おでんのからしの美味しい食べ方

おでんとからしはとても相性がよい。ご当地おでんブームによって、いろんな薬味や調味料などと一緒に食べるのが流行しているが、なんといってもおでんにからしは王道なのだ。今回は、美味しいからしの選び方や調理方法について紹介したいと思う。

おでんにからしは王道中の王道

以前、メディアの取材を受けたとき、「おでんにつけると美味しい薬味や調味料などを教えてほしい」という質問を受けた。筆者は迷わず「からし」と答えたが、インタビュアーの方は「富山おでんのとろろ昆布とか、福岡おでんの明太子とか、もっと意外性のあるものはないでしょうか?」と返してきた。おそらく話題性のある、視聴者の反応を期待した質問だったのだろう。

たしかに「おでんにからし」というのは定番すぎて、メディアとしては平凡すぎる。このときは小田原おでんの梅味噌などを紹介したが、やっぱり近代おでんの発祥地である東京のおでんにはからしがいちばん合う、王道中の王道なのだ。東京のおでん屋さんやおでん種専門店では、実際どの店も必ずからしが添えてある。

東京都中央区日本橋人形町:美奈福の辛子
日本橋の美奈福の持ち帰りおでんについてくる練りからし

いつからおでんにからしをつけるようになったのか、その歴史は定かではない。一説によると、屋台で食中毒が発生した際に殺菌作用のあるからしを用いるようになったといわれているようだ。

日本では古くからからしを料理に用いてきた。平安時代に編纂された延喜式には芥子(からし)の記載があり、原料となるカラシナが日本に伝来したのは弥生時代からといわれている。

東京都中央区日本橋人形町:美奈福のおでん
しっかりと味の染みた美奈福のおでん。からしをたっぷりつけて味わいたい

からしには和からしと洋からしがある。和からしはカラシナの種子を粉末にして、水やぬるま湯で練って作る。粉末にする際は種子に含まれた油を脱脂してから製粉するそうだ。一方、洋からしはカラシナとは別種のシロガラシが原料となり、水や酢、砂糖などを加えて練り上げたものだ。

おでんを美味しく食べるなら、粉からしがおすすめ

一般的にはチューブの練りからしが支持されているが、粉末状のからしのほうが断然美味しい。粉からしは水やぬるま湯に溶いて使うため若干手間がかかるが、ツンとした香りと辛さがチューブのものと比べて段違いで、病みつきになるのは間違いない。

粉からし

チューブの練りからしは、辛みの揮発性を抑えるために油脂やキサンタンなどの増粘剤や、香料を別に加える。一方、粉からしは原料のほとんどがからしで、そのほかはウコンなどの着色料、酸化防止剤のビタミンCが入る程度なので、からし本来の香りと辛みを楽しめるのは当然だ。また、食べるその場で練りあげるので、とてもフレッシュなのだ。

東京のおでん専門店の定番、チヨダのからし

東京のおでん種専門店が取り扱っているのはチューブの練りからしが多いが、粉からしを揃えているお店もある。粉からしは、ほとんどがチヨダのものだ。

東京のおでん種専門店のチヨダ洋からし
幡ヶ谷の大国屋(2019年12月閉業)で売られていたチヨダの洋からし。その隣もチヨダの顆粒おでん汁だ

チヨダは大正6年(1917年)創業、埼玉県戸田市に本社がある企業だ。からし粉を中心とした穀粉の製造に始まり、現在では香辛料はもとより、各種たれや調味料など幅広く展開している。おでん好きとしては、顆粒のおでん汁「おでんの味」でおなじみの会社でもある。

埼玉県戸田市上戸田:チヨダ和からし

チヨダのからしは2種類ある。上の写真は和からしで、おでんやとんかつなどの和食によく合う。昔ながらの書体と版画調のデザインが印象的なパッケージだ。Webサイトの説明によると「からしの種子をめの粗い粉状にすることで、からし本来の辛さと香りを風味豊かに味わえる」とのことだ。

埼玉県戸田市上戸田:チヨダ洋からし

東京のおでん種専門店でよく販売されているのは、和からしよりも洋からしが多い。チヨダの洋からしは前述の洋からしの定義とは異なり、和からしと同じ原料を使っている。きめ細やかな粉状にすることで、なめらかな口当たりを実現しているそうだ。

中央区日本橋:神茂のおでんに付いてきたチヨダのからし

日本橋の神茂では、おでん種を購入するとチヨダの洋からしをサービスでつけてくれる。チヨダのからしは老舗にも認められているのだ。ちなみに、チヨダのWebサイトにはお客様の声として赤羽のおでん種専門店の丸健水産が紹介されている。

S&B:からし

粉からしはほかにS&Bのものがあり、こちらは大手スーパーなどで比較的手に入りやすい。さらに、より本格的なからしを追い求めるなら、福井県の麩市(ふいち)の地からしをチョイスしてみるのもいいだろう。通常の脱脂する製粉とは異なり、独自の秘伝製法でからしの油分も丸ごと粗挽きしているのだそうだ。

粉からしの美味しい溶き方

それでは、粉からしの練り方を紹介しよう。といっても、たいしてノウハウは必要ない。粉からしを必要なだけ小皿に取り出し、ぬるま湯を加えてよくかき混ぜる。一度にお湯を入れるとヒタヒタになって辛みがあまり感じられなくなるので、すこしずつ入れることを心がけよう。ある程度まとまったらラップをして10分ほど置き、さらにぬるま湯を加えて好みの柔らかさに整える。

粉からし

東京おでんだねの筆者としては、じつは上写真のようにヒタヒタの方が好きだ。おでん汁との絡み具合もとてもいい塩梅になる。このあたりは好みでいろいろと試してみるのをおすすめする。

おでんにからしは定番すぎて面白味がないのかもしれないが、だからこそ奥行きがあって楽しみがいがあるものだと思う。まろやかな出汁のおでん汁、豊かな味わいのおでん種、日本酒や焼酎などの酒類、そしてツーンと辛いからし。定番ながら、この組み合わせはやはり王道なのである。とりわけ粉からしを使うと美味しさが何倍にも膨れ上がるので、おでん種専門店や大手スーパーなどで探してみてほしい。なお、チヨダのからしはチヨダのオンラインショップでも販売しているので、ぜひ利用してみてほしい。

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