バクダン(龍眼)という名のおでん種

魚のすり身にゆでたまごが丸ごと1個入ったバクダン(龍眼)は、長崎を中心として全国で親しまれている。今回は各地方に存在するバクダン(龍眼)の紹介や発祥などを調べてみたいと思う。

バクダン(龍眼)というおでん種

バクダン(龍眼)は全国に存在し、東京のおでん種専門店でも何軒か取り扱っている。東京おでんだねの筆者は子どものころから親しんできたが、スーパーなどの量販店であまり取り扱っていないせいかその存在を知らない人も数多くいる。あらためて詳しく調査してみると、いろいろと謎が多いことに気がついた。

ゆでたまごを魚のすり身で包んだバクダン(龍眼)

バクダン(龍眼)は、茹でた鶏卵(ゆでたまご)を魚のすり身で包んで揚げたものだ。おでんの世界では揚げ蒲鉾に分類される。食べ応えのあるゆでたまごとやさしい味の魚のすり身との相性が抜群で、子どもから大人まで人気がある。東京では「バクダン」や「玉子巻」と呼ばれるが、各地方では「龍眼」や「たまご天」など、さまざまな名前で親しまれている。

噐𡈽堂著「万宝料理秘密箱 巻之一~五」日本古典籍データセット(国文研等所蔵)
噐𡈽堂著「万宝料理秘密箱 巻之一~五」日本古典籍データセット(国文研等所蔵)

発祥を調べてみたが、あまり有効な資料に出会うことができなかった。
寛政7(1795年)に刊行された「万宝料理秘密箱」の「卵百珍」で探してみると、卵を煮抜き(ゆでたまご)し、うどん粉に黒胡麻をまぶして揚げた長崎油餅卵、小鴨や鴫(しぎ)、鳩の肉で巻いてうどん粉と白玉粉、卵白をまぶして蒸した鳥煮込卵などが似た料理として見つかった。しかし、魚のすり身を揚げたものは存在しなかった。

東京都荒川区小台 小台橋みずき通り:おでん専門店大阪屋

筆者の推測だが、具材を包んだ揚げ蒲鉾は戦後に種類を増やしたので、バクダン(龍眼)の歴史もあまり長いものではないと思っている。荒川区小台にある大阪屋の昭和40年代の写真には「玉子巻」の名札が確認できるが(1本ではなく1個という記載があるので、おそらく卵焼きではない)、江戸時代や明治、大正時代にあったのかはわからない。

長崎での呼び名は「龍眼(りゅうがん)」

それではここから、呼び名ごとのバクダン(龍眼)を紹介していこう。
長崎県では半分に切った際に龍の眼に見えることから、龍眼(竜眼・りゅうがん)と呼ぶ。

長崎県五島の浜口水産の龍眼

上写真は日本橋にあるアンテナショップ、「日本橋 長崎館」で購入した五島にある浜口水産の龍眼だ。ちなみに浜口水産は豪徳寺(世田谷区豪徳寺1-45-2)にも支店がある。

長崎県では古くから縁起物としてお正月やお祝いの席で食べられているそうで、おでんに入れるようになったのは比較的最近なのだそうだ。長崎商工会議所を中心として官民一体で考案した「長崎おでん」の目玉メニューとして採用されたのが2011年頃なので、10年ほど前からといえるだろう。

ちなみに先ほどの「万宝料理秘密箱(卵百珍)」では長崎に関係する料理が多い。昔から海外との交流が多く、卵料理も盛んだったのだろう。

竜眼巻き

龍眼は魚のすり身が使用されるが、鶏ささみ、もしくは穴子と海苔で巻いたものに「竜眼巻き」がある。こちらもお正月やお祝い向けの料理だが、長崎だけでなく全国に普及しているようだ。卵をひとつづつ包むのではなく、海苔巻きや八幡巻のように細長く巻き、ひと口大に切り分ける調理法となる。鶏卵ではなくうずら卵を使用するが、食材問わず中央に丸い目の模様ができる料理は一般的に「龍眼」と呼ばれるそうだ。

ムクロジ科の果実、龍眼

この竜眼巻きはプロの料理家や料理人のレシピを見ると、ほとんどと言っていいほど「中国料理の前菜のひとつ」と紹介されているが、中国在住経験のある筆者はこのような料理を見たことがない。中国人の友人たちにも問い合わせてみたが、皆「そんなものは知らない」と口を揃えていた。中国において龍眼は一般的にライチに似たムクロジ科の果実のことで、お粥に入れたりデザートとして食されている。

聘珍樓の蛋黄月餅

さらに、あるサイトでは「中国のお祝いの席で食べられる」という記載もあった。前述の「中国の前菜のひとつで、(日本では)お祝いの料理」という紹介文の意味を混同したのかどうかはわからない。中国のお祝いで卵が入っている料理といえば、筆者の知識では中秋節に食べられるアヒルの塩漬け卵黄が入った月餅(蛋黄月餅)くらいしか思い浮かばなかった。

四喜丸子

また、お祝いの席で食べられる料理として「四喜丸子」という料理がある。これは豚のミンチの肉団子で、山東料理(魯菜)に属する古典的な中国の伝統料理だ。この肉団子のなかにうずら卵が入っているものもあるが、これは英国のスコッチエッグからヒントを得た比較的最近のアレンジのようだ。

龍眼丸子

さらに調査を続けていると、ついに「龍眼」を冠する伝統料理を見つけた。河北省趙県で旧正月に食べられる「龍眼丸子」はゆでたまごの黄身部分に肉団子を入れて揚げ、さらに蒸した料理だ。中国の検索サイトでもほとんど見つからない、かなりマニアックなものである。しかし、日本の龍眼とはまったく異なるものであり、日本に伝わったようには到底思えない。

中国は広大な国土を持ち、さまざまな文化が存在しているため、筆者の知らない日本のルーツになった料理があるのかもしれないが、今回の調査では直接的なつながりがあるものは見つからなかった。「中国料理の前菜のひとつ」という根拠はどこにあるのか、ご存知の方がいればお知らせいただきたい。

長崎県平戸市での呼び名は「アルマド」

同じ長崎でも、北西部にある平戸市では「アルマド」という名称になる。基本的に龍眼と同じなのだが、食紅で着色されたものが多い。ゆでたまごの表面のみ色付けされたものもあれば、壱岐島の塚元蒲鉾のように魚のすり身を色付けしたものもある。

白孝屋のアルマド

上写真は有楽町の東京交通会館にある「有楽町ひらど商館」で購入した白孝屋のアルマド。
アルマドは聞きなれない名称だが、オランダ語の「アルマトーレ(包み込む)」やスペイン語の「armado(武装した)」という言葉が語源という情報が流布している。しかし、筆者の調査ではオランダ語でアルマトーレという単語は見つけられなかった。現在、オランダ人の友人に調査を依頼しているが、発音的には「armado(武装した)」のほうが信憑性がある。また、ポルトガル語も同じく「armado(武装した)」という単語がある。

ただし、オランダには「Eierballen」という龍眼に似た料理がある。フローニンゲン州特有のものだそうだが、小麦粉もしくはビーフラグー、カレー粉、パン粉で鶏卵を包む。発音は「アイアーバレン」(直訳は卵ボール)なので、アルマドの名称と関係しているかは不明だ。また、スペインやポルトガルではアルマドのような卵料理は見つけることができなかった。

前述のとおり、ゆでたまごと揚げ蒲鉾の組み合わせは昔から存在したのか不明なため、飛龍頭のように西洋からもたらされたときの名称なのか、長崎の出島にあやかって後から名付けられたのか、発祥は不明だ。

東京での呼び名は「バクダン」や「玉子巻」

龍眼以外に普及している呼び名は「バクダン」や「玉子巻」だ。こちらも呼び名の発祥は不明だが、「バクダン」に関しては丸くて大きい形状が手榴弾に似ていることから付けられた名称なのだろう。「玉子巻」に関してはごぼう巻や餃子巻と同じく、とりたてて説明する必要はないと思う。

東京都板橋区蓮根 えびすや蒲鉾店のバクダン

東京では目黒本町の柳屋蒲鉾店、阿佐谷南の蒲重蒲鉾店、東尾久の九州屋蒲鉾店、荏原中延の蒲眞、八王子の小田原屋、蓮根のえびすや蒲鉾店(蓮根)でバクダンや玉子巻という名称で販売している(上写真はえびすや蒲鉾店のバクダン)。

東京都八王子市横山町 西放射線ユーロード:小田原屋の揚げたてさつま揚げとお惣菜 爆弾

玉子巻(バクダン)のページをご覧いただければと思うが、どれも魚のすり身の厚さや揚げ加減などが異なる。銀座周辺のアンテナショップで購入してもいいが、東京のおでん種専門店でお気に入りのものを選んでもいいだろう。とりわけ、小田原屋のバクダン(上写真)は味玉入りでめずらしい。

原蒲鉾店のばくだん

長崎県のお隣にある熊本県でも「バクダン」という名で商品化している。上の写真は銀座にある熊本県のアンテナショップ「銀座熊本館」で購入した原蒲鉾店のばくだん。長崎に近いからか、こちらもゆでたまごの表面が薄紅色に染まっている。

沖縄県八重山のマーミヤかまぼこのおにぎりかまぼこ

「バクダン」は沖縄県にも存在する。ただし、こちらの中身はお米となっている。別名「ばくだんおにぎり」と呼ばれ、漁師町の糸満で漁師が海上で片手で食べられるものとして考案されたという。上の写真は八重山のマーミヤかまぼこの「おにぎりかまぼこ」という商品で、銀座の「銀座わしたショップ本店」で購入した。東京は全国のありとあらゆる名産品が手に入り、本当に便利このうえない。

はま一の半熟煮たまご天

このほか、「玉子天」という名称も多く用いられている。鹿児島の玖子貴(きゅうじき、倒産して別会社が継承)の「半熟卵天」、広島県尾道にある桂馬蒲鉾商店の「金丸・煮たまご天」、京都にあるはま一の「半熟煮たまご天」などだ。

竹徳かまぼこの煮玉子しんじょう

さらに、魚のすり身を染色した名古屋名物「赤棒」の「たまご巻」、新潟にある竹徳かまぼこの「煮玉子しんじょう」(上写真、真丈はすり身に山芋や卵白を加えたもの)など、呼び名は異なるがバクダン(龍眼)は全国的に販売されている。最近は半熟のものが人気のようだ。

バクダン(龍眼)というおでん種

結局のところ、バクダン(龍眼)の発祥は不明なままだったので、引き続き調査を進めていきたいと思う。もしも食べたことのない方がいれば、ぜひ一度手にとって味わってみてほしい。

えびすや蒲鉾店(蓮根)の基本情報

〒174-0046 東京都板橋区蓮根2-24-16
03-3967-2217
定休日:日
営業時間:10:00~20:00
えびすや蒲鉾店(蓮根)のWebページ

柳屋蒲鉾店の基本情報

柳屋蒲鉾店
〒152-0002 東京都目黒区目黒本町5-33-25
03-3712-5006
定休日:日曜、祝日
営業時間:10:00~19:00
柳屋蒲鉾店のウェブサイト

蒲重蒲鉾店の基本情報

蒲重蒲鉾店
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-47-10
03-3311-3543
定休日:水曜
営業時間:9:00~19:30
蒲重蒲鉾店のウェブサイト(阿佐谷パールセンター)

九州屋蒲鉾店の基本情報

〒116-0012 東京都荒川区東尾久4-31-11
03-3800-0328
定休日:火
営業時間:9:00~19:20
九州屋蒲鉾店のWebページ(おぐぎんざ商店街のWebページ)

蒲眞(かましん)の基本情報

蒲眞(かましん)
〒142-0053 東京都品川区中延2-15-16
03-3782-2591
定休日:日曜
営業時間:平日17:00〜22:00(ラストオーダー)、祝日17:00〜21:00(ラストオーダー)
おでん種販売は12:00以降、夏季お休み

小田原屋の基本情報

小田原屋
〒192-0081 東京都八王子市横山町10−9
042-642-1402
定休日:水曜、祝日
営業時間:10:00~18:00
小田原屋のWebサイト
YouTube「【八王子グルメチャンネル】第15話 小田原屋~お弁当特集~

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