東京のおでん種やさんの煮こごり

サメ(鮫)皮の煮こごりは、つるんとした食感と素朴な味わいが魅力の食べ物だ。今回は、サメ皮の煮こごりを手づくりする東京のおでん種専門店を紹介したいと思う。

東京のおでん種やさんの煮こごり:神茂の煮こごり

煮こごり(煮凝り)は、ゼラチン質の多い魚や肉の煮汁を冷やして固めたゼリー状の食べ物だ。今回紹介するサメのほか、フグやヒラメ、鯛、ウナギなどが用いられる。

丸勇水産(千葉県市川市)のとらふぐにこごり
トラフグの切り皮を使用した丸勇水産(千葉県市川市)のとらふぐにこごり

肉類では鶏手羽や牛すじなどゼラチン質が多い部位を用いることが多い。また、寒天などを加えて固める場合もある。ゼラチンは気温が高いと溶けてしまうので、主に冬場に作られる。

なぜ、おでん種専門店で煮こごりが作られているのか

サメ皮の煮こごりは新潟県の上越地方が有名で、モウカザメ(ネズミザメ)が利用されてきた。また、広島県備北地方の和邇料理(わにりょうり、わにはサメの意味)にも煮こごりがある。サメは体内に尿素を蓄えており、水揚げ後に尿素は分解されアンモニアとなる。アンモニアは雑菌の繁殖を妨げ、海から離れた土地でも保存でき、生食に利用され重宝されたという。

アオザメ
アオザメ, Patrick Doll, Kurzflossen-Mako, Cropped from original, CC BY-SA 3.0

一方、東京のおでん種専門店でもサメ皮の煮こごりが作られており、主にアオザメやヨシキリザメが使用されている。おでんは鍋料理なので煮こごりを入れると溶けてしまうのに、なぜ作られるのだろうか。

ヨシキリザメ
ヨシキリザメ, Diego Delso, Tiburón azul (Prionace glauca), canal Fayal-Pico, islas Azores, Portugal, 2020-07-27, DD 31, Cropped from original, CC BY-SA 4.0

その秘密は、はんぺんと魚のすじにある。はんぺんはアオザメとヨシキリザメの肉が主原料となり、取り除かれたすじや軟骨部分は魚のすじになる。その際、皮の部分が余るため、煮こごりとして活用されるというわけだ。ちなみに、昔はヨシキリザメを使うはんぺんは下級品、駄物といわれており、アオザメのほかにメジロザメ、ホシザメなどが使われていた。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店
煮こごりを販売するおでん種専門店ははんぺんや魚のすじを手づくりしている(阿佐谷南の蒲重蒲鉾店にて)

煮こごりを販売するお店ははんぺんや魚のすじを手づくりしているお店だ。以前は多くのおでん種専門店ではんぺんを手づくりしていたが、現在では13軒程度となっている。さらに煮こごりを手づくりしているお店となると数軒にとどまる。これは原料魚のサメがはんぺんや魚のすじ以外のおでん種ではあまり利用できず、仕入れなくなったことが理由のひとつと思われる。

千葉県野田市野田 蒲鉾の八木橋:気仙沼から入荷された気仙沼のアオザメ
はんぺんや魚のすじに用いられるアオザメ(千葉県野田市野田 蒲鉾の八木橋

サメの水揚げは宮城県の気仙沼が多く、東京のおでん種専門店でも仕入れるお店が多い。気仙沼のサメは東日本大震災で被害を受けた際に供給不足に陥ったが、現在では安定的に手に入るようである。

千葉県野田市野田 蒲鉾の八木橋:サメの皮部分

煮こごりを作るには、かなりの手間を要する。まず、生姜と酒を加えた水を沸騰させ、サメの皮をくぐらせる。次に水のなかで表面のざらざらしている部分(スナと呼ばれる)を指で取り除き、細切りにする。ふたたび生姜を加えた水を沸騰させて弱火で茹でたら、醤油や塩、砂糖、酒、みりんでさらに煮る。最後に火を消して型に入れ、冷やして固めれば完成だ。

煮こごりを販売している東京のおでん種専門店

ここからは、サメ皮の煮こごりを製造販売している東京のおでん種専門店を紹介したいと思う。ほとんどのお店が寒い時期にしか販売していないので、確実に手に入れたい場合は電話して聞いてみるといいだろう。

神茂の煮こごり

元禄元年(1688年)に創業した日本橋の神茂(かんも)は言わずと知れたはんぺんの老舗だ。はんぺんで使用されるアオザメからとれた皮で作った煮こごりを冬季に限定販売している。

東京都中央区日本橋室町:神茂のすじ、煮こごり、はんぺん

上写真は煮こごりのほかに、同じサメを用いて作られた魚のすじとはんぺん。煮こごりのパッケージの説明文には以下のように記されている。

弊店の「煮こごり」は、気仙沼産の青ざめの皮を一枚ずつ職人が丁寧に湯引きしたのち、包丁で余分な魚肉を丹念に取り除き下ごしらえした皮を、三時間以上煮こんでこしらえた出汁に、醤油と味醂で味を整え、三ツ葉をあしらった昔ながらの煮こごりです。

東京のおでん種やさんの煮こごり:神茂の煮こごり

醤油と出汁の丁寧な味付けに加え、爽やかな香りのみつばが高級料亭のような上品な雰囲気を漂わせる。製造数も多くなく、人気商品のため、事前に電話で予約しておくといいだろう。

大国屋(京島)の煮こごり

墨田区京島の下町人情キラキラ橘商店街にある大国屋(京島)でもサメ皮の煮こごりが手に入る。このお店もはんぺんや魚のすじを手づくりしている。

東京都墨田区京島:下町人情キラキラ橘商店街:大国屋(京島)

大国屋(京島)の初代店主は港区の芝宇田川町(現在の浜松町一丁目交差点付近)にあった大国屋で修行をした方だ。そこははんぺんの卸売店であったこともあり、サメ調理に関する技術を有していたのだろう。大国屋(京島)では揚げ蒲鉾はもちろん、つみれや袋詰などの商品も手づくりしている。

東京都墨田区京島:下町人情キラキラ橘商店街:大国屋の煮こごり(鮫)

大国屋(京島)の煮こごりも醤油とみりんをベースとした素朴な味わいで、つるりとした喉越しが気持ちよい。おかみさんに「煮こごりを作るのは大変ですよね」とたずねると、「作り方はシンプルだから簡単ですよ」と笑って答えていた。

蒲重蒲鉾店の煮こごり

杉並区阿佐谷南の阿佐谷パールセンター商店街にある蒲重(かまじゅう)蒲鉾店のサメ皮の煮こごりは、ヨシキリザメを使用している。

東京都杉並区阿佐谷南 阿佐谷パールセンター商店街:蒲重蒲鉾店

こちらもはんぺんと魚のすじを手づくりしているが、ほかの商品も自家製のものばかりだ。ついつい揚げ蒲鉾やお惣菜、できたておでんに目がいってしまうが、煮こごりもぜひ購入してみてほしい。

蒲重蒲鉾店(杉並区阿佐谷南) お惣菜:煮こごり

蒲重蒲鉾店の煮こごりはサメ皮がふんだんに使用されており、ゼラチン質のほうが少ないようにみえる。サメ皮はしっかり煮込まれているので柔らかく臭みはまったくないが、旨味はしっかり詰まっている。

平澤蒲鉾店の煮こごり

平澤蒲鉾店は飲み屋である王子駅前店が有名だが、東京都北区神谷に本店がある。こちらもはんぺんや魚のすじを手づくりしており、冬季は煮こごりのほか、伊達巻や生の蒲鉾も作っている。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店

サメ皮の煮こごりは本店でも王子駅前店でも購入することができる。味を確かめたい場合は王子駅前店で飲みながら味わってもいいだろう。お皿にからしを付けてくれるが、そのまま食べてもじゅうぶん美味しい。

東京都北区神谷 神谷商工睦会:平澤蒲鉾店の煮こごり

王子駅前店では四角く切り分けられた煮こごりを提供されるが、神谷の本店では丸いカップでの販売となる。ほかのお店よりも味付けがしっかりしており、熱燗などと合わせると最高に美味しい。

減少しつつあるおでん種専門店の煮こごり

煮こごりを手づくり販売するおでん種専門店の紹介は以上となるが、このほかに江東区北砂の増英蒲鉾店でも煮こごりを販売している。ただし、自宅用に作っており、余ったものだけを限定的に提供しているそうだ。また、北区赤羽の丸健水産でも販売していたが、製造する方が高齢となり現在では提供していない。

東京都墨田区京島:下町人情キラキラ橘商店街:大国屋の煮こごり(鮫)

かつて東京でははんぺんを製造するお店がいくつもあったが、その数は年々減少している。それとともに、副産物として作られていた煮こごりも店頭に並ばなくなってきている。サメ皮の煮こごりが東京のおでん種やさんで作られていたことはあまり知られていないが、その記録が残されないまま姿を消すのは非常に惜しい。今回の記事で興味を持たれた方は、ぜひお店に足を運んでいただき、煮こごりの美味しさを体験してほしい。

神茂(かんも)の基本情報

神茂(かんも)
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-11-8
03-3241-3988
定休日:日曜、祝日
営業時間:10:00~17:00
神茂のウェブサイト
神茂のTwitter
神茂のYouTube

大国屋(京島)の基本情報

大国屋
〒131-0046 東京都墨田区京島3-43-8
03-3611-5289
定休日:日曜、正月
営業時間:10:00~19:30

蒲重蒲鉾店の基本情報

蒲重蒲鉾店
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-47-10
03-3311-3543
定休日:水曜
営業時間:9:00~19:30
蒲重蒲鉾店のウェブサイト(阿佐谷パールセンター)

平澤蒲鉾店の基本情報

平澤蒲鉾店
〒115-0043 東京都北区神谷2-28-15
03-3901-9421
定休日:日曜、祝日(夏季は長期休業)
営業時間:15:00~18:30

平澤かまぼこ 王子駅前店の基本情報

平澤かまぼこ 王子駅前店
〒114-0021 東京都北区岸町1-1-10 NUビル1階
03-5924-3773
定休日:祝日(8月のみ日曜も定休)
営業時間:10:00~22:00(L.O.)

Scroll to top