冬至のおでん

12月に入り、年越しまであとすこしとなった。今回は、冬至にちなんだ食材を使ったおでんの調理方法を紹介しようと思う。自分でつくるおでん種と、おでん種専門店のおでん種を組み合わせて調理する。

冬至のおでん

おでんはさまざまな食材が味わえて身体も温められることから、冬至にぴったりの料理といえる。邪気を払って運気を上げ、新たな1年に備えよう。

冬至に食べられる食材

冬至(とうじ)は1年を24等分した二十四節気のひとつで、12月21〜22日から次の節気の1月5〜6日くらいまでを指す(2021年は12月22日から1月4日まで)。冬至の最初の日は北半球においてもっとも日照時間が短いが、ふたたび日照時間が増えていく始まりの日でもある。ちなみにクリスマスも冬至を祝う「Yule(ユール)」がキリスト教と融合し、復活祭に結びついたのだそうだ。

冬の日常風景:ススキ

冬至は柚子湯のお風呂が有名だが、特定の食材を味わう習慣もある。その代表選手はカボチャで、漢字では「南瓜(なんきん)」となり、陰(北)から陽(南)へ向かう冬至にふさわしいからだという。また、邪気をはらう小豆や体内の有害物を流す(身体の砂払い)こんにゃくも食べられる。

冬至のおでん:冬至の七種(七草、寒天除く)

名前に「ん」が付くものを食べると幸運に恵まれる(運盛り)ため、前述の南瓜に加えて「ん」が2つ付いた饂飩(うんどん、うどん)、寒天、金柑、銀杏、人参、蓮根といった冬至の七種(七草、ななくさ)も食べられる。江戸時代はドジョウや豆腐など冬至の「と」が付く食材だったが、明治以降に「ん」の付く食材が主流になったそうだ。

さて、ここからは冬至にちなんだ食材を使ったおでん種の調理方法と、東京のおでん種専門店の揚げ蒲鉾各種を紹介していこう。

自分でつくる冬至のおでん種

おでん種専門店の冬至のおでん種

自分でつくる冬至のおでん種:カボチャ

おでん種としてのカボチャはメジャーではないが、居酒屋のおでん屋さんや一部の家庭で人気がある。そのままおでんに入れても美味しいが、大阪の名店「たこ梅」の湯葉巻き南瓜を参考にしたものを作ってみようと思う。

冬至のおでん:湯葉巻き南瓜(カボチャ)

湯葉巻き南瓜は文字通り、下茹でしたカボチャを平湯葉に包んだおでん種だ。すこし手の込んだ上品な見た目で冬至という特別な日を演出してくれる。

冬至のおでん:湯葉巻き南瓜(カボチャ)の材料

用意するのはカボチャと平湯葉、出汁用昆布だ。「たこ梅」のカボチャは甘みが強いエビスカボチャ(クリカボチャ)を使用している。ほかの品種でもしっかり下茹ですれば美味しいが、こだわる方は選んでみるといい。ちなみに東京おでんだねが使用したものは山形県庄内産の栗政宗だ。

平湯葉は湯葉をシート状にして乾燥(干し湯葉)させたもので、量販店の乾物コーナーで手に入る。最寄りにない場合はデパートなどで探してみるといい。半乾燥の冷凍のものもあるが、価格がすこし高めとなっている。

冬至のおでん:カボチャの下茹で

カボチャは皮に硬い部分があれば包丁で削り落とし、種とわたをスプーンなどで丁寧に取り除く。次に食べやすい大きさに切ったあと、鍋で水から茹でていく。カボチャの澱粉が糖に変化するのが70℃前後なので、沸騰しかけたら弱火にし、15分ほどゆっくり茹で続ける。電子レンジで時短もできるが、やり方によってはパサついた見た目になるので水で茹でたほうが無難だと思う。

冬至のおでん:湯葉巻き南瓜(カボチャ)

水に2、3分ほどさらして柔らかくなった平湯葉で茹でたカボチャを包み、水で戻して細切りにした昆布で結ぶ。昆布は少々厚めのもののほうが扱いやすい。

カボチャには下味をつけていないため、本来の甘みがほのかに感じられる。おでん汁がほどよく絡み、とても上品な味わいを楽しめる。冬至だけでなく、定番のおでん種にしたいくらい美味しいのでお試しあれ。

大国屋(渋谷区 幡ヶ谷)おでん種:かぼちゃ揚げ

ちなみに、渋谷区幡ヶ谷で営業していた大国屋には「かぼちゃ揚げ」という揚げ蒲鉾があったが、閉業してしまったので今は食べられない。刻んだカボチャの甘みとすり身の塩気がとてもよく合うおでん種だった。

自分でつくる冬至のおでん種:銀杏

銀杏はおでんの定番食材だ。出汁の効いたおでん汁との相性がよく、独特の苦味がたまらなく美味しい。燗酒などにもよく合い、大人向けのおでん種といえる。

冬至のおでん:銀杏

銀杏は殻を剥いているものも販売しているが、割高なうえに保存期間も短くなるので殻付きのものをおすすめする。また、水煮缶は柔らかすぎるので串に刺すときに割れやすく、風味も薄まっているので生のものを調理したほうがおすすめだ。

殻は銀杏を指で固定し、継ぎ目あたりを狙ってハンマーなどで叩けば綺麗に割れる。表面を覆う皮は熱湯で軽く茹でた後に指でむけば簡単に取り除ける。また、火を止めて鍋に入れたまま、おたまの底で転がすようにしても皮が剥がれる。あとは串に刺せば完成だ。

自分でつくる冬至のおでん種:人参・レンコン

「野菜おでん」や「洋風おでん」、夏の冷やしおでんなどで利用される人参は、豊かな甘みと鮮やかな色合いが魅力だ。おでん種にするのは非常に簡単で、下茹でするだけで問題ない。レンコンも定番のおでん種で、こちらも下茹でするだけでいい。

冬至のおでん:人参の下茹で

人参は皮をピーラーなどで剥き、好みの形に切る。今回は煮物に最適な乱切りにしたが、輪切りやねじり梅、シャトー切りにしてもいい。人参もカボチャと同様に水から茹で、沸騰直前で弱火にしてじっくり加熱する。時間の目安は切り方によって異なるが、乱切りの場合は15〜20分程度だ。

レンコンも皮を剥いて、輪切りか半月切りにする。こちらも水から5分ほど茹でたら完了だ。酢を入れて変色を防ぐ方法があるが、おでん汁の色が入るので省略してもいい。好みで焼き色を付けてもいいだろう。

自分でつくる冬至のおでん種:ブリのねぎま

ブリは冬至に限定して食べるものではないが、お正月の定番食材だ。出世魚であることから立身出世を願う意味があり、冬場は脂がのって美味しい。同様にマグロや鮭も旬になるが、関西ではブリ、関東や東北ではマグロや鮭が好まれてきたそうだ。

ブリはおでん種らしく、長ネギと一緒に串に刺したねぎまに仕上げようと思う。居酒屋のおでん屋さんではマグロがよく用いられるので、好みに合わせて選ぶといい。また、鮭もおでんによく合う。どれも煮込みすぎずにさっと仕上げるほうが、ぱさつかず美味しくできあがる。

冬至のおでん:ブリ

ブリは灰汁(あく)も少なく切りやすいため切り身を使った。好みでアラを使用してもかまわない。切り身に塩をふって10分ほど待ち、表面に浮き出た水気をキッチンペーパーなどで拭き取る。塩は表面だけでなく裏や皮にも振っておこう。

冬至のおでん:ブリの霜降り(湯引き)

次にボウルに切り身を入れ、熱湯をかける。沸騰したお湯だと反り返ったり、皮が剥がれる(今回は取り除く)ことがあるので沸騰直前の90℃くらいが目安だ。丁寧にかき混ぜブリの表面が白くなったら、水を入れて冷ます。これを霜降り(湯引き)というが、ぬめりや水気が取れてほくっとした食感になる。

冬至のおでん:ブリのねぎま

ブリの皮を取り除いてひと口大に切り分けたら、同じ大きさに切った長ネギとともに交互に串を刺す。あとは食べるすこし前におでんに入れ、中まで加熱すれば完了だ。

自分でつくる冬至のおでん種:大根とこんにゃく

おでんの定番である大根とこんにゃくも冬至にふさわしい食材だ。秋冬の大根は辛味が和らぎ煮物に最適で、「ん」が付いているため運を呼び込める。理由はどうあれ、おでんに大根がないのはちょっと物足りないので加えるのは必須といえよう。

葛飾区 立石仲見世商店街:丸忠かまぼこ店のおでん種 大根

作り方に関しては「おでんのしみしみ大根の作り方」の記事を参照してほしい。東京のおでん種専門店では下ごしらえ済みのものや、鍋で煮た調理済みのものもあるので利用してもいい。

東京都荒川区南千住:六幸食品のこんにゃく(スジ入り)

こんにゃくは1年に溜め込んだ砂、つまり身体に害のあるものを外に出す「砂払い」の食材として冬至に食べられてきた。調理は難しくないので「おでんのこんにゃくの下ごしらえ方法」という記事を参考にしてほしい。もちろん、こちらもおでん種専門店で調理済みのものを入手できる。

自分でつくる冬至のおでん種:柚子胡椒のつけだれ

柚子は香りが強いためおでん種として利用するのは難しいが、つけだれにすることで楽しむことができる。

冬至のおでん:柚子胡椒

おでんと柚子胡椒の組み合わせは九州発祥といわれているが、柚子胡椒自体が九州生まれだ。この組み合わせはコンビニおでんによって全国区になりつつある。まろやかな味わいのおでん汁に柚子の爽やかな香りと胡椒の辛味が加わることで、最後まで飽きずにおでんを楽しむことができるだろう。

自分でつくる冬至のおでん種:寒天

冬至の七種である寒天は温めると溶けてしまうのでおでんには向かないが、冷やしおでんとして調理してもいいだろう。砕いてとろとろのものをかけてもいいが、ここでは煮こごりのように固める調理法を紹介する。

冬至のおでん:寒天を利用した冷やしおでん

おでん種を食べやすい大きさに切り、汁と一緒に寒天で固める。寒い時期にはメインディッシュになりえないと思うので、おでんの翌日に余った食材で調理したほうがいいだろう。もしくは無理におでんと結びつけず、別の食材で副菜に使用してもいい。

冬至のおでん:寒天を利用した冷やしおでん

作り方はそんなに難しくない。沸騰させたおでん汁に寒天の粉を入れて、2、3分ほどかき混ぜる。食べやすい大きさに刻んだおでん種を型に敷き詰め、そこに少し冷ましたおでん汁を注ぎ込む。常温で固めたあと、冷蔵庫で1時間程度冷やせば完成だ。寒天はゼラチンと異なり低温では溶けにくいので、粉末をしっかり沸騰させた汁で溶かしきることがポイントだ。

おでん種専門店の冬至のおでん種

ここまでは冬至の食材を利用したおでん種の作り方を紹介したが、次におでん種専門店で手に入る冬至向けのおでん種を紹介しようと思う。

冬至のおでん:東京のおでん種専門店の冬至にまつわるおでん種

今回の取材用として5軒のおでん種専門店で8種類のおでん種を購入したが、冬至にちなんだおでん種は各店、さまざまな種類を提供しているので参考までにご覧いただきたい。

時計回りに12時から、大田区糀谷にある愛川屋蒲鉾店のれんこん、ぎんなん巻、佃忠(池袋)のぎんなん巻、コーン揚、からし揚、がんも、大国屋(京島)のふくろ詰め(うどん、豚肉入り)、板橋区大谷口北町にある蒲吉商店の野菜天、中央区日本橋にある神茂の小はんぺん。

おでん種専門店の冬至のおでん種:はんぺん

東京かまぼこ組合(東京都蒲鉾水産加工業協同組合)では平成28年(2016年)に「ん」が2つ付くはんぺんを食べて運気を上げようと、冬至を「はんぺんの日」に定めた。

冬至のおでん:神茂の小はんぺん

はんぺんは東京を代表するおでん種のひとつであり、おでん種専門店では必ず手に入る。

東京都文京区大塚 日出優良商店会:栄屋蒲鉾店の冬至のはんぺんポスター

中央区日本橋の神茂をはじめ、北区赤羽の丸健水産、目黒区目黒本町の柳屋蒲鉾店、荒川区東尾久の九州屋蒲鉾店などで手づくりのものを購入できる。

おでん種専門店の冬至のおでん種:れんこん揚

れんこん揚(れんこん天、はす揚)は魚のすり身にレンコンが入ったおでん種だ。輪切りのものや細かく刻んだものなどバリエーションがある。

冬至のおでん:愛川屋蒲鉾店のれんこん

しゃきしゃきとしたレンコンの食感と滋味深い味わいがたまらない。大田区糀谷にある愛川屋蒲鉾店のほか、板橋区中板橋の太洋かまぼこ店、板橋区蓮根のえびすや蒲鉾店、港区麻布十番の福島屋、荒川区小台の大阪屋などで購入できる。

おでん種専門店の冬至のおでん種:ぎんなん巻

ぎんなん巻は串に刺した銀杏のまわりに魚のすり身を巻いたおでん種だ。秋冬の限定商品である場合が多いが、取り扱っているお店は多い。

冬至のおでん:佃忠(池袋)のぎんなん巻、愛川屋蒲鉾店のぎんなん巻

銀杏独特の苦味と魚のすり身のふんわりとした味わいがマッチしており、おでん種の定番でもある。上写真は豊島区池袋の佃忠と大田区糀の愛川屋蒲鉾店のものだが、葛飾区立石の増田屋、西東京市ひばりが丘の大清かまぼこ店などでも購入できる。

おでん種専門店の冬至のおでん種:野菜揚

野菜揚(野菜天)は複数の野菜が混ぜ込んであるが、冬至の七種である人参が入っていることが多い。

冬至のおでん:蒲吉商店の野菜天

東京おでんだねのおすすめは板橋区大谷口北町にある蒲吉商店の野菜天だ。人参はもちろん、「ん」が2つ付くインゲンも入っている。インゲンは6月から9月くらいが旬の夏野菜ではあるが、最近は1年を通して流通している。オレンジと緑の色合いが美しく、おでんの鍋を華やかにしてくれる。人参の入った野菜揚は荒川区荒川二丁目の丸石蒲鉾店、足立区綾瀬の増田屋かまぼこ店、杉並区堀ノ内の丸佐かまぼこ店、武蔵野市吉祥寺の塚田水産などあらゆるお店で販売している。

大清かまぼこ店(西東京市 ひばりが丘) おでん種:袋詰め

野菜揚以外にも人参を使ったおでん種は数多く存在するが、とりわけ大清かまぼこ店の袋詰めがおすすめだ。人参とインゲンが華やかで冬至のおでんにぴったりだ。刻んだ白菜と人参、白滝、お肉、餅が入っている。

おでん種専門店の冬至のおでん種:うどん(ふくろ詰め)

冬至の七種であるうどん(饂飩、うんどん)もおでん種になる。墨田区京島にある大国屋のふくろ詰めは、油揚げのなかにうどんと豚肉が入っている。

冬至のおでん:大国屋(京島)のふくろ詰め(うどん、豚肉入り)

豚肉から出た肉汁とボリューム満点のうどんが絡み合う、淡白ながらも満足感の高い素晴らしい組み合わせだ。出汁の効いたおでん汁と溶け合って、このうえない満足感を得られるだろう。

冬至のおでん:うどんとおでん

うどんはおでんの締めとして食べてもいい。さまざまなおでん種のうまみが凝縮されたおでん汁にうどんが絡み合い、至福の味を楽しめる。翌日なら、おでん種をのせておでんうどんにしてもいい。

おでん種専門店の冬至のおでん種:がんもどき、豆腐類

冬至の「と」が付く食材である豆腐類も加えてみよう。豆腐はおでんの元祖でもあるため、相性は抜群だ。

冬至のおでん:佃忠(池袋)のがんも

東京のおでん種専門店では必ず豆腐製品を揃えている。がんもどき厚揚げ(生揚げ)、油揚げを使用した餅巾着袋詰などだ。これらは豆腐の専門業者から卸している場合がほとんどなので、美味しさは補償付きだ。がんもどきを自作する場合は「おでんのがんもどき(飛龍頭)の調理方法」を参考にしてほしい。

おでん種専門店の冬至のおでん種:からし揚、コーン揚、トマト

冬至の「と」が付くおでん種も数多く存在する。唐辛子を使ったからし揚、とうもろこしを使ったコーン揚などがあげられる。

冬至のおでん:佃忠(池袋)のからし揚、コーン揚

上写真は佃忠(池袋)のからし揚とコーン揚だが、佃忠の亀有店向島店田端店でも購入できる。どちらも比較的定番の具材なので、ほかのお店でも購入が可能だ。

佃忠(豊島区 西武池袋本店)おでん種:トマト

旬は異なるがトマトなどを選んでもいいだろう。鮮やかな紅色が運をもたらしてくれそうだ。おでん種専門店でも販売しているが、自身で調理する場合は「おでんのトマトの調理方法」という記事を参考にしてもらいたい。

冬至のおでん

冬至のおでん種の調理法や紹介は以上となるが、無理に多くの食材を加えずに副菜で活用するなど自身の創意工夫で挑戦してもらいたいと思う。冬至の食材は験担ぎ(げんかつぎ)だけでなく、健やかな生活を支える栄養に富んだものばかりだ。おでんを通してこれらを一緒に味わい、新たな1年を迎えていただけたらと思う。

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