【2024年3月閉業】佃忠(池袋)のおでん種

佃忠(池袋)は東京都豊島区池袋の西武池袋本店にあるおでん種専門店だ。都内に4軒ある佃忠(つくちゅう)のうちの1つで、亀有店の店主の息子さんが経営している。豊富な種類のおでん種に加え、店頭でできたておでんも販売している。

池袋の象徴的存在の西武池袋本店

新宿、渋谷とならび東京副都心として発展する池袋。西武池袋本店はその中心となる象徴的な存在だ。

東京都豊島区池袋:西武池袋本店

筆者は池袋と深い関わり合いがあり、生まれたころから今までずっと池袋で過ごしている。池袋を愛する人間にとって西武池袋本店は特別の存在で、憧れを抱くとともに誇りに感じていると個人的には思っている。

かつて西武はセゾングループとして伊勢丹以上に時代の最先端を突き進んでいた。オーディオビジュアルソフトを販売するWAVE、雑貨を販売するロフトなど画期的な店舗をいくつも生み出している。それらの店舗は渋谷や六本木などおしゃれな地域に展開していたが、その本拠地は西武池袋本店なのだ。のちにWAVE、ロフト、リブロ、イルムス、パルコ、そしてセゾン美術館などが池袋に集結したが、それが池袋民の誇りとなっていた。

現在はセゾングループの分裂や百貨店神話の崩壊によってかつての勢いはなくなりつつあるが、池袋に住む人々にとって西武池袋本店への気持ちは変わらず生き続けている。

西武にある池袋の有名店、かるかやと母家

今回紹介する佃忠(池袋)は西武池袋本店のなかにある。本館南地下1階西武食品館の「おかず市場」という食品売り場で営業しているが、佃忠(池袋)を紹介する前にほかの注目店にも触れてみたいと思う。

佃忠(池袋)の正面右側にあるのは手打うどんのかるかやだ。昭和42年(1967年)に西武池袋本店で創業し、手打ちうどんと蕎麦を販売している。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:かるかやうどん

かるかやは西武池袋本店の屋上でも営業しており、地下1階よりもこちらのほうが有名だ。昭和43年(1968年)から営業している。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店屋上:かるかや

お昼時になるとお店の前には長蛇の列ができるが、手際のよい店員さんのおかげで待たされることはない。屋上は昭和のにおいを感じさせるのんびりとした空間だったが、2015年に「食と緑の空中庭園」としておしゃれな場所に生まれ変わった。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店屋上:食と緑の空中庭園

かつて営業していたお好み焼きやソフトクリームを扱うお店が消え、おしゃれでグルメなお店が多数オープンするなか、かるかやだけは同じ場所、同じ暖簾のまま営業を続けている。しかし、新しいお店よりもかるかやのほうが繁盛しているのは痛快だ。これはリーズナブルな価格と提供スピード、そして味が理由だと思う。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店屋上:かるかやうどん

かるかやは「孤独のグルメ」でも紹介されており、うどん通と池袋民にはおなじみだ。筆者も子どものころはもちろん、大学が早めに終わったあと(日芸だったので近い)や雑司が谷で働いていたときに昼休みにわざわざ屋上まで上がって食べにきていた。

手打ちのうどんはもちもちしており、煮干しと昆布で出汁をとったつゆは薄口で味わい深い。青空の下で食べる打ち立てのうどんは格別だが、お店の人たちは毎日ぐらぐらと煮立つ釜の前で調理をしている。夏場は汗だくで大変そうで、冬もかじかむほど寒いのだろう。50年以上も同じ味を楽しめることに感謝である。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:やきとり 母家

さらにもう1軒紹介したい。佃忠(池袋)の並びにある焼き鳥やさん「やきとり 母家」もおすすめだ。母家は昭和50年(1975年)創業で、南池袋に本店がある。

東京都豊島区南池袋:やきとり 母家

本店のあるビルに描かれた壁画がすばらしいが、お店のなかはこじんまりとしていて早めに行ってもすぐに満席になってしまう。備長炭で焼き、創業当時からの継ぎ足しのたれをつけた焼き鳥は絶品だ。西武の地下で買うのもいいが、予約をすれば確実に入れるので南池袋まで足をのばして焼きたてのものをぜひ試してもらいたい。

亀有店主の息子さんが経営する佃忠(池袋)

佃忠は初代が日本橋にあった「佃新」から独立して営業をはじめ、戦後になってから葛飾区の亀有に移転した。そして、二代目の息子である三兄弟はそれぞれ亀有、向島、田端で店を持つことになる。西武池袋本店の店主は亀有の店主の息子さんで、2010年3月26日にオープンした。株式会社そごう・西武のプレスリリースによると、佃忠としては百貨店初出店となる。親子の関係なので、亀有店の店主はたまに池袋に手伝いにくるという。
三兄弟の長男が店主の亀有店、次男が店主の向島店、三男が店主の田端店もすでに訪問済みなので、ぜひ記事をご覧いただきたい。

百貨店内の店舗なので撮影はできなかったが、できたておでんも店頭販売している。なかでも人気なのがトマトをまるごと煮込んだおでん種。タイミングをみていかないと購入できないので注意が必要だ。

できたておでんに関しては「佃忠(池袋)のできたておでん」という記事で紹介しているので、詳細はそちらをご覧いただきたい。

焼きちくわはイゲタ沼田焼竹輪工場、はんぺんは銚子の嘉平屋の菊水、白滝とちくわぶは向島の柳澤商店、なると巻は静岡県焼津のサスウ篠宮商店、からしはチヨダの洋からし、おでん汁は正田醤油(綾瀬)のものだった。

佃忠(池袋)のおでん種

佃忠(池袋)で購入したのは15種類。彩り華やか、変わり種も豊富だ。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種

時計回りに12時から、きゃべつ揚、青しそ揚、彩り野菜揚、いか天、玉ねぎ揚、コーン揚、えだ豆揚、紅しょうが揚、からし揚、にら揚、長ねぎ揚、ぎんなん巻(中央左)、ぎょうざ巻(中央右)、うずら巻(中央下)。このほかにがんもも購入した。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん

いつものように調理を開始。大根、玉子、白滝やこんにゃくを先に煮てから練り物のおでん種を投入する。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種

佃忠(池袋)の練り物はふわりとしていながら適度な弾力があり優しい味わいだ。さすが親子だけあり、亀有店のものにかぎりなく近い。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 きゃべつ揚

きゃべつ揚はおでん種にはめずらしいキャベツが入っている。刻んだキャベツのほかに紅生姜、長ネギの組み合わせになっており、甘みがありながらもきちんとアクセントのきいた味になっている。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 にら揚

きゃべつ揚に似ているが、こちらはニラを主役にしたにら揚だ。ニラの独特の風味が効いていてとても美味しく、紅生姜がほどよくニラの臭みをやわらげてくれる。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 紅しょうが揚

紅しょうが揚は紅生姜のみのシンプルなおでん種だが、紅生姜によって魚のすり身のうまみが引き立って、そのクオリティの高さを感じることができる。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 いか天

いか天も刻んだイカが入っているだけだが、かえってほかの具材に邪魔されずにイカ本来の美味しさが伝わってくる。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種

佃忠(池袋)のおでん種にはまだまだ創意工夫を凝らした変わり種が存在する。順を追って味わっていこう。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 彩り野菜揚

彩り野菜揚はパプリカ、ズッキーニ、エリンギが入ったおでん種。パプリカを入れると一気に洋風の味になるから不思議だ。この新しい味は若い方や女性にもおすすめで、さすが百貨店内に店を構えているのだなと感心してしまう。彩りもとても美しい。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 長ねぎ揚

おでん種において長ネギは脇役の存在だが、こちらは長ネギを主役にした長ねぎ揚だ。具材が長ネギだけなので、香りが強くてとても美味しい。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 青しそ揚

青しそ揚は香りがよく出るように、青紫蘇を細かく刻んで混ぜ込んでいる。風味がすがすがしく、口をさっぱりさせたいときにおすすめだ。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 うずら巻

うずら巻は側面をきつね色に揚げ、中心は浅く揚げて白くしている。見た目がとても上品で、鍋に入れたときに美しく引き立つ。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 がんも

がんもはふっくらボリュームがありシュークリームのようだ。おでん汁を適度に吸いながらも豆腐のうまみをたっぷり残している。佃忠(池袋)の手作りではないが吟味して仕入れてきたものだとわかる。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種

巻物のおでん種も充実しており、チーズ巻やごぼう巻など定番のものが揃っている。今回はぎんなん巻とぎょうざ巻をチョイスした。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 ぎんなん巻

季節もののおでん種の代表であるぎんなん巻は、そろそろ食べられなくなるだろう。魚のすり身に銀杏が3つほど入っており、粒は大きめ。独特の苦味が大人の舌を満足させる。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 ぎょうざ巻

ぎょうざ巻は餃子の両端が魚のすり身から顔を出している。挽肉に混ぜ込んだ野菜のなかには、どうやらタケノコが入っている。適度な噛み心地がよいアクセントになっている。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 玉ねぎ揚

玉ねぎ揚は佃忠の亀有店と色かたち、味わいが似ている。玉ねぎの甘みが魚のすり身と混ざり合い、ふくよかな味を作り出している。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種

最後は他の佃忠のお店でもおなじみのおでん種を紹介しよう。形状や味は、お店や店主の個性によってそれぞれ異なるのだろうか。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 からし揚

からし揚は黒ごま、長ネギ、人参、唐辛子が入っている。形状は他店に比べて大きく厚い。亀有店は黒ごまと唐辛子のみ、向島店は黒ごま、人参、もやし、唐辛子、田端店は黒ごま、長ネギ、人参、もやし、唐辛子だ。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 コーン揚

コーン揚は他の佃忠と同じく、たくさんの粒々コーンが入っている。コーンの甘みが強くてとても美味しい。

東京都豊島区池袋 西武池袋本店:佃忠(池袋)のおでん種 えだ豆揚

最後はえだ豆揚だ。こちらも枝豆がたくさん入っていて、爽やかな甘みが口中に広がる。佃忠は魚のすり身の作り方やおでん種のレシピ、形状など各店で異なるが、具材の仕入れは一緒に行なっているという。それでもこれだけ個性豊かなのは面白い。系列店、支店というより暖簾分けで独自に発展した結果だ。

おでん種専門店がなくなって久しい池袋の地に、亀有の名店である佃忠がやってきたのは嬉しいことだ。2010年のオープンなので今年で9年目だが、すでに池袋の定番のお店として定着している。かるかやや母家のような池袋の名店に肩を並べ、今後も美味しくて個性的なおでん種を提供してほしい。

【2024年3月閉業】佃忠(池袋)の基本情報

佃忠
〒171-8569 東京都豊島区南池袋1-28-1
西武池袋本店地下1階:西武食品館「おかず市場」内
03-3981-0111
定休日:不定休
営業時間:10:00~21:00(月〜土)、10:00〜20:00(日・祝休日)
西武池袋本店地下1階フロアガイド

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