おでん汁は、美味しいおでんを作るときに欠かせない要素だ。しかし、出汁から丁寧に作ろうとするとかなりの手間や時間がかかってしまう。今回は、手軽に利用できるおでん汁の素を紹介したいと思う。
「おでんの命は出汁」というおでん屋さんは多い。鰹節や昆布の産地にこだわり、おでん汁を長年継ぎ足し育てて、他店では真似できない味を作り出す。日本橋のお多幸本店は移転の際、おでん汁を運ぶためにマグロ屋さんに頼んで冷凍車を借りたという逸話もある。
家庭でも同じようにおでん汁にこだわりたいところだが、費用も時間もかかってしまう。手軽に楽しむなら、市販されているおでん汁の素を使うのがいちばんだ。
東京のおでん種専門店では、必ずといっていいほどおでん汁の素が売られている。おでん種を選んだら、ついでにおでん汁の素も購入しておくといいだろう。保存もきくし、思い立ったときにおでんを作ることができる。
東京のおでん種専門店ではチヨダの「おでんの味」と正田醤油の「おでん汁」が二大巨塔で、必ずといっていいほど店先に並んでいる。両方を取り揃えているお店も多い。
チヨダのおでんの味
まずは東京のおでん種専門店でもっとも多く売られているチヨダの「おでんの味」を紹介しよう。
チヨダは前回記事の「おでんのからしの美味しい食べ方」に登場した、からしを製造販売している会社だ。東京のおでん種専門店では、からし以上にこの「おでんの味」が売られている。
カツオと昆布の出汁がきいた醤油ベースのスタンダードな味付けだが、この味で育ってきた人にとっては懐かしい家庭の味として支持を得ている。甘みは少ないが、巷では関東風の味付けと言われている。
顆粒なので保存しやすく、分量が調節しやすい。おでん種専門店では1食分を小分けにして売っていたり、おでん種を買ったときのサービスでつけてくれるお店もある。
チヨダのおでんの味を扱っているお店は、大谷口北町の蒲吉商店、東尾久の九州屋蒲鉾店、東新小岩の桧山水産、堀ノ内の丸佐(〇佐、まるさ)かまぼこ店などだ。詳しくは、チヨダのタグでご確認いただきたい。
正田醤油のおでん汁
チヨダに並んでポピュラーなのが、正田醤油の「おでん汁」だ。こちらは液状となっていて、希釈して使う。
正田醤油は明治6年(1873年)創業、千葉県館林に本社がある老舗企業だ。上皇后美智子さまのご実家(日清製粉の創業家として有名)の本家筋にあたる。ある情報によると正田醤油のおでん汁は葛飾区小菅にあった綾瀬食品工業(東京都葛飾区小菅2-2-5)という会社が販売していたらしいが、正田醤油に統合されたようだ。
深川の美好の店主いわく「関西風の薄口で上品な味」で、チヨダに並んでファンが多い。本醸造の醤油ベースで、混合ぶし、醸造酢、そのほかに鰹節や椎茸、昆布のエキスなどが入っている。
正田醤油のおでん汁でちょっと面白いのが希釈の説明。「540mlの水に35mlの割で御使用下さい」と記載されているが、微妙に割り切れない(15.4倍程度)。少しずつ足しながら味を見たほうがよさそうだ(なお、小瓶に記載の説明のみ。大瓶はおでん汁1に対して16〜18倍という指定になっている)。
正田醤油のおでん汁を扱っているお店は、深川の美好商店、佃忠の各店、麻布十番の福島屋などだ。詳しくは正田醤油のタグでご確認いただきたい。
チヨダと正田醤油のほかに、よく見かけるのはS&Bの「おでんの素」。スーパーなど量販店で見かけることが多い。チヨダと同じく顆粒のため扱いやすく、味は平均的ながらも十分美味しい。化学調味料に抵抗がなければ、これらの商品を使ったほうが手軽で美味しいおでんを楽しめるだろう。
手軽にコクを出すなら隠し味にオイスターソース
東京おでんだねの筆者が最近よく使っている組み合わせは、白だしとオイスターソース。オイスターソースを入れると牡蠣のうまみが広がって、おでん汁にほどよいコクを生み出すことができる。
この技はWeb界隈では有名で、著名な料理研究家もおすすめしているポピュラーなものだ。上記のおでん汁の素に加えても同じ効果が得られるので、時短で美味しいおでん汁を楽しみたい方はお試しあれ。
おでん種専門店オリジナルのおでん汁の素
ここまでは市販のおでん汁の素を紹介したが、おでん種専門店オリジナルのものも紹介しておこう。
立石の増田屋では店頭販売のできたておでんに使用しているおでん汁の素を販売している。鰹と昆布の合わせ出汁で、そのほかに砂糖や醤油などを加えたシンプルなものだそうだが、市販のものに比べて出汁のうまみがよく出ている。おひたしや蕎麦つゆなど、おでん以外にも使えるため一度に10本ほど買っていくファンもいるそうだ。30倍に薄めて使おう。
京島の大国屋で販売しているおでん汁は、北海道昆布と鰹節の濃縮和風だしで、1瓶200cc。8倍から10倍に希釈して使うが、味を見て加減しながら加えていくといいだろう。
このほかにオリジナルのおでん汁の素を販売しているのは、東向島の八幡屋、日本橋の神茂、吉祥寺の塚田水産などだ。神茂と塚田水産は綺麗にパッケージ化された瓶に入っている。
2020年3月に閉業した東池袋の栄屋蒲鉾店では、おでん汁をビニール袋に入れて提供してくれていた。そのまま鍋に投入できるため、お手軽でありながら本格的な味を楽しめた。
おでん汁の素はおでん種専門店だけではなく、老舗のおでん屋さんでも提供している。日本橋のお多幸本店ではおでんをお持ち帰りすると、オリジナルのおでん汁の素をつけてくれる。水で希釈するので、何回かに分けて利用できる。味はお多幸本店らしく、深い甘みとコクがある。これを利用してとうめしを作るのもいいだろう。
今回紹介したもののほかに、さまざまなメーカーからおでん汁の素が販売されている。たとえば、久原本家の茅乃舎では国産の素材を使ったこだわりのおでん出汁とつゆが手に入る。すでにいくつか試しているので、次回以降に紹介できればと思う。また、出汁取りからはじめるおでん汁の本格的な作り方なども紹介していきたい。