夏の蒲重蒲鉾店のおでん種

昭和11年から阿佐谷パールセンター商店街で営業を続ける蒲重(かまじゅう)蒲鉾店。夏の間もできたておでんや揚げ蒲鉾を販売している。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店の冷やしおでん

前回訪れたときは1月の寒い時期だったが、今回は気温が30度を超える超夏日。蒲重蒲鉾店ではどのような商品を並べているのか調査を兼ねて阿佐谷へ出かけてみた。

お惣菜や夏限定商品も充実している蒲重蒲鉾店

JR中央線の阿佐ケ谷駅の南口からすぐそばにある阿佐谷パールセンター商店街。東京だけではなく、日本を代表する質や規模を誇る商店街だ。大正11年(1922年)の阿佐ケ谷駅開業から原型ができあがり、商店会が昭和29年(1954年)に発足して現在に至る。

東京都杉並区阿佐谷南:阿佐谷パールセンター商店街

商店街は老若男女、行き交う人が多い。シャッターを閉めたままのお店はほとんどなく、相変わらず活気にあふれている。

東京都杉並区阿佐谷南:阿佐谷パールセンター商店街

しかし、昭和29年(1954年)から開催されていた阿佐谷七夕まつりは新型コロナの影響で中止が決定、やはり多くの人々が密になりえるイベントの開催は難しいようだ。人々の安全を守ることを優先した結果であり、この決断は勇気のいることだったと思う。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

商店街の中ほどに進んでいくと、蒲重蒲鉾店の看板が見えてくる。以前、筆者がテレビ取材時にいただいた資料に「かましげ」と書いてあったので正しくは「かまじゅう」と読むと指摘したのだが、看板にもちゃんとふりがながふってあるのでお間違えのないように。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

蒲重蒲鉾店は昭和11年(1936年)開業、阿佐谷パールセンター商店街とともに歴史を歩み、親子三代にわたって85年近く営業を続けてきた。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

夏の真っ盛りだったが、できたての調理済みおでんは健在。秋冬に比べると鍋がひとまわりほど小さくなっている。店主の太田泰司さんにお話を伺うと、夏場はこのできたておでんの売れ行きがもっともよいのだそうだ。田端の佃忠でも同じ現象が見受けられたが、冷房のきいた室内で過ごしたり、コンビニのスナック感覚で購入する風潮が影響しているのだろうか。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

揚げ蒲鉾のおでん種は20種類以上が揃っていた。ゴーヤ揚やプチトマトなど旬の夏野菜も取り揃えている。深川揚は、以前阿佐谷パールセンターで営業していた深川 伊勢屋のアサリ入りおにぎりからヒントを得たものだという。かれこれ20年ほど販売している定番商品だ。

蒲重蒲鉾店の蒲鉾づくりに対するこだわりは昔から有名で、ほかのおでん種専門店の店主からもその噂を聞く。現在でもはんぺんや魚のすじはほかから仕入れず、自家製の手づくりにこだわっている。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

お得な盛り合わせも販売している。550円のものから1,000円のものまで、定番や季節限定の商品を一度に楽しみたいときにおすすめだ。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

おつまみやお惣菜向けの商品が豊富なことも蒲重蒲鉾店の特徴といえる。穴子のゴボー巻、イカのから揚など魅力的な商品が並んでいるが、なすのはさみ揚げやイワシ玉など練り物の商品が並ぶのは蒲鉾屋ならでは。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

大きな紙に商品の説明が詳しく書かれており、読んでいるだけでもおもしろい。栄養にまつわる記載もあるので、高齢者や子どもも安心して食べることができる。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

店主の太田泰司さんは三代目。初代はちくわが有名な愛知県の豊橋出身で、修行をしてから阿佐谷にやってきて蒲重蒲鉾店を開業した。しかし、初代は若くして亡くなったため、二代目が16歳からお店を継いだそうだ。当時は初代の奥さまや雇った職人さんと協力しながら営業を続けたという。三代目は20代から修行をはじめ、現在では蒲鉾づくり30年のベテランになった。三代目は穏やかな口調や表情の裏に、職人気質のこだわりを大事する厳しい眼差しが垣間見られた。

夏らしい具材がいっぱいの蒲重蒲鉾店のおでん種

今回も冷やしおでんに挑戦しようと思っていたので、いつもより少なめに8種類を購入した。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種

時計回りに12時から、深川揚、インゲン、なすのはさみ揚、オニオンボール、ゴーヤ揚、紅しょうが、ひじき(中央右)、プチトマト(中央左)。インゲンとなすのはさみ揚は、おつまみ・お惣菜の商品だ。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種

揚げ蒲鉾のほかに、オクラ、ししとう、ナス、トマト、ペコロス(小玉ねぎ)といった夏野菜とタコを加える。

タコはおでん汁に赤い色が移らないように別の鍋でおでん汁と一緒に柔らかくなるまで煮る。トマトは湯むきをし、ほかの野菜はフライパンで焼き色をつけておく。おでんの汁と一緒に弱火で煮たら、冷まして冷蔵庫に1日入れておく。おでん汁は別にゼラチンパウダーを加えて煮こごり(ジュレ)を作っておく。詳しい作り方は「佃忠(田端)のおでん種で冷やしおでんをつくる」の記事を参考にしてほしい。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店の冷やしおでん

できあがった冷やしおでんはこちら。色とりどりの具材が並んでいるが、ほどよく味わいのある渋い感じに仕上がった。やはりおでんは和風にしたほうがしっくりくるね。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 プチトマト

プチトマトは、うずら巻のように魚のすり身がトマトを取り囲んでいるので味がほかに移らない。そのせいもあってかトマトの酸味とうまみがギュッと詰め込まれていて、とても爽やかな味がする。かなり美味しいので、通年商品にしてもらいたい。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 ゴーヤ揚

ゴーヤ揚は、その名の通り刻んだゴーヤが入っている。苦味は抑えられているが、ゴーヤの風味がきちんと残っている。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 深川揚

深川揚は人気商品だけあってその味は保障付きだ。唐辛子の分量が絶妙で、アサリの風味を殺さずよい引き立て役になっている。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 ひじき

ひじきはひじきと人参が入っている。ひじきのうまみとまろやかな人参の味が相まって、上品な雰囲気を漂わせている。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 オニオンボール

オニオンボールはほどよい大きさに刻まれた玉ねぎと魚のすり身が混ざり合って、リッチな甘みを堪能できる。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 紅しょうが

紅しょうがは紅生姜が入った定番のおでん種だ。紅生姜を多くせず、魚のすり身の味を引き立てる程度にとどめている。具材ばかりに頼らない、本格的で上品なおでん種だ。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店のおでん種 いんげん

いんげんはおつまみ・お惣菜用の揚げ蒲鉾だ。ひと口サイズになっており、いんげんの食感を気軽に楽しめる。一皿で売られているので、お酒のお供にちょうどいい。

地域を繋ぎ止める、蒲鉾の足のような粘りのある存在に

「なかなか終息しないのはわかっているけど、みんなで協力しながらなんとかしたいものだよね」。蒲重蒲鉾店の店主の太田さんは新型コロナによって阿佐谷の飲食店が苦境に立たされていることに憂慮していた。商店街の客足は減少したものの、飲食店に比べれば小売店の影響は少ないという。飲み屋を経営している知り合いがたくさんいることから、心配は尽きないそうだ。

阿佐谷の街を見回すと、若い人も高齢者も皆一様にいきいきとしているように見える。これは地元を愛し、地元とともに歩んでいきたいと願う気持ちの表れなのではないかと感じた。これらの基盤を支えるのは、蒲重蒲鉾店のようなお店の人々の相互扶助の精神なのではないかと思う。蒲重蒲鉾店には蒲鉾の足のように豊かな粘りと味わいをもって、阿佐谷の人々をひとつに繋ぎ止める存在であり続けてほしい。

蒲重蒲鉾店の基本情報

蒲重蒲鉾店
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-47-10
03-3311-3543
定休日:水曜
営業時間:9:00~19:30
蒲重蒲鉾店のウェブサイト(阿佐谷パールセンター)

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