たっぷり汁を吸い込み、ふんわりとした食感が魅力のがんもどき(飛龍頭)。おでんだけでなく、煮物などでも広く親しまれている料理だ。今回はがんもどき(飛龍頭)の下ごしらえや自分で作る調理方法を紹介する。
がんもどき(飛龍頭)は毎年好きなおでん種調査のトップ10に入るほどの人気を誇っているが、自分で作ったことのある人は少ないと思う。揚げたてのものは市販品とは異なる美味しさがあるので、この記事を参考にぜひ挑戦していただきたい。また、おでんを調理する際の簡単な下ごしらえの方法も紹介したいと思う。
手作りのがんもどき(飛龍頭)の調理方法
おでんのがんもどき(飛龍頭)の下ごしらえ
謎に包まれているがんもどきと飛龍頭の由来
関東では「がんもどき」、関西では「飛龍頭(ひりょうず、ひりゅうず、ひろうす)」と呼び名が異なるが、天保8年(1837年)から30年の間に書かれた「守貞漫稿」によると「京坂ニテヒリヤウズ、江戸ニテガンモドキト云」という記載があり、江戸後期にはすでに分かれていたようだ。
がんもどきは「雁もどき」、つまり雁の肉のような料理という意味だ。いわゆる「もどき料理」は精進料理では一般的で、豆腐はさまざまな動物の肉に見立てられた。おなじみ「豆腐百珍」でもキジやシジミなどに見立てた豆腐料理の記載がある。ただし、当初のがんもどきはこんにゃくが用いられていたともいわれている。また、元禄14年(1701年)の「小倉山飲食集」では魚のすり身を用いた揚げ物として紹介されている。
飛龍頭はポルトガルのお菓子であるフィリョース(Filhós)が語源であり、戦国時代に渡来してきたという。元禄2年(1689年)の「合類日用料理抄」には小麦粉の代わりに米粉を使う「ひりやうす」が掲載されているが、砂糖蜜をかけるような甘い食べ物だったようだ。
がんもどきも飛龍頭も、豆腐を用いた現在に近い形になったのは江戸後期のようだが、どのように収斂(しゅうれん)されたのかは謎となっている。詳細を語れば1記事できあがってしまうので、次の機会にしたいと思う。
手作りのがんもどき(飛龍頭)に挑戦
さて、ここからはがんもどき(飛龍頭)の手作りの調理方法を紹介していく。複数の工程を経るが、慣れればそこまで複雑ではない。なにより、揚げたての美味しさが楽しめるので、挑戦する価値はあると思う。
まずは材料の紹介から始めよう。メインとなる豆腐の餡となる具材たちだ。豆腐1丁でおおよそ2人分となるので、必要な人数で調整していただきたい。
- 木綿豆腐:1丁
- 卵:半分ほど
- 山芋(大和芋、長芋、どれでも可):約25g
- 塩・砂糖:ひとつまみ
- 片栗粉・小麦粉:適量
次に、中に入れる具材を紹介しよう。人参やゴボウなどスタンダードなものだが、記事の後のほうで春夏向けや秋冬向けの具材も紹介する。切り昆布と芽ひじきは両方入れても、どちらかのみでもかまわない。
- 黒ごま:適量
- 切り昆布:約10g
- 芽ひじき:約10g
- 人参:約25g
- ゴボウ:約25g
ちなみに芽ひじきは、北村物産の伊勢志摩産のもの。三重県はひじきの産地として昔から有名で、「伊勢ひじき」として全国で知られている。長くて太く、風味も素晴らしく、がんもどきに用いても美味しいのだ。
豆腐の水切りはしっかり行う
最初に豆腐の水切りからはじめる。がんもどき(飛龍頭)は成形してから揚げるので、水分が多いと形にならない。このため、木綿豆腐のほうが扱いやすいが、腕に自信があれば絹でもいい。
キッチンペーパーや布巾で豆腐を2重に包み、豆腐の2倍ほどの重しをのせて水気を取る。このとき、均一に重さがかかるようにトレーなどをはさむといいだろう。冷蔵庫に入れて大体4、5時間ほど水切りを行う。時短を行いたい場合はキッチンペーパーで包んだ豆腐を電子レンジ600wで2分ほど加熱し、さらに1時間ほど重しをのせておけばいいだろう。
水切りに関しては沸騰したお湯で豆腐を茹でる方法もあるし、細かく切って時短を行う方法もある。好みでかまわないが、しっかり水切りしたほうが扱いやすい。
水切りした豆腐が上の写真(ちなみに材料紹介時の写真も水切りが終わった状態のもの)。重量が半分ほどになり、片手で持っても崩れなければ完璧だ。
がんもどき(飛龍頭)の具材の下ごしらえ
豆腐に混ぜる具材も下ごしらえしておく。ほとんどの具材は、あらかじめ茹でるなどして火を通しておいたほうが安心だ。そのほうが、揚げるときに不要な心配をしなくていい。
人参は千切り、ゴボウはささがきにする。今回は人参の味が少し出るように太めに切った。ゴボウは1、2度ほど水にさらしてアク抜きをしておく。
切り昆布と芽ひじきは水でもどす。切り昆布は長いようであれば食べやすい大きさに切っておく。水でもどす前に調理バサミなどであらかじめ切っておくといいだろう。
人参とゴボウは1、2分ほど下ゆでして火を通しておく。鍋から出したら、ざるやキッチンペーパーなどにさらして水気をじゅうぶんにとっておく。下ゆでではなくすべての具材を投入して、出汁や醤油などを加えて味をつける方法もあるが、このあたりは手間と好みでチョイスしよう。
豆腐につなぎと具材を混ぜ、餡をつくる
具材の準備ができたら、豆腐につなぎや具材を混ぜていく作業に移る。卵を入れすぎるとゆるくなってしまうので、様子を見ながら少しずつ慎重に行っていこう。
まずは口あたりをまろやかにするために豆腐を裏漉しする。上の写真のようにフードプロセッサーで細かくしてもかまわない。好みの滑らかさになるまで調節しよう。
細かくした豆腐に、すりおろした山芋と溶き卵、塩と砂糖を加えてかき混ぜていく。卵を入れすぎるとゆるくなるので、少しずつ様子を見ながら加えていく。もしも柔らかすぎると思ったら、小麦粉と片栗粉を少しずつ加えていこう。
豆腐に具材をまんべんなく混ぜ、サラダ油などを手につけて丸型に成形していく。サラダ油をつけることで餡が手につかなくなるだけでなく、がんもどき(飛龍頭)の表面をなめらかに仕上げることができる。ちなみに、今回は揚げたてのぱりっとした食感を残したいので、表面は少し荒めに調整した。
手を汚したくない場合は、耐熱性のあるクッキングシート(ベーキングシート、オーブンシート)を使うのもありだ。クッキングシートであれば、そのまま揚鍋に投入することができる。クッキングシートをハサミで縦横10センチほどに切り分け、スプーンなどで材料をのせて成形しておく。そのまま油に投入すれば、形が崩れることなく揚げることが可能だ。
低温でじっくり、きつね色になるまで揚げる
成形まで行ったら、あとは油で揚げるのみ。油はねで火傷することがないように、慎重に作業しよう。
揚鍋にがんもどき(飛龍頭)がかぶるくらいの深さまでサラダ油を入れ、160度ほどになったら材料を投下し、4分ほど揚げる。両面均等に火が通るように、裏返すことも忘れずに。最後に少し高温にすると、ぱりっと仕上がる。ちなみに、お豆腐屋さんでは110度前後で揚げてから(のばし工程)、160度で揚げて張りを持たせている(からし工程)。
クッキングシートごと投入する場合は、1分ほど経ったらシートの端をつかんで菜箸などで材料を引き剥がし、シートは鍋から取り出す(高音の油に長時間放置すると燃える可能性がある)。この場合はシートに接している面が浅く揚がるため、手を汚さずに形よく両面綺麗に仕上げるには、油を薄く塗ったラップに材料を入れて縛り、茹でたあとに揚げる方法も有効だ。
両面の色が好みのきつね色になったら、取り出して縦に置いて油を切る。中まで火が通っているか心配になるが、これまでの工程で具材に火が通っているので問題ない。
揚げものに不安を覚える人は、ぜひ調理器具を揃えることを検討いただきたい。揚げものは温度を安定させることが重要で、揚げ物に特化した鍋はそのあたりをきちんと押さえている。揚鍋は熱伝導率の高い素材を使用しており、深さと厚みもあるためだ。
東京おでんだねが使用しているのは合羽橋で購入したアカオアルミの鉄製の揚鍋24cm。板厚が3.2ミリあるので蓄熱性が高く、底も平らで温度のムラが起きにくく安定性がある。
鍋のほかには温度計も重宝する。菜箸での温度測定の方法がよく紹介されているが、温度計に勝るものなし。これも合羽橋で購入したタニタ製の「揚げもの用温度計クックサーモ」だ。筆者はアナログのほうが好みだが、デジタルの温度計も便利だ。
春夏、秋冬、工夫次第でさまざまな具材を楽しめる
がんもどき(飛龍頭)は人参やゴボウなど基本となる具材だけでなく、アイデア次第でさまざまな味を楽しめる。ここでは秋冬と春夏向けの具材を紹介しよう。
こちらは秋冬の旬の素材を加えたもの。百合根、レンコン、銀杏、干し椎茸。少し濃いめの味付けにして、そのままでも味わえるように仕上げていく。
元ネタは葛飾区立石にある木村屋豆腐店のがんもどき。椎茸と銀杏があり、椎茸は味付けがしてある。
干し椎茸は前日の夜から水で戻し、細かく刻んだレンコンと一緒に醤油、みりん、料理酒、砂糖で煮る。佃煮のように心持ち濃いめの味にするとよいアクセントとなる。
銀杏はハンマーなどで殻を割る。指で固定し、殻の継ぎ目あたりを狙って叩けば綺麗に割れるだろう。表面を覆う皮は熱湯で軽く茹でた後に指でむけば簡単に取り除ける。
百合根は関東では馴染みが薄いが、関西では標準的な飛龍頭の具材だ。ちなみに、百合根は龍のうろこ、銀杏は龍の眼、ゴボウのささがきは龍の髭を模しているという説がある。
柔らかくもきちんとした歯触りがあり、ふんわりとしたやさしい味と香りのため、炊き合わせなどに向いている。中心の部分は花を模した飾り切りにされることが多い。外側から手でむいていき、水で汚れを落とし、包丁で黒い部分を取り除いて適当な大きさに切り、軽く茹でれば下ごしらえは完了だ。
しっかりと味付けをした椎茸とレンコン、淡白な味わいながら個性が際立つ百合根と銀杏の組み合わせ。これから寒くなる季節にぴったりの具材たちだ。
もうひとつは春夏向けの具材だ。アサリ、タケノコ、長ネギの組み合わせで、味付けは深川めしのような味噌仕立てにしたいと思う。
赤味噌3、白味噌1、みりん、料理酒、砂糖(少し多め)を混ぜ合わせ、適量の水で溶いてひと煮立ちさせる。そこにアサリとタケノコを加えて味を染み込ませれば完成。長ネギは好みの切り方で、生のままの具材とした。なお、アサリは油はねを起こすので注意して揚げよう。
揚げたての食感が最高! 手作りがんもどき(飛龍頭)の完成
揚げてから油をしっかり切ったら、なるべく早くいただこう。ぱりっとした食感が最高で、病みつきになること間違いなしだ。
人参、ゴボウ、切り昆布、芽ひじき、黒ごまのがんもどき(飛龍頭)は、それぞれの具材の香りが漂いつつも、豆腐本来のうまみが引き立っている。揚げたてなので外はぱりっとしていて、中はふんわりとしている。
次に、秋冬の具材を用いたがんもどき(飛龍頭)。味のついた椎茸やレンコンはあまり表面に出さないほうが焦げつかなくていいようだ。なにもつけなくてもしっかりとした味わいがある。銀杏の香りや百合根のほくほくした食感も最高で、日本酒などによく合いそうだ。
最後は春夏の具材を用いたがんもどき(飛龍頭)。アサリとタケノコの香りが漂いながら、ほんのりと感じる味噌の味わいが素晴らしい。生の長ネギの清々しさも加わって、初夏の爽やかさを想起させるものになった。
おでんのがんもどき(飛龍頭)の下ごしらえ
がんもどき(飛龍頭)をおでんの具材にする場合は、熱湯をかけて余分な油を落とし(油抜き)、完成の15分前に鍋に加えて煮ればOKだ。たっぷりおでん汁を吸って、ふんわりとした食感となる。
今回紹介したようにがんもどき(飛龍頭)を手作りする場合は、油抜きをせずにぱりっとした食感を残すように盛り付けてもいいだろう。おでんの鍋には入れず、おでん汁を薄く敷いたお皿にのせればいい。このほうが、揚げたての香ばしさを楽しむことができる。
生姜醤油とあわせるのもいいし、「おでんのご当地だれを楽しむ」記事で紹介した複数種類のつけだれで楽しむのもいい。ご自身で創意工夫して、がんもどき(飛龍頭)の味を楽しんでほしい。