今回は葛飾区亀有にある佃忠のできたておでんを紹介しよう。都内には同名のおでん種専門店が数軒あるが、亀有店が元祖となる。
東京おでんだねを定期的にご覧の方であれば、佃忠はお馴染みのお店だろう。第1回目の亀有店の記事からはじまり、墨田区向島、北区田端、豊島区池袋にあるお店を度々紹介してきた。
今回は亀有店のできたておでんを購入して味わってみたいと思うが、店舗は量販店内にあるため撮影できないので、亀有の再開発史も含めて紹介していこうと思う。
再開発とともに歩んできた亀有 佃忠
亀有は長年再開発を行っており、近代的な大型商業施設と古き良き下町情緒が共存する住みやすい街だ。
JR亀有駅に乗り入れる常磐線は東京メトロ千代田線との直通運転を行っているため、北千住や大手町、赤坂や表参道などへアクセスしやすい。
南口の広場は平成8年(1996年)に再開発によって整備された。防災や商業の成長を目的に、昭和50年代から検討されていたという。バスターミナルからは新小岩や青砥方面のバスが行き来していて交通の便もよく、広い歩道も確保されていて歩きやすい。
佃忠は南口の店舗で営業していたが、再開発と同じ時期、イトーヨーカドーや文化ホールなどが入るリリオ館の建設によって移転することになった。東蒲新聞(東京蒲鉾組合が発行していた業界紙、平成23年5月30日)の3代目橋本忠昭さんのインタビューによると、移転先はイトーヨーカドーの地下食品売場というロケーションのため、客足は上々だったそうだ。
移転から10年後の平成18年(2006年)になると、日本大昭和板紙の工場跡地にアリオ亀有が開業した。この影響でイトーヨーカドー亀有駅前店の売上が前年対比で20%近く落ち込み、その後も5%ほど低くなった。佃忠もその影響を受けて徐々に売上が減少していったそうだ。
当初はアリオ亀有への出店も予定していたが、調整がつかず計画は立ち消えとなった。アリオ近くにある自社工場を店舗にするなどさまざまな計画を練っていたところ、西武池袋本店の出店話が突如持ち上がったそうだ。
池袋店は店主の息子さんである忠裕さんが担当し、平成22年(2010年)にオープンした。名店に囲まれ当初は苦戦したというが、10年以上経った現在では多くの固定客がついている。
亀有店は食品売り場の一画で営業しているが、会計は別となり、独立した店舗となっている。自宅調理用の揚げ蒲鉾がずらりと並び、できたておでんも40種類以上揃っている。奥で店主が揚げ蒲鉾を成形する姿を見ることもできる。
おでん種の種類は池袋店とほぼ同じだが、形や大きさが異なるものも多い。亀有店でしか作っていないものではえび巻とえび天などがある。逆に池袋店でしか買えないものもあるので比較してみると面白い。パプリカ、ズッキーニ、エリンギが入った「彩り野菜揚」やトマトなど、百貨店に訪れるユーザを意識した意欲的な商品を開発している。
「佃忠の系譜」という記事で亀有、池袋、向島、田端のおでん種を比較しているので、興味のある方はご覧いただきたい。
亀有 佃忠のできたておでん
亀有店の方は丁寧な接客のなかに親しみやすさがあり、商店街のおでん種やさんと同じようなあたたかいやり取りを楽しむことができる。お話をうかがいながら、8種類のできたておでんを購入した。
時計回りに12時から、大根、すじ肉、なると、ちくわぶ、枝豆天、大根葉揚げ、長ネギ天、たまご(中央)。
亀有 佃忠でできたておでんを購入すると、二重のポリ袋と手提げ袋に入れてくれる。おでん汁もたっぷり注いでくれ、からしもつけてくれる。
リクエストすると、すじ肉を串に刺したまま包装してくれる。怪我をしないように持ち手の向きを矢印で示してくれる。百貨店に入っている池袋店の接客は素晴らしいものだが、亀有店はより庶民的な心配りがあって親近感がわいてくる。
袋から取り出し、鍋で温めればすぐに味わえる。正田醤油がベースのおでん汁は、さまざまな種類のおでん種のうまみが溶け合ってまろやかな味わいだ。
大根は中までおでん汁が染み込んでいるが、フレッシュな歯触りをキープしている。口に含むごとにやさしい味わいがふわっと広がる。
たまごはまろやかな黄身の甘みが心地よい。つるんと美しい煮加減で、箸で掴んでも表面が崩れることはない。
大根葉揚げは大根の葉のしゃきしゃきとした食感と爽やかな香りが素晴らしい。魚のすり身は上品な弾力とうまみを持ち、職人の技が感じられる。
長ネギ天は刻んだ長ネギがたっぷり入っており、豊かな甘みと芳香を楽しめる。おでんにせずに炙ってお酒のお供にしてもいい。
枝豆天は暖かい季節に味わいたいおでん種だ。つやつやした枝豆の外見と甘みは初夏の清々しさを感じさせる。
すじ肉はとろりとした甘みが素晴らしく、部位によってさまざまな食感を楽しめる。食べ終えたあとの満足感は牛肉ならでは。
亀有 佃忠のなるとは縦を半分にした珍しい切り方だ。池袋店でも同じ切り方になっているが、おでん汁がよく染み込むためだろう。揚げ蒲鉾とは異なる上品な味わいを楽しめる。
ちくわぶはフレッシュなもちもち感とくったりとした食感の中間くらいに仕上がっている。ちくわぶ本来の小麦の美味しさを味わえる。
再開発が進むと街の個性が薄れることもあるが、亀有は古き良き下町情緒を残したまま進化を続けている。亀有 佃忠も4代続く伝統の味を守りながら、新たな挑戦に励んでいる。亀有から池袋に続いて、佃忠のさらなる発展に期待したい。
亀有 佃忠の基本情報
亀有 佃忠
〒125-0061 東京都葛飾区亀有3丁目26−1
イトーヨーカドー亀有駅前店 B1F
03-3603-6993
定休日:火
営業時間:10:00〜21:00