丸佐かまぼこ店(荏原中延)が2021年9月閉業

荏原中延の中一商店街にある丸佐かまぼこ店(荏原中延)が2021年9月30日に閉業となった。50年以上の歴史を持つ名店で、地元はもとより遠方からも閉業を惜しむ声が相次いでいる。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種

東京おでんだねでは2019年2月の紹介記事を皮切りに、TVなどのメディア取材の際はいつも丸佐かまぼこ店を推薦していた。閉業まであとわずかだが、店主の岡田満年さんにこれまでのお店の歴史や思い出話、閉業の理由やこれからについていろいろとお話を聞かせていただいた。

店主の修行時代から、建て替えによる閉業まで

丸佐かまぼこ店(荏原中延)の初代店主である岡田満年さんは、昭和21年(1946年)に高知で生まれた。17、8歳のときに義理のお兄さんが東京で蒲鉾店を開いたことを知り、ご自身も独立したいと決意して上京した。高知の山間部で育ったのでさつま揚げ(揚げ蒲鉾)がどういった食べ物なのかわからず、芋の天ぷら(高知の含め、関西以南では揚げ蒲鉾を天ぷらと呼ぶ)やさつまいもを作るものだと思い込んでいたそうだ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

岡田さんの義理のお兄さんは杉並区堀ノ内にある〇佐(まるさ)かまぼこ店の店主、濱田友則さんだ。濱田さんの奥さまは岡田さんのお姉さんにあたる。岡田さんは濱田さんのもとで修行を重ね、25歳のときに独立の夢を果たした。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

岡田さんが開業の地に選んだのが現在の場所(品川区中延1-8-15)だ。こちらはかつて大野蒲鉾店というお店が営業していたが、移転にともない岡田さんが居抜きで入居した。そのため、丸佐かまぼこ店としての創業は昭和46年(1971年)頃だが、同じ立地の蒲鉾店としては昭和33年(1958年)から63年の歴史をもつ。

大野蒲鉾店の店主の奥さまと濱田さんは姉弟関係で、濱田さんは大野蒲鉾店で修行をした経験がある。つまり、大野蒲鉾店の店主は岡田さんの大師匠にあたる。当時の蒲鉾業界は親戚や師弟の絆が強く、お互いに支え合いながら成長していた。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

営業している建物は大野蒲鉾店のころのものであり老朽化が著しい。丸佐かまぼこ店の閉業は、この建て替えによるものだ。岡田さんによると、以前2階は8部屋ある下宿だったそうだ。炊事場は狭く、下宿の入口にはドアもなく、さながらトキワ荘のような趣きだったという。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

義兄の濱田さんと大野蒲鉾店の店主も高知の出身であり、濱田さんは高知市の老舗である永野蒲鉾店で3年ほど修行をされた経験もある。岡田さんは濱田さんのもとで修行することにより、高知特有の揚げ蒲鉾の製作技法を身につけた。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

東京では一般的に1人で成形と揚げ作業を行うが、高知では成形する人、揚げる人の2人体制で揚げ蒲鉾をつくるという。1人の場合はまとまった数のすり身を成形したあと、一度に揚げ釜へ投入する。このため、型崩れしないようにすり身を固めに調整する傾向がある。2人体制だと、ひとつ成形するごとにやさしく揚げ釜に入れるため、すり身が柔らかくても型崩れしにくい。このことで、ふんわりとした揚げ蒲鉾がつくれるのだという。

「どちらが優れているわけではなく、職人のこだわりどころの違いだね」と岡田さんは説明してくれた。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のスタンプ式採肉機

厨房の奥には、年代物の採肉機(魚肉採取機)が置かれていた。採肉機は通称「ガチャン」と呼ばれ、魚肉と皮や骨などの不要部分を分ける機械だ。ロール式とスタンプ式があるが、丸佐かまぼこ店はスタンプ式のものを使用している。スタンプ式は1960年代ごろまで普及していたが、効率のよいロール式に代わっていった。しかし、スタンプ式のほうが柔らかくて良質の肉が取れるといわれている。

魚肉をすり身にする明石鉄工所製の擂潰機(らいかいき)も隣に置いてあった。こちらも年代物で、部品の調達が難しく、明石鉄工所の社長自ら駆けつけて修理をしてくれていたそうだ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)閉業のお知らせ

岡田さんが荏原中延で開業してからおおよそ50年。岡田さん自身はまだまだ現役だが、建物や機械の老朽化は避けられない。岡田さんは「建物はいくらでも新しくできるけど、建物に押しつぶされて死んじゃったら蒲鉾は二度とつくれない」と冗談を言いながら微笑んだ。

地元の人々の協力と店主の努力が結実した、唯一無二のおでん種

丸佐かまぼこ店には揚げ蒲鉾をはじめとした魅力的なおでん種が揃っている。なかでも3種類あるはんぺんは、地元だけでなく遠方から駆けつけるファンも多い。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

はんぺんは昭和50年代半ばに荏原中延にある蒲眞(かましん)の店主に作り方を学んだ。業界の仲間からは「はんぺんづくりはいちばん難しい」と聞いていたが、蒲眞の店主が親身になってサポートしてくれたそうだ。草野球がきっかけで仲良くなったというのも、地元の縁を感じさせる話だ。

また、戸越銀座商店街の後藤蒲鉾店の店主もふらっとお店に訪れてはアドバイスしてくれた。かつて品川区には30軒以上の蒲鉾店が存在し、皆で集まってお酒を酌み交わしながら情報交換をしていたという。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種 はんぺん中・小・丸ちゃん

地元や同業の人々のサポートを得るだけでなく、岡田さん自身も日々研究と修錬を重ね、納得のいくはんぺんが完成した。丸佐かまぼこ店のはんぺんは、サイズや形状の違いで小(上写真の上)、中(同右)、丸ちゃん(同左)に分けられる。どれも厳選した材料を惜しみなく使った逸品だ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

大手メーカーはスケトウダラなど白身魚を使用することが多いが、丸佐かまぼこ店のはんぺんは伝統的な材料となるヨシキリザメとアオザメを使用している。ヨシキリザメは水分を多く含んだ肉質のためソフトな食感となり、アオザメは粘りがあって旨味が強く、空気を抱きやすい。この2つの配合によって、美味しいはんぺんができあがる。通常は卵白や山芋を加えるが、アレルギーに配慮して海藻由来の材料に置き換えている。このため、赤ちゃんの離乳食としても安心して利用できる。

発売当初はお客さんのニーズを考えて小と中の2種類を用意した。小はお弁当に加えたり、チーズなどを挟んでおかずにするなど多用途に活用できる。チーズ、ハム、カイワレを挟んだはんぺんは、かつて商品として販売していたこともあり、好評を博していたようだ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種 はんぺん中・小

はんぺんの中央部分が盛り上がっているのは、富士山のように見えて縁起がよいことと、おまけの意味があるという。岡田さんいわく「何枚か盛り上がった部分をあわせれば1枚分になるでしょ」というわけだ。はんぺんのふんわりとした食感を楽しめる形状であり、手作り(手取り)はんぺんにおける伝統的な形状なのだそうだ。

丸佐かまぼこ店(品川区 荏原中延) おでん種:丸ちゃん

お椀型の丸ちゃんは、メレンゲ状のソフトな食感が存分に味わえる。TVで紹介されて人気に拍車がかかり、横浜など地方から駆けつけるファンも多い。およそ20年前、あるTV番組で築地の名門である佃權(閉業、中央区築地5-2-1)の店主がお椀型のはんぺんづくりを披露しているのを観てアイデアの着想を得た。なお、「丸ちゃん」という名称は丸い形状と丸佐かまぼこの「丸」をかけたダブルミーニングだ。

肉厚なので、泡が細かく弾けるような食感と滑らかな舌触りを堪能できるだけでなく、見た目の面白さ、ちょっと贅沢な雰囲気もある。ほかのお店でもお椀型のものはあるが、これだけ大きいものは存在しない。そのまま食べても美味しいが、おでんに入れても美味しい。通常のはんぺんは汁に漬けると水気を吸って膨らんでしまうが、丸佐かまぼこ店のはんぺんは適度に汁を吸い込みながら形状をとどめ、魚の旨味もしっかり味わえる。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種

揚げ蒲鉾は20種類以上が並ぶが、同業の仲間から仕入れた情報をきっかけとして、ひとつひとつ具材の種類や分量を調整しながら商品化していった。厨房でつくってすぐにショーケースに並べられるので、お客さんの反応を見ながら改良を加えていったという。また、しいたけは娘さんのアドバイスで一味を加えたところ人気商品になったそうだ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種

荏原中延周辺の仲間やお客さん、家族の知恵や協力に加え、岡田さんの創意工夫と努力によって結実した丸佐かまぼこ店のはんぺんや揚げ蒲鉾。今後は味わうことができないが、荏原中延の唯一無二のおでん種として、多くの人々の心に残り続けるに違いない。

お客さんを想い続け、お客さんに愛され続けた50年

今回、取材のために何度かお店にお邪魔したが、閉業の噂を聞きつけてお客さんが殺到していた。いくら作っても商品が足りなくなるため、連日家族総出で対応されていた。岡田さんは「発注が1日20件以上あって、対応しきれないほど忙しい。店閉める前にくたばっちゃうかも」とおっしゃっていたが、その言葉とは裏腹に嬉しそうに微笑んでいた。お店にやってくる常連さんたちも名残惜しそうにおでん種をたくさん購入しては、岡田さんにねぎらいの言葉をかけていた。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種

老若男女、常連から一見さん、地元から地方まで、丸佐かまぼこ店はさまざまな人に愛されている。遠方へ引越したある常連さんは、用事で荏原中延に立ち寄った際に久しぶりに揚げ蒲鉾を買って帰ったところ、子どもたちは慣れ親しんだ味にすぐに気がついたという。岡田さんはこれまでの50年を振り返りながら「お客さんが味を覚えていてくださったり、美味しかったと言っていただくことがいちばんの喜び」だと話してくださった。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

この50年間、お客さんにもさまざまな変化があったという。ある常連の方は家族が多かったので大量に購入していたが、子どもの独立や親の他界を経て購入する数が減ったという。また、最近は学生などの若者世代も多くなり、店頭で販売している調理済みおでんの売上があがった。創業当時は調理済みおでんはニーズが少なく、岡田さんの記憶では戸越銀座商店街にあった山口蒲鉾店(閉業、品川区豊町1-5-3)くらいしか販売していなかったという。しばらくして丸佐かまぼこ店でも販売を開始したが、はじめた当初は七輪に乗せた小さな鍋で提供していたそうだ。

大家族から核家族、単身世帯へと移り変わり、食に対するニーズも変化してきたのだろう。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

丸佐かまぼこ店ではお客さんのニーズを繊細に汲み取って、商品にさまざまな工夫を凝らしてきた。たとえば、下茹でに時間のかかる大根やじゃがいも、ちくわぶなどをあらかじめ出し汁につけて販売している。一晩味をつけたあと、冷やしてからさらに冷蔵庫で一晩寝かせるそうだ。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種 大根と蒟蒻

これにより、調理時間をぐっと短縮でき、手軽にしみしみのおでん種を満喫することができる。出汁も本格的な深みのあるもので、大根などはえぐみもなくほろりと口のなかでとろける。岡田さんにうかがうと常に「すべてはお客さんのため」、苦労話をうかがっても「お客さんのためなら、苦労はまったくない」とおっしゃるばかりであった。

最盛期は午前3時からはんぺんづくりや通常の仕事に追われ、食事が済むと夜遅くまで揚げ蒲鉾をつくっていたそうだ。夏はシャッターが閉まるなかで揚げ物をするので非常に暑く、冬は足がかじかむような寒さに耐える過酷な環境だが、岡田さんは「小学生のころはよく悪さをして廊下に立たされていたので、立ちっぱなしには慣れてるよ」とおどけていた。

閉業しても、受け継がれていく想いと技術

「それでも、女房は大変だったと思う。お店の仕事や家庭のことを一緒にやってきたんだから、いちばん苦労してるよね。2人とも元気が取り柄で今までやってきたから、たまに喧嘩しつつも、これからも一緒にやっていきたいと思っています」。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)のおでん種

ご自身のことは冗談を言って笑いながらも、50年間一緒に歩み続けてきた奥さまにはいたわりの気持ちを素直に言葉にされていた。また、息子さんが岡田さんのお仕事のすべてを修得されたことを非常に喜んでいらっしゃった。現在は味付けをすべて息子さんに任されているようで、岡田さんが息子さんに聞かないとわからないことも多くなったという。「今後、息子が蒲鉾やはんぺんの技術を活かすかどうかはわからないけど、芸は身を助けるということもきっとあるでしょう。なにより、職人の技術を身につけてくれたことが嬉しい」としみじみ語られていた。おでん種を通した人々の想いの連鎖を、岡田さんから新しい世代へ引き継ぐことができたという充実感を感じることができた。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

いつも岡田さんは冗談を言いながら高らかに笑い声を上げるが、ご自身を差し置いてお客さんや家族を第一に考えるやさしい人柄が透けて見えるようで、とても魅力的だった。閉業後はお孫さんとの触れ合いや、今までお世話になった地域へのボランティア活動にいそしむことを楽しみにしているという。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

丸佐かまぼこ店の前に立つと、厨房が一望できる。筆者は店主、息子さん、奥さまの3人が一体となってお仕事されている姿を眺めるのが好きだった。奥さまははつらつとしているが、人を思いやる柔和な雰囲気が素晴らしい。息子さんは父親譲りの快活さがありながら、お母さまから受け継いだやさしさが垣間見える。ふたたびこの光景を眺めることができないのは残念だが、彼らの新たなスタートを応援したい気持ちになった。

東京都品川区中延:丸佐かまぼこ店(荏原中延)

最後に岡田さんからのメッセージを記しておく。筆者も地元の仲間のように接していただいて、本当にありがたく思っています。
「約50年、近隣や遠くにいるお客さんともに当店の商品をご利用いただきましてありがとうございました。これからも地元に残っておりますので、皆さんと仲良く元気にやっていけるように頑張りたいと思っています」。

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