築地市場は2018年10月6日に営業を終えて17日に完全閉鎖したが、そのとなりにある築地場外市場は元気に営業を続けている。今回は、築地場外市場のおでん種専門店を紹介したいと思う。
外国人観光客で賑わう築地場外市場
築地市場が閉鎖されてから、客足が危ぶまれた築地場外市場。場内の閉鎖から5ヶ月ほど経った3月後半の土曜午前中に訪れてみた。現在でも約500店舗が営業しているが、果たしてどのような変化があるのだろうか。
当初は客足が遠のく心配があったが、大きな減少は見られず比較的好調だというニュースを目にしていた。実際に訪れてみると小雨がぱらついているにも関わらず、外国人観光客でごった返していた。場内をまわったあとに場外に訪れる業者の客が減り、観光客の割合が増えて早朝から午後へと混雑する時間帯が変化する可能性があるという。また、包丁などの調理器具の売上が増える傾向にあるらしい。
おでん種を販売する有名店たち
築地場外市場は鮮魚店や寿司店が有名だが、乾物や佃煮など、海産物を取り扱うさまざまな専門店がある。もちろん、おでん種を販売する店舗もある。
まず最初に訪れたのは、紀文食品の総本店だ。日本を代表する水産練り製品の食品メーカーとして成長した今も、昭和15年(1940年)に開店した築地場外に店を構えている。ちなみに、最初に場外に店を構えたときは果物店だったらしい。
総本店ということで、とても立派な店構えだ。店の奥では職人さんが練り物をせっせと揚げていた。場外市場を食べ歩きする人のために、おつまみ用の揚げもの商品を販売している。外国人観光客が物珍しそうにショーケースを覗いてスマホで写真を撮りながら、次々に注文していた。
紀文の近くにあるのは味の浜藤の築地本店だ。福岡県豊前市で生まれた創業者が築地で開業し、サラシ鯨の卸しで成功した。Webサイトによると築地店では「西京漬を初めとする漬魚、おでん種を主としたねり製品、珍味などを製造販売」したと記載されている。
もろこし揚の詰合せと揚げ蒲鉾セットが売られていたが、観光客はさまざまなフレーバーを取り揃えたアイスクリームに注目していた。そのほかには生ビールやアイスコーヒーなども販売している。築地場外市場では観光客のニーズに合わせて、手軽に食べ歩きできる商品を売る店が増えた。
おでんに関するものならひと通り揃う花岡商店
観光地化され販売する商品が変化する店舗が多いなか、花岡商店は主に業者に向けたおでん種の卸と小売販売を行なっている。
店構えはかつての築地場外市場の雰囲気を留めている。たくさんの種類の商品がお店の前に並べられ、道行く人々の注目を集めていた。
全国から仕入れたおでん種を揃えており、牛すじやイワシ団子、ちくわぶや焼ちくわなど、おでんに必要なすべての食材をこの店で購入できる。
なかには珍しいおでん種もある。ソフトスティックかまぼこは厚揚でありながら、ふんわりとした食感が自慢の揚げ蒲鉾だ。形状からすると福島県いわき市の丸又蒲鉾製造のものだと思う。静岡名物の黒はんぺんも販売していたりと、全国のおでんを再現できるのは嬉しいところだ。
80年の歴史をもつおでん種専門店、丸玉水産加工
丸玉水産加工もおでん種の専門店だ。こちらもソフトクリームや揚げ物など観光客に向けた商品を販売しているが、80年以上の歴史を持ち、現在も手作りのおでんを販売している。
掲げられた屋号が歴史を感じさせ、とてもよい雰囲気だ。丸玉水産加工はひらけた道の角にあり、観光客がひっきりなしに訪れ、行列を作っていた。お店を切り盛りするおかみさんが格好いい。
店頭ではおでんの盛り合わせが袋詰めで販売されていた。アソートで色々な練り物のおでん種が入っている。丸玉水産加工の手作りのものもあれば、仕入れてきた練り物も含まれているという。試しに一袋購入してみた。
袋に入っていたのはこのような感じ。名札がなかったので名称はわからないが、イカの入ったもの、人参や玉ねぎが入ったもの、ごぼう揚げ、プレーンなさつま揚げなどだ。
土鍋に入れるほどの量でもなかったので、調理した釜浅商店の姫野作本手打鍋に入れたまま食卓へ。
丸玉水産加工のものと仕入れてきたものの違いなのか、ふわふわの食感のものと弾力のある練り物が混在していた。揚げ加減は美しく、味も適度な塩加減でちょうどよい。
ひとりで楽しむのはもちろん、ふたりで食べてもちょうどよい量だ。500円で手軽に購入できるので、次回訪れたときもぜひ利用したいと思う。
失われゆくかつての名店たち
今も元気に営業を続けるお店の裏で、姿を消す店舗もある。
築地場外市場のおでん種やさんを巡ったついでに佃権の門跡橋工房店の跡地に足を運んでみた。賑やかだったお店はシャッターが閉じられているものの、看板などはきちんと残っていた。
シャッターには閉店した平成29年(2017年)7月当時のお知らせが貼り付けられたままだった。おでん種やさんの店主たちに話を聞くと、佃権の閉業のニュースを聞いたときは相当な衝撃が走ったらしい。おでん種やさんが次々と店を閉めるなか、佃権のような有名店が暖簾を下ろしたのは業界にとって象徴的な出来事だったのかもしれない。明治元年の創業なので、140年以上の歴史を持つ名店だった。
築地市場も閉鎖となり、おでんを取り巻く環境は大きく変化しようとしている。女優の中田喜子の実家である蒲鉾仲卸の名店、増田屋が店を閉じたのも豊洲移転問題のゴタゴタが一因だったという(ちなみに豊島区西巣鴨の増田屋蒲鉾店はこちらの暖簾分け)。また、笹塚の愛川屋など築地市場の閉鎖を機に閉業する都内のおでん種やさんもあるが、このような状況のなかで手作りのおでん種が再評価され、次世代の人々に受け継がれていく方法がないものかと思い悩んでしまう。せめて今も元気に営業を続けるおでん種やさんを一軒でも多く巡って記事を書き、ひとりでも多くの人に関心を持ってもらえたらと願ってやまない。
花岡商店の基本情報
花岡商店
〒104-0045 東京都中央区築地4-11-9
03-3542-2038
定休日:日曜・祝日・市場休市日
営業時間:5:00~14:00
花岡商店のWebサイト(築地場外市場Webページ)
丸玉水産加工の基本情報
丸玉水産加工
〒104-0045 東京都中央区築地4-13-13
03-3541-6879
定休日:日曜・祝日・市場休市日
営業時間:5:30~13:00
丸玉水産加工のWebサイト(築地場外市場Webページ)