カレーボールのルーツを探る

カレーボールは魚のすり身にカレー粉を混ぜて団子状にしたおでん種だ。東京では北区や荒川区などの城北エリア、葛飾区や江東区などの城東エリアではポピュラーなおでん種として親しまれている。今回はカレーボールの発祥や歴史をひも解いてみたいと思う。

カレー風味のおでん種、カレーボール

カレーボールは東京を代表するおでん種であり、メディアでも度々取り上げられている。しかし、東京の西や南の地域ではあまり見かけることはないようで、東京出身者でも知らない人が多い。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 カレーボール

カレーボールの製法はいたってシンプルだ。魚のすり身にカレー粉を混ぜて、団子状に成形してから油で揚げる。カレーの豊かな味わいがすり身とよく合い、おでんにせずにそのまま食べても美味しい。親しみやすい味付けのため、子どもにも人気のおでん種だ。

東京のおでん種専門店で売られているカレーボール

カレーボールが売られている東京の北や東の地域では、一般的なおでん種として認知されている。彼らは「カレーボールを食べたことがない」という声を聞くと、一様に驚く。東京おでんだねの筆者も同じく、子どものころから慣れ親しんでいたので、カレーボールを知らない人なんていないと思い込んでいた。

昨年、東京のおでん種やさん全店舗、約50軒を回った結果、たしかにカレーボールを販売する店舗は城北エリアと城東エリアに集中していた。城北エリアは豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区の5区、城東エリアでは墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区の4区、対して城西エリアは練馬区と渋谷区、23区外では武蔵野市のみ販売していた。

カレーボールの元祖、千葉県銚子の嘉平屋

では、カレーボールはどの地域の、どの店舗が生み出したのかを探ってみよう。
東京でカレーボールを販売している20店舗に聞いてまわったところ、自分たちがオリジナルというお店はひとつもなかったが、千葉県銚子にある嘉平屋はインターネット上で「元祖」とうたっていた。

千葉県銚子市川口町:銚子漁港
千葉県銚子市川口町:銚子漁港

嘉平屋の広報に問い合わせたところ、丁寧な回答をいただくことができた。

カレーボールは嘉平屋の先先代が開発したものだという。千葉県銚子市西小川町にあった嘉平屋の工場(現在は移転)で、磯揚げ(揚げ蒲鉾)の原料となる魚のすり身にカレー粉を入れて作り出した。

カレー粉をすり身に混ぜるという発想は嘉平屋だけのものではなかったかもしれないが、販売開始当初は類似品はなく、先先代が最初に「カレーボール」と命名したと先代に伝えたのだという。

エスビー食品 カレー粉 赤缶

先先代の時代ということは、おそらく昭和に入ってからのことだろう。ちなみにカレー粉はイギリスのクロス・アンド・ブラックウェル社(C&B)が商品化し、日本には明治時代に伝わった。古くからカレー粉が存在するのであれば、カレーボールもその頃から存在しても不思議ではないが、多くのおでんの変わり種が生まれ、カレーライスが一般家庭に普及した戦後で考えるのが妥当だろう。ちなみに、現在の日本ではカレー粉はエスビー食品の赤缶が市場の80%を占めているのだという。

カレーボールが東京に広がった経緯だが、嘉平屋は当時から銚子市内の直営店のみで販売していたので定かではないという。推測だが、東京には銚子からやってきた蒲鉾職人も多く、買い付けにくるお店も多かったため、自然と噂が広まったのかもしれない。北砂にある増英蒲鉾店の初代店主のおかみさんのご両親が銚子の出身で、東京で丸忠増英というお店を経営していた。また、人形町の美奈福は銚子の業者からおでん種を仕入れているというし、人づてに伝わったことは想像に難くない。

なにはともあれ、嘉平屋のカレーボールを食してみようと思い、いざ銚子へ出かけてみることにした。

元祖カレーボールを探しに銚子へ向かう

東京から銚子へは約2時間半かかる。車がいちばん速いが、浜松町駅か東京駅から運行しているバスを利用するのもいいだろう。

千葉県銚子市黒生町:嘉平屋川口店おみやげセンター

まずは嘉平屋の川口店おみやげセンターへと向かった。磯揚げという揚げ蒲鉾だけでなく、鮮魚など多くの海鮮商品を販売している。また、お食事処もあり、訪れたときも多くのお客さんで賑わっていた。

千葉県銚子市黒生町:嘉平屋川口店おみやげセンター

店前に架けられたのぼりや販売カーに「元祖カレーボール」という文字を確認できた。カレーボールは銚子のソウルフードとして認知されており、購入したその場で串に刺してつまんでいく人も多い。

千葉県銚子市川口町:ウオッセ21(水産物即売センター)と銚子ポートタワー

次にやってきたのは銚子の観光施設であるウオッセ21(水産物即売センター)と銚子ポートタワー。ウオッセ21には海産物を取り扱うお店が所狭しとならび、お食事処も充実している。ポートタワーは銚子市内や太平洋を一望できる展望台がある。

千葉県銚子市川口町:ウオッセ21(水産物即売センター)

ウオッセ21は10軒以上のお店が立ち並び、観光客で賑わっていた。個性豊かなお店ばかりで、店員さんが気さくに話しかけてくれる。

千葉県銚子市川口町:ウオッセ21(水産物即売センター)

銚子港は焼津漁港、釧路港に並ぶ三大漁港として知られ、年間水揚げ量は9年連続の全国1位。お店にも新鮮な魚がたくさん並んでいた。

千葉県銚子市川口町:ウオッセ21(水産物即売センター)

とりわけ目を引くのが金目鯛。立て縄と呼ばれる一本釣り漁法で釣り上げられた銚子のつりきんめは銚金(ちょうきん)と呼ばれ、ブランド魚としての地位を確立している。

ウオッセ21の中央には嘉平屋の店舗がある。お客さんの人だかりができていたが、店員の女性たちがテンポよく捌いていた。嘉平屋は銚子で超有名店なのである。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋ウオッセ店

店舗の中央には揚げ蒲鉾が並ぶ。スタンダードなものはえび巻やごぼう天など数種類で、ほとんどが創意工夫を凝らした変わり種ばかりだ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋ウオッセ店

もちろん、カレーボールも販売している。商品が少なくなると「すぐ作るから」と調理場にまわって、あっという間に揚げてくれる。家に帰って食べるのもいいが、揚げたてをその場で食べるとすごく美味しいのでぜひお試しあれ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋ウオッセ店

嘉平屋には揚げ蒲鉾だけでなく、ありとあらゆる商品が売られている。東京のおでん種やさんで見かけるはんぺん(東京では嘉平屋ははんぺんがいちばん有名)や、魚のすじもあった。揚げ蒲鉾や蒲鉾はセットの販売もしているので、迷ったときにはそちらを選ぼう。

千葉県銚子市川口町:ウオッセ21(水産物即売センター)

嘉平屋でカレーボールなどを購入して、「味処まほろば」で海鮮丼をいただく。卵を抱いたエビがとっても甘くて美味。次回に来たときは温泉宿に泊まって、犬吠埼を観光しながらのんびりしたいなとしみじみ思う。

元祖カレーボールと東京のカレーボールたち

銚子から戻り、嘉平屋のカレーボールを試食してみる。まずはおでんとして調理せず、そのまま食べてみた。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のカレーボール

色味はほんのりとカレー色に染め上がり、ころりとした形状が可愛らしい。外観は東京で販売しているものよりも大ぶりだ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のカレーボール

断面もほんのりと綺麗なカレー色。刻んだ玉ねぎが入っている。カレー粉は控えめで、上品な風味がとてもいい。玉ねぎの甘みがしっかりと感じられ、まろやかな優しい味だ。

東京のおでん種専門店のカレーボール

嘉平屋のカレーボールと比べて、東京のおでん種専門店で売られているものは比較的小さいが、同じくらいのものもいくつかある。カレー粉の配合は多めのものから控えめのものまでお店によって異なるが、唐辛子を加えて辛くしているところは非常に少ない。

具材はなにも入れないものと玉ねぎの千切りを入れたものが主流だ。人参などの野菜を加えたり、イカを入れているお店(京島の大国屋)もあるなど創意工夫がみられる。また、塚田水産のカレー団子や蒲清のカレーボールのように、他店とはまったく異なるオリジナリティあふれるものもある。

別ページに掲載している東京おでん種カタログのカレーボールのページでそれぞれ説明しているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

嘉平屋のおでん種

さて、せっかく銚子の嘉平屋まで訪れたので、ほかのおでん種も味わってみたい。ここからは、カレーボール以外のおでん種も紹介していこう。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種

今回購入したのは7種類。時計回りに12時から、いわしごぼう、めんたい、ハムチーズ、カレーボール、にんにくボール、ミックスネーズ、こぶし揚げ(中央)。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん

大根などを下ゆでして、結び昆布、練り物を投入する。嘉平屋のおでん種はひとつがとても大きいので、4つくらいに切るとちょうどよい。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 カレーボール

カレーボールはおでんにしてももちろん美味しい。「カレー粉がおでん汁に混ざってしまう」という心配はまったくなく、きっちりすり身に混ぜ込まれているため、よっぽど神経質な方でなければ気にならない。ふわりと上品なすり身の味が最高だ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 こぶし揚げ

こぶし揚げは人参やネギ、イカなどが入っている。さまざまな具材の風味を楽しめるだけでなく、美しい彩りも楽しめる。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 ハムチーズ

ハムチーズは名前の通り、ハムとチーズが入った変わり種。魚のすり身とハムの組み合わせは意外とよく合う。子どもも大満足の優しい味わいだ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 いわしごぼう

いわしごぼうはイワシのすり身が風味豊かで味わい深く、ごぼうの歯応えがよいアクセントになっている。イワシつみれが好きな方にはたまらない大ボリュームなものとなっている。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 めんたい

めんたいは明太子がふんだんに散りばめられていて、すり身の色もほんのりと赤くなっている。辛味よりは明太子のうまみがしっかり感じられるユニークな一品だ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 ミックスねーず

ミックスねーずはマヨネーズにキャベツ、人参、そして豚肉が入っている。味はお好み焼きそのもので、キャベツや豚肉の甘みとマヨネーズのまろやかな酸味がうまくマッチしている。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のおでん種 にんにくボール

最後はにんにくボールだ。ニンニクとニラが入っているが、とにかくニンニクの香りがすごい。揚げたてはその香りが袋ごしからも感じられるほど。筆者のいちばんのお気に入りだ。

千葉県銚子市川口町:嘉平屋のカレーボール

おでん種、とりわけ揚げ蒲鉾は発祥が定かでないものが多い。一説には福岡発祥とされる餃子巻と同じように、東京下町で馴染みの深いカレーボールも千葉県銚子で生まれた可能性が高い。現在ではその経緯をたどることは困難だが、さまざまな職人の手によって製法や味が伝わってきたと思うとなんとも感慨深いものがある。

カレーボールの歴史を探しに、東京のおでん種やさんや銚子の嘉平屋に尋ねてみてはいかがだろうか。なお、嘉平屋はオンラインショップも充実しているので、そちらで入手してみるのもいいだろう。

嘉平屋の基本情報

嘉平屋 川口店 おみやげセンター
〒288-0003 千葉県銚子市黒生町7251-2
0479-25-0600
定休日:年中無休
営業時間:8:30~17:00
嘉平屋のWebサイト(オンラインショップ)

嘉平屋 ウオッセ店
〒288-0001 千葉県銚子市川口町2-6529-34
0479-21-0020
定休日:年中無休
営業時間:10:00~19:30

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