板橋区中板橋にある太洋かまぼこ店は、若い3代目店主がこだわり抜いた味と品質のおでん種を提供するおでん種専門店だ。今回はこちらの店頭で販売するできたて調理済みおでんを紹介する。
東京おでんだねでは過去2回ほど太洋かまぼこ店を取り上げており(『太洋かまぼこ店のおでん種』、『東京おでんの調理方法』)、お店のInstagramやFacebookも日々チェックしている。このお店のすごいところは数多くあるが、とりわけ味と品質にこだわっていることである。
魚のすり身は生魚を用い、保水のために加えるでん粉は化学的に処理された加工でん粉を用いずに馬鈴薯でん粉という食品でん粉を使用している。さらに、これらの原材料を店頭のホワイトボードに明記して「見える化」を徹底している。InstagramやFacebookにも掲載しているので、安心して美味しいおでん種を味わうことができるのだ。
さらに、モッツァレラチーズ揚げや青森のソウルフードであるいかめんち、ゆず七味ピリ辛揚げなど、オリジナリティあるおでん種も次々と開発している。
これらの野心的な試みを行っているのが3代目店主。前職は食品衛生や栄養に関してのエキスパートであり、家業を継いだのも比較的最近ということから蒲鉾作りの修行と研究に余念がない。爽やかな笑顔が好印象だが、ときおり見せる真剣な表情におでんに対するひたむきな情熱が感じられる。
大根が1番人気!太洋かまぼこ店の調理済みおでん
さて、調理済みおでんを見ていこう。6つに仕切られた大きな鍋にたくさんのおでん種が詰め込まれている。
1番人気は大根で、写真奥の横一列を占有するほどの人気だ。Instagramによると今冬に仕入れた大根は柔らかく、従来の下茹で時間だと型崩れしてしまうという。繊細な調整によってベストな状態を保っているので、いつでも美味しい大根が食べられる。
この大ぶりの大根を見よ。それでいてしっかりとおでん汁を吸いこんでいて、美しい飴色に仕上がっている。
調理済みおでんのこだわりポイントをうかがってみたが、ほかのおでん種専門店と同じくとりわけ特別なことはしていないそうだ。ただし、多彩なおでん種がひとつの鍋で煮ることで、複雑で深いあじわいの出汁になるのだという。1番人気の大根も、極上のおでん汁があってこそ美味しさが生み出されるのだ。
価格はほかのおでん種専門店よりも割安になっている。はんぺんが35円というのは驚きだ。単品はもちろん、セットも販売している。こちらも8種類入って370円、びっくりするくらいリーズナブル。
ちくわぶもじっくり鍋で煮てあるので、よく味が染みている。基本的にはパックではなく生のものを使用しているので柔らかく、小麦本来の美味しさも堪能できる。
そのほか、お店にはそれぞれの種の栄養成分表示が掲載されていたり、お客さんの健康を気遣う気持ちがあふれている。「地元のお得意さんがなにより一番大事」と店主は話すが、遠方からやってきてもきっと歓迎してくれることだろう。
太洋かまぼこ店の調理済みおでん
店主は東京おでんだねの記事を常にチェックしていただいているそうで、筆者の活動に賛同していただきちょっと恥ずかしくなった。まだまだお話をうかがいたかったが、お客さんがひっきりなしに訪れるので、やむなくお店をあとにした。
持ち帰りにはビニールがぱんぱんになるまでおでん汁をサービスしてくれる。輪ゴムでしっかり結んでくれるので、帰りにこぼれてしまうことはない。
今回購入したのは12種類。時計回りに12時から、大根、もやし揚げ、厚揚げ、さかなすじ、昆布、つみれ、ちくわぶ、ぎょうざ巻き、ごぼう巻き、たまご(中央左)、じゃがいも(中央右)、うずら巻き(中央下)。
調理済みおでんのメリットは、あたためるだけで本格的なおでん種やさんのおでんができあがることだ。時間に余裕のない昨今の家庭では重宝することだろう。
しみしみの大根の断面を見ていただきたい。どれだけおでん汁が染みているかがわかるだろう。口に含むだけでおでん汁が溢れかえり、複雑かつ透き通った味わいが広がる。それでいて大根特有の風味も残っているのが素晴らしい。
じゅわっと汁があふれるのは厚揚げも同様だ。崩れにくい木綿の厚揚げは食感や大豆の甘味もしっかり残っている。一般家庭ではなかなか出すことのできない本格的な味だ。
ちくわぶはくたくたの味の染みた美味しさはもちろんだが、小麦の風味も残した絶妙な煮込み具合。店主の日々の研究と、こまめにチェックの入る調理によって作り上げられた芸術作品だ。
じゃがいもはおでん汁がしっかり染みつつ、じゃがいも特有の食感と炭水化物を頬張る満足感を楽しめる。季節によって北海道産と九州産を使い分けているそうだ。また、日によって種類も異なり、メークイン、男爵いも、それぞれの違いを楽しむことができる。リピートする楽しみが増えるというものだ。
さかなすじは昔ながらの味を再現すべく、店主が試行錯誤を重ねて作り上げた逸品。ヨシキリザメのすじ、アオザメのすじと肉が主原料なので、伝統的な関東の魚すじそのものだ。もちもちとした食感、サメ独特のうまみが感じられる。
ぎょうざ巻きは餃子がまるまるひとつ入った贅沢なおでん種。太洋かまぼこ店のものは餃子をすっぽりと包みこんだタイプ。「具材はなにかな?」といったワクワク感を得られるだけでなく、餃子のうまみをしっかり閉じ込めることができる。餃子の餡を増量してあるので、餃子の美味しさを十二分に堪能できる。
つみれはイワシのほかに、マグロ、アオザメをブレンドしている。イワシ特有の臭みがとれ、ぼそぼそとした食感もなくなる。魚が苦手な子どもに好評だそうだが、それぞれの魚のうまみを生かしているため大人が食べても美味しい。
ごぼう巻きはスタンダードながら、滋味深いゴボウ特有の味わいが楽しめる逸品。塩の配分を抑えている魚のすり身とあいまって、ついつい日本酒に手が伸びてしまう。
もやし揚げはしっかりしたボリュームが嬉しい。黒ゴマやもやしはもちろん美味しいが、もっちり、ふんわりした肉厚のすり身が素晴らしい。太洋かまぼこ店に訪れたら必ず食べたいおでん種だ。
うずら巻きは上品な味わいが印象的なおでん種。小さいながらもぎゅっと美味しさの詰まったウズラがいい。ほかのお店に比べて手頃なサイズなので、女性でも飽きずに楽しめるだろう。
昆布は釧路東部のさおまえ昆布を使用している。さおまえは「棹前」と書き、成長した昆布漁の解禁を棹入れ(さおいれ)と呼称し、それより前に採取する昆布のことをさおまえ昆布と言うそうだ。葉が柔らかいので煮物として最適で、豊かな風味を堪能できる。
たまごはじっくりと煮込まれて表面が美しい褐色に覆われている。固茹でされているので黄身のうまみがぎっしり凝縮されている。
歴戦のご高齢の職人が創り出すおでん種も魅力だが、新規参入して日々研鑽を重ねる若い世代のおでん種にも魅力が詰まっている。彼らは伝統を守りながら、クリエイティビティを発揮して新たな食文化を作り出している。太洋かまぼこ店の店主はその先鋒を担っている。池袋から電車ですぐにアクセスできる場所なので、ぜひ訪れて、ご自身の舌でその味を確かめていただきたい。
太洋かまぼこ店の基本情報
太洋かまぼこ店
〒173-0016 東京都板橋区中板橋15-14
03-3962-5473
定休日:日曜日
営業時間:10:30~19:00すぎ
太洋かまぼこ店のウェブサイト
太洋かまぼこ店のInstagram
太洋かまぼこ店のFacebook