台東区の谷中にある三陽食品は、手作りのところてんや寒天が地元民や観光客に愛されるこんにゃく専門店だ。今回は、三陽食品の白滝やこんにゃく、ちくわぶを紹介する。
こんにゃくの専門店は、東京でも数を減らしつつある非常に貴重な存在だ。創業からおよそ70年を誇る下町の老舗の味を、おでんで堪能しよう。
東京の寺町、「谷根千」で知られる台東区谷中
東京都台東区谷中。上野の隣にあり、江戸時代から行楽地として親しまれた地域だ。震災や戦争の被害が軽微だったことから古い建物が多く残り、鎌倉のような風情を漂わせる寺町だ。
谷中でもっとも有名なのは谷中ぎんざ(谷中銀座商店街)だ。昭和20年(1945年)頃に自然発生的に生まれ、いわゆる「谷根千」ブームによって人気を博し、東京屈指の観光スポットとなった。「夕やけだんだん」と呼ばれる階段状の坂には多くの野良猫が集まり人気を集めていたが、新築マンションの建設によってその姿を見ることは少なくなった。
TVなど多くのメディアに取り上げられおり、肉のサトーが提供する谷中メンチなど散策をしながら楽しめるお惣菜が名物として人気を博している。
東京おでんだねの筆者は30年以上前(中学時代)から、彫塑家である朝倉文夫の自宅を利用した朝倉彫塑館や谷中霊園などを頻繁に訪れていた。朝倉彫塑館は和洋折衷の建物が素晴らしいが、猫好きには朝倉文夫が愛した猫たちの彫刻も鑑賞していただきたいおすすめのスポットだ。
今回訪れる三陽食品は谷中ぎんざを西に進んだ先のよみせ通り(よみせ通り商栄会)にある。よみせ通りには谷中ぎんざに劣らず特色のあるお店が多いのだが、食べ物に関しては千駄木腰塚が有名だ。
自家製の腰塚コンビーフは良質の油が濃厚で、ほどよい塩気とともに口の中でとろけていく様は芸術そのもの。東京と神奈川の百貨店や精肉店で購入できるが、千駄木腰塚のWebサイトでも購入できるのでぜひ味わっていただきたい。
地元民や観光客に愛される、こんにゃく専門店の三陽食品
谷中ぎんざからよみせ通りを左手(南)に進むと、すぐに三陽食品にたどり着く。
三陽食品はこんにゃくの専門店で、昭和25年(1950年)ごろから70年以上営業している。創業当時は八百屋だったそうだ。観光客で賑わっているが、地元の人々も頻繁に訪れている。
自家製にこだわり、ところ天を頼むとその場で天突きを使って押し出してくれる。新型コロナウイルスの流行前は食べ歩き用もあり、その場で味わうことができた。あんみつや味噌こんにゃく、ちくわぶなども店頭で食べることができ、観光客に好評だった。
以前紹介した千住やっちゃ場の山栄食品と同じく、こんにゃくの工場(こうば)が目の前にある。どのような仕組みなのかはわからないが、本物の職人たちのクリエイティブな現場が見学できて、わくわくしてしまう。
東京ではこんにゃくの製造と卸売を行う企業は多数存在するが、店頭販売しているお店は数えるほどしかない。おでん種専門店も少なくなりつつあるが、こんにゃく専門店はさらに希少な存在といえる。
店頭には商品の値札がたくさん貼られており、どれを購入しようか迷ってしまう。お店の方々は常に忙しそうだが、接客は非常に丁寧だ。賞味期限や保存方法についてもしっかり教えてくれるで、臆せずにたずねてみよう。
基本の商品はところ天、あんみつ、こんにゃく、白滝、ちくわぶだが、たれや具材などを単品で販売してくれる。例えば、あんみつであれば寒天、黒みつや赤えんどう豆のみでも購入できる。田楽みそやさしみこんにゃく、求肥(ぎゅうひ、牛皮)なども販売している。
ほとんどの商品は自家製のものだが、ちくわぶだけは知り合いの業者から仕入れているそうだ。一説によると北区赤羽の川口屋のもののようである。真空パックのものではなく、「ハダカ」と呼ばれる生のものだ。
弾力ある食感が素晴らしい、三陽食品のこんにゃく製品
三陽食品では、おでん種となるこんにゃく、しらたき、ちくわぶのほかに、評判のところ天、あんみつも購入してみることにした。
どれも非常に大きくて、おでん調理にはもってこい。パック詰めされていないのですこし扱いづらいが、鮮度が高いため美味しくいただける。
こんにゃくは張りと艶のある美しい仕上がり。三陽食品では白と黒を選ぶことができる(写真は黒こんにゃく)。通常、こんにゃくは製粉の過程において白色になるが、ヒジキやアラメなどの海藻粉末を混ぜることにより黒色になる。黒色は関西で人気があるそうだ。
ぷるぷるとした食感が最高で、ほのかにこんにゃく芋の風味が感じられる。おでん汁との相性もとてもよい。量販店で売られているものと味や食感を食べ比べてみるといいだろう。
調理はこんにゃくを下ゆでしてアクを取り、食べやすい大きさに切って格子状の隠し包丁を入れる。詳しくは「おでんのこんにゃくの下ごしらえ方法」の記事を参照していただきたい。
しらたきはいわゆる手巻き白滝で、成人男性の握りこぶしほどの大きさがある。食べやすいサイズに巻かれた「手結び白滝」とは異なり、1本の長さが非常に長い。そのため、自分で巻くときに調節できて扱いやすい。
三陽食品のしらたきの太さは標準的で、おでん汁を抱き込みやすく、弾力ある食感もキープしている。今回は干瓢を使ってボリュームある巻き方にしてみたが、止め結びでひと口サイズに仕上げても美味しいだろう(白滝の巻き方は「おでんの白滝の結び方・巻き方」記事を参照)。
ちくわぶは北区赤羽の川口屋から仕入れているらしい。ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんの著書「ちくわぶの世界」を開いて調べると、川口屋のものと同じく角の数が8つ。穴の直径も10ミリほどなので、おそらくは川口屋のもので正しいのだろう。
生のちくわぶのため、下ゆでしなくてもじゅうぶん柔らかく、もちもちとした食感がたまらない。より美味しく味わいたいなら、「おでんのちくわぶの調理方法」の記事を参考にしてもらいたい。
おでん用以外に、評判のところ天とあんみつも購入してみた。ところ天は手つき以外に、タレと海苔ふりかけ、からし(マスタード)が付いたパッケージ版がある。
ところ天は非常に張りがあって、噛むごとにぷちぷちとした弾力を楽しめる。酢醤油とマスタードの異なる辛味が溶けあって、夏の湿気の多いうっとうしさを吹き飛ばすほどの清涼感。関西系の甘いところ天が好みであれば、手つきのものとあんみつ用の黒みつを購入してもいいだろう。
お次はあんみつ。こちらも具材がひととおり揃っているパッケージ版のものを購入した。こじんまりとしたたたずまいがとても可愛らしく、懐かしい。
寒天のほか、こしあん、赤えんどう豆、黒みつ、ぎゅうひ、シロップ漬けのフルーツがついている。さまざまな甘味が楽しめるが、やはり寒天のぷるっとした食感が素晴らしい。
谷中は近場で観光気分が味わえる素敵な場所だが、こだわりの食品が購入できる地元密着型のお店がたくさんある。散策の帰りに三陽食品に立ち寄って、美味しい手作りおでんを調理していただきたい。
三陽食品の基本情報
三陽食品
〒110-0001 東京都台東区谷中3-8-9
03-3821-0672
定休日:日曜
営業時間:7:00~19:00