。品川区には荏原中延を中心に、現役のおでん種やさんが3軒ほど存在している。
名前の通り、昭和の風情を残す昭和通り商店街。焼売専門店の丸田商店があることでも有名だ。今回紹介する蒲眞(かましん)は、昭和通り商店街のアーチの手前にある。
居酒屋も経営するおでん種専門店、蒲眞
蒲眞(かましん)はおでん種専門店として営業していたが、現在は飲食業がメインとなっている。テレビなどの取材も多く、地元客を中心に連日賑っている有名店だ。
初代店主がおでん種(蒲鉾)職人のため、お店で提供する揚げ蒲鉾はすべて手作りだ。焼き鳥などのメニューも好評だが、おでんを求めにやってくる常連も多い。初代店主、初代の奥さま、2代目となる息子さんが協力してお店を盛り上げている。
初代は恵比寿の蒲鉾屋(渋谷区恵比寿1-7-8にあった蒲岩商店か)で10年ほど修行をしたあと、昭和45年(1970年)に蒲眞を創業し、飲食業は20年前(1999年ごろ)に始めた。
居酒屋の営業は午後5時からだが、店頭のできたておでんはその前から購入できる。全部で13種類ほどあるが、お持ち帰りセット(大根、こんにゃく、ちくわぶ、たまご、さつまあげ)もある。たっぷり透き通ったおでん汁がとっても美味しそうだ。
通常のおでん種は練り物が7種類ほど、ほかのおでん種はもち入り巾着や昆布、はんぺんや焼きちくわなどが並ぶ。以前はもっと多くのおでん種を作っていたが、納得のいく魚が手に入りにくくなったため数を減らしているそうだ。
おでんはもちろん炭火の焼き物も美味い!夜の蒲眞
夜のとばりがおりて、昭和通り商店街のアーチも美しくネオンが灯った。お店で提供するおでんも食べてみたかったので、午後5時の開店を待って蒲眞へふたたび訪れた。
店内はカウンターとテーブル席がある。約20席のほとんどが予約で埋まっていたが、開店直後なら予約なしでも大丈夫だった。
メニューが豊富でお酒も充実している。肝心のおでんは盛り合わせのほかに単品のものが揃い、魚のすり身の巻物も種類が多い。
まずはビールと焼き物を頼んでみる。定番のレバーとねぎ間、つくねをチョイスしてみた。炭火で焼いていることだけあり、香りがとてもよく、肉のうまみがしっかり出ている。これだけでビールが何杯もいけそうだ。焼き物は2代目店主が担当している。
お店の雰囲気に馴染んできたので、本命のおでんの盛り合わせを注文する。鰹出汁がしっかりと効いたおでん汁がそれぞれのおでん種にじっくり染みている。口に入れるとほうっと心がゆるやかにほぐれていく。おでんやさつま揚げは初代店主の担当だ。
店先にあったおでん鍋をのぞくと、いい感じに仕上がっていた。もちろんお昼と同じ状態ではあるのだが、夜に見ると一段と美味しそうに見えるのはなぜだろう。
巻物のなかからピーマンと、なすのはさみ揚げをオーダーしてみた。注文が入ってから揚げるので、すり身はほくほく、野菜もじんわりうまみがにじみ出てくる。蒲眞の魚のすり身はおでんとしてだけではなく、こうやって生姜と一緒に食べても美味しい。
外の焼き台でお仕事をしている2代目店主のほうを見ると、なにやらメニューにないものを作っている。枝豆を丁寧にアルミホイルで包み込み、炭火で焼いたものだった。オーダーすると大正解。枝豆の甘い香りが辺りに漂い、口に含むとほどよい新鮮な歯ざわり。ゆでたものより何倍も美味しかった。
初代店主におでんについていろいろ話を伺っていると、2代目店主が「ぜひこれも食べてみて」とはんぺんを焼いてくれた。嘉平屋の菊水を使用しているが、焼くことではんぺんの甘みがしっかり出て美味しいのだという。2代目は綺麗な焼き色をつけるために慎重に作業されていた。
できあがった焼きはんぺんがこちら。盛り付けが美しく、わさび醤油の器もお洒落だ。直接手でつかんでディップしながらいただく。2代目店主は元々イタリアンのコックだったとおっしゃっていて、納得してしまった。「菊水ならこの食べ方がおすすめ」という2代目の言葉通り、焼き色のついた部分に魚の香りがして美味しかった。中もふわふわの熱々で、病みつきになりそうだ。この焼きはんぺんを見た常連さんも思わず注文していた。
熟練の技を感じる蒲眞のおでん種
夜の蒲眞で美味しい料理とお酒を堪能したあとは、家でおでんの調理をする。
蒲眞では8種類のおでん種を購入した。じっくり揚げられた褐色の美しい色合いが素晴らしい。
左の上からシューマイ巻、ウインナー巻、ごぼう巻、ギョーザ巻、右の上からさつまあげ、ショウガ天、玉子巻。このほかにはんぺんも購入。
大根やちくわぶを丁寧に下ゆでして、温める程度に練り物のおでん種を投入する。ほかほかで美味しそうなおでんの完成だ。
蒲眞の魚のすり身は安易にふわふわにはせず、適度な弾力を残しながらも柔らかい。魚のうまみがじわっと広がり、初代店主の熟練の技を感じる。
さつまあげは具材がなにも入っていないので、魚のすり身の味をじゅうぶんに堪能できる。ひと口ごとにじんわりうまみが広がる。
ショウガ天は扇状の形に整えた魚のすり身に紅生姜を加えたおでん種だ。非常にオーソドックスだが、逆にすり身の美味さが強調される。
玉子巻はいわゆるバクダンと呼ばれるおでん種。断面に現れる玉子の黄身が美しい。とてもボリュームがあるので、誰かと半分に分けてもいいだろう。
じんわりと魚のうまみが広がる蒲眞のおでん種に唸りつつ、後半は巻き物系のおでん種を食べていくことにする。変わり種はほとんどないが、かえってそれが蒲眞の熟練技を堪能できる。
ごぼう巻は通常ごぼうが1本入っているが、蒲眞のものは2本入っている。このことで歯ざわりや味の広がりが増して、ごぼうの美味しさを思う存分味わえる。
ウインナー巻もごぼう巻に並ぶ定番のおでん種だ。子どものころに喜んで食べたウインナーの懐かしい味わいが思い出とともに広がる。
蒲眞のシューマイ巻は棒状になっている。ぎっしりと詰まった挽肉のうまみがなんともいえない。こちらもけっこうボリュームがある。
大ぶりのギョーザ巻は餃子の皮がワンタンのように柔らかくなって美味しい。にらやニンニクなどのクセは少なめで、子どもでも安心して食べられる。
ご家族の作り出す味に惹かれ、常連客で賑わう蒲眞
蒲眞の店内には大きな木製の看板がかけられている。屋号を確認すると「蒲貞」とあり、同じ品川区の不動前駅にあった「江戸一蒲貞商店」(閉業、品川区西五反田4-29-10)のものだと分かった。
蒲貞が閉業する際に「ぜひ飾ってほしい」と頼まれたそうだ。現在東京に3店舗ある大国屋や、5店舗ある増田屋のルーツとも呼ぶべき芝公園の大国屋の屋号や、高円寺の愛川屋、中野の九州屋など、そうそうたる顔ぶれだ。昭和30年に作られたもので、東京のおでん種やさんの歴史を知ることができる希少な品だ。
夏季はおでん種の販売はしていなかったので何度か足を運んで様子を見に行ったのだが、その度に初代店主の奥さまがお相手をしてくださった。とても優しい方で、彼女の人柄を慕うお客さんも多いのだろう。
初代店主は筆者のマニアックな質問攻めにも丁寧に答えていただき、2代目店主には筆者が練り物好きということを知って、メニューにない品を作っていただいた。このご家族のあたたかな雰囲気に引き寄せられ、顔なじみの常連さんが老若男女問わず訪れていた。また、常連さんにもやさしく声をかけていただき、まるで実家にいるようなほっこりした気分になった。
自家製のおでん種づくりは初代で最後だそうだが、蒲眞は末長く愛される名店で間違いない。
蒲眞(かましん)の基本情報
蒲眞(かましん)
〒142-0053 東京都品川区中延2-15-16
03-3782-2591
定休日:日曜
営業時間:平日17:00〜22:00(ラストオーダー)、祝日17:00〜21:00(ラストオーダー)
おでん種販売は12:00以降、夏季お休み