今回は、おでんにおけるちくわぶの調理法を紹介する。たっぷり汁が染み込んだちくわぶは、東京のおでんには欠かせない存在だ。下ゆでから好みに合うメーカーまで、じっくり解説していこう。ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんにもアドバイスをいただいた。
ちくわぶの発祥と製造工程
まず、簡単にちくわぶの発祥について紹介しよう。じつはちくわぶの発祥や由来を記す文献というのはほとんど存在せず、諸説が存在する。「ちくわの代用品」として生まれた説、魚のすり身を蒸してつくる「白ちくわ」の代用品だという説(参考:日本かまぼこ協会「ちくわは焼くだけのものに非ず」)、生麩を模してつくられたという説などがある。
丸山晶代さんの著書「ちくわぶの世界」でも、ちくわぶの発祥や歴史についての考察が詳しく掲載されている。興味のある方はぜひご一読を。
次に、どのようにちくわぶが作られているかを紹介しよう。川口屋のウェブサイトによると、原料は小麦と塩と水のみ。塩を用いないメーカーもあるそうだ。川口屋では職人の「練り」と「巻き付け」と「伸ばし」の技術のみでコシを作り出している。
日々変化する環境を見極めながら、小麦と塩と水の配合を変えて練り込んで、薄くしたものを巻き機でぐるぐると巻きつけていく。巻きつけることによってちくわぶの断面がミルフィール状になり、隙間におでん汁などが染み込みやすくなるのだ。
その後は型に入れて25分ほど茹でる。すると硬くなるので、1日から3日ほど水をじっくり吸わせる「伸ばし」という熟成工程に移る。ここまでで見慣れたちくわぶが完成するが、衛生管理を徹底し、殺菌ボイルしたものがようやく商品として出荷される。詳しくは、川口屋の製法ページや丸山晶代さんの工場見学レポート、丸山さんの著書「ちくわぶの世界」をご覧いただきたい。
ちくわぶの好みを知ろう
丸山晶代さんに「おでんに適したちくわぶのメーカーはどこか」と質問したら、「好みに合わせて選ぶといい」という回答をいただいた。
丸山さんによると、ちくわぶの好みは大きく2つに大別されるそうだ。まず女性に多いのがアルデンテタイプで、長い間煮込まずに食感が楽しめる程度にもちもち感を残すものだ。次に男性に多いのがクタクタタイプで、長い間煮て汁の染みた味を楽しむものだ。クタクタタイプをお酒のアテにする愛好家も多い。
丸山さんに、それぞれタイプ別のおすすめメーカーを聞いてみた。
アルデンテタイプに向いているメーカー商品は、川口屋の「内麦」と阿部善商店とのコラボ商品「東京ちくわぶ」(上写真の左)だ。この2つの商品は北海道産小麦粉「ゆめちから」を100%使用し、石垣島の自然海塩、秩父山系の天然湧き水を用いるこだわりのちくわぶだ。コシのあるもちもちとした食感が楽しめる。
クタクタタイプはパックしていない生ちくわぶが最も適している。東京のおでん種やさんや豆腐屋さんで販売しているほか、川口屋や麻布十番のスーパーナニワヤ、足立区千住大橋の山栄食品の店頭で販売している。パックだと練馬区下石神井(上井草)の鈴木商店(上写真の右)がおすすめ。
上の写真はおでん種屋さん(京島の大国屋)で売られていた生ちくわぶ。業界では「ハダカ」と呼ばれるもので、常に水に浸けてあるので柔らかい。購入後は水を張ったボウルに入れてラップをしてから冷蔵庫で管理するか、冬場はベランダの日陰に置いてもいい。水は1日経ったら取り換えること。
なお、ちくわぶを製造しているメーカーはけっこうある。こんにゃくやなると巻の製造がルーツのところ、当初からちくわぶを製造していたところなどがあり、東京以外のメーカーもある。それぞれ味や食感、形にも個性があるので食べ比べてみるといいだろう。また、OEM製品もあるので、パッケージ裏の製造者の欄を確かめてみるとおもしろい。
生産量でいうと水戸のタカトーがダントツだそうだが、東京のおでん種専門店を見て回ったところでは墨田区向島の柳澤商店のものが多い印象だった。葛飾区立石の増田屋では、初代店主からずっと柳澤商店のちくわぶを仕入れているそうだ。
意外に重要なちくわぶの切り方
さて、そろそろ実際に調理を進めていこう。まず重要なポイントとなるのが切り方だ。ちくわぶは切り方によって、おでん汁の染み込み具合や崩れやすさが変わる。
味が染みやすく、下ゆでの時間が短くすむのが斜め切りだ。包丁を斜めに入れると断面が楕円になって表面積が広くなり、ミルフィーユ状の隙間におでん汁が入りやすい。好みに応じて両側を斜めに切るか、片側だけ斜めにするか選ぼう。ちなみに丸山晶代さんは片側切り(上の写真よりもさらに入射角が浅い)、東京おでんだねの筆者は両側切りが定番だ。それぞれの家庭で親しんだ切り方だったりする。
一方、おでん屋さんやコンビニでよく見られるのが棒状の切り方だ。ちくわぶに包丁を垂直に入れ、2分の1、もしくは3分の1程度に丸太のように切断する。この切り方だと断面の面積が少なくなり、おでん汁が入りにくく煮崩れを防ぐことができる。また、積み重ねたり、並べられたりするので場所を取らずに済む。長い時間おでん汁に浸かることの多い飲食店ならではの切り方だ。調理時間や好みに合わせてチョイスしよう。
煮込む前に必ずやっておきたい、ちくわぶの下ゆで
ちくわぶをおでん汁で煮込む前に必ずやっておきたいのが下ゆでだ。下ゆですることで粉っぽさが薄れてもちもち感が得られるだけでなく、味が染み込みやすくなる。
下ゆでの時間は好みによって変えるといいが、アルデンテ派であれば3分程度煮込めばじゅうぶんだ。ちくわぶがふっくらとしたら鍋から出しておく。
電子レンジを利用する場合は、耐熱容器にちくわぶがひたひたになるくらいまで水を入れて、5分ほどレンジすればいい。ラップや水の有無、レンジ時間の違いで染み込みやすさや食感が変わってくるが、これも丸山さんの著書「ちくわぶの世界」に詳しく解説が載っている。
ちくわぶを焦がさずにシミシミにする方法
ちくわぶは小麦粉なので、土鍋や雪平鍋で長い間煮ると鍋底にくっついて焦げてしまう場合がある。じっくり煮込んでシミシミにさせたい場合、どうしたらこの問題を解決できるのだろうか。
この対処法として、東京おでんだねの筆者はアルミざるを使っていたが、大きな鍋がないと他のおでん種を入れることができない。そこで丸山さんに質問してみると、ナイスなアイデアを得ることができた。
なんと、出汁用の昆布を鍋底に敷いて、そのうえでちくわぶを煮るのだ。たしかに出汁も取れ、ちくわぶも焦げ付かないので一石二鳥の素晴らしいアイデア。これは眼から鱗である。
ゆでる順番は煮えにくいもの、出汁を吸うものを先に入れていく。ざっくり並べると、大根、玉子、こんにゃく、白滝、ちくわぶの順だ。結び昆布は最初から入れると柔らかくなりほどけてしまうので、ちくわぶと同じくらいに入れるのがいいだろう。練り物(揚げ蒲鉾、なると、魚のすじなど)は味が逃げるので温める程度、はんぺんはふくらんでしまうので最後にして、汁をかける程度で大丈夫だ。
下ゆでがしっかりしていれば、もちもち感のある美味しいちくわぶが完成する。クタクタにしたい場合は、おでん汁に入れて弱火で温めたあとに火を止め、しばらく時間をおくといい。形崩れもしづらいし、おでん汁が濁りにくくなる。
記事中でも何度か紹介したちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんの著書「ちくわぶの世界」は好評発売中だ。工場見学レポート、ちくわぶメーカーへの取材、ちくわぶにとって欠かせない小麦にまつわることまで盛り沢山の内容だ。おでんにおけるちくわぶの美味しい調理法はもちろん、500以上あるレシピの中から厳選したちくわぶ料理の紹介もあるので、ぜひ手にとってご覧いただきたい。全国の書店やAmazonのほか、丸山さんが運営する丸山商店でも購入できる。
また、東京おでんだねが丸山晶代さんにインタビューした記事も、あわせてご覧いただければと思う。