ソノモノさん家のおでん

豊島区東長崎にある「小鹿田焼ソノモノ」は、全国の多くのファンに愛されている小鹿田焼(おんたやき)の専門店だ。今回は店主のくれまつさんのお宅にお邪魔して、夏野菜をふんだんに使ったおでんをご馳走になった。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

おでんはおでん種専門店のような売り手だけでなく、買い手となるお客さんの創意工夫によってさまざまな個性が生まれる。それぞれの家で作るおでんはどのようなものなのか、東京おでんだねではいつか記事にしてみたいと思っていた。

そんななか、いつも小鹿田焼のうつわを購入している「小鹿田焼ソノモノ」の店主くれまつさんのお宅でおでんを作っていただく機会が得られた。Instagram(@sono_mono)で素敵な料理を紹介しているくれまつさんの作るおでんはどのようなものなのか、わくわくしながら訪問した。

小鹿田焼専門店「小鹿田焼ソノモノ」

小鹿田焼は大分県日田市北部の源栄町皿山という場所で作られている陶器で、宝栄2年(1705年)から続いている。飛び鉋(かんな)、刷毛目(はけめ)、櫛描き(くしがき)の表現技法が有名で、現在は若い世代にも人気が高い。

東京都豊島区長崎:小鹿田焼ソノモノ

豊島区東長崎にある「小鹿田焼ソノモノ」は皿山に存在する9軒の窯元すべての器を扱っており、東京だけでなく全国からファンが詰めかける人気店だ。店主のくれまつさんとは猫好き仲間として仲良くなったが、民藝への深い造詣と個性あふれるライフスタイルに惹かれ、さまざまな影響を受けている。

魅力的な器と飼い猫ネロがお出迎え

待ち合わせはお店がクローズする18時。店舗に向かうと、くれまつさんがいつもの調子で迎えてくれた。談笑しながら閉店の作業をすこし手伝ったが、思わず小鹿田焼の器を手に取り購入してしまう。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅のネロ

お店を閉めてからくれまつさんとともにご自宅に向かい、玄関のドアの鍵を開けると飼い猫のネロが走って迎えてくれた。昨年沖縄で生まれた拾い猫で、白い口元と不揃いに履いた足袋がチャーミングな男の子だ。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅のネロ

人見知りしない性格で、なぜかショートパンツから覗く筆者の膝をぺろぺろと舐める。大きな瞳をくりくりとさせながら元気いっぱいに駆ける姿は非常に愛らしい。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅のネロ

くれまつさんはネロを実の息子のように愛情いっぱいに育てている。奔放ながらも母に迷惑をかけすぎないネロ、彼をたしめながらも自由にさせるくれまつさん、信頼し合うふたりの姿を見ているときゅんとしてしまう。彼の成長はInstagramの「#このこネロ」で楽しめる。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅

ネロと遊びながらお宅を拝見すると、壁一面の食器棚に膨大な器が並んでいた。そのままお店としてオープンしてもおかしくないくらい、魅力的なものばかりだ。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅

小鹿田焼はもちろん、やちむんや沖縄ガラス、海外の器まで多くの種類がある。棚を眺めているだけで何時間も過ごせそうだ。納戸には大きな器も置いてある。どれもこだわりがありながら統一感があり、部屋の雰囲気に馴染んでいる。それぞれがどのような経緯でやってきたのか、ドラマを想像するのが面白かった。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅

ベランダにはゴーヤやミョウガなど多くの植物が育てられており、部屋から眺めると海外にいるような情緒ある風景を楽しめる。ネロはこのベランダをパトロールするのが日課となっているようだ。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅

テーブルには、ベランダの柵で傷ついたゴーヤが置かれていた。「ネロのパトロールに邪魔だった」から取り除いたのだという。なにげない日常の出来事でも、くれまつさんの家では美しいオブジェになる。

呼吸をするように自然なくれまつさんの料理術

筆者たちがネロと遊んでいるころ、くれまつさんは台所で調理をはじめた。お店に出る前に仕込んだ夏野菜と大根を大きなお皿に手際よく盛り付けていく。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

この会合の前日、くれまつさんはパスタソースがあるのでイタリアンにすることを想定していたが、筆者が「記事にもできるので」とおでんをリクエストした。急遽の変更であったが、そのようなハプニングを微塵も感じさせないほど、彼女は呼吸をするように自然に調理を進めていく。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

揚げ蒲鉾のおでん種は筆者が持ち寄った。豊島区つながりということで、西武池袋本店にある佃忠で購入した。「変わり種を」というオーダーだったので、パプリカなど西洋の野菜が入った彩り野菜揚と、合わせやすい平天の揚げ蒲鉾を数種類用意した。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

大皿のほかに、串おでんも用意していただいた。群馬の青のり入り刺身こんにゃくとミョウガ、くれまつさんのお姉さまが栽培したトマトを串に刺す。この会合は前日に決めたものなのに、さっと献立を用意する彼女の手際に惚れぼれする。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

夏野菜の盛りつけも完了し、あとは揚げ蒲鉾が仕上がるのを待つのみとなった。正直、これだけでもじゅうぶん美味しそう。大皿は尺1寸皿と呼ばれる直径30センチ以上のもの。料理もたっぷりのせられるが、お皿の美しい柄が隠れることがないのでひとつは手に入れたい。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

おでん以外の品もあっという間にできあがってしまった。こちらはゴーヤと人参を和えたもの。小鹿田焼の器が自然に生活に溶け込んでいる素敵な光景だ。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

すべての品が完成し、食卓に美しく並ぶ。夏の野菜をふんだんに使ったくれまつさんのおでんが完成。これだけの料理を念入りな下準備もなく、さっと作ってしまう彼女の腕前とセンスは相当なものだ。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

大皿のおでんは、ヌクマムで煮たミニトマト、ナス、三尺インゲン(三尺ささげ)、大根と揚げ蒲鉾。大根はごま油で炒めてから煮たそうだ。爽やかな彩りながら、渋みのある表情が美しい逸品となった。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

大根のほか、夏野菜すべてが柔らかく、味がしっかり染みている。それでいて、それぞれの野菜のうまみが感じられる。ヌクマムベースのおでんは初体験だったが、独特の匂いはなく和の雰囲気さえ感じる。むしろ通常のおでん汁よりさっぱりしていたので夏おでんにはぴったりだと思う。揚げ蒲鉾との相性も抜群で、練りからしを付けるとさらに美味しい。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

串おでんは、出汁に漬けたミニトマト、甘酢のミョウガ、厚めに切った刺身こんにゃく。こちらも夏にぴったりの爽やかな味で、見た目もとても可愛らしい。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

ぎゅっと詰まった野菜のうまみと甘酢の酸味が素晴らしい。野菜はくれまつさんやお姉さまが栽培したものだったり、オークションサイトで手に入れたり、道端で野生化したものを収穫することもある。常識にとらわれず、自由な発想で美味しいものを見つける姿勢には学ぶところが多い。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん家のおでん

おでんのほかにもミョウガとらっきょう漬け、ゴーヤと人参を和えたものも出していただいた。どれも蒸し暑い夏にぴったりで、爽やかな食事のひとときを楽しむことができた。

小鹿田焼ソノモノ:くれまつさん宅

おでんは地方によってさまざまな調理方法がありながら、鍋料理という画一的なイメージがあるだろう。しかし、くれまつさんにかかれば旬野菜に彩られた個性的な料理になる。そして、器やラグマットなどの民藝品や、愛嬌のあるネロに囲まれたご自宅の雰囲気とぴったり合っている。肩肘張らずにご自身の心地よい生活を創造する姿勢は、とても素敵だと思った。

東京おでんだねでは、おでんにまつわるエピソードや料理を紹介していただける方を募集しています。「お問い合わせ」ページかSNS(TwitterInstagramFacebook)でお知らせください。

小鹿田焼ソノモノの基本情報

小鹿田焼ソノモノ
〒171-0051 東京都豊島区長崎4-25-7
03-3958-5231
定休日:日曜
営業時間:11:00~18:30
小鹿田焼ソノモノのWebサイト
小鹿田焼ソノモノのInstagram

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