【2019年4月閉業】おがわ屋のおでん種

東急世田谷線の松陰神社前駅にあるおがわ屋は、松陰ジンジャーというおでん種が有名なおでん種専門店だ。昭和50年の創業以来、地元客を中心に親しまれてきたが、2019年4月中旬(4月10日)をもって閉業する。

新旧の店舗が混在した松陰神社通り商店街

可愛らしい二両編成の車両が走る、東急世田谷線の松陰神社前駅。駅名のとおり、吉田松陰を祀る松陰神社があることで有名だ。

東京都世田谷区若林四丁目:東急世田谷線松陰神社前駅

神社の参道にある松陰神社通り商店街(松陰神社通り松栄会商店街)は、昔ながらの雰囲気を残す店舗と新しくオープンしたお洒落な店舗が混在し、散策スポットとして人気を博している。

東京都世田谷区若林四丁目:松陰神社通り松栄会商店街

松陰神社通り商店街は、昭和25年(1950年)に任意団体として設立して以来、地域の生活を支える商店街として発展してきた。全長約500メートルの参道の両脇には新旧さまざまな店舗が営業している。

東京都世田谷区若林四丁目:松陰神社通り松栄会商店街

TwitterやInstagramなどのSNSや、地域発信型のブログやWebマガジンで幾度となく登場するため、若者の注目を集めている。その発信者もまた地元に住む若者たちで、地域活性化のためにビジネスやボランティアを問わず活動している。

地元の老若男女に愛されるおがわ屋

おがわ屋は、地元の老若男女に愛されているおでん種やさんだ。SNSやテレビでも頻繁に紹介されている。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

松陰神社通り商店街の設立と同じ年の昭和25年(1950年)に店主のお父様が八百屋を始めたが、昭和50年(1975年)におでん種やとして再スタートし、家族総出で営業を続けてきた。2010年前後に登場した「松陰ジンジャー(松陰神社)」と呼ばれる生姜と洒落の効いたおでん種が注目され、世田谷区でもっとも知名度の高いおでん種やさんとなった。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

店舗の正面には大きなショーケースがあり、20種類以上の練り物のおでん種が並んでいる。たこ焼き風のたこ坊や大きないんげん天など変わり種も多い。練り物以外のおでん種を合わせると30種類以上、季節限定のおでん種も作っている。奥の厨房で揚げたらすぐにトレイに並べられるので、熱々をそのまま食べてもいい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

おでん種が揃う正午くらいを狙って訪れてみたが、お客さんがすでに多くて厨房も大忙しだった。常連の高齢のお客さんばかりだったが「あれがいい、これもいいわね」と楽しみながら迷っている姿が微笑ましい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

練り物以外のおでん種はお店の左側のショーケースに集められていた。魚のすじのほかに牛すじ串、つみれ、こんぶやちくわぶなどが並んでいる。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

はんぺんは銚子の嘉平屋、焼ちくわは青森のイゲタ沼田竹輪工場、白滝は東中野の山田食品。おでん汁は定番のチヨダのおでんの味のほかに紀文のおでん汁の素、ねりからしはS&Bだ。

43年の歴史に幕を閉じるおがわ屋

おがわ屋は43年の歴史に幕を閉じる。
この知らせを目にしたのはTwitterからの情報だった。おでんの季節が終わる春には閉業するおでん種やさんが多いため、情報を逃すまいとTwitterから情報を自動収集しようとツールを導入した矢先だった。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

ニュースでは「4月中旬」との情報が流れたが、訪れてみると告知の紙に赤文字で「4月10日頃」と訂正がしてあり、お店の方に伺っても「4月10日頃で間違いない」とおっしゃっていた。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

地元客に愛され、おがわ屋の味で育った人も多かったと思うので本当に残念に思う。
東京おでんだねの記事を読んでいただければお分かりだろうが、おでん種専門店(蒲鉾店)は年々少なくなっている。東京都内では1年で数軒というペースで減少しており、50軒あるかないかになっている。その理由は多岐にわたり、後継者不足、漁獲量の減少と原材料の高騰、消費者の水産加工品離れ、商店街というビジネスモデルの衰退などだ。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

正直、人気のおがわ屋は安泰だと思っていたので取材を後回しにしていたが、どんな店でも閉業する可能性は高いのだということを思い知らされた。

創意工夫を詰め込んだおがわ屋のおでん種

閉業してしまうためすべてのおでん種を購入したかったが、ぐっとこらえて13種類を購入した。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

時計回りに12時から、ピリ辛あげ、えび巻、すじ、しそ棒、3色あげ、きくらげ揚げ、肉団子、つみれ、なす天、いんげん天、松陰ジンジャー(中央)、もやしかきあげ(中央右)、たこ坊(中央左)。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

閉業するおがわ屋に敬意をこめて、いつも以上に丁寧に調理していく。大根、玉子、白滝などを下茹でして、食べる直前に練り物のおでん種を加えて鍋蓋をせず温める程度に煮る。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 松陰ジンジャー

おがわ屋の名物である松陰ジンジャーは、紅生姜、長ネギ、人参、もやし、小松菜の5種類が入った贅沢な逸品。生姜の爽やかな香りと、もやしのシャキシャキとした食感が味わい深い。また、長ネギと人参、小松菜が豊かな風味を醸してくれる。おがわ屋の練り物はつなぎに玉子や小麦粉を使っていないというが、適度な弾力を残しつつ、ふわふわでとても上品な味だ。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 いんげん天

いんげん天は丸ごとのいんげんがたっぷり入っており、サクサクと心地よい歯ざわりに加え、風味豊かないんげん独特の苦味がこのうえなく美味しい。1枚でも十分大きいので、半分に切って食べるとよい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 ピリ辛あげ

ピリ辛あげは魚のすり身に混ぜた唐辛子がしっかり効いている。さらに人参、長ネギやもやしなどが入っている。人参の甘みと唐辛子の辛さが絶妙のハーモニーを奏でている。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 きくらげ揚

きくらげ揚はきくらげの他に人参などを加え、魚のすり身の揚げ色を浅く仕上げている。きくらげのクニクニとした食感と、ふわふわの練り物がよくマッチしている。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 なす天

なす天は縦に切った大きなナスに、魚のすり身が薄く絡まっている。噛むとジューシーなナスのうまみが溢れてきてとても美味しい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋 のおでん種 3色あげ

3色あげはタケノコ、三つ葉、椎茸が入っている。色合いと形状はきくらげ揚やしそ棒と同じだ。タケノコのおでん種は珍しいが、風味と食感がよいアクセントになっている。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 しそ棒

しそ棒は魚のすり身に青じそを混ぜ込んでいて、独特の上品な香りが口の中に広がる。緑の色合いも美しい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 たこ坊

たこ坊は別名「たこやき風」というだけあって、大きなタコが入っている。また、玉ねぎと長ネギも加わり、甘みと香りで味が豊かになっている。ひとくちサイズなのでいくつでも食べられそうだ。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種 肉団子

肉団子は挽肉と玉ねぎが入っている。挽肉の肉汁が魚のすり身と絡み合ってとても美味しい。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋 もやし入りかきあげ

もやし入りかきあげは世田谷みやげにも選定されたおでん種。松陰ジンジャーの兄弟ともいえる存在で、もやし、長ネギ、人参、小松菜が入っている。紅生姜が入っていないぶん、もやしのシャキシャキ感が強調される。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋のおでん種

えび巻は他のおでん種やさんに比べて大振りのエビがとても甘く、ぷりぷりの食感が魅力的だ。すじはほどよい密度でしっかり魚のうまみがして美味しい。つみれはよく練りこまれていて、イワシの味が詰まっている。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

おがわ屋のおでん種を食べてみて、あらためて閉業してしまうのは惜しい店だと痛感する。
今後、おがわ屋のおでん種が食べられないこと、店主やお店の方たちとの交流がなくなってしまうことは非常に悲しいことだが、実際におでん種を味わうことができた私たちはまだ幸せだといえる。もっとも残念なことは次世代の子どもたちにおがわ屋の味を伝えられないことだと思う。

東京都世田谷区若林 松陰神社通り商店街:おがわ屋

これはおがわ屋やおでん種、揚げ蒲鉾店の話にかぎらず、私たちが慣れ親しんできた多くのものに対していえることなのだが、私たちは受け継ぐ価値のあるものに対して目を背けず、行動していかなくてはならないのではないかと感じている。

地域を思い、地元客のことを思い、黙々と営業を続けてきたおがわ屋の店主やお店の方たちの苦労は計り知れない。今後はお身体を最優先にゆっくりとお休みいただいて、異なるかたちで若い世代を応援していただけたらと思う。

東京おでんだねは松陰神社前の地元民ではないので、部外者であり発言をする権利もないのだが、自身の地元や東京各地のおでん種やさんの事情を聞いているので、ひとごとのように感じられないところがある。

地元への情熱を感じられるのは、今回の取材でも参考にさせていただいたせたがやンソンさん、世田谷ローカルさんなどの記事だ。そのほか、TwitterやInstagramでも、おがわ屋や松陰神社通り商店街に対する思いを強く感じる方々を目にした。この記事だけではおがわ屋の魅力は伝わりきれないと思うので、ぜひ彼らのサイトや投稿をご覧いただきたいと思う。

東京都世田谷区若林四丁目:松陰神社通り松栄会商店街

世田谷区のおでん種やさんでは、東急大井町線の尾山台駅にある武田総菜店、東急世田谷線の世田谷駅にあるや亀やを残すのみとなった(浜口水産など他の地域創業の支店はあるが)。おがわ屋とは異なる味であるが、各店共にこだわりのおでん種やさつま揚げを作り続けている。ぜひ訪れてもらいたいが、これまでどおり松陰神社通り商店街の新旧の店舗も盛り立てていってもらいたいと願う。

おがわ屋の基本情報

【2019年4月10日閉業】 手作りおでん種 おがわ屋
〒154-0023 東京都世田谷区若林3-17-10
03-3414-7914
定休日:日曜、祝日、年末年始
営業時間:10:00~19:00(売切れ次第終了)

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