今回は千葉県の市川にある大野蒲鉾店のおでん種を紹介しよう。戦前から90年近く営業を続けており、おでんは世代を超えて多くの人々に愛されている。
大野蒲鉾店は3代にわたって続く老舗であり、東京のおでん種専門店とも深い関わりがある。今回は東京を飛び出して、千葉県の市川まで足を伸ばしてみた。
昭和11年から市川で営業を続ける大野蒲鉾店
東京から江戸川を挟んで向こう側は千葉県の市川市だ。JR総武線が乗り入れる市川駅は江戸川区の小岩駅からひと駅で、ほとんど東京と言ってもいいほど近い距離にある。
南口は再開発によって生まれたタワーマンションがそびえ立っている。周辺は整備をされていて近代的な雰囲気が漂っている。こちらを東側に抜けると「ゆうゆうロード」という商店街にたどり着く。
ゆうゆうロードは地元密着型の商店街だ。南口駅前とは異なり、昔ながらのほのぼのとした雰囲気が漂っている。商店街のほぼ中央にあるアーチをくぐって1、2分ほど南に進むと大野蒲鉾店に到着する。
大野蒲鉾店は昭和11年(1936年)から市川で営業している。かつては市川市大和田にあったが、外環道の建設のために現在の場所に移転したという。
お店の正面には揚げ蒲鉾を中心としたおでん種がたくさん並んでいる。スタミナ揚やたまご巻、野菜揚などバラエティに富んでいる。奥では店主が揚げ蒲鉾を作っており、できたてのものが購入できる。
店先のスタンド看板にはスタミナ揚などのおすすめや盛り合わせセットのお知らせが貼られている。メニューも掲げられているので、ショーケースに並んでいないものがあれば直接質問してみるといいだろう。
揚げ蒲鉾以外のおでん種も揃う。がんもやつみれ、白滝やこんにゃくなど定番のものはほとんど揃っている。焼ちくわは青森県の丸石沼田商店、はんぺんは千葉県銚子の嘉平屋(菊水)だった。ちくわぶは「ハダカ」と呼ばれる真空パックしていないものを取り扱っている。
右側では店頭で調理したできたておでんを販売している。綺麗に並べて煮てあり、種類もかなり豊富だ。1品ずつ注文できるが、セット販売も行っている。
鰹節と昆布で出汁を取り、おでん汁の素を加えて味付けしている。煮えにくいものは前日から仕込んでいるそうだ。おでん汁は別料金で多めに購入できる。
大野蒲鉾店は二代目店主を中心とした家族経営で、おかみさんの細やかな接客が心地よい。店主はこだわりあふれる職人かたぎのお人柄で、歯切れのいい調子に引き込まれてしまう。現在は若い三代目も活躍しており、ご家族が一丸となってお客さんをあたたかく迎えている。
大野蒲鉾店は東京のおでん種専門店とも縁が深い。杉並区の妙法寺にある丸佐(〇佐、まるさ)かまぼこ店の初代店主、濱田友則さんはかつて阿佐谷北にあった同名の大野蒲鉾店で修行しており、親類関係にあたるという。
大野蒲鉾店のおでん種
店頭で調理したできたておでんにも惹かれたが、今回は自宅調理用に揚げ蒲鉾を7種類購入してみた。
時計回りに12時から、もやし揚、しそ巻、しいたけ揚、なす揚、スタミナ揚、れんこん揚(中央左)、たまご入り(中央右)。このほかにちくわぶも購入した。
揚げ蒲鉾を購入すると封を閉じた袋に入れてくれる。プリントされた昔ながらのデザインが非常に格好良い。こういったパッケージはいつまでも残り続けてほしいものだ。
大根やちくわぶなど煮えにくいものから鍋に投入し、揚げ蒲鉾は弱火で15分ほど煮れば完成だ。詳しい作り方は「東京おでんの調理方法」の記事を参考にしてほしい。
スタミナ揚はもやしや人参のほかに、ニラ、にんにく、唐辛子が入っている。身体の芯から元気が込み上げてくるような癖になる味わいだ。おでんにせずに軽く炙って、お酒のおつまみにしてもいいだろう。
なす揚は大きくて肉厚のナスが魅力で、噛み締めるとじゅわっとうまみがあふれてくる。ふわふわのナスとほどよい弾力のすり身の相性は抜群だ。
もやし揚はたっぷりのもやしと人参が混ぜ込まれている。しゃきしゃきとしたもやしの食感と人参のふくよかな甘みが心地よい。
玉子入りは鶏卵がまるごと入った贅沢な揚げ蒲鉾だ。東京のおでん種専門店では「バクダン」や「玉子巻」という名で見かけるが、扱っているお店は少ない。ちなみに長崎県では「龍眼」と呼ばれている。
しいたけ揚は椎茸の傘に魚のすり身を詰め込んだ揚げ蒲鉾で、1串2個での販売となる。椎茸を丸ごとひとつ使用しているので、椎茸の香りと味わいを思う存分楽しめる。
しそ巻は魚のすり身に丸々1枚がぐるりと巻かれている。顔を近づけるだけで上品な芳香が漂い、口に含めばその香りが何倍にも膨らむ。冷やしおでんにしても美味しいだろう。
れんこん揚は輪切りのレンコンの形が美しい。レンコンはほどよく厚みがあり、心地よい食感となっている。ぷりっとした弾力の魚のすり身と一緒に味わえば、異なるふたつの食感が楽しめる。
市川で約90年にわたって美味しいおでんとおでん種を作り続ける大野蒲鉾店には、絶えず常連客が訪れていた。今後も若い3代目店主が活躍し、変わらぬ味を届けてくれるだろう。市川へ訪れた際にはぜひ大野蒲鉾店に立ち寄ってみていただきたい。
大野蒲鉾店の基本情報
大野蒲鉾店
〒272-0035 千葉県市川市新田4-17-18
047-376-1686
定休日:日曜
営業時間:10:00~19:00