佃忠(向島)のできたておでん

東京都墨田区向島の鳩の街通り商店街にある佃忠(向島)は、こじんまりとしながらも魅力的なおでん種を多数揃えるおでん種専門店だ。今回はこちらの店頭で販売するできたて調理済みおでんを紹介する。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

佃忠(向島)は4店舗ある佃忠のひとつで、昭和56年(1981年)創業のため40年の歴史を持つ。本店である亀有店は長男、向島店は次男、田端店は三男(現在は息子に代替わりしている)、西武池袋本店は長男の息子が営業している。「佃忠の系譜」という記事にまとめてあるので参考にしてもらいたい。また、向島店は以前訪れたときに詳しく記事にしているので、そちらもご覧いただければと思う。

散歩スポットとして最適な鳩の街通り商店街

東武伊勢崎線の東武曳舟駅に降り立って、空をあおぐと東京スカイツリーが目の前にそびえ立っている。西口から歩いていくと今回の目的地である佃忠(向島)へたどり着き、東口からしばらく歩くと大国屋(京島)がある。さらに1駅歩けば東向島駅に八幡屋がある。いわば曳舟駅は墨田区のおでん種専門店のメッカである。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街

西口を出て住宅街を5、6分歩くと佃忠(向島)がある鳩の街通り商店街にたどり着く。ちなみに道の途中では、蒟蒻や白滝、ちくわぶでおなじみの柳澤商店があるのでおでん種マニアなら要チェックだ。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街

東京大空襲をまぬがれたために商店街の道幅が狭く、戦前の面影が色濃く残る。昭和テイストたっぷりの古いお店もあるが、後継者がおらず年々その数は減り続けているそうだ。かわりに店内をリノベーションして営業する若い世代の人々が増えてきているようである。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街

鳩の街は吉行淳之介の「原色の街」の舞台になった場所であり、永井荷風が戯曲を書いたことでも有名だ。かつて玉ノ井駅として知られた東向島駅にも近く、向島百花園にも歩いていける。若い人たちにも楽しめると思うので、散歩スポットとして訪ねてみると面白いと思う。

透き通ったおでん汁が魅力の佃忠(向島)の調理済みおでん

佃忠(向島)のできたて調理済みおでんも散歩のお供に最適だ。その場で食べられるので、気軽に立ち寄って小腹を満たすことができる。店舗の向かって右側におでん鍋が設置してあり、そちらで現物を見ながら購入することができる。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

商店街のどちら側から歩いてきても、大きな「おでん」ののぼりが掲げてあるので見逃すことはないだろう。個性的なお店の多い鳩の街通り商店街のなかでも佃忠(向島)はなくてはならないランドマーク的存在だ。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

鍋にはさまざまなおでん種が並んでいる。仕切りがないが種類ごとにおおまかに配置されており、どこか整然とした印象を受ける。おでん汁がしっかりと染み込んだおでん種を見ていると、自然とお腹が鳴ってしまう。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

おでん種の名前や値段がきちんと掲げてあるため、選ぶときにも迷わずにすむ。昆布やつみ入は破格の値段だ。さらに佃忠(向島)では土曜日になると全品1割引となっており、子どものおこづかいでもたくさんの種類を楽しむことができるだろう。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

がんもやきんちゃくにはたっぷりと汁が含まれている。飴色に染まった大根も美しい。底のほうに沈んだじゃがいもはきっとほくほくしているに違いない。漂う白滝の間にも、たくさんのうまみが詰まったおでん汁が充満していることだろう。叶うことなら白滝の間で溺れてみたいものである。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

揚げ蒲鉾もたくさん取り揃えている。これらひとつひとつが出汁のもととなり、鍋の中で複雑に絡み合う。こればかりは家庭ではなかなか真似することができない専門店ならではの魅力である。透き通ったおでん汁にするコツは、大根やじゃがいもを別の鍋で下ゆですることなのだそうだ。「お客さんにいくら言っても一緒に煮ちゃう」とおかみさんは笑っていた。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

訪れたのは午後3時をまわったころだったので、ショーケースのおでん種はすでに多くのお客さんが購入していったあとだった。これから追加分を作るのだという。新型コロナウイルスの影響を聞いてみたが、客足はあまり変わらないもののそれなりに増えているという。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

最近はお年寄りよりも若い世代のお客さんが多いそうだ。向島も新しい住宅が増え、世代交代が進んでいるのかもしれない。夏場の影響を聞いてみたが、佃忠(向島)では暑くなりはじめる6月から9月くらいまでお店を閉めているそうだ。

佃忠(向島)の調理済みおでん

おかみさんにいろいろとお話をうかがいながら調理済みおでんを購入し、家に持ち帰って調理を開始。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種

佃忠(向島)ではおでん種と共にたっぷりのおでん汁をビニール袋に入れてくれる。輪ゴムでしっかり止めてあるのでこぼれる心配はない。また、希望すれば練りからしをつけてくれる。ちなみに練りからしは定番のチヨダのものだ。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種

購入したのは15種類。時計回りに12時から、大根、じゃがいも、下足巻、シューマイ巻、つみ入、なると巻、ちくわぶ、えび巻、お好みあげ、牛すじ(中央上)、やさい袋(中央左上)、玉子(中央右)、きんちゃく(中央左)、ごぼう巻(中央左下)。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種

すでにじっくりと煮てあるため、温めるだけで美味しいおでんができあがる。出汁は昆布と鰹のスタンダードなもので、おかみさんいわく「とくに隠し味はなく、いたって普通の作り方」をしているそうだ。しかし、前述のとおりたくさんのおでん種を煮ているため、複雑ながらも透き通った素晴らしい味わいとなっている。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 大根

大根は下ゆでを完璧に行っており、しっかりとおでん汁が染み込みつつ形崩れは一切していない。おでんに最適な大根の中央部分を使用しており、大根の風味が残りつつも大根特有の辛さは感じられない。基本に沿って忠実に調理を行い、なにもかもが完璧である。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 じゃがいも

じゃがいもも丁寧に下ゆでしてあるためまったく形崩れしていない。柔らかすぎず、固すぎず、ほくほくに仕上がっている。手ごろなサイズ感で、女性にもちょうどよい大きさなのではないだろうか。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 玉子

玉子はほんのりと表面に色がのる程度に仕上げており、玉子本来のフレッシュな味わいを堪能できる。しっかり詰まった黄身の色が美しい。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 きんちゃく

きんちゃくは餅だけでなくウズラ卵と白滝も入った贅沢な逸品。餅が通常の半分程度なのでお腹に溜まりすぎず、白滝がおでん汁を吸い込んでいるためじゅわっと汁があふれてくる。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 やさい袋

やさい袋は佃忠(向島)を代表するおでん種。椎茸、人参、さやえんどうの彩りが美しく、眺めているだけで豊かな気持ちになってくる。中にはキャベツと白菜の千切りが詰まっていて、あふれんばかりの汁気が口の中に広がる。ほどけやすいので慎重に持ち帰るようにしよう。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 つみ入

手作りのつみ入は魚の臭みやぼそぼそとした食感はないため、おそらくイワシ以外の魚を使っているのだろう。魚が苦手な子どもでも美味しくいただける。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 牛すじ

牛すじは脂身の部分がとても甘く、噛めば噛むほどその美味しさを堪能できる。串刺しのままでも販売してくれるので、持ち帰る際に希望を伝えるといい。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 下足巻

噛めば噛むほどといえば下足巻も負けてはいない。じゅうぶん煮てあるのでとても柔らかいが、噛むごとにイカの風味が増してくる。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 お好みあげ

お好みあげは紅生姜、黒ごま、人参、ごぼう、ねぎ、イカが入っている。それぞれが主役と言っていいほどの具材が6種類も集まっているのだから、美味しいに決まっている。大判なので半分に切るとちょうどよいサイズになる。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 シューマイ巻

シューマイ巻はすり身の中に焼売がまるごと入ったおでん種。魚のすり身とのバランスが絶妙で、とてもまろやかな味わいとなっている。ふわとろの皮、ぎゅっと詰まった挽肉からにじみ出る肉汁が生み出す幸福感をぜひ味わっていただきたい。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 ごぼう巻

定番中の定番のごぼう巻は丁寧に作られており、ごぼうと魚のすり身の配分も完璧だ。自分の家で煮るごぼう巻よりも柔らかめに仕上がっているが、渋みのきいたごぼう特有の美味しさはきちんと残っている。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 えび巻

えび巻は海老のふっくらとした食感が魅力の巻物系の王様。佃忠(向島)のえび巻は大振りの海老を使っているので、満足感この上ない。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 ちくわぶ

ちくわぶはちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんの分類でいうと、くたくたタイプではなくアルデンテタイプ。もっちり感と小麦のうまみがきちんと生きている。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店のおでん種 なると巻

なると巻は静岡県焼津のサスウ篠宮商店のもののようだ。ほのかに褐色に染まっているが、ぎゅっと詰まったなると巻本来の味わいはきちんと残っている。

東京都墨田区向島 鳩の街通り商店街:佃忠蒲鉾店

佃忠(向島)のおでん種や調理済みおでんは気をてらわない堅実なつくりだが、純然たる個性が明らかに存在し、異彩を放っている。おそらくは店主の職人としてのこだわりやおかみさんを含めたお客さんに対する真摯な姿勢がそれらに影響しているに違いない。それらが40年という長い年月を経て結晶化し、おでんの味に反映されているのだろう。佃忠(向島)は鳩の街通り商店街のほかの店舗と同じように店主の代をもって閉業となるが、このような素晴らしい食文化がついえてしまうのは残念でならない。新型コロナに気を配りつつも、東京の伝統の味を楽しむためにぜひ訪れてもらいたい。

佃忠蒲鉾店(向島)の基本情報

佃忠蒲鉾店
〒131-0033 東京都墨田区向島5-49-5
03-3614-2604
定休日:日
営業時間:9:30~19:30(夏季6月〜9月辺りは休業)
佃忠蒲鉾店(向島)のWebサイト(鳩の街商店街Webサイト)

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