おせち料理に欠かせない練り製品

蒲鉾や伊達巻に代表される練り物はおせち料理に欠かせない食材だ。今回は板付蒲鉾の飾り切りや伊達巻の作り方、おせち料理に使う練り物などを紹介する。

おせち料理(蒲鉾と伊達巻)

年の瀬が近づくにつれて忙しさは増してくるが、お正月は新たな一年の幕開けであり、襟を正して迎えたいものだ。とりわけ、おせち料理は年神様(歳徳神)を迎えるお供えや家族の無病息災と子孫繁栄を願う縁起物としてきちんと準備したい。

おせち料理にはさまざまな食材が用いられるが、練り物は欠かせないものとなっている。その代表が紅白の蒲鉾と伊達巻で、紀文食品が2022年に調査した「おせち料理の用意率ランキング」では蒲鉾が第1位、伊達巻が第4位となっている。

今回は板付蒲鉾の飾り切りと伊達巻の作り方を中心に、おせち料理に使用される練り物の紹介をしていきたいと思う。

おせち料理に用いられる練り物たち

おせち料理に使用される練り物はいくつもある。蒲鉾といえば板付蒲鉾を想像するが、全国にはその土地の名産といえる蒲鉾が存在する。

富山県の赤巻と昆布巻

たとえば、富山県などの北陸では「赤巻」や「昆布巻」と呼ばれる2色の渦巻きが美しい蒲鉾がある。正月以外にも日常的に使われているが、おせち料理にも欠かせないそうだ。

熊本県の旭巻と長崎県の龍眼
熊本県の旭巻(左)と長崎県の龍眼(右)

熊本県では鶏卵にすり身を巻いた「旭巻」と呼ばれる蒲鉾が用いられ、お隣の長崎県には「龍眼」と呼ばれる揚げ蒲鉾があり、こちらも鶏卵が入っている。龍眼については「バクダン(龍眼)という名のおでん種」という記事にまとめているのでご一読いただきたい。

大清かまぼこ店のなると巻で作ったお雑煮

お雑煮には板付蒲鉾だけでなく、なると巻を入れることも多い。主に東北や関東など東日本のお雑煮に多く、関西以南は板付蒲鉾が多いようだ。

東京都西東京市ひばりが丘 一番通り商店街:大清かまぼこ店のなると巻(紅白)

なると巻は静岡県の焼津市を代表する名産品となっているが、西東京市のひばりが丘にある大清かまぼこ店ではおせち用に手づくりしたものを販売している。紅白が反転した2種類があり、飾り付けとして使用すると非常に華やかになる。

このほか、魚のすり身に山芋や卵白などを加えた「しんじょ(真薯、真丈)」をお雑煮に入れたり、型抜きしたはんぺんにイクラや海苔などを乗せてオードブルに使用するなど、練り物はアイデア次第でお正月料理の可能性を広げてくれる。

九州屋蒲鉾店のおでんで作ったおでんそば

さらに、年越し蕎麦のトッピングにするなど、かなり応用範囲が広い。冷蔵すれば年末年始の間は保存できるので、余分に購入しておくといいだろう。

おせち料理の主役、紅白の板付蒲鉾

板付蒲鉾はおせち料理で最も多く利用される練り物だ。半月の形が日の出を連想させ、紅は魔除け、白は清浄を表す。蒲鉾はおせち料理では「口取り」と呼ばれる酒の肴として重箱の一の重に入れられる。

板付蒲鉾(鈴廣の特上蒲鉾 紅)

板付蒲鉾は量販店に並んでいる普段使いのものでかまわないが、お正月なので特別なものを入手してもいいだろう。年末は各社で高級な板付蒲鉾を販売している。

鈴廣かまぼこの特上蒲鉾と籠淸の特上板 冽
鈴廣かまぼこの特上蒲鉾(左)と籠淸の特上板 冽(右)

東京では紀文が有名だが、小田原の蒲鉾もお馴染みだ。鈴廣籠淸丸う(丸う田代)、山上蒲鉾店など、グチやオキギスなどを原料にした逸品を揃えている。SNSなどで「年末は蒲鉾の値上がりが著しい」という投稿を目にするが、お正月用に普段見かけない高級な蒲鉾が並んでいるだけだ。

東京都文京区大塚 日出優良商店会:栄屋蒲鉾店
文京区大塚の栄屋蒲鉾店(閉業)のおせち食材販売風景

東京のおでん種専門店では手づくりのものが販売されているが、年々その数を減らしている。年末はおでん種専門店の繁忙期であり、板付蒲鉾を手づくりするのは非常に手間がかかる。2022年の年末には荒川区東尾久の九州蒲鉾店が製造を取りやめ、現在入手できるお店はほぼなくなったといっていい。

蒲鉾の飾り切りをしてみよう

さて、ここからは蒲鉾がより美しく見える飾り切りについて紹介しよう。紀文や鈴廣など、企業サイトや動画ポータルなどでたくさんの種類が掲載されているが、ここでは代表的なものを5つ解説していこうと思う。

蒲鉾の飾り切りと手づくり伊達巻

飾り切りした蒲鉾はお重に入れたり、お雑煮などの汁物に盛り付けたりとさまざまな利用方法がある。

鈴廣かまぼこの「小田原っ子」

飾り切りは慣れないと綺麗な形にできない場合があるので、量販店向けの商品で練習するといい。たとえば、鈴廣かまぼこの「小田原っ子」は廉価でありながら保存料や化学調味料を使用していないため安心して使用できる。また、籠清の「僅少蒲鉾」もグチを100%使用していて品質が高い。

蒲鉾を板から剥がす

蒲鉾を板から外すときは包丁の背(峰)を使うといい。蒲鉾と板の間に包丁の背を入れるだけだが、包丁が入れにくい場合は蒲鉾の側面と包丁の側面を合わせ、蒲鉾を若干しならせると板の間に隙間ができる。

蒲鉾の飾り切り:市松

「市松」は大定番であり、最も簡単にできる飾り切りだ。12mmほどに切った紅白の蒲鉾を半分に切り、色が交互になるように並べれば完成だ。シンプルだが上品で、筆者はこの飾り切りがいちばん好みだったりする。

蒲鉾の飾り切り:結び

「結び」はお盆での盛り付けやお雑煮などの飾り付けとして活用できる。作り方は非常に簡単なので、最初に習得しておくといいだろう。

蒲鉾の飾り切り:「結び」の作り方

蒲鉾を10〜12mm程度に切ってから、まな板に寝かせた状態で上は右側から、下は左側から包丁を入れ、中央は左右を残して切れ込みを入れる。切れ込みの間隔は縦に4等分だ。次に、上の先端を手前(表)から、下は奥側(裏)から中央の切れ込みに通せば完成だ。

蒲鉾の飾り切り:手綱

「手綱」は三つ編みのような模様が入る美しい飾り切りだ。お重にも使えるし、お盆にもよく映えるだろう。ちなみに紀文では「手綱」ではなく「うさぎ」と呼んでいる。

蒲鉾の飾り切り:手綱

蒲鉾を12mmに切ってから、リンゴの皮のように半月状の部分を薄く剥いていき、3分の1ほど残す。切り離した部分の中央に切れ込みを入れて、端を下側から切れ込みに通せば完成だ。薄く綺麗に剥くのにコツがいるが、よく切れる包丁かデザインナイフを使用すると成功しやすい。

蒲鉾の飾り切り:孔雀

「孔雀」は一見すると難しそうだが、意外に単純な構成をしている。お雑煮などの汁物に最適だが、薄めに仕上げると崩れやすいので鈴廣の「冠」のように台座を作ったほうが扱いやすいかもしれない。

蒲鉾の飾り切り:「孔雀」の作り方

蒲鉾を5〜10mm程度に切ってから、縦に2mm程度の間隔で切れ込みを入れる。爪楊枝などで1本ずつ内側に畳めば完成となる。

蒲鉾の飾り切り:鶴

「鶴」は孔雀の応用編だ。かなり複雑な形状に見えるが、難易度は孔雀と同じくらいだ。こちらもお雑煮などの飾りに使用すれば、非常に華やかな仕上がりになるだろう。

蒲鉾の飾り切り:「鶴」の作り方

蒲鉾を5〜10mm程度に切ってから、左半分までを縦に、右半分を横に2mm程度の間隔で切れ込みを入れる。爪楊枝などで1本ずつ内側に畳めば完成となる。

卵の黄色が華やかな伊達巻

伊達巻もおせち料理には欠かせないもののひとつだ。巻物のような形状が書物を連想させ、学業成就の願いが込められている。

伊達巻

名前の「伊達」のとおり黄色い卵の色が華やかで、お祝いの席にぴったりだ。板付蒲鉾と同様に口取りとして重箱の一の重に入れられ、渦は右巻きにして飾り付けられるのが一般的だ。

東京都西東京市ひばりが丘 一番通り商店街:大清かまぼこ店のおせち用食材
大清かまぼこ店のおせち用食材

東京のおでん種専門店で手づくりのものが入手できるが、ひばりが丘の大清かまぼこ店、北区神谷の平澤蒲鉾店などに限定される。それ以外は小田原などの専門業者から仕入れたものを扱っている場合があるので、贔屓のお店に聞いてみるといいだろう。

手づくりの伊達巻

伊達巻は自宅でも調理できるので、余裕があれば挑戦してみよう。魚のすり身ははんぺんで代用できるので意外に簡単に作ることができる。甘さや量も調整しやすい。

東京都中央区日本橋:神茂の手取りはんぺんと小はんぺん

はんぺんは量販店で販売しているものでかまわないが、職人が手づくりしたものを使ってこだわってみるのもいいだろう。日本橋の神茂、吉祥寺の塚田水産、墨田区京島の大国屋、荒川区東尾久の九州屋蒲鉾店などで販売している。詳細は「手づくりはんぺん」の記事一覧で確認してほしい。

銅製の卵焼き器

13cm程度の卵焼き器で作ることを想定して、分量は鶏卵2個、砂糖20〜30g、はんぺん大1枚もしくは半分(60g〜100g)、みりん小さじ1程度にする。ここに芝エビなどを加えて風味を増すのもいいだろう。

巻き簾(鬼すだれ・鬼す)

巻き簾は「鬼すだれ・鬼す」と呼ばれる伊達巻用の太いもの、もしくは通常の細いものでもかまわないが、伊達巻の表面に付くぎざぎざの形状が変わってくる。

伊達巻を作る:卵を割る

卵を割ってひとつずつお玉や器などに移し、状態を確認してからひとつのボウルにまとめる。最近はほとんど見かけないが、血卵(血斑卵)や悪くなっている場合があるためだ。

伊達巻を作る:材料をフードプロセッサーに入れる

フードプロセッサーもしくはすり鉢にすべての材料を投入する。はんぺんは一度に入れず、攪拌しながら柔らかさを確認して入れるといい。その際、細かくちぎって入れると混ざりやすい。

伊達巻を作る:フードプロセッサーで材料を攪拌する

途中でスプーンなどですくい、ほどよくとろみが出るまではんぺんを足していく。攪拌を続けて滑らかになったら生地の準備は完了だ。

伊達巻を作る:卵焼き器を温め油を敷く

伊達巻を焼く場合、熱を満遍なく通す必要がある。このため、卵焼き器を移動しやすいように焼き網を敷いておくと安定する。サラダ油を敷いて余分な油分をキッチンペーパーで拭き取る。伊達巻は弱火でじっくり火を通すが、焦げつきやすいので最初は中火で温度を上げておく。

伊達巻を作る:卵焼き器に生地を流し入れる

油がさらっとしてきたら火を止めて生地を流し入れる。生地を入れた際にじゅわっと油の音が鳴るくらいが目安だ。また、厚みは半分程度におさえておくと失敗が少ない。前後左右に傾けて均一にしたら、弱火で9分ほど熱を入れる。

伊達巻を作る:アルミホイルで蒸し焼きにする

上面は熱が通りにくいため、アルミホイルで卵焼き器を覆って蒸し焼きにする。3分ほどの間隔で卵焼き器を移動させ、火の位置を変えて全体に火を通す。

伊達巻を作る:生地に火が通っているか確認する

表面を触ってもなにも付かないようなら裏返しのサインとなる。上の写真はあとひと息というところ。

伊達巻を作る:生地を裏返す

菜箸などで四隅を剥がし、奥側からフライ返しや菜箸を入れて生地を掴む。生地を奥側に寄せて、卵焼き器を傾けながら慎重に裏返す。

伊達巻を作る:裏返したら再びアルミホイルで蒸し焼きにする

上の写真は裏返したところ。ここにふたたびアルミホイルをかぶせて3分ほど熱を通す。これで火を使う作業は終了だ。

伊達巻を作る:内側に切れ目を入れる

まな板に生地を置き、包丁で内側に浅く切れ目を等間隔に入れる。深く入れると巻くときに割れてしまうので慎重に行おう。

伊達巻を作る:丸めてラップで包む

生地を巻きつつ、乾燥を防ぐためにラップで包む。しっとりとした仕上がりになるだけでなく、巻き簾が汚れないのでおすすめの方法だ。

伊達巻を作る:巻き簾で包む

ラップの上から巻き簾を巻いて、両端を輪ゴムで止める。立てて置いておき、しばらくしたら上下を入れ替えておく。自立しにくい場合は湯呑みなどに入れておくといい。

伊達巻を作る:完成

粗熱が取れたら冷蔵庫に入れておくと味が落ち着いて伊達巻らしい味わいとなる。冷蔵で3日、砂糖が多ければ1週間程度は持つ。冷凍の場合は1ヶ月が目安となる。

家庭用の小さな卵焼き器で作ったため小ぶりの仕上がりとなったが、ふたり用などコンパクトなおせち料理にはちょうどいいサイズといえる。ご自宅の卵焼き器やフライパンの寸法と比べながら、分量を調整して調理していただきたい。

蒲鉾の飾り切りと手づくり伊達巻

おせち料理は非常に手間がかかるが「一年の計は元旦にあり」の言葉通り、きちんと用意するととても清々しい気持ちになる。練り物は古くからおせち料理に用いられてきた伝統的な食材でありながら、調理の手間を必要としない忙しい現代人にぴったりの食材でもある。板付蒲鉾や伊達巻をはじめとしたさまざまな種類の練り製品を使用して、素敵なお正月を迎えていただきたい。

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