平澤蒲鉾店のできたておでん

今回は北区神谷にある平澤蒲鉾店のできたておでんを紹介する。立ち飲みできる「平澤かまぼこ 王子駅前店」が有名だが、おでんをはじめとした練り物はすべて神谷のお店で手づくりしている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

良質な魚のすり身と熟年の職人技によって見事な食感と味を実現している。地元はもとより、海外から訪れるファンも多い。

北区を代表するおでん種専門店、平澤蒲鉾店

平澤蒲鉾店は昭和37年(1962年)に北区神谷で創業した。昭和45年(1970年)には全国蒲鉾品評会で全日本水産会長賞を受賞するなど、歴史と実力を兼ね備えた北区を代表するおでん種専門店だ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

今回お話をうかがったのは2代目店主の平澤慶彦さんだ。訪れたのは午後3時だったが、日が暮れるまでお店の歴史から商品の製造方法に至るまで詳しく解説していただいた。

平澤蒲鉾店の創業者である先代店主、平澤源治さんは千葉県市川の蒲鉾店(マル佐蒲鉾店と思われる)で10年ほど修行した後、水質が良く蒲鉾づくりに適した王子・赤羽周辺の神谷で独立した。同業者が経営していた店舗に居抜きで入り、そこから60年に渡って蒲鉾を作り続けている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のおでん種

平澤蒲鉾店は北区王子にある立ち飲み店「平澤かまぼこ 王子駅前店」が有名だが、慶彦さんが平成11年(1999年)に開業した。当時、飲食業を経営する蒲鉾店は珍しく、低価格で楽しめることから「せんべろ」の先駆けともいえる画期的なお店として人気を博し、現在も賑わいを見せている。

現在の王子駅前店はネパール人の店主に経営を任せ、別会社となっている。こちらについては「平澤かまぼこ王子駅前店のできたておでん」の記事をご覧いただきたい。

煮干しベースのおでん汁は深みのある味わい

神谷のお店では自宅調理用のおでん種に加え、店頭で調理したできたておでんも販売している。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

鍋には12種類ほどのおでん種が揃い、昆布は50円、それ以外は100円と非常にリーズナブルだ。大根や玉子、ちくわぶのほか、手づくりのはんぺんやさつま揚げ、つみれなどの練り物も充実している。学校帰りの小学生たちが「美味しそう」と言いながら鍋を覗いていく姿が印象的だった。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

おでん汁の出汁は煮干しをベースにしており、休日以外は前日のものを継ぎ足ししている。ここに揚げ蒲鉾などさまざまなおでん種が加わることによって、さらに深みのある味わいとなる。王子駅前店のものとは「経営が変わったので作り方も異なるかもしれない」とのことなので、食べ比べしてみても面白い。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

おでん種はそれぞれじっくりと煮込まれている。大根は下茹でしたあとにだし汁で煮て、最後におでん鍋で煮込んで仕上げる。合計3回の手間を加えることにより、ほろほろで味の染みた大根が完成する。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

大根の下茹でに使用される釜は先代の時代からの年代物で、お店と同じくらいの歴史がある。揚げ蒲鉾を作る際にもこちらの釜を使用しているそうだ。炉のガス装置は取り外しできるようになっており、薪も使用できる。以前は築地で手に入れた木製のトロ箱(海産物を入れる箱)を薪にして煮炊きをしていたという。採肉機や擂潰機などもかなり古く、昭和9年(1934年)創業の勝又製作所のものが多いという。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

おでんはお持ち帰りもできるが、その場で食べることもできる。希望すればおでんを容器に入れてくれ、店頭に置いてある椅子に座って味わえる。近隣の工事現場で働く人などは、幾つか頼んでその場でさっと食べて帰っていくそうだ。

先代から受け継がれた、こだわりのはんぺん

平澤蒲鉾店ははんぺんづくりに定評があり、先代店主はこれまでさまざまなお店で作り方を指南していたという。2代目の慶彦さんも先代から直接教わり、現在もこだわりのはんぺんを作り続けている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

アオザメとヨシキリザメ、2種類のサメ肉が原料となるはんぺんは魚のうまみを存分に味わえる。はんぺんの製造技術は練り製品のなかで最も難易度が高く、とりわけ夏季に作るのが難しいといわれるが、慶彦さんは四季を通して品質の良いはんぺんを安定して生産することができる。また、食感もふわふわ、もしくはもっちりと、自在にコントロールできるそうだ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

慶彦さんにはんぺんの製造に使われる笊(ざる)を見せていただいた。茹でたはんぺんを取り出す際に使うもので、職人による特注品なのだそうだ。合羽橋の専門店で手に入れていたが、現在は廃業して新しいものが手に入らなくなった。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

お店で働いていたベトナム人の方にこの話をしたところ「作れる」ということで、新しい笊を手づくりしてもらった。安定感があって使いやすく、現在はこちらを重宝しているという。

東京都北区岸町:平澤かまぼこ 王子駅前店のおでん

桜の名所である王子の飛鳥山にちなんで、春には桜エビを混ぜた「桜はんぺん」も作っている。ふわりと漂うはんぺんの風味に桜エビの香ばしい香りがよく合う逸品だ。

原料魚を使い分け、さまざまな種類の練り製品を作る

お店の中央では揚げ蒲鉾を販売しており、訪れた日は10種類ほどが並んでいた。自宅調理用としてだけでなく、そのまま食べてももちろん美味しい。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のおでん種

すり身はスケトウダラを中心として、カジキマグロやイトヨリダイなどをブレンドしている。季節や日毎の変化に応じてさまざまな原料魚を使い分け、常に品質の高い商品を作り続けている。揚げ蒲鉾についての詳細は「平澤蒲鉾店のおでん種」の記事をご覧いただきたい。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のおでん種

左側の冷蔵ケースには下茹でした大根やゆで卵、はんぺんやつみれ、魚のすじ、焼ちくわなどが並んでいる。つみれはイトヨリダイやアオザメ、カジキマグロなどを加えて味をよくしている。以前は焼ちくわも手づくりしていたそうだ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店の茹で蒲鉾

おでん用以外の練り物では茹で蒲鉾も作っている。王子駅前店では板わさとして提供しているが、お持ち帰り用にも購入できる。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店の煮こごり

冬季はアオザメの皮を使用した煮こごり、スケトウダラを使用したお正月向けの伊達巻も手づくりしている。煮こごりについては「東京のおでん種やさんの煮こごり」の記事をご覧いただきたい。

練り物以外のおでん種となるちくわぶ、白滝、こんにゃくは東中野の山田食品のもの、昆布は昆布漁がはじまる前に採った棹前(さおまえ)昆布という柔らかく良質なものを揃えている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

慶彦さんはお店を継ぐ前は商社に勤めていたが、高校入学時にはすでに蒲鉾づくりをはじめていた。熟練の技を身につけており、水産練り製品製造技能士の国家資格も取得している。さまざまな原料魚を扱うことができ、ありとあらゆる種類の練り製品を作ることができるようになったが、偉大な職人だった先代の影響も大きいようだ。研鑽を積み重ねた現在、「そろそろ親父に対して胸を張ることができるかな」とはにかむ慶彦さんの表情が印象的だった。

しっかり味が染み込んだ、平澤蒲鉾店のできたておでん

お話をうかがった後、できたておでんを購入して自宅で味わってみることにした。購入したのは7種類。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

時計回りに12時から、大根、白滝、つみれ、玉子、ちくわぶ、さつま揚げ、カレーボール(中央)。淡い色合いだが、しっかりと煮てあり味が染みているのが分かる。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん(包装時)

購入するとポリ袋と手提げ袋に入れてくれる。おでん汁もたっぷりと入れてくれるが、しっかりと輪ゴムで結んであるのでこぼれる心配がない。からしが粉からしなのが嬉しいところだ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん 大根

大根は下茹でを含めて3回煮てあり、中心まで非常に柔らかくなっている。おでん汁のやさしいうまみをたっぷり含んでおり、口に含むと幸せで満たされる。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん カレーボール

カレーボールはカレー粉のスパイシーな香りが印象的ながら、きちんと魚のすり身の味わいが感じられる。ぷりっとした食感も素晴らしい。混ぜ込まれた玉ねぎの甘さも際立っている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん さつま揚げ

さつま揚げはほどよい弾力があり、非常に滑らかな舌触りだ。すり身以外の具材が入っていないので、魚のうまみだけを存分に楽しめる。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん つみれ

つみれは魚のやさしいうまみがしっかり感じられる。ふんわり滑らかな舌触りだが、ぷりぷりとした食感を残しており、喉越しもいい。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん 玉子

玉子は表面が褐色に染まるほどじっくり煮込まれているが、黄身はしっとりしていて白身はぷるんと張りがあり、玉子の美味しさを十二分に堪能できる。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん ちくわぶ

ちくわぶもじっくり煮込まれていながら、もちもちとした食感が保たれている。ミルフィーユ状の隙間におでん汁がしっかり染み込んでおり、とてもジューシーだ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん 白滝

白滝は隙間にたっぷりおでん汁を抱き込んでいて、噛むとじゅわっとうまみが溢れてくる。白滝の弾力もくたびれることなく、その食感を楽しむことができる。

親子二代に渡って守り続けるこだわりの味

「トビウオやタチウオで作る西の練り物は脂分が多いから、2回茹でる必要はあるかと質問する方は山陰出身の場合が多い」、「大根は西日本は柔らかめ、東日本はすこし硬めが好き」など、慶彦さんは練り物やおでんに関する知識がとにかく豊富だ。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店のできたておでん

また、飲食店経営についてもノウハウを蓄積していることから、蒲鉾職人以外にもさまざまな人々がアドバイスを求めにやってくるという。慶彦さんのお話をうかがっていると、はんぺん作り方を指南してきた先代店主も同じように親身になって相談に乗っていたのだろうと想像できた。親子二代に渡って守り続けるこだわりの味をぜひご自身で味わっていただきたい。なお、王子駅前店は2022年12月13日から翌年1月15日までお休みとなるのでご注意いただきたい(王子駅前店のInstagramで確認するといい)。

平澤蒲鉾店の基本情報

平澤蒲鉾店
〒115-0043 東京都北区神谷2-28-15
03-3901-9421
定休日:日曜、祝日(夏季は長期休業)
営業時間:15:00(冬季は14:00)~18:30

平澤かまぼこ 王子駅前店の基本情報

平澤かまぼこ 王子駅前店
〒114-0021 東京都北区岸町1-1-10 NUビル1階
03-5924-3773
定休日:月曜
営業時間:火〜金:11:00~22:30(L.O.22:00), 土日祝:11:00~21:00(L.O.20:30)
平澤かまぼこ 王子駅前店のInstagram

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